結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。

今回の投稿で、今年度の『結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜』はラストとなります。

皆さんは『平成ジェネレーションズforever』は観ましたか? まさかのあの人のサプライズ出演は神がかってました! 前作も凄かったけど、今回もそれに負けないぐらい熱気に満ちてました!


19:機能の欠陥

『昨日の、工事中の高架道路が落下した事故の続報です。事故現場周辺で発生した大規模な火災は今日未明に消し止められ、奇跡的に被害者はいませんでした。事故の原因については、現在も調査中で……』

 

「さすがに被害ゼロ、とまではいかないか」

「死人が出なかっただけ、まだマシでしょう」

 

広めの部屋に取り付けられたテレビから流れるニュースに釘付けになりながら、藤四郎と巧がそう語る。巧の側には松葉杖が立てかけられている。

バーテックスとの大規模な戦闘後、勇者部一同は、検査の為に大赦直属の病院で入院する事となり、ようやく解放されたメンバーは、談話室で皆が集まるのを待っていた。

一足先に夏凜が検査を終え、それに続いて風、藤四郎、巧が集った。それから数分すると、5人の人影が。友奈と兎角、園子、昴、そして銀だった。

 

「おっ、友奈達ね。診察終わったのね」

「はい! きっちりバッチリ血を抜き取られ……て、風先輩、それどうしたんですか?」

「怪我でもしたのか?」

 

友奈と銀が指摘したのは、風の左目に付けられている眼帯だった。2人が指をさすのを待ってたとばかりに、風は立ち上がって不敵な笑みを浮かべる。

 

「フッフッフ……。この目が気になるか。これは先の暗黒戦争で魔王と戦った際に」

「左目の視力が落ちてるんだって」

「ってちょっと夏凜! せっかく魔王との戦いで名誉の傷を負ったっていうニヒルな設定で語ってるのに!」

「あの戦いの目撃者は勇者部員全員だぞ? 今更その世界観作りは無理があるだろ」

「ウゥ……。藤四郎にはマジレスされてるし……」

「どうどう〜」

 

園子が肩を落としている風を慰めに入る。そのやり取りから目を離した巧は、不意にある事に気付いた。

 

「って、兎角それは……」

「戦いが終わってから、体の節々が痛くてな〜。大事をとって東郷みたいに車椅子で対応してるんだ。多分精霊降ろしの反動だろうって」

「体の中に直接精霊を取り込んで、パワーを底上げするのですから、それ相応の負荷がかかるのでしょうね」

「まさに切り札感満載だな」

 

昴と銀がそう評価していると、友奈が不安げな声をあげる。

 

「でも、どうしてこんなにも負傷者が……。バーテックスから何かされたとか?」

「兎角は別として、あたし達の場合は戦いの疲労によるものだろうって。勇者や武神になると、凄く体力を消耗するらしいから。この左目も療養したら治るってさ」

「そうなんですか」

「まぁ一気に7体も倒せば、それなりに疲れるのは当たり前だからな」

 

安堵の表情を浮かべる友奈。と、そこへ検査を終えた残りの面々が姿を見せた。

 

「お、お待たせしました」

「私達も検査終わりました」

「あ、みんな!」

「あぁお帰り」

「樹〜、注射されて泣かなかった?」

 

風が意地悪く妹に質問をする。が、どういうわけか樹は恥ずかしげに首を横に振るだけで、言葉を発する事はなかった。

 

「? どうしたの?」

「それが、樹は今、声が出ないみたいなんスよ」

「勇者システムの長時間使用による疲労が原因で、すぐに治るだろうとの事です」

「あたしの目と同じね……」

「俺の右足もだな。極度の疲労が原因で、松葉杖がないとまともに歩けなくなっている」

「えっ、そうなの?」

「夏凜ちゃんは、どこかおかしな所ってないの?」

「! いや、私は、特に……」

 

