結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。樹海の記憶編、完結です。

ビルドの最終回、めちゃくちゃ良かったですね! 次回作の『ジオウ』と世界観は繋がっていくわけですが、平成最後のライダーがどのような勇姿を見せるのか、期待が高まります!


樹海の記憶編 EP.6 〜団結〜

「俺は、『市川 晴人』。お前らと同じ、武神の1人さ」

 

今現在、目の前で起きている不可思議現象を引き起こしていると推測される、1人の少年の自己紹介を聞き、各々の反応は多種多様だったと言えよう。

 

「え⁉︎ あなたも武神⁉︎」

「ど、どういう事……?」

「市川 晴人……。全く耳にした事のない方ですね……」

「ていうより、私達以外に武神がいるなんて、大赦は何でそんな事秘密にしてたのよ……⁉︎」

 

また或いは、こんな反応を見せる者達も。

 

「やっぱり……。そうだったのね」

「この樹海で動ける事から、その可能性は想定していたからな。……それで、ここまで来たら事情ぐらいは説明してくれるよな?」

 

東郷と遊月の呟きに反応して、少年……晴人は何かを懐かしむような視線を向けた。

 

「こうして俺達同士が向き合うのって、なんか違和感ありまくりっていうか……。でもまぁ、久々に見たけどやっぱ母親の貫禄があるよな、須美って」

「……え?」

「須美……? それって私の事なの? でも私は……」

 

晴人の呟きに首を傾げる2人。身に覚えのない名前が、東郷に向けて告げられ、困惑の色を示す。慌てて晴人が詫びた。

 

「あ、いや。別に気にすんなって。忘れてるみたいだし、それならまぁ、今はそれでいいから。……っと、話が逸れちまったけど、とりあえず今起きてる事を説明してやるよ」

「っ。そうだな」

「それで、これまでに起きた不可解な一件は全て、お前が引き起こしたものという解釈でいいんだな?」

 

藤四郎が確認の意味を込めて尋ねると、晴人はあっさり首を縦に振った。

 

「先ず、ここはお前らが見ている『夢の世界』なんだよ」

「夢の……世界?」

「でも、俺達14人が同時に同じ内容の夢を見る事なんて、あり得るのか……?」

「それを可能にするのは造作もないんだぜ。……そいつの能力を引き出せればな」

 

そう言って晴人が指差したのは、彼と密接な関係がありそうな小川 遊月……の頭上。指が差された先に現れたのは、遊月が従えている精霊『夢枕』。玉乗りをしている獏は、悠然とその場にいる全員の周りをクルクルし始める。

 

「こいつには、夢に関する力が秘められていて、その中の1つとして、夢世界を作る事があるんだ」

「夢世界を……」

「そいつを利用して、俺は神樹様の力を借りてその精霊にアクセスする事で、こっちからその精霊をコントロール出来るようにした。それでお前らに夢を見させているってわけさ。そしてそれは今なお続いている」

「⁉︎ ちょっと待て。神樹様の力を借りて精霊を操れると言ったが、俺達には不可能なはず……! 同じ武神なのに、どうしてお前だけが……」

 

もっともな疑問をぶつける藤四郎。晴人はその質問にあっさりと答えた。

 

「今は訳あって、神樹様の一部になってるんだよ、俺自身が」

「神樹様の……!」

「精霊も、元は神樹様が創り出した存在。その気になれば、今お前らの持っている精霊達の力を引き出す事も出来るようになってるんだ」

「な、なんてスケールのデカい……」

 

風がたじろぐ中、園子が納得したような様子を見せる。

 

「なるほど〜。壁が枯れ始めたのも、同じバーテックスが現れたのも、あなたが見せた夢なんだよね〜?」

「ま、そういうこった」

「何故、そんな事を……」

 

東郷の疑問に対し、僅かに表情が曇ったのを、兎角は見逃さなかった。

 

「……俺と、同じ目に遭って欲しくないってのが、本音かな。この夢から醒めたら、死ぬ事よりも辛い事が待ち受けている。それでも、夢から醒めたいか?」

 

