結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
……というよりも、いつになったら本編の続編が来るのだろうか?
歌のテストの特訓と称して、カラオケを満喫した、翌日の放課後。
樹の歌唱力を向上させる秘密兵器を持ってきた、という夏凜の発案を受けて、部室に集まった一同。テーブルの上には、数多くのサプリメントや調味料がこれでもかと並べられており、樹を初め、ほとんどの者が開いた口が塞がらない。
「こ、これどうしたんだ?」
「なんか沢山あるな」
「ここにあるのは、喉に良い食べ物とサプリよ」
そう言って夏凜は得意げに、各々の食べ物やサプリの効果を説明し始める。
「マグネシウムやリンゴ酢は、肺に良いから声が出やすくなる。ビタミンは血行を良くして喉を健康に保つ。コエンザイムは喉の筋肉の活動を助け、オリーブオイルとハチミツも喉に良いの」
「詳しいですね」
これには料理上手の昴も唸ってしまう。他の面々も似たような感想だった。
「凄いですね……」
「夏凜ちゃんは健康食品の女王だね!」
「ところで、前から一緒にいた真琴は、こういうのに詳しいのか?」
「い、いえ。僕はそこまで……。あ、でも鍛錬の休憩の際には、僕の体調に合わせてサプリをあげてくれましたよ」
「まぁ真琴はともかく、夏凜は『健康の為なら死んでも良い』って言いそうなタイプね」
「言わないわよそんな事!」
「そうかな〜?」
「そうッスか?」
「どうだろうな?」
「うぉい! 素でハモってんじゃないわよ!」
そんなこんなで説明も終わり、いよいよ実食へと移るのだが……。
「さぁ樹! これを全種類飲んでみて! ぐいっと!」
「えぇっ⁉︎」
「これ全部を⁉︎ 樹1人で⁉︎」
「多すぎじゃないの? 夏凜でも無理でしょ⁉︎ さすがの夏凜さんだって、ねぇ……」
「だよなぁ。いくら完成型勇者だからって無理が……」
3割挑発、7割本気で心配といった様子で語る風と銀。これが夏凜の癪に触ってしまったらしく、歯ぎしりしながら喚いた。
「無理ですってぇ! 良いわよ! お手本を見せてあげるわ!」
そう言って小瓶の中のサプリをこれでもかと一度に多量摂取し、飲み込めない分は液体タイプの調味料が入った瓶を傾けて、強引に胃の中に流し込む。
「後は、オリーブオイルで……!」
「直飲みだとぉ⁉︎」
何のためらいもなくオリーブオイルを直接流し込む姿を見て、兎角が叫ぶ。
(※断っておくが、これらの行為は危険性を考慮し、且つ特殊な訓練を受けた者が行っているものであり、間違っても作者である私や読者であるあなた方が真似してはいけないものであり、サプリも使用法や用量を正しく理解した上で摂取する事を忘れないでいただきたい)
そうして並べられた全ての食べ物やサプリを飲み込んだ夏凜は、息を荒げながら、勝ち誇ったように風と銀を睨みつける。
「ど、どうよ……! これくらい朝め……ウッ!」
不意に顔色が変わり、徐々に青ざめていく、自称『完成型勇者』。次の瞬間には脱兎の如く部室を飛び出し、トイレのある方へと脇目も振らずに駆け抜けていく。
「か、夏凜ちゃん⁉︎」
「大丈夫⁉︎」
「……アホだな」
「うん。アホだ」
その後ろ姿を見て、真琴と友奈が不安になる中、巧と藤四郎はボソリとそう呟く。
しばらくして、トイレから戻ってきた夏凜は何ともなかったような表情だった。ただ先ほどと打って変わって、若干疲労しているようにも見えたが……。
「ま、まぁ樹はビギナーなんだし、サプリは1つか2つで十分よ」
口元を拭いながらそう告げる夏凜。対照的に、先程の光景を目の当たりにして、思わずため息をついてしまう樹であった。
(※しつこいようだが、これはあくまで個人の感想であり、効能までは保証されない事を頭に入れておいていただきたい)
とはいえ先輩からの配慮を無駄にするわけにもいかないと思い、若干抵抗はありつつも、見た目の良さそうなサプリを2粒拝借し、水で飲み込んでから、改めて歌の練習を始める事に。
が、いくら練習を繰り返してもサプリの効力は発揮されない。そればかりか、カラオケの時よりも声が掠れてしまっているようにも感じられる。
「やはり緊張する事が一番の原因だと思うから、喉よりもそっちの方の解決策を見出した方が良いのかもな。リラックス出来る方法を」
遊月がそう結論づけると、夏凜も納得したような表情になる。