そう呟く夏凜の表情は、どことなく暗い。そんな空気を払拭するように、友奈と兎角が口を開いた。

 

「えっと……。すぐに治るなら大丈夫だよね! お医者さんもそう言ってるんだし!」

「まぁ、そうだな。一先ずは療養に専念するのが1番だと思う」

「そうそう! 私達、バーテックスを全部やっつけたんだよ! お祝いしないと!」

 

そう言って友奈は、兎角の乗る車椅子の後方にあるカゴの中から、多量のお菓子や飲料水を取り出して、テーブルの上に並べた。どうやら談話室に戻る途中で、売店で購入してきたようだ。

 

「随分たくさんね」

「お祝いは豪勢にやらないと!」

「それに勇者部は大食らいが多いからな。これでも足りない気がするぐらいだ」

「な、何で一斉にあたしの方を見るのよ⁉︎」

「そりゃあ普段の行いを見てれば自ずと……」

「はい、藤四郎先輩の大好物の、チュッパチャプスもこ〜んなにたくさん!」

「お、気が利くな」

 

我先にと、大好物であるチュッパチャプスのストロベリー味を手に取る藤四郎。

そうして全員に缶ジュースが行き渡るように配り始める一同だが、ここで夏凜が、真琴の手を見てある事に気づく。

 

「あれ? 真琴、あんた右利きじゃなかったの? 何でわざわざ左手で?」

「あ、これはですね。検査してもらった結果、右手の握力が疲労の影響で低下しているみたいで、しばらくは左手しか使えないみたいなんです」

「真琴もそうなのか」

「兄貴?」

「俺の場合は左手だが、理由は真琴と同じだ。元々右利きだから、支障はそれほどないが……」

「2人にも似たような症状が……」

 

訝しむ一同だったが、気を取り直して、準備を再開する。そうして全員の手に飲み物が行き届いたところで、友奈が風に声をかけた。

 

「では、勇者部部長から、乾杯の一言を!」

「えぇ、あたし⁉︎ えぇっと……! ほ、本日はお日柄もよく……!」

「マジメか⁉︎」

「というより、お日柄は良くなさそうですよ」

 

夏凜のツッコミが炸裂し、遊月は窓の外に広がる曇天に目をやる。

 

「ま、まぁ堅苦しいのは抜きで!」

「それもそうね。それじゃあ、みんなよくやった! 勇者部大勝利を祝って、かんぱーい!」

『かんぱーい!』

 

一斉に缶ジュースを掲げて、フタを開けると全員が一口つけた。

 

「「……?」」

 

この時、友奈と銀が一瞬だけ戸惑いの表情を浮かべ、すぐに元に戻した。その様子を、その場にいる何人かは見逃さなかった。

 

「おっと、そうだ。忘れないうちに、お前らに渡しておきたいものがある」

 

藤四郎が側に置いてあった段ボールから、各々にある物を手渡した。それは、同じ機種のスマホで、それぞれ名前が付箋で貼られている。

 

「これって……?」

「新しい携帯だ。前まで使っていたものは大赦によって、この病院で回収されたからな。メンテナンス等で戻ってくるまでに時間がかかるらしい。これはその代用品だ」

「おぉ、新品だ!」

「確かに、無いと不便だからな」

「……あのアプリ、ダウンロードできなくなってますね」

「あ、本当ッス!」

「あのSNSアプリはもう使えなくなってると聞いている。勇者や武神専用のものだからな」

「そうね。あたし達の戦いは、もう終わったんだし」

「確かに、12体全部倒したとなれば、もう変身する必要はないからな」

「まぁSNSアプリは他にもある。そっちに登録すれば、これまで通りに連絡は可能だ」

 

と、ここで兎角がある事に気づいた。

 

「……あの、因幡はもう、いないんですか?」

「あ〜。セバスチャン達がいないね〜」

「そうだな。あのアプリがない以上、精霊を呼び出す事は出来なくなっている」

「そうですか。ちゃんとお別れしたかったな……」

 

