結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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『多少の課金』という名の犠牲はあったものの、『ゆゆゆい』で楠 芽吹のSSRをゲットできました! (ついでに国土 亜耶のSSRも手に入ったので、結果として万々歳……かな?)

今回は、そんな不運な私にあやかって、彼女の不運まみれな1日をどうぞ。


11.大雨及び不運警報発令中

「銀ちゃん、遅いわね」

「そだな」

 

昨日降った雨もすっかり止んだ翌日。

放課後の部室にはいつものように、部員の面々が思いおもいに過ごしている……わけではなかった。

銀の姿が見当たらないのだ。

 

「ねぇ巧。心当たりってあったりする?」

 

風が、彼女と親しい同級生に尋ねる。

 

「小学校に寄ってから来るとは聞いてます」

「小学校ッスか? 何で?」

「あそっか。確か花壇の整備を依頼されてたんだっけ」

「あいつ何気に張り切ってたからな。先乗りしたってところか」

「でも、いくらなんでも遅すぎるような気がしませんか?」

「ま、そのうち来るでしょ」

 

夏凜が煮干しを貪り食いながら素っ気ない態度を取っていると、部室の扉が開いた。

 

「お、お待たせ……」

「あ、お帰りなさ……って、えぇ⁉︎」

「アゥゥ……」

「んなっ⁉︎」

「ど、どうしたんですかその姿⁉︎」

「泥だらけじゃねぇか!」

「何があったんだよ⁉︎」

 

皆が部室に入ってきた銀を見て喚く。そうなるのも、全身の右半分が泥まみれになって床を汚しながらトボトボと入室してくる彼女を見れば、自ずとその反応を示すだろう。

慌てて一同は、タオルでふき取ったり、ドライヤーで乾かしたり、床を掃除したりと分担して銀のケアにあたった。

温かいタオルに包まれながら、銀はため息交じりに語り始める。

 

「いやさぁ……。今日はマジでツイてないんだよ。通学途中で犬に吠えられてドブに足がはまるわ、小学校に花壇の手入れの手伝いに行ったら泥だまりにダイブするわetc……」

「ミノさんのトラブル体質がレベルアップしたんだね〜」

「そんな呑気に結論出すなよ⁉︎」

「というよりも、厄日なんだな。銀にとって今日は」

 

さすがに度を超えたトラブル体質に、放っておかないと思ったのか、真っ先に友奈が発案する。

 

「んじゃ樹ちゃんに、銀ちゃんの今日の運勢、占ってもらおうよ!」

「勇者部五箇条。悩んだら相談、ですね」

「それが良いかもな」

「というわけで樹! 気合い入れてやっちゃって!」

「が、頑張るんで準備します!」

「準備……?」

 

風に背中を押された樹が、皆に待ってもらうように言い、皆から少し離れた位置でガサゴソと音を立てながら準備に取り掛かる。

やがて、ロッカーの奥から姿を見せた樹は、黒いローブを羽織って、水晶玉を持ったまま、引き締まった口調で声をかける。

 

「……お待たせしました」

「本格的すぎじゃね⁉︎ このセットといい⁉︎」

「風が一言余計なのよ」

「あたしのせい⁉︎」

「まぁ占ってもらうなら何でもいいからさ!」

「でも、どうして小道具まで用意を? いつもならここまで大掛かりにはならないはずですけど……」

 

樹がセッティングした、おどろおどろしいドクロのロウソク立てや手描きの魔方陣が整った舞台を見て、真琴が首を傾げていると、園子が得意げに口を開いた。

 

「説明しよう! いっつんが小道具によって本気を出せば、的中率が6割5分から、8割5分まで上昇するのだ〜!」

「園子ちゃん、誰に向かって説明してるんですか?」

「っていうか、2割だけかい!」

「いやまぁ、的中率だけで見れば凄い数字なんだけどな……」

「それな」

 

遊月の指摘に兎角が同情する中ら本気の樹(?)による占いが始まった。

 

「それでは……始めます」

「シクヨロ頼むよ!」

「おっ。カッコいいカードばかりね」

「『月』と、『塔』が来たな」

「どんな意味なんだろう?」

 

一同が注目する中、ものの数分もしないうちに、場に置かれたカードは全て表向きとなった。

 

「……終わりました」

「見たところ、悪そうなカードは見受けられないわね」

「だな。『死神』とか『吊るされた男』なんてのは無いし」

「じゃあ大丈夫そうだね!」

「心配ない感じだな!」

 

銀が何故か誇らしげにそう呟いた直後、樹の両目からドバッと流れ出るものが。

 

「ゴメンナサイーッ!」

「なんか泣いてるんですけど⁉︎」

「樹、大丈夫⁉︎」

「樹ちゃん!」

 

またまた慌てて樹の介抱をする一同。

落ち着きを取り戻したところで、樹の口から占いの結果が語られた。

 