重々しい口調で語られた本音を聞いて、一同は息を呑む。

 

「死よりも、辛い……」

「ホントの世界で、大変な事になるって意味? どうして、そんな事が……?」

「同じ目に遭って欲しくないって、お姉ちゃん……!」

「……あの子は既に体験済み、ってところかしら」

「おそらく、そう言う事だろうな……」

「死ぬ事よりも辛い事って、一体……」

「なんだってのよ!」

 

夏凜の厳しい問いかけに応じる事なく、晴人は皆に確認をする事に。

 

「それでも、元の世界に戻りたいか?」

 

全員に視線が向けられる中、遊月は1人、深く考え込む。その問いかけはまるで自分1人に向けられているようにも聞こえたからだ。

 

「(選択肢は、二つに1つ……。『この世界に留まる』か、『夢から醒める』か。……一つ目の選択肢だって間違ってるとは思えない。それが結果として皆の幸せに繋がるのなら、決して間違いとは言い難い。……でも)」

 

それでも、小川 遊月は決断する。先行きのない未来であったとしても。彼の言う通り、死よりも辛いものが待ち受けていたとしても。

 

「……俺達なら、力を合わせる事で、どんな困難にも立ち向かえる! それは、俺達が勇者だからだ!」

 

記憶がないからこそ、彼は突き進むのだ。その果てに、自身の失われた記憶に関する一歩を踏み出せるかもしれない。仮にそうとはならなかったとしても、新しく刻まれる記憶のページは、決して色褪せる事のない、『小川 遊月』としての思い出として、未来永劫自分の中で輝き続ける。

 

「遊月君……! えぇ、そうよね!」

「私達なら、どんな事があっても大丈夫だよ! ね、みんな!」

「おうよ!」

「当たり前でしょ! 完成型勇者の力、舐めてもらっちゃ困るわ!」

「そうだな。俺達ならきっと……!」

 

東郷や友奈、銀、夏凜、兎角に突き動かされるように、他の面々も頷く。勇者部一同の意見は一致し、強固なものとなったようだ。それを肌で感じ取った晴人は、一つ息を吐く。

 

「……そっか。なら、その覚悟を見せてもらうぜ! こいつと戦ってもらう事でな!」

 

そうして右腕を高く挙げて、力を込める。

刹那、どこからともなく地響きが彼らを襲い、一同は身構える。

 

『⁉︎』

 

警戒心を強める中、遊月はこれまでに感じた事のない悪寒を覚えた。何か、巨大な圧迫感がこの場を支配している。そう思って悪寒の正体を探ろうと、目線をある一点に向ける。

 

「……あ」

 

遊月は目を見開き、足が竦んでしまった。最初は樹海の光景の一部かと思われていたその背景は、次第にそうではない事を本能的に感じ取る。生き物のような胎動を見せて、尚且つ生き物が放つものとはかけ離れた、威圧感を向けてきているのだ。

思わず目線を上に向けた時には、既に他の面々も頭上を見上げていた。そして今まで見てきたどの物体よりも巨大なシルエットを前に、動揺が走り回った。

 

「何……あれ……」

「まさか……!」

「こんなの、アリ⁉︎」

「な、何だこのデカさは⁉︎」

「今までのバーテックスとは全然違う……!」

「違うどころの騒ぎじゃないわよ、あれ……!」

「アワワワ……⁉︎」

「おぉ〜。大っきいね〜!」

「これもおそらく、夢によって作り出されたものだと思われますが……!」

「それにしたってデカすぎないか⁉︎」

「これが、あいつからの試練というわけか……」

「あ、あぁ……!」

「あ、兄貴……!」

「(これも、昴が言っているように夢なのは間違いない。でも、だとしてもこいつ相手にビビってなんかいられない! こんな絶望で、弱気になんかなってる場合じゃない!)」

 