残念そうにそう呟く友奈。夏凜も似たような表情を浮かべてはいるが、何か違う悩みを抱えているように、真琴は直感的に感じ取った。

 

「まぁ落ち込むのは分かるが、一先ず祝勝会の方を続けるか。ほら、お菓子の袋を開けて、みんなで食べようぜ」

「それもそうね」

「わぁ〜! 開けたら良い匂いしてきたね!」

「えっ? 匂いッスか? そんなにキツくなさそうッスけど?」

「えっ? 冬弥君、このチーズの匂いが分からないの?」

「変ッスねぇ……。何度嗅いでも無臭ッスよ」

「あれ〜? 私も臭わないよ〜?」

「園子ちゃんも?」

「これも疲労が関係してるのかも〜。それはそれでショックだよ〜。すばるんが作る美味しいご飯の匂いがしばらく分からなくなるなんて、地獄だよ〜……!」

「お、落ち着いて園子ちゃん」

「(冬弥と園子の嗅覚に異常が……。それって、俺と似てる症状だよな……。これって、単なる偶然か……?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一息ついたところで、一同は病室に戻る事に。その際、夏凜と真琴を除く2年生組は固まって行動を共にしていた。

 

「そうか。みんな退院はバラバラなのか」

「夏凜ちゃんは明日で退院出来るそうですが、大抵は明後日までかかるそうです。でも確か兎角君と遊月君と東郷さんは……」

「俺は精霊降ろしの件もあるし、精密検査で延長ってのは分かるけど、何で遊月と東郷もなんだ?」

 

車椅子に乗り、友奈に押してもらいながら、兎角は首を傾げる。

 

「私達2人とも、検査にもう少し長い時間がかかるって言われてるわ。私の場合は元々足が不自由だったから、その影響かもね」

「俺も記憶を無くしてる身だからな。それだけ慎重になるんだろうな」

「そっか……。一緒に退院できたら良かったのに」

「そだな」

 

理由は分からないが、それだけバックアップが丁重に行われている証拠でもあるのだ。

 

「……ねぇ、ゆーゆ。ミノさん」

 

それまで黙り込んでいた園子が口を開いたのは、病室まであと僅かといった地点だった。8人以外誰もいない廊下の中心で、右目の眼帯をつけた少女が、いつになく真剣な眼差しを、2人に向けた。

 

「な、何だよ園子」

「どうかしたの?」

「2人とも、体に不調な所、あるよね」

「「……!」」

 

指摘を受けた2人の表情が強張る。遊月と昴が目を見開く中、他の3人はやはりか、といった表情を見せた。

 

「やっぱりね〜。みもりんもとっくんも、それにたっくんも薄々気づいてたみたいだね〜」

「まぁ、な」

 

巧は小さく頷く。

 

「さっき、ジュースを飲んでた時に、友奈の様子が変だったのはすぐに分かったぜ。仮にも幼馴染みだからな。まさか銀も同じだったとは思わなかったけど」

「……アハハ。兎角も園ちゃんも鋭いなぁ」

「色々と敵わないな」

 

友奈は笑い、銀は肩を竦める。ここまで来れば、2人の体に何らかの異常が起きているのは明白だ。

 

「……話して」

 

東郷に促され、2人は先ほどの祝勝会で感じ取った違和感を、包み隠さず明かした。

 

「……味、感じなかったんだ。ジュース飲んでも、お菓子食べても」

「……そうか。銀も同じか?」

「あぁ。あたしもそんな所だ」

「味覚が麻痺してるんですね……。勇者システムの長時間使用でそこまで影響が出るなんて……」

 

困惑の表情を浮かべる昴。

 

「まぁ大丈夫だろ! 巧の右足とかと同じだって! こんなの一過性の風邪みたいなもんだと思えば、すぐに治るし!」

「銀ちゃんの言う通りだよ! だからみんな、そんなに気にしなくても平気だよ! でも、お菓子の味が分かんないなんて、人生の半分は損してるよね。そう思わない、兎角?」

「あ、あぁ……」

 

