結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
『仮面ライダー斬月』が舞台化で再び登場するなんて、誰が予測出来ましたか? それだけみんなから愛されていたんだなぁ……。
「(戦い、終わっちゃった……)」
夕焼けに染まる空を、有明浜の海沿いにて仰向けに倒れこみながら見上げている夏凜。
検査入院を終えて以降、彼女は部室に立ち寄る事なく、いつものように2本の木刀を振り回して鍛錬に励んでいた。しかしその表情は優れない。バーテックスを殲滅できたのは喜ばしいが、その後の事は何一つ考えていなかった事もあって、今後に対する不安が積もりつつあるのだ。
「(私、これからどうすれば良いんだろ……)」
と、その時。夏凜はポケットにしまってあったスマホに着信が来ている事に気付いて、手にとってみた。また友奈からか、と思ったが、今回は風からだった。
風:『バーテックスとの戦いの後、体におかしなところない?』
夏凜:『ないわよ、何かあったの?』
風:『満開を起こした人は、身体のどこかがおかしくなってる』
この文言を見た途端、夏凜は血の気が引くような感覚を覚えた。
「それって、私以外全員……! 真琴も、みんなも……!」
風からのメッセージによって知った、満開使用後の、勇者達の機能の欠陥。それは幼馴染み達の安否に対する心配と同時に、一つの事実が劣等感として胸の奥に突き刺さっていく。
「……私だけ、傷を負ってない。これじゃ、役に立ってないみたいじゃない……! 私は、戦う為にここに来たのに……!」
その頃、兎角達が入院している病室には、友奈ら2年生組の姿が。学校に復学してからもほぼ毎日のように見舞いに来ているのだが、この日はホームページの更新の仕方を教えてもらうべく、テキストを参照しながら勉強に励んでいた。
そうこうしているうちに時間は過ぎていき、気がつけば夕日が地平線に沈もうとしていた。
「っと、そろそろ帰らないとな」
「面会時間ギリギリですね」
そうして身支度を始める友奈達。そんな彼女達を余所に、ベッドの上の東郷がこんな一言を。
「『津の国の 難波の春は 夢なれや 葦の枯葉に 風渡るなり』」
「……?」
「春が来たと思ったら、もう枯葉ばかりになっている。時の流れは早いって事よ」
「なるほど」
納得したように頷く昴。一方で未だにその意味を理解できていない友奈は、呑気そうに呟く。
「東郷さん達と話してると、時間はあっという間だよ」
「そうだな。明日も来るのか?」
「うん!」
「HTMLの本、貸してくれてありがとうございます」
「じゃあね〜」
そうして友奈達は東郷のいる病室を後にする。道中までは兎角も自室に戻る為に同行した。体も9割ほど回復した為、現在は車椅子を使う事なく移動しているのだ。
その一方で、遊月は東郷のいる病室に居残る事に。その理由は、東郷が開いているパソコンの画面にあった。
「……今日も、回復の兆しはないみたいね」
「これで1週間……。悪くもならなければ、良くなる傾向もない、と」
園子にも協力してもらい、東郷と遊月で各自の症状の経過や進行を記録しているが、ここ1週間は全くと言っていいほど横ばいなのだ。
「けど、夏凜だけは依然として分からずじまい、か」
「友奈ちゃん達の話じゃ、夏凜ちゃん、あれからずっと部室に顔を見せてないって聞いてるわ。これじゃあ聞き込みも難しいわね」
「もしかして……」
「えっ?」
「夏凜の事だ。戦いが終わって、これからどうするべきか、どこに向かっていけばいいのか、舵取りが分からなくなっているんじゃないか? ……存在理由が、自分の中でも整理がつかなくなっているのかもしれない」
翌日の部室には、パソコンの前に向き合って座っている友奈と銀、昴の姿があった。友奈と銀はやや苦戦しつつも、昴にサポートしてもらいながら、一通りは使いこなせるようになったようだ。その他にも、風と藤四郎は委員会に提出する、学期ごとの活動報告書を書き出していたり、樹と冬弥、真琴は夏休みに入ってすぐに行われる、子供会でのイベントの企画を相談していたり、巧は例の如く依頼を受けて、扇風機の修理を行っていたり、園子は鼻提灯を膨らませながら夢の中にいたりと、いつもとよく似た光景が広がっていた。