「……えっとつまり。今日は何も加護がつかない、最低最悪の1日になる、ってか」

「はい、ごめんなさい……」

「い、樹が謝る必要ないって!」

「そ、そうッスよ!」

「樹は頑張った方よ!」

「それにしても不運だらけの一日、か」

「なんという天中殺……」

「こりゃ重症だな」

「どうしよう……」

 

皆が唸る中、渦中の少女はいたってハッスル丸出しだ。

 

「へっ! 最低最悪がなんだ! そんなもん、この勇者『三ノ輪 銀』様にかかれば跳ね返すなんて簡単だし! 見ろよ、空もこんなに晴れて」

 

銀が両手を腰に当てて堂々と語る中、不意に叩きつけるような音が聞こえて来たかと思うと、曇天が空を覆い、一瞬にして窓の外の情景が一変。ゲリラ豪雨に近しい水滴が降り注いだ。

 

『……』

 

誰ともなしに、涙目の銀から遠ざかるように、サッと後方に身を引く面々。あの園子でさえも、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……や、巧。マジごめん」

「俺に謝られてもな……。まぁこの豪雨で依頼も無くなったわけだし、楽できて良かったんじゃないのか」

「でもなぁ……」

 

窓の外の、未だに止む気配の無い空模様を見つめながら、銀はため息をつく。

あの後、兎角達は用事があると言って、先に帰宅しており、部室に残ったのは、部屋に常備してある修理道具の手入れをしている巧と、不運の影響からか、傘を忘れてしまって帰ろうにも帰れない銀の2人だけとなっている。

 

「職員室に行って、傘を貸してもらえなかったのか?」

「全部貸し出し中だってさ。先生から送ってくれるような事も言ってたけど、忙しそうだったし……」

「他人には迷惑をかけたくない、か。お前ってやつは……」

 

垣間見えた、度を超えた優しさにやれやれと思う巧。そんな彼は道具を箱にしまい、残ったコーヒーを口の中に放り込むと、立ち上がって腕を伸ばした。

 

「さて。じゃあ俺達も帰るか。行くぞ、銀」

「えっ? でもあたし傘持ってないし、もうちょっと雨足弱くなってからにするよ」

「……別に俺のところに入ればいいだろ」

「へっ?」

「ほら、早く支度しろ。例の小学校にも寄ってくんだろ? 置いてくぞ」

 

どうやら銀の帰宅をフォローしてくれるようだ。その上彼女が気にかけていた小学校の花壇にも寄り道してくれるらしく、銀は感謝で胸いっぱいだ。

俗に言う相合い傘の状態で外に出た2人。雨足は弱まる気配を一切見せず、段々と風も出始めている。

だが、今の銀にその事を気にかける余裕はなかった。傘の小ささ故に、異様に巧と密着しているこの状況に、銀の顔は火照りはじめていた。

 

「(そういえば、こんな風に帰るのって、なんか初めてかも……)」

「しっかり掴まってろよ」

「⁉︎ う、うん……」

 

風も強くなり、より一層密着する2人。銀の意識は前方ではなく、巧の横顔に向けられている。

 

「ってぇ⁉︎」

 

だからだろう。前方から強風に飛ばされて来た空き缶の接近に気づかず、脳天にクリーンヒットしてしまったのは。大丈夫か、と声をかける巧。さすがに不運すぎる展開に見舞われながらも、平気だと告げようとする銀だが、不意に目線を近場の小学校……少し前に彼女が立ち寄った場所のとある一角に向けた時、ある事に気付いた。

 

「! お、おい巧! あそこ!」

「誰かいるな。花壇の前か?」

 

巧も、花壇の近くに女の子らしき小さな人影が傘を持ったまま、風に流されまいと必死に足を踏ん張っている様子を確認する。

この豪雨の中で幼女1人は危険だと判断し、2人は何も言わずに駆け寄る。

 

「おい! 何やってんだよ! こんな雨の中に出てくるなんて!」

「お姉ちゃん!」

 

銀が真っ先に幼女に一喝する。どうやら面識があるらしく、この子が依頼主の1人だろうと、巧は推測する。

カッパを着込んで傘をさす幼女は、涙目で訴える。

 

「だ、だって……! みんなで植えたお花が、心配で……!」

 

よく見ると、傘の下には土の中からようやく出始めた芽が。この豪雨の影響で吹き飛ばされるのではないか、と心配になって様子を見に来たようだ。

それを察した銀は、優しく幼女の頭を撫でる。

 

「そっか。お前いい奴だな。でも、あたしらだってお前の事心配なんだ。けど、あたしが来たからにはもう安心だ! あたしがみんな、守ってやるからさ。何てったって、勇者だからな!」

「お姉ちゃん……!」

「……てな訳で巧! あたしはここを守るのに専念するからさ! ここは一つ……」

「だと思った。俺も手伝ってやる。幸い、材料は揃っているみたいだからな」

 

巧は周囲を見渡し、物置らしき小屋があるのを発見する。

中を開けて、テントの幕を発見した巧は、2人に指示を出す。

 