己を奮い立たせて、力強く前に一歩踏み込む遊月。目の前に立ちはだかる、巨大なバーテックスに対する恐怖は完全に克服できたようだ。だが、これだけではまだ足りない。萎縮してしまっている他の面々を奮い立たせるべく、遊月は此処一番に叫んだ。

 

「みんな! 勇者部五箇条だ!」

 

それを聞いて、上級生組がハッとなって、口を揃えて叫ぶ。

 

「! そうね、そうだったわね!」

「初心忘れるべからず、と言ったところか。でも一理ある……!」

『1つ! 挨拶はきちんと!』

 

それに突き動かされる形で、友奈と兎角、銀、巧が口を揃える。

 

「随分と唐突だが……!」

『1つ! なるべく諦めない!』

 

続けて、東郷と園子、昴が叫ぶ。

 

『1つ! よく寝て、よく食べる!』

「……これ、風先輩が言うべきじゃ」

 

東郷の呟きはともかく、今度は樹、冬弥が気持ちを奮い立たせて声を張り上げた。

 

『1つ! 悩んだら、相談!』

「おぉ! 気合い注入ッス! 最後はビシッと決めてほしいッス!」

 

冬弥に触発される形で、ラストは夏凜と真琴に飾ってもらう事に。

 

「ふん……これ、最初は嫌いだったけど」

「(夏凜ちゃん、気に入ったみたいだね)じゃあいきます!」

『1つ! なせば大抵何とかなる!』

 

こうして全員のバトンが繋がり、自然と肩の力が逸れている事に気づく一同。

 

「よぉしみんな! よく言った! それでこそ讃州中学勇者部だ! みんな、覚悟はいいわね!」

「おうよ!」

「みんなで頑張るよ〜!」

「勇者部の興廃は、この一戦にあります」

「いっくぜぇ!」

「こんなところで負けられるかっての!」

「ほら、さっさと号令出しなさいよ」

「良い返事ね。それじゃあ、勇者部出撃!」

「あのバーテックスを倒して、必ず元の世界に戻るぞ!」

『了解!』

 

皆が一致団結して、『獅子座』をモチーフとした『レオ・バーテックス』に立ち向かっていく勇姿を、晴人は少し離れた位置でジッと見つめていた。その表情は、背丈もスケールも規格外な敵を目の当たりにしてもなお、立ち向かおうとする姿勢を見せてきた事に対する驚き。そしてどことなくそれに対する嬉しさが入り混じっているようにも見受けられた。

 

「何としてでも、封印の儀まで持ち込むぞ!」

「だったら一番槍はもらったぁ!」

 

すかさず銀が、斧を横一線に振るい、獅子型を押し返そうとする。が、その容姿は飾りでもなく、全くと言ってビクともしない。逆に攻撃を仕掛けた銀の腕が痺れるほどに、だ。

 

「こ、こいつはヤバイな……!」

「こうなったら、とことん直接ダメージを与え続けて弱らせるしかなさそうだな!」

 

兎角がレイピアを片手に、攻め上がろうとした矢先、獅子型が球体のような部分を動かし始めた。先ほどの銀の動きを見て、直接攻撃に対抗しようとしているようだ。球体が怪しく動き回り、次の瞬間には無数の銃弾の嵐となって、地上に降り注いできた。

 

「! 危ない!」

 

とっさに昴が盾を突き出して防御の構えを取るが、彼の感覚としては、射手型の比ではない。それが証拠に、義手となっている右腕が軋み始めているのだ。これ以上負荷がかかればスクラップになりかねない。

万事休すかと思われたが、そこで獅子型からの攻撃が止んだ。弾切れのようだ。昴は息を荒げながら膝をつく。

 

「すばるん大丈夫〜⁉︎」

「な、何とか……。ですが、このまま守りに徹していては、勝機が見えてきません……!」

「こうなったら、多少の無茶は覚悟の上だ! 攻め上がって、一気にケリをつけるぞ!」

「分かりました!」

 

反撃とばかりに攻め上がろうとする一同だが、それを阻むかのように、獅子型は怪しく光を放ち、彼らの周囲に星屑を出現させた。

 