反応に遅れながらも、頷く兎角。その表情は病室に戻ってもしばらく戻らなかった。

そしてその日の夜。皆が寝静まりつつある中、東郷は家から持ち出してきたパソコンを借りて、やり残していた課題に取り掛かっていた。一区切りついたところで、休憩も兼ねてダウンロードしてある軍歌を聴いてリラックスする事に。

しばらくその音色に酔いしれていた東郷だったが、不意に違和感を感じた。その正体を確かめるべく、東郷は左耳のイヤホンを外して、右耳だけで音を確かめた。何ら問題はない。では、逆はどうだろうか。今度は右耳のイヤホンを外して、左耳に装着する。

途端に目を僅かながら見開き、しばらく呆然となる東郷。談話室や廊下での友奈達との会話を思い出した東郷は、イヤホンから流れる大音量の音楽には目も暮れず、違和感の片鱗を掴んだ事に眉をひそめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

検査入院を終えて退院した友奈は学業に復帰し、放課後に職員室での用事を済ませた後で、道中で合流した冬弥と共に、いつものように部室に訪れていた。廊下の外も蒸し暑さに包まれて、歩くのも段々と億劫になりつつある。

 

「こんにちはー! 結城 友奈、来ましたー!」

「おいっす!」

「おう、お疲れ様」

 

部室には、扇風機の前で風に当たっている風と銀。演劇の台本を読み返している園子と藤四郎。床に座って学校の備品の修理をしている巧と、それを手伝う昴と真琴。椅子に座ってリラックスしている樹など、入院している3人を除けば、部員はほぼ全員出揃っていた。

 

「あれ、風先輩? その眼帯って……」

「フフン。どうよこれ。園子が使ってるものを貸してもらったのよ」

「おそろだよ〜」

 

友奈が着目したのは、風の左目に付いている眼帯だった。病院の時と違って、黒色の眼帯をつけている。そのデザインは、今現在園子が右目に付けているものと同じものだったのだ。

 

「超カッコいいッスよ!」

「うんうん!」

「中々にイケてるでしょ?」

「……あれ? 冬弥君、友奈ちゃん。夏凜ちゃんは一緒じゃないんですか?」

 

ふと、真琴が作業を止めて、夏凜が来ていない事を口にする。友奈と冬弥も困惑した表情を浮かべる。

 

「えっ? 夏凜ちゃん、部室に来てないんですか?」

「てっきり先乗りしてるものかと思ったんスけど……」

「ムムッ。サボりか」

「でも、あれから1度も欠席なんてしてなかった夏凜ちゃんが、どうして……?」

 

彼女の誕生日会以降、何かと文句を垂れながらも、部室に遅れることなく来ていた夏凜がいない事に訝しむ一同。

 

「しょうがないわね。夏凜には後で罰として、腕立て伏せ1000回とかやらせよう」

「えぇっ⁉︎ 夏凜ちゃんが可哀想です……!」

「心配すんなって真琴。夏凜なら『それくらい朝飯前だぁ!』とか言って、サプリでも決めながらやりそうだろ?」

「あいつの場合、割とマジで出来そうだから、否定は出来んな……」

 

う〜む、と唸りながらチュッパチャプス(抹茶味)を噛み締める藤四郎。すると、樹が手元のスケッチブックに何かを書き込んで、皆に公開した。

 

『かりんさん、何か用事でもあったんでしょうか?』

「そうかもね」

「樹ちゃん、そのスケッチブックって……?」

「声が戻るまでの応急処置らしいぞ」

「そのうち治るから、それまでの辛抱ね」

『これで話せます。お姉ちゃんの提案です』

 

さすがは風先輩、と尊敬の意を示す友奈。一区切りついた所で、話題は勇者部活動の事へ。

 

