結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
翌日。
午後の部活動を早めに切り上げて、勇者部一同は、いつもの如く『かめや』に足を運んでいた。
「ちゅるちゅる……っはぁ〜! この一杯の為に生きてるようなもんよねー!」
「だな! ってなわけでお水をもう一杯引っかけましょうよ!」
「気が効くじゃないの。とっとっと……。その辺で結構。……ん〜っ! 効くわねぇ〜」
「お、お姉ちゃん、銀さん、お酒じゃないんだから……」
「やれやれだな」
例の如く、3杯目となるぶっかけうどんを豪快に食べ進め始める風と、それに便乗して水を注ぐ銀を見て、樹と巧は呆れ顔だ。
「それはそうと、今後の対策を考える必要がありますね」
「うんうん。壁って、今も枯れ続けてるんだよね?」
「連絡が来てないって事は、多分そうなるよな」
「って、あんた達こんな所でそんな事話したら……!」
夏凜が、周囲に目線をチラつかせながら友奈達に注意する。が、周りに見える人達は、特にこれといった反応を示さない。ずっとうどんを啜り続けている。
「大丈夫だよ〜。みんな、おうどんを食べるのに夢中みたい〜」
「……」
横目で堂々とうどんを啜っている風を見て、夏凜はそれ以上言及しなかった。
それから話題は、四国を覆う壁に起きている異変についての事となった。
「やっぱ、このまま壁が枯れたら、バーテックスが一気に攻めてくるって事なんスかね?」
「そう、なりますね……。でも、今はまだ耐えてるんです。その間にも、解決策を見出す必要があるかと」
「それだけ神樹様の力が弱まり始めてるって事か……。今は樹海化してみんなに気づかれないように戦えてるけど、何れはそういうわけにはいかないんだよな……」
「壁が崩れ始めた原因について、何か分かった事はあるんですか、先輩?」
「ちゅるちゅる……うまっ! 旨し糧!」
「……大赦にも分からないらしい。現在調査中の一点張りだ」
加えて彼らには解決すべき課題がもう一点。
「それに、あの男の子の事も、なんとかしてあげないと……」
「確かに……」
「一人ぼっちで樹海に迷い込んだかもしれないなら、早く助けてあげないと!」
「けど友奈。そうは言うものの、樹海の中で動ける時点で、単なる迷い子とは思えないぞ? ……あくまで想像の範疇だけど、今起きてる原因と、何かしらの関係があるかもな」
「そ、そうなの園ちゃん⁉︎」
「う〜ん……。何となくだけど、私もとっくんと同意見かな〜」
「ちゅるちゅる! はぁっ! ちゅるる〜!」
皆が真剣な表情で会議を進める中、一際大きくうどんをすする音が響き渡る。その発信源ともなる少女の表情は、この世の幸せを堪能しきっているものだった。
「お、お姉ちゃん……」
「……おい」
なるべく無視しようとしていた、妹と同級生も気になり始め、声をかける。それでも止まる気配を見せない風を見て、夏凜がトドメの一撃を仕掛ける。
「おいコラ犬先輩」
「ゴホッ! ごほげほ!」
「だ、大丈夫か風⁉︎」
「あ、ありがと銀……。ってか夏凜! へ、へんな略し方するんじゃないの!」
「大事な話してるのに、1人でひたすらうどん食べてるからでしょ!」
「うどん食べながらの方が、考えがまとまりやすいのよ! ……少し肺に入った」
銀に背中をさすってもらいながら咳をしつつ、言い訳をする風。その一部始終を見ていた東郷と巧が、冷めた目つきで一言。
「……それで、考えはまとまりましたか」
「どうなんですか先輩」
「……東郷も巧もキッツイなぁ」
目線を逸らす風。すかさず樹がフォローに入った。
「ご、ごめんなさい東郷先輩、巧先輩! お姉ちゃんはきっと、うどんを食べ続けて場の空気を和まそうと……」
「おぉ〜、そこですかさずフォローに入る妹! いいよいいよ〜、次回作のネタになりそうなシチュエーションだよ〜!」
「勝手に割り込んで話をややこしくするんじゃないわよ園子!」
「お、落ち着いて夏凜ちゃん……!」
目を輝かせる園子に、夏凜の鋭いツッコミが。
ややあって、風が一つ咳払いをしてまとめ上げる。