「それもそうね。じゃあ次は緊張を和らげるサプリを持ってくるわ」
「結局それかい!」
「やっぱりサプリなんですね……」
もう少しまともな解決策はないのか、と言いたげな部員もいたが、結局この日はそれ以上の成果を上げる事は出来ずに、現地解散となって家路に着く事となった。
数時間後、犬吠埼家では、樹が丁度いい湯加減のお風呂に浸かりながら、歌のテストの事で頭がいっぱいなのか、ため息をついていた。側には彼女の精霊である木霊がフヨフヨと浮いて、こちらをジッと見つめている。
「大丈夫だよ、木霊」
安心させるように木霊を撫でた後、風呂に持ち込んだスマホの画面に目をやる樹。そこにはカラオケで和気藹々と歌う冬弥達の姿があった。
それを見ていると、不思議と心の中のモヤモヤが晴れていくような気がしてきた。そこで景気付けにと、課題曲である『早春賦』を口ずさんでみる。その歌声は、部室で歌った時とは打って変わって、音程1つ外れていない、美声と呼ぶに相応しいものであり、木霊がテンポよく飛び回るように、滑らかに風呂場に響き渡る。
「やっぱり樹、1人で歌うと上手いじゃん」
「お、お姉ちゃん⁉︎ 聞いてたの⁉︎」
不意に視線だけでなく、姉の声がしたので慌てて振り返ると、風呂場の戸を開けて、いつからそこにいたのか、風が覗き込むようにその場に立っていた。
「樹はもっと自信を持っていいのに。ちゃんと出来る子なんだから」
そう告げて戸を閉める風。恥ずかしくなって、ただでさえ小柄な体をさらに縮めてしまう樹。再び自信をなくしてしまった樹は、恥ずかしさもあってか、その日は歌を口ずさむ事はなかった。
そんな自分を情けなく思いつつ、変わりたくても変われない自分が嫌いになりつつ……。
犬吠埼 風の朝は早い。
日が昇りきる前に目を覚ますと、制服に着替えてから洗濯物を畳んだり、朝食の準備を始める事が日課となっている。最近では木霊や犬神といった、新しい家族も増えたので、ドッグフードなどの餌を与えてあげる事も日課の1つに加わった。
本来ならこういった事に精を出す両親の姿は、今はもういない。2年前、仮面を被った大赦の使いの口から、大赦に勤めていた両親が亡くなった事を唐突に告げられてから、家事全般は全て風が担う事となった。
最初のうちは大赦から支給された資金でやりくりして、コンビニ弁当などでご飯を済ませてきたが、大抵の場合、樹が『美味しくない』と言って残す事が多かったので、悩んだ末に、慣れない手つきで朝食を作ってみた結果、樹から高評価を受けて、久々に見た笑顔でお礼を言われた時に感極まったのは、今でも忘れられない思い出の1つだ。以来、自分で調理するようになり、結果として昴ほどではないにしろ、料理のスキルは格段に向上し、現在に至るのだ。
時計を見て時刻を確認した風は、未だにベッドの上で寝転がっている樹を起こしに向かった。
「樹ー」
「んっ……」
「樹、起きなさーい。着替えここに置いとくから。顔洗ってきなさいよー」
それだけ告げてから、キッチンに戻ってスープの具財を鍋に放り込んでいく。
ようやく出来上がったそのタイミングで、制服に着替え、髪飾りもつけ終えた樹が寝ぼけ眼でリビングに朝の挨拶をしながら顔を出した。
先に席に着いた樹は、睡魔と戦いながら、焼きあがったばかりのトーストにバターを塗り始める。すると、風が樹の後ろに立った。
「ちょっと動かないで」
そう言われてジッとしていると、後ろ髪に別の感触が。クシで後ろ髪を綺麗にとかしているようだ。顔を洗っている時には気づかなかったが、どうやら寝ぐせがついていたらしい。
「よしっ。今日も可愛いぞ♪」
髪飾りも直し終えて、微笑みながら樹の頭を撫でる風。
やっぱりお姉ちゃんは凄い、と改めて思い知らされる樹。同時に、お姉ちゃんがいなくては何も出来ない自分が情けなく思えて、気持ちが沈んでしまう。今までもこういった事は多々あったが、今の自分が置かれている状況が特別だからか、どうしてもこの言葉を伝えたくなってしまう。
「元気ないね。どした?」
「……あ、あのねお姉ちゃん。……ありがとう」
「? 何よ急に」
「何となく、言いたくなったの……。……家の事、勇者部の事。お姉ちゃんにばっかり、大変な事させて」
席に着いた風が、妹の独白に面食らいつつも、笑ってこう返事する。
「そんなの、あたしなりに理由があるからね」
「理由?」
「……っ」