「さてと。今日の活動の事なんだけど、これだけ人数がいても、大きなイベントは特にないのよね。衣装の事とかも話したいんだけど、東郷達と一緒に話し合って決めたいし……」

「衣装……?」

「覚えてないのか? お前発案の演劇で使う衣装の事だぞ」

「ハッ! そうでした……!」

「勇者としての活動が一大事だったから、忘れてたようだな」

「アハハ……」

 

苦笑いを浮かべる友奈。とはいえ夏凜もいない今、この場にいるメンバーだけでは決め兼ねないので、衣装の件は、兎角達の見舞いも兼ねて、改めて相談する事に。

 

「さて、そうなると他にやる事は……」

「他の部活からの依頼とかはないんスか?」

「そういえば、剣道部から助っ人を頼まれていたよな……。あれはどうなっている?」

「依頼メールで来たやつね。……っと、これは夏凜をご指名ね」

「夏凜がいないなら、その依頼は今日は無理そうですね」

「他には……。そうだ! ホームページの更新は?」

「そういえば、僕達が入院している間、ずっと更新が止まってましたよね」

「……あ、でも東郷さんと遊月君以外に、更新の仕方、分かる人っているかな?」

『……』

 

沈黙が続き、扇風機の回る音だけが室内に響き渡る。

無論この場にいる何人かは、パソコンの操作自体は不得意ではない者もいるが、更新の仕方となれば、専門外だ。改めて、入院している2人にどれだけ助けられていたのかを痛感する10人。

 

「……ま、まぁ仔猫の飼い主になるという連絡は来ていないから、まだ問題はなさそうだけどな」

『できる仕事、ないね』

「だな」

「よぉし! ダラダラしよう!」

「唐突だな」

「でも、それが良いですねぇ〜」

 

樹も無言で同意し、結果として、その日は部室でグッタリしながら時間を過ごす事となった。

皆が机に伏せて、暑さに耐え凌ぐ中、巧だけは依然として道具の整備を続けており、汗を流しながら、黙々と手を動かしていた。

 

「急に暑くなりましたよね……」

「もう夏休み前だしね〜」

『とけてドロドロになりそう』

「いっつんのいう通りだよ〜。これじゃあおちおち眠れないよ〜」

「お前は四六時中ずっと寝てる方が多いだろ」

「暑いッス……。ただただ暑いッス……」

「人数が欠けてると、色々とやる気が出ませんね……」

「……足りない」

「?」

「何かが、足りない……」

 

不意に風が、何かを求めるように立ち上がって腕を伸ばした。

 

「そうだぁ! 東郷のお菓子が足りなぁい!」

『まず食べものなの⁉︎』

 

スケッチブックを片手に持ってそうツッコむ樹。他の面々も同じ心情だったが、あまりの暑さに口を開く余裕すらない。

そんな中、風の言葉を聞いて、友奈は自分の身に起きている症状を思い返した。

 

「(東郷さんのお菓子、今は味が分からないんだよね……。銀ちゃんと一緒に、早く治らないかな……?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方。夏凜を除く2年一同は、3人の同級生の見舞いの為に、病院を訪れていた。

別室の兎角と遊月を連れて、一同は東郷が入院している部屋へ訪れた。

 

「あら、友奈ちゃん。みんなも」

「お邪魔しまーす!」

「見舞いに来たよ!」

「? 何か調べ物の途中でしたか?」

 

昴が入ってすぐに、東郷の手元に置かれたパソコンに着目する。

 

「え、えぇ」

「何なに? 何を調べてたの?」

「別に、大した事じゃないから……」

「良いじゃんかよ、教えてくれてもさー」

 

などと銀からせがまれた結果、パソコンを閉じようとしていた東郷はすかさず口を走らせた。

 

「調べてたのは、私達が暮らすこの国の特殊性及び正しい在り方を神世紀以前からの国家に比較考察して現在の護国現想の源流をヤマト神話との関連性に求める事の意義そして私達が今後担う時代の在り方を」