「ほ、星屑⁉︎」

「囲まれている……!」

「どうやら星屑が現れたのは、このバーテックスが元凶のようだな」

「こいつが生み出してたなんてな……!」

「この……! 邪魔だ!」

 

星屑に遅れをとる事なく、次々と撃破していく一同だが、倒していく間にも、星屑は止まる事なく召喚されていく。

 

「クッソォ! 後からあとから……!」

「やっぱ元を絶たないとキリないな……!」

「……こうなったら」

 

この状況を打破するべく、風が指示を出す。

 

「遊月! 2年生のみんなを引き連れて先に行って!」

「先輩!」

「ここはあたし達で抑えるから! 樹、藤四郎、冬弥! 一緒に星屑の方、頼める⁉︎」

「了解ッス!」

「わ、分かったよお姉ちゃん!」

「それが妥当だな! そっちは任せたぞ!」

「分かりました!」

「速攻で殲滅してやるから、絶対にくたばるんじゃないわよ!」

 

先輩、後輩に背中を押される形で、遊月を初めとした2年生一同は獅子型に向かって突撃を試みる。

獅子型はマシンガンの如く銃撃の雨を降らし、散開した後、東郷と遊月は後方支援に徹するべく、敵の攻撃範囲外に陣取って、スナイパーライフルや弓矢を構える。狙うは、銃弾を降らせてくる球体。

 

「ヤァァァァァァァ!」

「ウォォォォォ!」

 

真琴がハンドガンから銃撃を繰り出しつつ、あえて正面から突進して注意を惹きつける。軽い身のこなしで敵の攻撃を回避しつつ攻め込む真琴。その隙に園子が獅子型の足元に滑り込むように進行する。そして園子が下から突きを入れて、獅子型のバランスを崩そうとする。が、巨体だったのが災いして、多少傾いた程度にしかなっていない。だがそれは織り込み済みだったらしく、続いて背後に回っていた巧が降下する。

 

「沈めぇ!」

 

バチの先端に高熱の火球を形成し、直接叩きつけて轟音を響かせる。さらにダメ押しとばかりに、友奈が巧に続く形で拳を振るう。

 

「みんな一緒なら、怖いものなんて、なぁい!」

 

2人分の攻撃がクリーンヒットした事で、獅子型が地響きと共に地に着いたのを確認した昴が、盾を飛ばしてワイヤーで操作をする。

 

「これで……!」

 

突出した巨体の一部に絡みつけて、獅子型の体を起き上がらせないようにする。合流した真琴が協力してワイヤーを引っ張る。

 

「ナイスよ昴!」

「このまま押し切ってやる!」

 

夏凜と銀が両側から挟み込む形で、回転を加えて乱舞の如く獅子型を斬り刻んでいく。休む事なくラッシュを続けた結果、獅子型の動きが鈍くなっているのが確認できた。

 

「今だ! ありったけを叩き込むぞ!」

 

遊月が弓を分裂させて鎌に変えると、号令をかけて走り出す。東郷が引き続き後方に留まって引き金に指をかけ、残った面々が一気に獅子型に接近して飛び上がる。

 

『ハァァァァァァァァァァァァァァ!』

 

各々が腕に力を込めて放った一撃による轟音が、樹海の中に響き渡る。獅子型の動きが完全に止まり、一同は一旦息を整えるべく、獅子型から離れる。

そのタイミングで星屑を相手にしていた風達と合流を果たした。肩で息をしつつ駆け寄ってきたところを見るに、たった今殲滅が完了したようだ。

 

「そっちは片付いたみたいですね!」

「何とかな……! だが、休んでる暇はなさそうだな」

「そうね……! このまま封印の儀に入るわよ! みんな、用意は良い⁉︎」

「もちろん! 万全よ!」

「こいつを倒して、元の世界に戻るんだ!」

「あぁ!」

 

14人全員が獅子型を取り囲んだのを確認した藤四郎が、号令をかける。

 

「これで最後だ……! 封印開始!」

『了解!』

 