そこまで深く追求されるとは思っていなかったのか、一瞬だけ曇りを見せる風の表情だが、すぐに元に戻して答えた。
「ま、まぁ簡単に言えば、世界の平和を守る為、かな? だって勇者だしね。それに、家の事はともかく、勇者部に関しては、藤四郎の方がもっと大変なはずよ。だって常に大赦とやり取りしてるんだし。あたしは少しでも、あいつの苦労を取り除く為に頑張ってるだけ」
大赦とは関係の深い一族の子として生まれた藤四郎の事を思いつつ、そう告げる風。一方で樹は未だに納得がいかない様子だ。
「でも、それは……」
「何だって良いんだよ。どんな理由でも、それで頑張れるならさ」
どんな理由でも。
その言葉が、樹の中で引っかかりを覚える。その答えを導き出そうとする前に、両腕を振りながら風の大声が遮る。
「はーい、シリアスはここまで! 冷めないうちに食べて、学校に行くわよ」
時計を見ると、後1時間ほどで学校が始まる時間だ。それを確認した樹はモヤモヤが晴れないまま、言われた通りにトーストを頬張った。
「へぇ。そんな事あったんスね」
この日の授業を終えて、部室に向かおうとした冬弥は、樹に呼び止められて、彼女と共に屋上に足を運んでいた。相談したい事があるのだそうだ。
そうして冬弥は、犬吠埼家での今朝のやり取りを聞いて、大きく頷いた。続いて、樹の口から語られたのは、2年前から今日に至るまでの事だった。
「……小学生の頃にね。知らない大人達が家にやってきた事があって。私はお姉ちゃんの背中に隠れてるだけで、何を話してたのか、今でも全然覚えてなくて……。後でお姉ちゃんから、お父さんとお母さんが死んじゃったって、教えてくれた」
「……」
「あの日からずっとお姉ちゃんは、私のお姉ちゃんで、お母さんでもあって。とにかくずっとお姉ちゃんの背中が、一番安心できる場所で、お姉ちゃんがいれば私、何だって出来るんだ。……でも、それって私1人じゃどうしようもないって事にもなるんだ」
「樹……」
「どんな理由でも頑張れるって、お姉ちゃんは言ってた。でもそれなら、私は……? 私は、何の為に歌も、勇者部の活動も、頑張れるのかが、分からなくなってきて……」
どこか遠い目をしながら海岸を見つめる樹。そんな彼女を横目でジッと見つめる冬弥。
「勇者になったのも、部に入ったのも全部、お姉ちゃんの背中についていっただけ……。私、理由なんて、何もない……」
「……樹は、風姐さんの隣に並びたいんスね」
「えっ?」
不意に顔を横に向ける樹。
「その気持ち、おいらにも分かるッス。竜一……おいらにとってもう1人の兄貴が死んでから、藤四郎の兄貴もすっかり変わったッス。勇者部の事を、ほとんど1人で抱えてて、見てるだけがとても辛かったッスよ。だから、おいらもいつか、その苦しみを分かち合えるぐらいには強くなりたいって。樹や先輩達が勇者部の活動を頑張る姿を見てて、段々とそう思うようになったんスよ」
「そう、だったんだ……」
「強くなりたいのは、俺もッス。でも特別な理由があるわけじゃなくて、おいらなりに頑張って、兄貴は独りぼっちじゃないって気づいて欲しいんス。理由なんて、それぐらいでも良いと思うッスよ、おいらは」
理由なんて、それぐらいでも良い。
何とも大雑把な回答ではあったが、冬弥らしいポジティブな考えではあると、樹は思った。
「……ありがとう」
「へへっ。役に立てたなら嬉しいッス! (おいらからしたら、樹の方がよっぽど頑張ってると思うんスけどね)」
話し合いも終わり、そのまま部室に向かおうとした矢先、2人の端末に着信が入った。『NARUKO』を介してメッセージを差し出したのは風だった。
そこにはこう書かれていた。
風:『こちら部長。本日のミッションは別れて決行する。飼い主探しの依頼が来てた子猫のうち、2匹の貰い手がついた。各依頼主の家へ行き、子猫を引き取ってくるべし』
「これ確か、こないだ東郷先輩と遊月先輩が載せてたやつッスよね?」
「うん。見つかったみたいだね」
次々と部員達から了解のメッセージが送られる中、2人も早速返事を返す事に。
サプリなんて過剰摂取するもんじゃないな……。
〜次回予告〜
「協力してほしい事があるんだ!」
「何とかしよう」
「カボチャって……」
「何言ってるのお姉ちゃん!」
「……始まったって言うの?」
「私、やりたい事が出来たよ」
「遂に、来たか……!」
〜私の夢 そして……〜