結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

いよいよ明後日から、『リリカルなのは』の後編映画が公開されますね! とても待ち遠しいです!


13:最高の祝福を

「はぁっ……」

「冬弥君?」

「どったの? ため息ついて」

 

それは、6月も後半に差し掛かった、とある日の放課後。

普段は元気が取り柄の冬弥が、珍しくため息をついたのを見て、樹と銀が声をかける。

 

「あぁ、大丈夫ッス」

「その割には、今日は元気なさそうだが……」

「体の具合でも悪いのか?」

「なら煮干しを食べなさい、煮干しを」

「ちょっと夏凜! 仮にもあたしの弟分なんだから、勝手に煮干しの信者を増やさないでよ!」

「何ですってぇ⁉︎」

「いやいや、体は元気ッス! 元気ではあるんスけど……」

「けど?」

 

風と夏凜のいつものやりとりを余所に、歯切れの悪い冬弥に対し、友奈が声を張り上げた。

 

「じゃあ、悩み事でもあるの? 私で良かったら相談に乗るよ!」

「勇者部五箇条、悩んだら相談〜」

「ホントに使い勝手いいわね、その決まり……。ま、一理ありそうだし、聞くだけ聞いてあげるわよ」

 

園子や、肩を竦める夏凜も賛同しており、他の面々も口には出さなかったが、同意見のようだ。

 

「え、いいんスか?」

「もちろんだぜ」

「もうすぐ藤四郎も来るでしょうから、みんなで聞いてあげるわよ」

 

風がそう言うと、冬弥は何故か、待ったをかける。

 

「あ、風姐さん。それはちょっと……。今回は、兄貴には秘密にしておきたいんスよ……」

「はっ?」

 

何人かが、キョトンとしてしまうのも無理はない。大抵は近所付き合いの長い、兄貴分の藤四郎を慕い、頼ってきた彼が自ら拒んできたのだ。

 

「これは……只事じゃないな」

「珍しいシチュエーションだね〜。トッシー先輩には話せない事なんだ〜」

「一体、どんな話なんですか?」

 

昴が尋ねようとした矢先、部室の扉が開いて、1人の少年が入ってきた。

 

「待たせたな。思ったよりこっちの用事が長引いてな……」

『……あ』

 

クラス関係の用事で遅れて到着した藤四郎を見て、一同は鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる。それを見て、当然ながら困惑する藤四郎。

 

「? どうした?」

「な、何でもないッス! あ、そうだ! 風姐さん、今日は何か依頼ってあるんスか?」

「えっ? あ、あぁ……。今日は別に、依頼もないし、議題っていう議題も無いわ。そうよね、藤四郎?」

「あ、あぁ。そのはずだが……」

 

それを聞いて、冬弥は意を決して身支度を始めた。

 

「あ、じゃあもう帰ってもいいッスかね?」

「構わないが……。俺今来たばかりだぞ?」

「樹! 風姐さん! 先輩方も、一緒に帰ろうッス!」

「はっ?」

「てな訳で兄貴、お先に!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

そう言ってそそくさと部室を後にする冬弥。夏凜達も慌ててその後をついていき、取り残された藤四郎は突然の剣幕に足が動けず、気がつけばガランとなった部屋に1人、佇んでいた。

 

「……寂しい」

 

そうポツリと呟いた直後、扉が勢いよく開けられて、風が颯爽と入ってきた。

 

「風か。忘れ物か?」

「違うわよ。さすがに大人数でいっぺんに帰ると、あんたが可哀想だったし。それに丁度手が空いてるなら、手伝ってもらいたい事もあったから」

「そうか……。ところで風。冬弥のやつ、一体何があったんだ?」

「さぁ、それはあたしにも分からないわね。まぁ樹達もいるんだし、大丈夫よ」

「だと良いんだが……」

「ま、気に病んでも仕方ないわ。早速取り掛かりましょう」

「……あぁ」

 

