結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
さて、今回で遂に決着がつきます! ……まぁこれで終わるわけではありませんが、ね。
「う、嘘だろ……⁉︎ あれが、御霊なのか……⁉︎」
銀がそう呻くように、獅子型から出てきた御霊は、彼らの視線の先で、今なお上昇を続けている。
「規格外すぎるだろ……⁉︎」
「しかも、あの御霊が出てる場所って、宇宙だぞ……⁉︎」
「で、デカすぎるッス……!」
「あんなもの、どうやって……!」
封印の儀を執り行っていた大半は、開いた口が塞がらない。頼れる先輩達や真琴は、獅子型の攻撃を受けて倒れており、どうする事も出来ない。加えて封印の儀は長時間も続けられない。時間が経てば封印が弱まり、獅子型が再び侵攻を始めてしまう。
そうなっては今度こそ、世界は死ぬ。
「最後の最後で……、チクショウ!」
普段は強気な夏凜も、この時ばかりは地団駄を踏んでしまう。
もはやこれまでか。誰もが諦めかけたその時。
「狼狽えるな! 相手は御霊だ! だったらこれまで通りに対処すれば、問題ないはずだ!」
「兎角の言う通りだよ! どんなに敵が大きくたって、諦めるもんか! 勇者って、そういうものだよね!」
兎角と友奈が、その場の淀んだ空気を払拭するように叫んだ。その一言は、沈みかけた気持ちを奮い立たせるには十分だったと言えよう。すかさず、東郷が呼びかける。
「友奈ちゃん、兎角君! 行こう! 今の私なら2人を運べると思う!」
「うん!」
「分かった!」
「なら、俺も行くぞ! 援護は任せろ!」
2人に続いて、遊月も同行の意志を示す。すると、園子からこんな提案が。
「待ってまって〜! 御霊はきっと、自己防衛の為にズガーンとやってくるかもだから、私もついて行くよ〜」
「でしたら、僕もそちらの護衛につきます!」
「あたしもそっちに!」
「俺も向かおう。あれだけの規模だ。どんな迎撃が待ち構えているか分からん」
「にぼっしーといっつんと、とーやんは引き続き封印をお願いね〜!」
「了解ッス!」
「こっちは任せてください!」
「早く殲滅してきなさいよ!」
こうして、夏凜と真琴以外の2年一同は、御霊を破壊するべく宇宙へ。残った3人で封印の儀を続ける事に。しかし一方で新たな問題が。
「でも、これだけの人数は、私でも運ばないわ」
東郷が困ったように呟く。スペース的な面でも、明らかに積載オーバーだ。
しかし、園子と昴がいち早く解決に動き出す。
「そこは園子にお任せなんだぜ〜。十分溜まったからね〜」
「僕の方もですね! 今が使いどきでしょう!」
「「満開!」」
2人が気合いを入れて叫んだ次の瞬間、オレンジ色のアザレアと、紫色の蓮の花が上空に咲き誇った。
昴は亀の甲羅のような乗り物に搭乗し、園子は多数の槍の刃のような武装の方舟に搭乗している。どちらも運搬には最適な姿だと言えよう。
「おぉ! あれが2人の満開か!」
「さぁ、皆さん急いで乗ってください!」
昴がそう急かし、一同は素早く乗り込む。
東郷の所には友奈と遊月が、園子の所には銀が、昴の所には兎角と巧が搭乗し、3隻の移動船は、御霊に向かって一直線に飛び出していった。
残された夏凜と樹、冬弥は自分達に任された役割を全うするべく、封印に集中する。しばらくすると、獅子型を中心に地面が枯れ始めた。
「クソッ……! 侵食が速い……!」
夏凜がそう呟くように、今までとは比べものにならないほど、地面が枯れ始めるスピードが桁違いだ。
速くなっているのは侵食だけではない。樹の側に現れた木霊が見せてきたスマホの画面には拘束できるタイムリミットが表示されているのだが、気のせいか、いつも以上に数字の減りが早い。
「拘束力が、なくなっちゃう……!」
「時間がないッス……! 先輩達、頼むッスよ……!」
今の彼らではこの状況の打破は難しい。冬弥ら3人は、他の8人がやり遂げるのを信じながら、意識を集中させる。
まさか生きている間に、宇宙という名の広大な光景を目の当たりにするとは、夢にも思わなかった。
音が耳に入ってこない世界の中で、兎角が心の中でそう呟きながら、友奈達と共に、遥か先に見える巨大な逆三角錐の塊を目指している。
全速力で進行し、ようやく御霊が視界いっぱいに広がった辺りまでたどり着いたその時、前方から何かが向かってくるのが確認された。否、向かってくるというよりも、降り注いでくるという表現が正しいだろう。