「現状は謎だらけだけど、あの男の子をこのまま放っておくわけにはいかないわ」
「そうですよね!」
「あぁ!」
「今後の戦闘で、またあの子が現れたら保護しましょう。兎角が言ってたみたいに、何か知っているのかもしれないし」
「一応聞いてたんですね。先輩らしい発言でした」
「ちょっと巧! それ捉えようによっては普段は怠けてるって言い方にも聞こえるわよ!」
「あら、私も巧の言ってる事が間違ってるとは思えないわ」
「……よぉし夏凜。あんたとは後で決闘よ」
「望むところよ!」
「や、やめてくださいよ2人とも……!」
火花を散らす2人を止めに入る昴。
そんな一触即発な空間を他所に、会話は再び謎の少年の事に。
「壁の事もそうだし、あの子どもの事も大赦は知らないの一点張りか……」
「やっぱり、彼も武神なのかしら……」
「さぁ……。真琴は何か聞いてないのか?」
「そ、そうですね……。僕達も大赦からはこの場にいる皆さんの情報しか受け取っていませんし……」
「それも、会って直接聞いてみるしかなさそうですね」
「樹の言う通りね」
と、ここで言い争いをしていた風達も会話に参戦してきた。
「フッ。任せておきなさい。私の尋問で吐かなかった奴は1人もいないわ!」
「それはお前アレだろ。尋問した事がない……というかそんな機会ないからだろ……」
爪楊枝で歯の間を掃除する藤四郎がため息混じりにそう呟く。
「そんな怖そうなのじゃなくて、ここで美味しいうどんを食べながらで良いと思うよ?」
「随分とまた平和主義者じみたやり口だな……」
「でも、悪くないと思うッス!」
「そうね。そうと決まればもう一杯!」
「まだ食うの⁉︎ あんたの胃袋どうかして……」
夏凜がツッコみ切る前に、それを遮る形で各々の端末から警報が鳴り響いてきた。
「……あ」
「ありゃ……」
「! 敵が来たッス!」
「早速おいでなすったわね」
「なんかここ最近、高い頻度で起こるよな、樹海化」
「確かにな……。けどまぁ、俺達がやる事には変わりないけど」
そう口々に呟きながら、椅子から立ち上がって支度を始める。その一方で、うどんが食べられなかった事に嘆く様子を見せる風。
「お姉ちゃん! うどんは後だよ!」
「食後の運動と、腹ごしらえも兼ねて、ひと暴れしようぜ風!」
「わ、分かってるわよ! それじゃあ、勇者部出撃!」
『了解!』
「バーテックス、及び星屑の姿が見えました!」
定位置についた昴が、視認できた異形の存在を地上の面々に知らせる。
しかしこの日は、バーテックスの他に目を疑う光景が。
「あっ! 兎角、見て!」
「見て、って……。! あれは!」
『……』
友奈が指を指した先に目をやる一同。そこには、つい先ほどまで会話にあがっていた謎多き少年が、確かに樹海の中で立っていた。
声をかけようとする一同だが、すぐに大変な事に気付いた。
「! マズいぞ……!」
「た、大変だよお姉ちゃん!」
「あんな所にいたら、狙われるぞ……!」
「おまけに進行方向上にいるとなると、確実に巻き込まれる……!」
「あいつを守りながらの戦闘……? キツイけど、やるしかないわね!」
「おうよ! バーテックスをあの子に近づかせてたまるか!」
人一倍気合いを見せる銀。下に弟がいる事もあって、本能的に力が湧き上がっているようだ。
だがそれよりも早く、向こうに動きが見られた。少年は僅かに顔を友奈達に向けた後、蔦から飛び降りて姿を消してしまった。それも星屑や『蠍座』をモチーフとした、鋭い尾を持つ『スコーピオン・バーテックス』のすぐそばを横切る形で。
その蠍型も、飛び降りた少年に目もくれず、神樹に向かって突き進んでいる。
「えっ、何で……?」
「また消えちゃったぞ⁉︎」
「バーテックス達も、あの子に見向きもしなかった……」
バーテックスは優先的に人から狙うものだと教わっていた為、この展開には困惑を隠しきれない。
「……とにかく、目先の事から片付けるぞ! 今のうちにバーテックスと星屑を倒すんだ!」
「じゃないと、また男の子が出てきたら危ないもんね〜」