さすがは部長役に就いているだけあって、部員への配慮もしっかりしている。藤四郎の注目を冬弥からそらすべく、風は溜まっていた仕事に着手する事に。

 

「(そっちは任せたわよ、樹)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕生日プレゼント?」

 

校舎を出たところで、冬弥の口から悩み事が何なのかが明らかとなった。

 

「それって、藤四郎先輩のって事だよね?」

「でも、確か藤四郎先輩の誕生日は10月だと伺っていますが……」

「じゃあ、一体誰の?」

「あ、あの……。実はもう1人の兄貴の分なんスよね……」

 

冬弥がしどろもどろにそう答える。

 

「えっ? もう1人兄貴分がいたのか?」

「は、はい! 少し離れたところに住んでたんスけど、藤四郎の兄貴と一緒にお世話になってたんスよ! それで恩返しがしたいんス!」

「なるほどね……」

「『住んでた』って事は、今は近所に住んでいないって事か?」

 

兎角がそう尋ねると、一瞬だけその顔が曇ったのを、園子は見逃さなかった。

 

「……そ、そうなんスよ! 色々あって別の所に引っ越して、今は別の学校にいるんスよ」

「そうだったんですか」

「でもそれなら、何で藤四郎に相談しないのよ? 話を聞く限り、友達関係なんでしょ?」

 

もっともな事を呟く夏凜。それに対し、冬弥は首を横に振る。

 

「も、もちろん兄貴は兄貴で、ちゃんと渡したいものを考えてはいると思うんスよ。でも今年からは、おいらからもプレゼントしたくて……」

「なるほど。それで先輩には相談できずに1人で悩んでいたのね」

「な、なんか巻き込んじゃってるみたいで、ごめんなさいッス……」

 

冬弥が謝るが、友奈達は逆に嬉しそうな様子だ。

 

「全然いいよ、それくらい!」

「深刻な悩みではなかったようだな」

「……で、俺達に相談してきたって事は、まだプレゼントは決まってないんだよな?」

「はいッス。半年前くらいから考えてるのに、これって物が浮かばないんスよ……」

 

よほど大切な人なんだな、と真剣に悩む素ぶりの冬弥を見て、樹はそう思った。

 

「直接、何が欲しいのか聞けばいいのに」

「そ、それは……!」

「?」

 

不意に狼狽する冬弥。首を傾げる一同だが、何かを察した園子がフォローに入った。

 

「きっと、前に聞いた事があっても、具体的な物を提示してこなかったんだよね〜」

「そ、そうッス! 何もいらないって言ってるんスけど……。園子先輩、代弁ありがとうッス!」

「えへへ〜。それほどでも〜」

「まぁ、弟分の冬弥に無駄遣いさせたくないって事なのかもしれないけどな」

「いつも兄貴には苦労かけてるし、誕生日くらい、喜んでもらいたいんス!」

「解るなぁ、冬弥君の気持ち! 良い物、プレゼントしてあげたいね!」

「というわけで、みんなに相談できたら助かるッス!」

 

方針が決まったところで、一同は冬弥に協力して誕生日プレゼントの買い出しを手伝う事となったのだが……。

 

「それはそうと、根本的な話になるが、その人がどんな人物なのかがイマイチピンときてないんだよな……」

「その方の趣味に沿ったものをプレゼントすると想定して、どんな趣味を持ち合わせているんでしょうか?」

「お料理とか?」

 

昴の一言に対し、真っ先に手を挙げたのは、言わずと知れた友奈。

 

「じゃあ、調理器具だ!」

「ですが友奈ちゃん。ひとくちに調理器具と言われても、色々あると思われますよ……」

「なんとかミキサーとか、なんとかドリル!」

「適当すぎるわよ!」

「友奈ちゃん。ドリルはお料理に必要ないわよ」

「それに予算だって考慮した方が良いと思うぞ」

「そっか」

「あの……。盛り上がってるところ悪いんスけど、兄貴は、その……。料理が得意なんて話は聞いてないッス……」

「まぁ、仮に料理が好きだったら、昴みたいに大抵の調理器具は揃えてるだろうし」

「意外と難しいな……」

「他に、どんな一面があるんだ? その人には」

 