「こいつは……!」
「やっぱり攻撃してきたか……!」
「(数が、多い……!)」
園子の予想通り、迎撃を仕掛けてきた御霊。しかし降り注いでくる、キューブのような物体は数が多い。東郷が砲台を向けるが、それだけで全てを撃ち落とせるとは考えにくい。万が一にも撃ち漏らしがあれば、それは地上に隕石の如く降り注ぎ、地上に残っている夏凜達だけでなく、神樹にも直撃して、最悪の事態に陥るとも考えられる。
となれば、ここで全てを撃ち落とすには、こちらも手数で対応するべき。そう考えた巧は、亀の甲羅のような船から飛び上がった。
「地上に落としてたまるか……!」
「ここが使いどきだろ!」
同じく、方舟から飛び上がる銀。2人は目線を合わせて同時に頷くと、その力を解き放った。
赤色のカランコエとアマリリスが咲き誇り、2人の姿は一変。銀は4本の腕が、それぞれ円形の斧を握った姿に。巧は髪の毛が逆立ち、金色のラインが目立つような容姿に。
「勇者は根性! こっから先は、行かせない!」
先んじて銀が4本の巨大な腕を操って、キューブを斬り裂いていく。
「ハァァァァァ!」
巧もそれに続くように、炎を撒き散らしてキューブに引火させ、消滅させていく。時折近づいてきたキューブは、直接叩いて破壊していた。
2人は背中合わせになって、雄叫びをあげながら勢いよく突進して武器を振り下ろし、キューブを撃墜していった。
「私達も行くよ〜!」
「防衛は僕の専売特許です!」
「友奈ちゃん、遊月君、見てて……! 一個たりとも、通さない!」
後方に控えていた東郷、園子、昴も、銀と巧の攻撃が届かない場所から広範囲に渡って降り注いでくるキューブを攻撃する。全員が意識を集中させて、撃墜している。特に東郷はこの場にいるメンバーの中で長く満開を行使している為か、かなり苦しげな様子だ。それでも、彼女にとって大切な人達に囲まれている今、ここで屈する訳にはいかない、といった表情を前面に押し出して、一言も発さずに撃ち落としている。
しばらくすると、キューブが降ってこなくなった。敵が弾切れしたのか、チャージを始めたのかは定かではないが、ようやく攻撃が鳴り止んで、息を整える一同。
「良し!」
「凄いよ東郷さん、みんな! 全部やっつけたよ!」
「お陰で御霊に近づけたな!」
遊月の言うように、キューブを撃墜しながら近づいていった事も相まって、彼らが今いる地点と御霊はさほど離れていない。
尚も前進しようとする東郷だったが、不意に体から力が抜け落ちる感覚を覚えた。これ以上、満開を維持するのは難しいようだ。
「! 東郷!」
「遊月君、ごめん……。ちょっと、疲れちゃったみたい……」
「よく頑張ったな。後は俺達に任せろ」
「見ててね! やっつけてくるから!」
「……うん。いつも見てるよ」
東郷が激励の言葉をかけると同時に、彼女の体は光に包まれて、元の勇者姿に戻る。同時に戦艦型の砲台も消滅し、意識を失いつつある東郷は地球に向かって落下を始める。
「みもりん!」
慌てて園子が前に出て、彼女の体を受け止めた。それを確認した兎角が口を開いた。
「昴はこのまま後ろでガードに徹してくれ。俺は、友奈と遊月と一緒にあいつを……!」
「頼みました……! ご武運を!」
そう言って飛び上がる兎角。友奈と遊月も、東郷の満開が解ける直前に飛び上がっており、3人が合流すると、早速その力を解き放った。
「「「満開!」」」
ピンク色の桜と、白色のスズランスイレンと、白緑色のオリーブが、宇宙空間に咲き誇り、友奈は銀に似て2本の巨大な腕が取り付けられており、兎角は足元に巨大な白馬が現れており、それに跨っている。そして遊月は満開前と同様に弓矢を携えているが、その大きさは自身の身長の2倍近くまで肥大化している。
「繋げたバトンは、絶対に落とさねぇ!」
「みんなを守って、私はぁ! 勇者になぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁる!」
一気に飛び上がって御霊に接近する友奈と兎角。満開を行使した事で神の力を得て、それまで出来なかった空中浮遊が可能となった今、遥か上空に待ち構えている巨大な御霊に向かうのは造作もなかった。
兎角に至っては、メカニックな馬に乗ったまま、片手にレイピア、もう片方に手綱を握らせて突撃するその姿は、さながら『白馬の王子』を連想させる。