一同が魂を込めた気迫を見せた事で、紋章が地上に浮かび上がり、獅子型の胴体からオレンジ色の御霊が出現する。どのような能力が隠されているかは不明だが、時間も限られているため、一同は迷う事なく仕上げに取りかかる。

 

「いけぇ! 叩き込め!」

「国防奥義!」

「タァッ!」

「先ずは、これで!」

 

東郷、樹、真琴が遠距離から攻撃を繰り出し、御霊を怯ませる。

 

「今度は俺達だ!」

「そこぉ!」

「勇者は、根性!」

「くらえぇぇぇぇぇぇ!」

 

兎角を筆頭に夏凜、銀、藤四郎がすれ違いざまに斬り刻み、御霊の移動力を奪っていく。

 

「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「ウォォォォォォォォォォォ!」

「女子力で全てを、倒す!」

「そぉれぇ〜!」

 

冬弥、巧、風、園子が押し潰すように武器を叩きつけて、御霊が地面を跳ねた。

 

「行きます!」

「勇者ぁ、パァァァァァァァァァァンチ!」

 

続けて昴と友奈が拳を打ち付けて、御霊に亀裂を入れた。そしてトドメを刺すのは……。

 

「これが俺達の、讃州中学勇者部の、未来を切り開く力だぁ!」

 

鎌をクロス状に振り下ろし、御霊にその一撃を叩き込む。亀裂はさらに広がり、遊月が着地を決めると同時に、大きな音を立てて崩れ落ちた。同時に巨体も砂となって消滅し、一際大きな砂埃が巻き起こった。

辺りに静けさが戻ったところで、安堵の声が飛び交う。

 

「やった、わね……!」

「倒したんだ、私達……!」

「あぁ……!」

「やったね〜!」

「はい、やりました!」

 

勇者部一丸となって掴んだ勝利。それを讃え合う中、樹が声を張り上げた。

 

「あっ! あそこに……!」

 

樹が指を差した先から飛び降りるように現れたのは、制服に身を包んだ晴人だった。

 

「いや〜、さすがに無理があったかと思ったけどさ。でも、何となく勝つ気もしてたし、まぁ結果的に勝ったんだから、スゲェよみんな!」

「晴人君……」

「みんな、本当に勇者なんだなって」

 

そう微笑む晴人の表情は物腰柔らかいものだった。そんな中、園子がある疑問をぶつける。

 

「ねぇねぇ。あのバーテックスって、もしかしてあなた自身の記憶が創り上げたオリジナルじゃないかな〜?」

「園子ちゃん? どうして……?」

「ここは夢の世界だから、私達の記憶をベースに作ったものだと思うんだけど、あのバーテックスだけは、私達の記憶にはない。考えられるのは、あなたがあのバーテックスと戦った事があるから。だから夢の世界で幻影として創り出せたんだよね〜。多分だけど、本物はあれよりも強いんだよね〜」

「な、マジか⁉︎」

「そ、そうなの⁉︎」

「……まぁ、ちょっとばかしアレンジ加えたからな。園子の言う通り、本物はもっとヤバいんだぜ」

 

まぁ、それでもお前らなら乗り越えられそうだけどな。

そう言って晴人は皆の顔を見渡し、今後起きるであろう事を告げる。

 

「御霊を破壊した以上、この世界も、夢も終わりを迎える。みんなは晴れて元の世界に戻れるってわけだ」

「! 待って! 君は……、君も、一緒に勇者部に来ようよ! きっと楽しいよ!」

「……アハハ。そっちはきっと、俺達が過ごした時以上に賑やかなんだろうなぁ……」

「えっ?」

「……やっぱり、こっちの世界には来れないのか」

「まぁ、な。今の俺は、神樹様の一部になってるわけだし。……みんな、これから先はさっきも言ったみたいに大変な事ばかりだけど、気をしっかり持ってくれよ。俺もなるべく、みんなが辛い目に遭わないようにここから祈るからさ」

「そっか……」

 

晴人とのお別れに寂しさを感じつつも、大人しく引き下がる友奈。

 