兎角からの問いかけに、冬弥は少し恥ずかしそうに答える。

 

「そうッスね……。自分で言うのも恥ずかしいッスけど、こう見えておいら、小っちゃい頃はイジメられる事が多かったんスよ」

「えっ?」

「意外だな……」

「母ちゃんと2人暮らしなんスけど、もう3回くらい離婚してるんスよね……。その事をネタにされてバカにされて……。そんな時に、兄貴達に守ってもらってたんスよ」

「知らなかったわ……」

 

夏凜が呆然と呟く。

母親と一緒にいられる時間が少ない彼にとって、藤四郎やその兄貴は、心の拠り所だったに違いない。

 

「おいらにとって兄貴達は、勇者みたいにカッコよくて、いつかあんな風になりたいって思ってるんスよ!」

「勇者……」

 

冬弥のその言葉に引っかかりを覚えた友奈が、唐突に目を光らせて叫んだ。

 

「分かった! バスタードソード!」

「えっ⁉︎ それどこで売ってるんスか⁉︎ あったら欲しいッス!」

「友奈ぁ⁉︎ 真面目な話してる時にふざけてるんじゃないわよ! 冬弥が間に受けるでしょうが!」

 

夏凜の、キレのあるツッコミが見事に炸裂する。

 

「ダメか……」

「ダメよ。中学生に刃物は」

「そういう問題か⁉︎」

 

東郷の発言に目を見開く夏凜。と、ここで銀が頭を掻きむしりながら叫んだ。

 

「あーもう! ウダウダ悩んでたってしょうがないし、ここは一つ、この三ノ輪 銀様に任せときな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、銀の先導で一向が訪れたのは、四国有数の娯楽施設。通称『イネス』。

 

「というわけで、やってきたぞイネース!」

「ウェェェェェェイ!」

「す、凄く興奮してます……!」

「相変わらず騒がしいわね、こういう時の銀は」

「園子まで便乗してるし……」

「讃州市から離れてるのもありますけど、最近は特に忙しかったですし、溜まっていたものが吹っ切れていますね」

「あいつらには『飽き』なんて概念はないのかもな」

「モチのロンよ! ほらほら皆さんもテンション上げて! イネスに失礼」

「チョットナニイッテルノカワカラナイ」

「いい歳なんだし、はしたないわよ」

 

などと口々にそう呟く中、遊月が初めて訪れる娯楽施設に興味津々な様子だ。

 

「結構色んな店舗があるんだな」

「遊月君って、イネス初めて?」

「記憶がないからって事もあるけどな。少なくとも今の家に下宿してからは来た事がないんだ」

「ほうほう! なら遊月にはもっとイネスの魅力を知ってもらう必要がありそうだな! というわけであたしがオススメする、イネス巡りフルコースにご招待だ! 一名様ご案内!」

「はいはい。それはまた今度にして、今日は冬弥の依頼が最優先でしょ?」

 

夏凜にそう窘められ、不満げな様子の銀だったが、目的を思い出して、踏み止まる事に。

 

「けど、イネスに来たのは正解だったな。ここなら大抵の物は揃ってるし」

「やっぱり、売り物を見て色々と考えられますからね」

 

兎角と樹がそう呟きながら、数々の店舗を見比べて、プレゼントに良さげな物を見つけようとする一同。だが、やはりそこは奇妙キテレツな面子が揃う勇者部。そう安易に事態が片付く事はなく……。

 