そんな2人を援護するように、遊月は弓の弦を思いっきり引っ張り、手を離した瞬間、これまでの射撃とは比べものにならないほど音速で駆け抜けて、矢が何本も閃光の如く御霊に向かっていき、巨大な物体に亀裂を走らせた。
「そこだぁぁぁぁぁぁ!」
その亀裂に撃ち込む形で、友奈は拳を、兎角はレイピアを突き出す。表面が砕かれて、御霊の中が僅かに露わになる。まるで岩石のような色合いだ。砕かれた表面は塊となって地上に向かって落ちてくるが、それらは銀達の手で処理されていく。
「固てぇ……!」
兎角が苦悶の表情を浮かべながらそう呟くように、相手が巨大な無機質の塊という事もあって、満開の力を持ってしても、これまで通りに砕け散る様子を見せない。それでもなお、諦める事なく拳をぶつけ続ける友奈を横目で見て、幼馴染みも一つ気合いを入れ直す。
すると、御霊の砕かれた部分が凝縮していくのが確認された。どうやらこの御霊自身も、バーテックスと同様に高い治癒能力を要しているようだ。
焦りの表情を浮かべる2人。この短時間でありったけの力を注いでしまい、残された体力もあと僅か。いつ満開の効力が切れてもおかしくない状況だ。
無論それは、後方にいる昴達もまた然り。彼らも満開を維持するのがやっとの状態だ。御霊の破壊の支援までは期待できない。
「(このままじゃ、タイムリミットを過ぎて、神樹様に辿り着かれる……! こんな、所で……!)」
こんな所で、諦めてたまるか。
そう思った直後、彼の隣に、因幡が出現。兎角はそれに気づく事なくレイピアを握る腕に力を込める。一心不乱に、剣道で培った剣捌きを駆使した攻撃を続ける彼の脳裏には、共に戦う勇者、武神の姿が。
「(友奈……、東郷……、銀……、園子……、夏凜……、風先輩……、樹……、遊月……、巧……、昴……、真琴……、藤四郎先輩……、冬弥……!)」
息を荒げながらも、友奈と共に腕を動かし続ける兎角。
「みんなの頑張りを、無駄にする訳には、いかねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
その瞬間、因幡が兎角の背中から吸い込まれるように入っていき、彼の体が光り始め、弾けた光の中から、元の武神姿になった兎角が露わに。一瞬、満開が解けたかと思った友奈達だが、様子がおかしい。
頭上に因幡と同じ形の光が出現し、それが5つに分解される。兎角は目にも留まらぬ速さで、分裂した光に向かって順番に向かっていく。最初は右腕、次は左腕、そして右足、左足と、光が体の各部位と連結する。よく見ると、両腕の上腕二頭筋と、両足の脛の部分に、神々しく輝くアーマーが装着されているではないか。
そして頭上の光が上半身に覆われると、背中に長い耳が垂れ下がったような飾りのついたアーマーを纏った、兎角の真新しい姿が、友奈達の目に焼き付けられた。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
漆黒の宇宙に、光り輝く兎角の咆哮が轟く。
これを見て、昴がその正体を察する。
「これはもしかして、精霊降ろし⁉︎」
「あれが……!」
神樹の持つ概念的記録にアクセスし、そこから手元の精霊を体に宿す事で、新たな力を身につける。武神にのみ与えられた、神の化身である精霊と一つになり、神と同等の力を振るう。その象徴である精霊降ろしを目撃した一同は、思わず息をするのも忘れてしまう。
「兎角、それって……!」
「手順がよく分かってなかったけど、これが精霊降ろしなのか……。でも、これならいけそうだ……! 行くぞ、友奈!」
「! うん!」
そうして2人は、完全修復された御霊に再度立ち向かう。
友奈が正面から連続パンチで削り取っていく間に、兎角は高く跳躍して、打撃と足蹴りを繰り返していく。因幡のモチーフであるウサギの如く、何度も跳ねながら、御霊にあらゆる方向から刺激を与えていく。
それでもなお、御霊は再生を続ける。だが友奈も負けじとそれを上回るように打撃を与え続けていた。
「勇者部五箇条! 1つ! なるべく、諦めなぁい!」
友奈の一点集中型の攻撃と、兎角の全体を均等に叩くような攻撃が相まって、御霊に亀裂が入り、修復されるように早く広がっている。
「更に、五箇条、もう1ぉつ!」