「はいごめんなさいあたしがわるぅございました……」

 

意気揚々とマシンガントークを始めた東郷に対し、手のひらを返すように謝る銀。隣にいた友奈はショート寸前だった。今のは銀が悪い、と結論づける巧は、肩を竦めた。

 

「それより、来てくれてありがとな」

「3人とお話したかったからね。兎角達がいないと、学校の楽しさが当社比3割減だよ」

「うふふ。随分減っちゃうのね」

「それにね、夏凜ちゃんも部活に来てないから、更に5割減だよ」

「それは色々と甚大だな……」

 

遊月は苦笑しながら全員が座れるように、備え付けの椅子を並べる。

それから話題は、部活動に関する事項へ。

 

「それでね、今度パソコンの使い方を教えて欲しいの。いつも東郷さんや遊月君に頼ってばかりだったから、更新が出来なくて……」

「それなら、入門書が家に置いてあるから、お母さんに頼んで、持ってきてもらうわ。それを見せながら教えてあげる」

「ありがとう東郷さん!」

「済まないな。療養中なのに迷惑かけて」

「気にすんなって」

「あ、そういえば、演劇の衣装の事で相談があるんですけど、園子ちゃん、台本を出してくれますか?」

「は〜い。この配役に使うリボンなんだけど〜」

 

そう言って園子がカバンから取り出した、劇の台本を広げた際、同時に首を傾げる者が2人いた。

 

「え、演劇?」

「なぁ、それって何だ? 児童クラブでやる人形劇の新作か?」

「えっ? 兎角君、遊月君?」

「そんな不思議がる事じゃないだろう。秋の文化祭の出し物のやつだ」

「文化祭って、そんなのいつ決めたんだよ?」

「えぇ⁉︎ 兎角、覚えてないの? 夏凜ちゃんの誕生日の時だよ!」

 

兎角のこの発言には、発案者である友奈も酷く慌てた。

 

「夏凜ちゃんの誕生日の日に、児童クラブでやる予定だった企画が、本人が来なかった事で、代わりに夏凜ちゃんの家で行った際に、友奈ちゃんがカレンダーに書き込みながら、まだ候補にも挙がってなかった演劇の事を口にして、それがそのまま風先輩の判断で採用されたんですよ?」

「いや待てまて。そもそも、夏凜の誕生日っていつだよ?」

「6月12日ですよ⁉︎ それも覚えてないんですか?」

「いや、全然……。っていうか、今思い返すと、その頃の記憶が曖昧というか、すっぽり抜けてるっていうか……」

「確かに、な。俺も、全然その頃が思い出せないんだ……。1年前までの記憶しかないのは確かだけど、また記憶が飛んでるって事なのか?」

 

遊月が、自身の手のひらを呆然と見つめながらそう呟く。

ここに来て判明した、兎角と遊月に起きていた不調。他の面々は体の機能の一部に障害があるのは外見的に分かる者もいれば、友奈や銀のように、本人の口から教えてくれた事で分かった者もいたが、この2人の武神も例外ではなかったようだ。

 

「あれ? でも東郷さんは? 東郷さん、特におかしな様子はなさそうだけど……」

「ううん、友奈ちゃん。私も、左耳が聞こえなくなってるの。イヤホンで音楽を聴いている時に気づいたの」

「東郷は左耳が、か……」

 

唸るように呟く巧。この場にいる全員が、何かしらの症状にあっている事に、違和感を感じているようだ。空気が重たくなる中、友奈の人一倍元気な声がそれをかき消した。

 

「大丈夫! すぐ治るよ! 目一杯戦ったんだし!」

「……そう、だな。体が悲鳴をあげているだけなのかもしれない。あまり気に病むと、かえって悪影響だったりするし」

「病は気から、でしたっけ」

 