「おっ、友奈。新商品が出てるぞ」

「わぁ! 綺麗な栞!」

「押し花に使えそうだな」

「ホントだ! さっすが兎角!」

「あの……。兄貴は押し花なんてしないッスよ……」

「おっ、東郷。あそこにあるのって戦艦プラモじゃ……」

「まぁ! なんて素敵な造形美……!」

「あの……。兄貴って軍艦とかに興味は……」

「あっ! 見てください夏凜ちゃん! ダンベルがセットで安売りしてますよ!」

「本当だわ……! それに筋トレグッズまで、めちゃくちゃ安く売られてるじゃない。さすがはイネスね……!」

「いや、その……。兄貴は筋トレとかしてないッス……」

「すばるん! これ最新式のミキサーだよ〜!」

「その隣の店で売られてるリボンも、可愛いものが多いね。園子ちゃんに似合いそうなものばかりだよ」

「あの……」

「あれ? 銀さんと巧さんの姿が見当たらないような……」

「……あ、銀からメールだ。『迷子の少女を保護。巧と共にはぐれた親を探しに行くので、そこで待たれたし』だってさ」

「やっぱり発動したな、銀のトラブル体質」

「巧もなんやかんやで巻き込まれた感じか」

「……心強いと思ったんスけど、先輩方に頼んだのは失敗だった気がするッス」

「あはは……」

 

目の前を歩く者達の暴走ぶりに頭を抱える冬弥。隣にいた樹は、ただ苦笑する他なかった。

やがて銀と巧が保護した迷子を親元に送り返して戻ってきたところで、議題は再びプレゼント選びへ。

 

「う〜ん。どうしよっか……」

「これだけ考えても思いつかないとなりますと……。いっその事、みんなが好きそうなものから選んでみるというのはどうでしょうか?」

 

依然としてこれといった妙案がなく、逆に真琴の提案も一理あるとして、視点を少し変えてみる事に。

 

「みんなが大好きなものって言えば……やっぱりうどんかな?」

「まぁうどんが嫌いな人なんて、そんなにはいないだろうし、妥当だな」

「だけど、うどん玉をそのまま渡すのか?」

「それはそれで……」

「うどんといえば……粉?」

「粉……ッスか?」

「小麦粉1年分とか、良いかもな!」

「小麦粉にリボンをかけて渡すと、キュートな仕上がりになるよね〜」

『……』

 

何とも言えない沈黙が、友奈達を包み込み始める。やがて、東郷がおずおずと口を開く。

 

「……少し、野暮ったい?」

「少しなんてレベルじゃないわよ!」

「麺棒!」

「おたま!」

「どんぶりだ!」

「茹で釜もありますね」

「思いつく物を言ってけば良いってもんじゃないわよ! もう勘弁してぇ!」

 

周囲の目を気にする事なくシャウトする夏凜。本日のツッコミはいつにも増して絶好調のようだ。

やがて夏凜が落ち着きを取り戻したところで、遊月が口を開いた。

 

「でも真面目な話、そんなに慕れてる人なら、冬弥がくれる物は何でも嬉しいんじゃないか?」

「そう……ッスか?」

「もちろんだよ〜。私も、すばるんからのプレゼントは何でも嬉しいし〜」

「あはは……。目の前でそれを言われると照れますね。でも、僕も同意見です」

 

昴のみならず、他の面々もそう言いたげな様子だ。

 

「ま、何だかんだあったけど、俺達の意見より、冬弥の気持ちを優先した方が良いと思うぜ」

「そだな!」

「自分に正直になれば良いんよ〜」

「おいらの気持ち……」

 

しばらく唸った後、冬弥の表情が段々と和らぎ始める。

 

「……うん! そうッスね! きっと喜ぶッス! というわけで、もうちょっと見て回りたい気もするんで、もう少しだけ付き合ってほしいッス!」

「良いですよ!」

「決まりだな」

「じゃあ早速って言いたいところだけど、ちょっと休憩しようよ。フードコートも近くにあるし」

 

そうして銀の提案で、先ずはフードコートでクールダウンする事に。

席を確保した後、軽食を探し回っていた時に、フロアの1コーナーに、シャッターで閉められている店が。

 