続いて兎角が、御霊の上まで跳躍し、右足を突き出す。亀裂が全体に広がり、大きく開いた穴の先に、光り輝く核のようなものが見えてきた。
「為せば大抵……! なんとかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁる!」
兎角が叫びながら急降下する。
友奈がありったけの力を込めて右拳を突き出し、核に命中させると、更に上から兎角の強烈な蹴りが炸裂し、核を貫通した。
これにより核が粉々に砕け散り、同時に巨大な御霊も、虹色の粒子となって、地上に降り注ぐ事なくその場で消滅していった。
「……や、やったよ!」
「俺達の、勝ち、だ……」
虹色の光の中で、花が散ったように光が弾けて、元の姿に戻る2人。極度の疲労により、2人はそれ以上言葉を交わす事なく、体重に身を任せて、落下していく。
そんな2人を受け止めるように待ち構えていたのは、ようやく目を覚ました東郷を含めた6人だった。昴以外の面々は、満開の効力が切れて元の姿に戻っており、決して万全とまではいかないが、一同は昴の所に集って、2人をそっと受け止めた。
「みんな……!」
「友奈ちゃん、兎角君。お疲れ様」
「やったな……! あたしらの勝ちだ……!」
「ゆーゆもとっくんも、カッコよかったよ〜」
「……ハハ。おいしいとこだけ取ってった感じだけどな」
「まぁそうだな。……で、大丈夫なのか? 辛そうに見えるが」
「体が、思うように動かなくてな……。まるで全体に重しをつけられてるみたいだ……。精霊降ろしを使うと、真琴が言ってたみたいに、相当体に来るんだな」
切り札を使った反動なのだろう。兎角は首を動かすだけが精一杯のようだ。
そしてもう一つ。彼らには別の問題が浮上していた。
「さて、と……。ここからどうやって戻るか、だな。今のままだと大気圏に入る時の摩擦熱で体が燃える」
「さすがに根性だけで乗り切れるか、分からないよな……」
巧と銀がそう呟いていると、昴が口を開いた。
「僕に、任せてください。残った最後の力を、全員を包むように維持して、そのまま大気圏に突入します。とはいえ、どこまで保つのかは、僕にも分かりません……」
「一か八かの賭け、か」
唸る遊月だが、それ以外に妙案は思いつかない。そこへ友奈が皆を元気づけるように声をかけた。
「大丈夫、だよ。神樹様が、守ってくださるよ」
「……そうね」
「あぁ」
そうして、足場である亀の甲羅は、アザレアの花となり、8人を包むようにその花は蕾となる。
外からは、轟音が鳴り響き、彼らを覆っている花全体が激しく揺れている。今頃、摩擦熱によって生じた炎に包まれているのだろう。まるで宇宙飛行士が地球に帰還する時のような感覚だ。
8人は不安を払拭するように体を寄せ合う。
「(もしダメでも、遊月君達と一緒なら、怖くない)」
「(神樹様。8人とも、無事に帰らせてください)」
「(お願いします……!)」
「樹! あそこッス!」
「……!」
いち早く、隕石のように落下してくる蕾を発見した冬弥が指をさし、樹はワイヤーを操作して、網状のネットを張り始める。
地上で封印に徹していた3人は、獅子型の胴体が消滅したのを目撃して、友奈達が御霊の破壊に成功した事を悟り、歓喜していたのだが、頭上から落ちてくる蕾を見て、再び現場は緊張感に包まれた。アザレアの蕾である事から、あの中には昴を含めた面々がいるに違いない。
直ちに彼らの着陸を援護するべく、依然として満開状態の樹が、落下の勢いを殺すべく、網状のワイヤーを張り巡らせた。が、蕾の落下速度は予想以上に早く、引っかかってもすぐに千切れてしまい、勢いは止まらない。
「もの凄い、衝撃です……!」
「もしこのまま落ちてきたら、中にいるあいつらは……!」
夏凜と、ある程度動けるようになって合流した真琴が、迫り来る蕾を前に声を震わせる。そんな中でも、樹は冷静に、力強く言い放つ。
「絶対に、助けます……!」
ただ闇雲に張っているだけでは止まらないと悟った樹は、千切れたワイヤーを操って蕾に絡める。こうすれば真正面からの衝撃を気にせず、引っ張る事で勢いが止まる。
そしてワイヤーが何重にも絡まったところで、ようやく勢いが衰え、地表ギリギリの所で完全に停止した。摩擦熱も収まり、アザレアの花がゆっくりと開花する。
「ナイス根性! 凄いわよ樹! 見て! あんたが止めたのよ⁉︎」