「でも、改めて見て思ったぜ。今の勇者は、勇者部は本当に強いんだなって」

「あぁ、これが俺達勇者部の力なんだ。みんながいる限り、あれは前へ進む事を恐れない」

「そうね。私達なら、きっと」

 

遊月と東郷が互いに見合って確認する。その様子を見た晴人が、心底ホッとした表情を浮かべる。

 

「でも、これで安心だな。俺達じゃ無理だったけど、この人達なら、任せられそうだ」

「えっ……?」

「えぇっと、遊月、だったな。その人の事、大切にしろよ」

「そういえば、さ。お前は……」

 

遊月が何かを言いかけた途端に、周囲が光に包まれ始めた。間も無く微睡みの時間が終わる事を示している。

 

「!」

「時間が来たみたいだし、ここまでだな」

「ま、待て! 最後に確認したい事があるんだ! お前と、俺は……!」

「そんな辛気臭い顔すんなって。俺とお前なら、きっとまた……」

「お前は、まさか……!」

 

遊月が手を伸ばすよりも早く、光は世界を包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ひょっとして、お前は、お前の本当の素顔は……〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

照りつける日差しが炎天下を引き起こし、汗が噴きこぼれる。もう夏が近づいているのか。海岸沿いの道を制服姿で歩く遊月は、汗を拭いながら前へと着実に進んでいく。

道中で兎角らと合流し、土曜日の部室に足を運ぶ。

 

「こんにちはー!」

「「「こんにちは」」」

「ちーっす!」

「乃木 園子、入りま〜す」

「失礼します」

「おう、お疲れー!」

「「こんにちは」」

「チワッス!」

「これで全員揃ったな、夏凜」

「ふん、遅いわよあんた達」

「あれ? 道中で会わないと思ったら、夏凜と真琴はもう来てたのか」

「2人とも、すっかり勇者部の一員って感じだね!」

「べ、別にそんなんじゃないわよ!」

 

顔を必要以上に赤くする夏凜。そこへ風が茶々を入れるように口を挟んだ。

 

「夏凜さんはね。あたし達よりも先に部室に来てたのよ」

「一番乗りだったな」

「はい。僕が来た時には、夏凜ちゃん準備万端でしたから」

「新入部員として、いい心がけだわ」

「なっ……バッ……⁉︎ あ、あんた達が来るのが遅いだけでしょ⁉︎」

「……ふ。今はそういう事にしといてやるか」

「ち、違うってば兎角!」

 

慌てふためく一番乗りの彼女だが、誰しもが笑って耳を貸さない。夏凜がこういった面に弱いのは、ほとんどの者が周知している。

 

「それはそうと、今日は何をしますか?」

「公園清掃のお手伝いですよね?」

「掃除道具の準備はバッチリッス!」

「なら、後は出かけるだけってところですね」

「いい心がけだぞ後輩」

「それから、文化祭の方もぼちぼち考えておかなきゃね」

「ゆーゆ発案の演劇だもんね。ズババッと気合い入れて考えなきゃね〜」

「楽しみだなぁ、園ちゃんの脚本!」

 

などと会話が弾む中、遊月が1人、浮かない顔をして窓の外を眺めている事に気付き、銀が声をかけた。

 

「おーい遊月? どしたの?」

「遊月君?」

「……あぁ、何でもない。ただ……、昨日変な夢を見ててな……」

「変な夢?」

「みんなと一緒に、勇者や武神として戦う夢なんだ。思いやりや勇気で満ち溢れて……、でもどこか、寂しくて悲しいような、そんな夢」

 

それを聞いて、その場にいた全員が似たような反応を示した。

 

「あれ? その夢……」

「なぁ友奈。お前も確かその夢の事を今朝話してくれたよな?」

「う、うん!」

「もしかして……」

「丁度今朝、あたしと樹も、そんな感じの夢を見たって話をしてたのよね……」

「俺も見た」

「ぼ、僕も見ました! あ、夏凜ちゃんも?」

「私も、見たわ……。何であんた達と同じ夢を見なきゃいけないんだか……」

「……夏凜ちゃん。実は嬉しがってませんか?」

「なっ、違……!」

「以心伝心ORANGE RANGE〜」

「……どういうノリよ園子」

 