「閉店したみたいだな」

「銀ちゃん、ここって何がありましたっけ?」

「うぅ〜ん……。あたしも久しぶりだし、記憶もちょっと抜けてるからアレなんだけど……」

「張り紙にはジェラートの絵が載ってるな。アイスクリーム屋さんの類だったのかもな」

「う〜ん。残念だね」

「これから暑くなって売れやすくなるって時に、酷だな」

「仕方ないよな。売れなくなったら新しいものを取り入れて行かなきゃ、今の時代やっていけないものだろうし」

 

兎角がしみじみとそう呟く中、遊月は写真に掲載されている、茶色いジェラートを見て、ポツリと呟く。

 

「醤油豆味……」

「遊月?」

「! いや、何でも、ない……」

 

不意にまた頭痛が来て、顔をしかめる遊月。樹海化した時と全く同じ感覚だ。この、何の変哲もないジェラートも、失われた記憶と関係しているのだろうか……。遊月の疑問は解決しないまま、皆と共に別のフードコートに足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1週間近くが経ち、兎角は1人、町外れの堤防沿いを歩いていた。活動も特になく、家に帰った直後に母親からお使いを頼まれ、その帰り道での事だった。

ふと何気なく前方に目をやると、見知った顔の人物が、新品の包装紙に包まれたものを手に持って、どこかに向かう姿が。

 

「冬弥?」

 

兎角はその人物の名を呟き、同時に気になってしまった。彼が手に持っていたのは、先週イネスに寄って、最終的に彼の判断で購入した商品を、プレゼント用に包装したものに違いない。結局いつ渡しに行くのかを聞いていなかったので、どうやら今日が、彼の言っていた『兄貴』の誕生日らしい。

それだけなら良かったのだが、兎角にはもう一つ気になる事が。

 

「(冬弥のやつ、プレゼントを渡しに行くって割には、いつもと比べて楽しそうな感じが少ない気がする……。友奈ほどのお節介じゃないけど、確かめてみるか)」

 

そうして兎角は、冬弥の後をこっそりついて行く事に。

ある程度距離も離れていたので、気付かれる事なく後を追っていた兎角は、冬弥が古びた門をくぐってどこかに入って行くのを確認した。

眉をひそめて訝しむ兎角。そこは、兎角の祖父母が眠っている墓がある寺だったのだ。こんな所に、一体何の用事があるのだろうか。一瞬、この寺に住む人が冬弥の言っていた人物なのかとも考えたが、遠くに離れていると言っていた以上、その可能性は低い。

しばらく門の前で立ち往生していた兎角だが、冬弥が墓場に入って行くのを見かけて、迷った末について行く事に。

やがて冬弥が立ち止まったのは、一つの墓石の前。そこで彼は、プレゼントを墓石の前に丁寧に置き、こんな事を話しかけた。

 

「お誕生日おめでとうッス、竜一の兄貴。プレゼントを悩みに悩んだッスけど、勇者部のみんなのおかげで、良いものを選べたッスよ」

 

そう呟いて、静かに目を閉じて、手を合わせる冬弥。

そこで兎角は、理解した。彼がもう1人の兄貴分の事を、仕切りに話したがろうとしない理由を。彼が悩んでいた、本当の理由を。

 

「まさか……!」

「兎角?」

「!」

 

不意に背後から声をかけられて、後ろを瞬時に振り向く兎角。そこには藤四郎の姿が。手には、冬弥が所持しているものとは違う柄の包装紙に包まれたものが握られている。

 

「お前、どうしてここに……?」

「あ、いや、その……」

「あれ、兄貴⁉︎ 先輩も⁉︎」

 

と、ここで冬弥が驚いた様子で駆け寄ってきた。出入り口の付近が騒がしかったので、目を向けて見つけたようだ。

 