兎角も、皆を納得させるようにそう呟く。

やがて日が暮れ始めているのを見て、友奈達は帰宅準備を始めた。この日は、昴の使用人が運転する車で全員が送り迎えをしてもらっているのだ。

それじゃあまた明日、と言って病室を後にする友奈達。

 

「さてと。じゃあ俺もぼちぼち戻るか。遊月はどうする?」

「あ、俺はもう少し東郷と話してるから、先に戻ってていいぞ」

「あまり遅くなるなよ」

 

そうして兎角だけが、先に病室に戻る事に。扉が閉められた後、足音が遠ざかっていくのを確認してから、遊月と東郷は向かい合った。その表情は、友奈達がいた時と打って変わって険しさが伺える。

 

「……もしかしてとは思っていたけど、やっぱり遊月君も」

「正直、友奈達に言われるまで、自分でも気づかなかった。断片的にではあるが、『記憶を失くしている』なんて」

 

自身の頭を軽く押さえてそう呟く遊月。

 

「おまけに兎角も同じ症状だったなんてな」

「ともあれ、これで仮説も立証されたわね。今回新たに問題点が見つかった遊月君と兎角君を含めれば、今の私達に降りかかっているものは……」

 

と、その時だった。扉がなんの前触れもなく開いて、外から猫のような枕が顔を覗かせたのは。

 

『グッドイブニング〜』

「……園子ちゃん?」

「何してんだ?」

「えへへ〜。ちょっとね〜」

 

すでに帰った後だと思われていた園子が、サンチョを抱き抱えて入室してきた。友奈達には、『忘れ物をした』と誤魔化して、こちらに戻って来たようだ。

 

「どうかしたのか?」

「うん〜。聞いてみたい事があるっていうか〜……。みもりんもゆづぽんも、もうとっくに気づいてるんじゃないのかな〜? ……満開の、後遺症の事」

「「……」」

 

僅かに表情を強張らせる2人を見て、園子も確証を得たようだ。

 

「やっぱりね〜。2人ならきっと気づいてると思ったよ〜。私達がここに来る前から、ずっと調べてたんでしょ〜?」

「……どうして、分かったの?」

 

東郷の質問に対し、園子が指さした先には、閉じかけてあるパソコンが。

 

「そのパソコン、あのミノさんやゆーゆに、頑なに見せようとしないのが気になったの〜。それって、私達を不安にさせたくないような情報が、記録されているからなんだよね〜」

「……ハァ。やっぱ、園子には色々と敵わないな。東郷、園子になら見せてやってもいいんじゃないか?」

「そうね。新しい視点で意見を貰えるかもしれないから」

 

そう言って東郷はパソコンを開いて、そこに写っている画面を園子にも見えるように動かした。

エクセルの画面に写し出されているのは、『症状の経過/進行』という表題から始まる図だった。勇者部員の名前の横に、各々が抱えている異常箇所を書き出して、日付毎に回復の兆しの有無が記されている。

 

「ここに、たった今判明した、遊月君と兎角君の症状も書き加えると……」

 

パソコンを操作して、2人の異常箇所を『不明』から『記憶障害(一部)』と直した。症状が発覚したのは今日だが、他の面々が入院してすぐに判明している為、恐らく同時期に発症したものと考えられる。因みに夏凜の欄だけは、本人との確認が取れていない事もあって、『不明』のままとされている。

 

「こうしてみると、夏凜ちゃん以外の全員が、何かしらの症状を受けている……。その決定的な違いは、恐らく……」

「確証があるわけじゃないけどな。夏凜だって友奈や銀みたいに黙っている可能性も否定できない」

「でも、これを見る限り、ほぼ間違いないよね〜。にぼっしー以外の全員が、あの戦いで満開を使ってパァ〜っとなってるんだよ〜」

「けど、満開の後遺症だなんて、そんな話、先輩達からは何も聞かされていないぞ?」

「そうね……。2人は、大赦から何か聞いてないのかしら……? 満開の後遺症とか……」

 