園子の謎発言は置いておいて、東郷がう〜むと眉をひそめる。

 

「遊月君も、みんなも見ているのね。普段通りに楽しい日常がある中で、とても悲しいものが混じり合っている夢……」

「みんなで同じ夢を見るとは、不思議な事もあるんだな」

 

キャラメル味のチュッパチャプスを咥えながら、藤四郎が心底不思議そうに頷く。

 

「きっとそれだけ、勇者部の結束が固いって事ですよ! ねっ、兎角!」

「友奈らしい、率直な結論だな。でも、悪い気はしないし、そういう事にしてもいいか」

「そうッスよ!」

「へへっ! あたしらのチームワークなら、何でも上手くいくってな!」

「くぅぅ〜! さすが勇者部員! 新入部員の勇者部にかける気持ちもよく分かったし!」

「……いやちょっと待って。私はまだ何も言ってないし」

「あたし達と同じ夢を見たって時点で、あなたは正真正銘、勇者部の仲間よ! 部長、感動した!」

「……!」

 

今まで以上に赤面と化した夏凜の顔を見て、再び笑いの渦が巻き起こる部室内。

 

「あ、夏凜ちゃんがまた真っ赤に!」

「な、なななな、なってないわよ!」

「フォォ〜! いいよいいよこのシチュエーション! よぉし、次回作はコレに決めた!」

「こらぁ園子!」

 

意外にも逃げ足の速い園子を追いかけて捕まえようとする夏凜。その光景を笑って見守る面々。

そんなありきたりの『日常』を見て、遊月の心に抱えていたモヤモヤが薄れていったように感じられた。

 

「(きっと、大丈夫だ。もし夢で見たような事が起きても、東郷や勇者部のみんながいれば……)」

 

きっと、乗り越えられる。

そう結論づけたところで、風が号令をかける。

 

「よし! 結束も深まったところだし、そろそろ公園へ向かうわよ!」

「荷物は分担して持っていくぞ」

「はーい!」

「天気も良いですし、絶好のお掃除日和ですね!」

「麦わら帽子と手拭いも必要ね」

「あ、それからこれ作ってきました。熱中症予防にと、塩飴を」

「わ〜! 美味しそう〜!」

「さすがは昴」

「暑さ対策もバッチリだな」

「それじゃあ勇者部出撃! 公園の掃除にいざ行かん!」

 

そうして扉を開けて部室を出る一同。最後に鍵をかけるために、後方にいた遊月が、不意に静まり返った部室を振り返る。誰かに見られているような気がしたのだ。それも窓の外から。ただ、決して鋭い眼差しではなく、優しく包んでくれていそうなものだ。

確認してはみたが、それらしい姿はない。気のせいか、と思いながら、藤四郎に呼ばれて返事を返した遊月は、ゆっくりと扉を閉めて鍵をかけ、仲間達と共に、今日も部活動に励んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、とある夢で完結した物語。

 

その夢は、決して現実には影響などしない。

 

だが、夢であったからこそ出会えた2人。

 

その出会いがもたらすものが、現実にどのような影響を与えるのか。

 

その答えは、神のみぞ知る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きっとまた会えるさ。次に会う時は、俺達は、俺達の心は……」

 

 

 

 

 




来週は色々と忙しくなりそうなのでお休みさせていただきます。

次回から本編に戻るわけですが、一旦スピンオフの話を題材とした回になります。その際、あのキャラが登場しますので乞うご期待!

*この後の次回予告でネタバレ注意


〜次回予告〜


「今日も張り切っていくわよ!」

「煮干しを食べなさい」

「今どうやってやったんスか⁉︎」

「大丈夫、か……!」

「フォローになってないぞ……」

「それが勇気じゃないかな?」

「生きてて良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


〜加賀城 雀は勇者である〜

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