「こいつを花壇の上に被せて、雨風に晒されないようにする。俺がペグを打ち込むから、しっかり抑えておくんだ」

「了解!」

「うん!」

 

カバンから取り出したハンマーで、花壇の上に被せた幕の四隅を固定しにかかる巧。当然傘をさしながらでは無理なので、全身に雨が降り注ぐ中で、手早くペグを打ち込む。

一方、銀と幼女は協力して幕を抑えつけていた。時折、強風の影響で煽られた幕が、銀の顎を叩く。

 

「お姉ちゃん大丈夫⁉︎」

 

時折痛がる様子を見せる銀を、心配そうに見つめる幼女。それを見て、気持ちを奮い立たせた銀が、自分に言い聞かせるように口を開く。

 

「……不運がなんだよ! 最悪の日がなんだ! そんなもんに、あたしは負けない! 勇者は根性ぉ!」

 

全身びしょ濡れになりながらも、踏ん張り続ける銀。たとえ不運が襲いかかろうとも、絶対に弱音は吐かない。

その姿勢が、同時に普段は落ち着いた様子の巧の心に火をつけた。少しでも負担を減らす為に、そして彼女を守る為に、巧は一心不乱にハンマーを握る腕を素早く振るう。

 

「これで……!」

 

最後の一突きを打ち込み、ようやく花壇の上にテントの幕を張る事に成功した3人。

 

「これでちょっとやそっとじゃ壊れない筈だ」

「やった〜!」

「頑張ったな!」

 

ようやく安堵の表情を浮かべた銀。心なしか、あれだけ降り注いだ雨足も弱まりつつある。ホッと一息つく銀。

刹那、巧は気づいた。銀の背後に立っていた、備え付けの木柱が根本から亀裂が入っている事に。元々中が腐っていたらしく、強い雨風に晒された影響でさらに脆くなっていたのだろう。

そして木柱は根本からポッキリと折れて、銀の後頭部めがけて落下する。

 

「! 銀!」

「⁉︎」

 

不意に巧に抱きしめられ、顔を赤くする銀。だがすぐにそれが場違いだと気づいたのは、降ってきた木柱が鈍い音を立てて、庇った巧の背中を打ち付けた時だった。そのまま勢いを殺しきれずに、前のめりに倒れこむ巧。銀もそれに巻き込まれて、ぬかるんだ地面に体をつける。

 

「お姉ちゃん! お兄ちゃん! 大丈夫⁉︎」

 

一部始終を見ていた幼女が、泣きながら2人の安否を確認する。幸い、これといった怪我を負っている様子はない。

 

「いてて……。ハッ! 大丈夫か巧!」

「俺は、まあ……。お前こそどうなんだ」

「へ、平気だ! ごめんよ! あたしのせいで……!」

「お互い無事だったんだ。それでいいだろ」

「そ、そっか……」

「色々と危なっかしい奴だ。まぁ、だから放っておけないんだ。お前の事を、な」

「あ、あたしは……」

 

不意に、笑いを堪えているような表情を見せ、訝しむ巧。

 

「? 何だ?」

「いやだってさ! 真剣な顔してる奴が全身泥んこなんだぜ! 笑うに決まってんだろ?」

「……お前もな」

「え、マジで⁉︎」

 

手鏡がない為、目の前の人物の姿は確認できても、自身がどんな有様が分からない2人。

次第に、2人の口から笑い声が響いてきた。側にいた幼女は首を傾げていたが、2人につられて泣き止み、笑い始める。

痛みも苦しみも、そして喜びも、誰かと分かち合うと、自然と顔がクシャッとなる。その確固たる証拠が、今の彼らなのだろう。

 

「まぁ、あまり無茶だけはするなよ。俺だって人間なんだから、いつもお前を助けられるわけじゃないからな」

「巧も無茶だけはしないでよ。あたしも無理しない範囲で、これからも頑張っていくからさ!」

「なら、これからは」

「良い事も悪い事も、二等分ってな!」

 

2人の右腕は、自然と向かい合う相手の頭に乗せられ、優しく撫でる。2人の頭には、いつのまにか止んだ雨雲の合間から差し込んできた、太陽の光に照らされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある人が言った。

 

 

例え太陽が、小さな一つの雲に隠されてしまっても、ほんの一筋の太陽の光が、闇を追い払う。それが、太陽の微笑みなのだ、と。

それはある意味で、今の2人の勇者の姿を物語っているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこの2人はその後、仲良く風邪をひき、仲間である勇者達の手で手厚く看病されたとさ。

 

 




皆さんは、くめゆ組の中で誰が1番好きですか?
私は断然、『山伏 しずく』ですね。あの二面性は、個人的にどストライクなんですよ!


〜次回予告〜


「食べ終わったっていうか、飲み終わった」

「それは面白いかも」

「横暴?」

「一旦スタジオにお返ししまーす!」

「成人病の予防……か?」

「違うって言ってるでしょ⁉︎」

「精一杯頑張ります!」


〜腹が減っては戦は出来ぬ〜



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