確実な情報の少なさ故に、頭を悩ませる3人だったが、外から5時を知らせる音楽が流れて来たのを聞いて、園子はハッとなって顔を上げた。

 

「おっとっと。そろそろみんなの所に戻らないと〜。ふーみん先輩達には、私から聞いてみるよ〜。その方が色々と都合が良いでしょ〜?」

「そうね。それじゃあお願いするわ」

「頼んだぞ」

「お任せあれ〜」

 

そう告げて、今度こそ園子は病室を後にする。

話す事もなくなり、遊月も東郷の病室を後にした。まだ夕日が僅かに窓の外から差し込んでいる。その夕日に照らされながら、遊月はじわじわと頭の奥から頭痛が起き始めている事に顔をしかめながら、誰ともなしに呆然と呟く。

 

「何が、起きてるんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「満開の、後遺症……?」

「何だ、それは?」

「……やっぱり、ふーみん先輩もトッシー先輩も知らなかったんだね〜」

 

翌日の放課後。3年生の教室が並ぶ階に訪れた園子は、2人を見つけると、周りに気づかれないように確認を取った。大赦と連絡を取り合っていた2人なら何か聞いているのではないかと思われたが、この2人も何ら情報を握っていなかったようだ。

そこで園子は、場所を人目につかない屋上に移してから、東郷と遊月と共に調べた範囲で分かっている事を全て話した。話を聞いた2人は、当然ながら驚きを隠せない。

 

「……つまり、友奈と銀は味覚が、東郷は左耳が、そして兎角と遊月は記憶の一部が失われている、という事か」

「満開を使った人は、全員そうなってるんよ〜。にぼっしーにはまだ聞いてないけど、多分大丈夫だと思うよ〜」

「あの子達……。言ってくれれば良かったのに……」

「仕方ないよ〜……。きっと、みんなに心配かけたくなかったんよ〜。みんな優しいからね〜。それに、とっくんとゆづぽんの件は昨日明らかになったんだから〜」

 

なるほど、と納得する藤四郎。確かに彼らの性格なら内緒にしている可能性も否定できない。らしいと言えばらしいが、それはそれで負担になるだけなのに、と心の中でボヤいた。

 

「……ねぇ、藤四郎。本当に大赦からは何か聞いてないの?」

「いや、俺は何も……」

「じゃあ、大赦もこの事は知らなかったのかしら……」

「さぁ、な……。色々と済まないな。こんな事になるなら、早くその事を確認しておくべきだった。こればっかりは俺の責任だ」

「そ、そんな事ないわよ……! あたしだって、お役目絡みだと藤四郎に頼りっぱなしだったし……」

 

珍しく落ち込んだ様子の2人を慰めるように、園子が口を挟んだ。

 

「先輩達が悪いわけじゃないよ〜。まだ体の異常が満開と関係してるとは限らないんだから〜」

「……そう、ね。病院の先生だって、きっと治るって言ってたんだし」

「ともかく、俺の方から改めて大赦に確認を取ってみる。それまでは返答待ちだな。症状の事で何かあったら、すぐに俺に連絡してくれ」

「了解〜!」

 

そうして次の授業に出る為、園子は屋上を後にした。

残された2人も戻ろうとするが、園子から聞かされた話が、依然として脳内にこびりつく。

 

「満開の後遺症って……! 何よ、それ……」

「……何だろうな、この胸騒ぎは」

 

言いようのない不安が、徐々に2人を内側から蝕んでいく……。

 

 




園子だったら絶対、満開の後遺症に不信感を募らせるだろうなと思い、このような展開にしました。

来年度も、変わらぬご愛顧をよろしくお願いいたします。


〜次回予告〜


「最近見てないですね……」

「あいつはもう、俺達の仲間だ」

「意味は……あると思うよ」

「静まれ、私の右手!」

「時の流れは早いって事よ」

「全部やってみるか!」


〜私の存在理由〜
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