「兄貴はまだ分かるんスけど、兎角先輩はなんで?」

「いや、その……。用事があって道を歩いてたら、例のプレゼントを持ってる冬弥を見かけてな。気になってついて行ったら、ここに……」

「全然気づかなかったッス……」

「悪かったな。別に悪気があったわけじゃないんだが、その……」

「……そうか。この間妙に忙しない感じだったのは、竜一へのプレゼントの事で……」

 

藤四郎が、墓の前に置かれたプレゼントを見て納得のいった表情を浮かべる。

 

「黙っててごめんッス。でも、おいらももう中学生だし、いつまでも兄貴だけにプレゼントを任せるわけにもいかなくて、それで……」

「なるほどな。それならそうと言ってくれれば良いのに……。でもありがとな。竜一もきっと喜んでるぞ」

「うん!」

「あの……。割り込んできて申し訳ないんですけど、そのプレゼントを渡す相手って、つまり……」

 

事情がまだ全て把握できていない兎角が尋ねると、藤四郎からついてきてくれ、と背中を押されて、一同は墓の前に立った。

 

「……竜一は、俺にとって唯一無二の友と、胸を張って呼べる男だ。幼少期から、大赦に仕えている浜田家の次期当主として厳しく育てられてきた俺に、なんの隔たりもなく接してくれた」

 

藤四郎はそう語りながら、プレゼントの袋を、冬弥が持ってきたものの隣に置く。

 

「あいつがいたから、今の俺がいると言っても過言ではない」

「そう、だったんですか……。でも、そんな人がどうして……」

「……2年前の事だった。大赦の人達が家にやってきて、あいつの死を淡々と告げた。聞けば、2年前にあった災害に巻き込まれて、そのまま……」

「……」

 

冬弥は、何も語らない。

2年前の災害。兎角も聞き覚えがあった。ニュースなどで見た程度だが、様々な自然災害が同時発生し、瀬戸大橋が大きく破壊されたらしく、現在はその近隣は、大赦の手によって立ち入り禁止とされている。負傷者多数、死者も少なからず出たそうで、そのうちの1人が、こうして墓の中で眠っているのだろう。

 

「……ここだけの話だが、その災害には、バーテックスの存在が関係していると、大赦から伝えられた」

「……!」

「生産性のない復讐だとは分かっている。竜一だって俺や冬弥に仇を討ってもらおうなんて考えていないはずだ。……それでも、俺達から大切な人を奪ったのは事実だ。それをなかった事になんて、当然できるはずもない……!」

「先輩……」

「だからこそ、もう二度と、このような悲劇を繰り返してはいけないんだ。その為なら、俺は武器を手に取って戦う事を、躊躇ったりはしない。それが俺の、戦う『理由』だ」

 

並々ならぬ決意でそう語る藤四郎に、兎角は言葉を失う。

 

「……この事は、ここだけの秘密にしておいてくれ。みんながこのお役目に挑む姿勢は違っているはずだ。仮にも巻き込んだ身だ。無理して他人のそれを背負わなくてもいいように、それぞれが胸に秘めたものを、大切にしてほしい。……頼めるか、兎角」

「俺からもお願いするッス!」

「……分かりました。この事は、誰にも言いません。……ですが、一つだけ約束してください」

「……何だ?」

「どうしても困った時は、俺達が必ずそばにいます。冬弥だっています。頼ってあげてください」

「……あぁ、そうだな」

 

静かにそう頷いた後、藤四郎は今一度墓の前で手を合わせる。兎角も自然な形でそれに続く。

熱を帯びた風が、3人を、2人からのプレゼントを、副部長の親友が眠る墓を、静かに撫でた。

 

 

 




『ジオウ』で佐野岳さんが出演してほしいと、夢見ている今日この頃。



〜次回予告〜

「この歌知ってる?」

「マイクをよこしなさい」

「んなアホな……」

「アルファ波……?」

「誰が妖怪を描けと言った」

「素直じゃないな」


〜あたしの理由なのよ〜

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