これには、普段人を褒めるような事のない夏凜も、樹に激励の言葉をかけた。ファインプレーを見せた樹は、力が抜けたのか、フラついて後ろに倒れかけるが、すかさず冬弥が支えた。
「夏凜さん、真琴さん。行ってあげてください」
「樹はおいらに任せるッス」
「分かったわ! 真琴も動ける⁉︎」
「す、少しぐらいは……」
そうして夏凜は、まだ満足に動けない真琴に肩を貸しながら、アザレアの花の所に向かった。
2人の背中を見送りながら、下級生組も満開が解けて、元の姿に戻る。
「お姉、ちゃん……。私、頑張った、よ……」
「へへッ……。兄貴の役に、少しは、立てたッスかね……」
「私も……。サプリ、キメとけば、良かった……か、な」
そう呟いたのを最後に、2人は意識を手放して、地面に並んで横たわった。
「銀、みんなぁ……!」
「皆さん、ご無事、ですか……!」
2人が声をかける。が、花の中で8人全員が目を閉じたままなのを見て、不安が募り始める。
「ねぇちょっと……! 銀! 友奈! 東郷! 園子! 兎角! 遊月! 巧! 昴! しっかりしろよ……!」
夏凜が口調を荒げても、返事は返ってこない。まさか、間に合わなかったのか……。真琴の足が震え始める。
「……おい。なぁ……! 起きろ、よぉ……!」
遂には目尻に涙を浮かべる夏凜。もう少しで零れ落ちようとしたその時、咳き込む音と共に、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「だ、大丈夫、だぞ。夏凜」
「! 銀……!」
ハッと顔を上げると、顔だけをこちらに向けて目線を合わせている、8人の姿が。
無事が確認されてのはこの8人だけではなかった。
「……はぁい。なんとか、生きてまーす……」
「右に、同じく……」
「こっちも、ッス……」
後方からは、咳き込む樹を含めた4人が、生存報告とばかりに声をかけた。
それを見て、2人は同時に涙を拭いた。夏凜に至ってはゴシゴシとみんなに泣いていた事を悟られないように隠滅を図ろうとしていた。
「良かった、です……!」
「な、何なのよみんな……! もう……! 早く、返事しろよぉ……!」
そう呟いた直後、全体が花びらに包まれ始めた。樹海化が解けようとしており、それは同時に、人類を脅かす敵との決戦に勝利した事の証でもある。
気がつけば、夏凜達の視線の先には、海が広がっていた。例の如く、屋上からの光景がそこにある。周りには、夏凜と真琴以外の面々がコンクリートの地面に横たわっており、東郷は車椅子にグッタリとなっている。
「いやぁ……。美人薄命だから、あたし危なかったけど、セーフ……」
何を言ってるんだ、と普段ならツッコみたくなる夏凜だったが、今現在犬神に頬を舐められている風の無事が確認された事で、そこまで気が回らなかったようだ。
すると、真琴が夏凜の方に向かって倒れこむように、体を預けてきた。
「うわっ⁉︎ 真琴⁉︎」
「ご、ゴメンね、夏凜ちゃん……。ホッとしたら、なんだか、力が抜けちゃって……。……でも、夏凜ちゃんもみんなも、無事で、良かったね……。みんな、僕よりもずっと、凄くて……。凄く、憧れるなぁ……」
「……何言ってんのよ。あんただって、負けないぐらい頑張ってたじゃない。ちょっとは、見直したわ」
「えへへ……。夏凜ちゃんが、褒めてくれるなんて、嬉しいなぁ……」
夏凜に抱き抱えられながら、弱々しくも微笑む真琴。
と、そこへ夏凜が持つスマホから着信音が。相手は大赦からだった。神託の事もあり、樹海化の反応をキャッチして、メールでのやり取りではなく、直接電話をかけてきたようだ。
夏凜は息を整えると、電話に出て報告を行う。
「三好 夏凜です! バーテックスと交戦。負傷者13名。至急、霊的医療班の手配を願います。……尚、今回の戦闘で、12体バーテックスは全て殲滅しました! ……私達、讃州中学勇者部一同が!」
そう高らかに、特に最後の部分を、声を張り上げて報告する勇者の顔は、今まで以上に達成感と誇りに満ちたものを感じさせる表情だった。
切り札を行使し、辛くも勝利を収めた勇者部一同。
……これが、その先に待ち受ける悲劇の序章である事を、彼らはまだ、知る由も無い。
〜次回予告〜
「かんぱーい!」
「おそろだよ〜」
「ちゃんとお別れしたかったな……」
「超カッコいいッスよ!」
「この胸騒ぎは……」
「満開の後遺症とか……」
「何が、起きてるんだ……?」
〜機能の欠陥〜