「そういう事! 行くわよみんな!」
風の号令を合図に、一同は戦闘を開始する。
星座の名を冠した巨大生物との戦いに比べれば、その取り巻きである星屑との戦いは、ある意味で消化試合に近いものだった。昴の指示で散開し、慌てる事なく各々の武器でフォローし、対処する。
「ウォォォォォ!」
中でも人一倍敵の殲滅に尽くしているのは銀だった。2丁の斧を振り回して、向かってくる星屑を切り刻んでいく。
「おっしゃあ! このまま押し切る!」
勢いに乗って、銀は星屑を薙ぎ払いながら直進し、そのまま蠍型と対峙する。蠍型の真下に潜り込むように突き進み、上から雷のように降り注いでくる、鋭い尾の突きをヒョイヒョイとかわしていく銀。どれほど素早い攻撃でも、運動神経抜群の銀には通用しない。
だが、業を煮やしたのか、蠍型が不意に戦法を変えてきた。地面に尾を突き刺し、そのまま削るように銀を後ろから追いかけてきた。まるで獲物を狙って喰らい付こうとするサメの如く。
「ヤバッ……!」
予想外の攻撃に、回避が間に合わない。遂には僅か数十センチにまで迫ってきて、下からすくい上げるように、尾を突き刺しにかかる。
「ハァッ!」
身構える銀を庇うように現れたのは、大谷 巧。銀と蠍型の間に割り込み、向かってくる尾を、炎を宿している両手のバチをクロスして抑え込む。そのままの力比べでは押し負けると思ったのか、右に向かって勢いよく逸らした。
バランスを崩した巧と、それに巻き込まれる形となった銀が地面を転がる。幸い、精霊のサポートもあって、これといったダメージは負っていない。
「た、巧……!」
「勢いがあるのはいいが、もう少し自分の事も勘定に入れておいてくれ……。正直、今のフォローでギリギリだ」
「あ、ありがと……」
真剣な眼差しの巧に肩を掴まれて、不意に顔を赤くする銀。
「ミノさん、たっくん!」
そこへ園子が、蔦を滑るように降下してきた。
「大丈夫だった?」
「お、おう! あたしも巧もな! にしてもあの尻尾が厄介だな」
「……」
体勢を立て直しつつある蠍型をじっと見ていた園子が、早速2人に指示を出す。
「きっと、あのバーテックスの武器はあの尻尾だけだと思うんだ〜。だから、あれさえ破壊できれば……」
「こちらの優勢って事か」
「そうだよ〜。私も頑張るから、一緒に倒そうね!」
「よぉし! じゃあやるぞ!」
「油断だけはするなよ!」
そう注意を呼びかけるも、やはり心配は拭えないのか、銀の動きに注目しながら、中距離攻撃を展開する。
そこに加えて、銃弾と矢が蠍型の侵攻を阻害する。
「援護は任せて!」
「星屑は兎角達に任せた! 俺と東郷でそっちのフォローに入る!」
「頼もしいな! じゃあ任せたからな!」
銀は笑みを浮かべながら、蠍型の背後に回り込もうと、足を動かす。蠍型は動き回る銀を仕留めようと、尾を振り回すが、巧と遊月、東郷の攻撃がそれを遮る。
頃合いと見た園子が、巧に向かって叫ぶ。
「たっくん! これ使ってぇ!」
園子は変幻自在の槍の特性を活かして、蠍型に向かって突き出すと、穂先の周りについていた刃が変形して、階段のようなものが出来上がる。
「! 上からの攻撃……、分かった!」
すぐに巧はダッシュして、園子が作ってくれた足場を伝って、蠍型の頭上まで飛び上がる。
「ハァァァァァ!」
バチの先端に炎を宿し、そのまま急降下。突撃を試みる。蠍型も本能的に直撃を避けるべく、尾を盾代わりに動かす。激しい音と共に尾とバチがぶつかり合い、均衡状態が続いた。蠍型が踏みとどまり、巧も負けじと全体重をかけて押し返す。
が、巧とて1人で倒そうなどと考えてはいなかった。
「今だぁ!」
「おっしゃあ! やってやるぞぉ!」
「ミノさんいっけぇ〜!」
巧に気を取られすぎて、地上から飛び上がって尾に狙いを定めている銀の接近に気付いていなかったようだ。1つに合体させた斧は、その一振りによって破壊力を高めている。銀が放った一撃は、鋭く尖った尾の付け根を捉え、根元からポッキリと折れて、地面に突き刺さる。
ダメ押しとばかりに、巧が炎の球体を形成して、蠍型を押し潰す。蠍型は地面に伏せて、ボロボロになった肉体を、持ち前の再生機能で修復しようとしたが、それよりも早く、後から駆けつけてきた友奈達と共に、蠍型の周囲を取り囲む。
バーテックスを倒せる唯一の方法、封印の儀が執り行われるのだ。
「こいつを倒せば……!」
蠍型が掴んでいた球体の中から出てきた、逆四角錐の形をした心臓部、通称『御霊』を破壊するべく、何人かが我先にと飛びかかる。
だが敵も素直にやられるほど甘くない。それが証拠に、御霊が光り始めたかと思えば、次の瞬間には分裂して散開した。
「なっ……⁉︎」
「増えた⁉︎」
「時間稼ぎか……!」
「あーもうまどろっこしいな! 一気にバーってやっつけられないのか⁉︎」
先んじて飛びかかった1人である銀が、歯ぎしりしながら、周囲の御霊を破壊していく。どれも偽物らしく、敵は消えていない。
そこへ園子の声が響き渡る。
「じゃあまとめてやっつけよう〜! いっつんお願い!」
「は、はい! 数が多いなら、これで……! えぇ〜い!」
樹がワイヤーを操作して、散り散りになろうとしていた御霊を縛り上げて、一箇所に纏める。
「! そこだぁ!」
刹那、絡め取られた偽物ごと、兎角のレイピアによる突きが炸裂。周りを取り囲んでいた偽物と同時に、蠍型の尾による突きと同じように、中心部にいた本物を貫いていた。
ダメージを負った御霊はそのまま砕け散り、蠍型本体も砂となって消滅した。
「ふぃ〜! ざっとこんなもんよ!」
「殲滅完了!」
『諸行無常』
夏凜の隣に立つ精霊、義輝がポツリと呟く。
「お疲れみんな! ……でも、結局あの子は消えたっきり出てこなかったわね」
「そういやそうだな。あれから一度も見かけてないし」
「バーテックスに襲われなかったのは良かったんだけど……、不思議だね」
少年の行方が分からず、またしても事情を聞き出せそうにない事を悟り、頭を悩ませる一同。
……否、彼女だけは明後日の方向を見て、別事を考え込んでいた。それにいち早く気付いた昴が声をかける。
「園子ちゃん、どうかしたの?」
「あ、うん……。今倒したバーテックスの事なんだけど〜……」
「えっ? バーテックスがどうかしたの?」
「私、あのバーテックスの事、前にも見た気がするんだ〜」
『⁉︎』
「それもあって、何となくだけど、敵の弱点を見つけられたのかもしれないの〜」
園子の発言に動揺する一同。視線を浴びた園子は止まる事なく話を続ける。
「それにね〜。あの男の子を始めて発見したあの日から、今日までに戦ってきたバーテックスも、見覚えがあるんだ〜」
「そう、言われてみれば、確かに初めて戦う相手だった割には、スムーズに倒せてたような……」
「気のせい、じゃないかな?」
「だと良いんだけど〜……」
友奈にそう言われて、普段なら何かと信憑性のある発言の多い園子自身も確証が無い為か、弱気な姿勢に。
「とりあえず戻ろっか。ここで考えてたって仕方ないわ。うどんでも食べれば考えもまとまるわよ」
「あ、賛成です! いっぱい戦ったらまたお腹空いちゃいました!」
「俺も今ならまだ食べれる気がするッス!」
「どんだけ食い意地張るつもりなのよあんた達……。もう止める気にもなれないわ……」
「ウフフ。風先輩らしいわね」
そんなこんなで、再びかめやに戻ろうと決める風達。
その一方で、遊月はただ1人、少年が消えていった方角を見つめる。脳裏には、先ほどの園子の発言がリピートされていた。
「(園子が気にかけていたそれは、俺には気のせいとは思えない……。確証はないけど、今この世界には、何かとてつもない事が起きている……。その鍵を握るのがあの少年なのは間違いない……。早くあいつから事情を聞き出さないと、前に進めない、ような気がする……)」
樹海化が解けて、光が周囲を覆う中、遊月は言いようのない違和感に不安を覚えつつ、決意を固めた。
「やっぱ流石は園子だな。もうここの世界がおかしいって事に、ちょっとだけ気づいてるみたいだし。勇者の隊長をやってただけの事はあるぜ」
pixivで新作を早く書きたいけど、時間が足りなさすぎる(泣)