ただ一つ、大赦から派遣された少女の不在を除いて。
「やっぱり、全員揃ってないと調子出ませんね」
『かりんさん、ずっと来てないですね』
「そういえば、もう1週間近く経つのか。あいつが部室に来なくなって」
「最近見てないですね……」
「SNSにも返信がなくて……」
「あいつ、授業が終わったらササッと帰っちゃうんだよな」
「そっか……」
「何か悩んでるんスかね?」
頭を悩ませる一同だったが、不意に真琴が立ち上がった。
「ぼ、僕! 夏凜ちゃんを、探してきます!」
「うん! 私も手伝うよ!」
「私もいっくよ〜」
それまで寝ていたはずの園子も、大きな欠伸をしながら手を挙げた。その結果、2年生一同は夏凜に会いに行く為に部室を後にして、夏凜が住むマンションに立ち寄った。
インターホンを鳴らしてみたが、奥からは足跡らしきものは聞こえてこない。ドアノブに手をかけても、鍵がかけられており、入る事も出来ない。どうやら当の本人は外に出ているようだ。
「いないのかな……?」
「参ったなぁ……。どーする、巧?」
「手間はかかるが、探す事に変わりはない。あいつはもう、俺達の仲間だ」
「巧君……!」
「うん!」
巧の言葉に、真琴は感涙し、友奈は力強く頷く。そうして先ずは、右足の不自由な巧を除く面々で、手分けして近辺を筆頭に走り回りながら捜索したが、一向に見つかる気配がない。時間だけが過ぎていき、気がつけば捜索開始から1時間ほどが経過しようとしていた。
道中で友奈、銀、真琴が合流を果たし、互いに経過を報告する。
「神社にも、商店街にもいないんですね……」
「う〜ん……。夏凜ちゃんって、普段どこにいるんだろう……?」
「それらしい場所には行ってみたんですけど、どこにもいませんでした……」
「普段いる場所……」
友奈の呟きを復唱する銀。不意にアッといった表情に切り替わるまで、さほど時間はかからなかった。
「そうだ……! まだ行ってない所が一つあるぞ……!」
「セェイ! ハァッ!」
夕日が綺麗に見える有明浜にて、一心不乱に汗を流しながら、木刀を振り続ける夏凜の姿が。この日も何事も起きぬまま、いつかこの街を去る日が来る事に不安を重ねる1日が過ぎると思っていた。
「夏凜ちゃーん!」
「おーい!」
「やっぱここにいたんだな!」
遠くから、3人の少年少女が手を振りながら駆け寄って来るのを目撃するまでは。
「! 真琴、銀、友奈……」
「やっと見つけたよー! って、オゥッ⁉︎」
「うわっ!」
「ワァッ⁉︎」
「ちょっ、あんた達⁉︎」
不意に最後尾にいた友奈の足がもつれて倒れこみ、それに巻き込まれる形で、真琴と銀も砂地に倒れこんだ。夏凜は驚きながらも駆け寄った。
「何やってんのよあんた達」
「イタタ……。そこは駆けつけて受け止めてよ〜……」
「無茶言うな。3人いっぺんはさすがに私でも無理よ」
そう愚痴りながら手を差し伸ばして、3人を順番に立たせた。
「……で、何しに来たのよ」
「何って、決まってるだろ? 部活への誘いだよ」
「そうそう! 最近、夏凜ちゃんが勇者部をサボりまくってるから」
「……」
「このままじゃ、サボりの罰として、腕立て500回とスクワット3000回、腹筋10000回させられる事になるんだけど」
「桁、おかしくない……?」
「というより、僕の知らない所でハードルが上がってますよね……?」
「でも、今日部活に来たら全部チャラになります! さぁ、来たくなったよね?」
半ば強制的な誘いにも見て取れるが、当の本人は頑なに首を横に振り続けるばかり。
「……ならない」
「えっ? 部活来ないの?」
「元々私、部員じゃないし」
「そ、そんな事は……」
「それに……、もう行く理由がないのよ」
「はっ? 理由って?」
「私は、勇者として戦う為に、この学園に来た。あの部にいたのは、他の勇者と連携を取った方が何かと都合が良いからよ。それ以上の理由なんて、ない……」
「夏凜ちゃん……」
「大体、風も藤四郎も、何考えてんのよ! 勇者部はバーテックスを殲滅する為の部なんでしょ! そのバーテックスがいなくなったら、……そんな部、もう意味なんてないじゃない!」
「違うよ」
返す刀で夏凜の発言に物申したのは、友奈だった。
「勇者部は、今は夏凜ちゃんもいて、みんなで楽しみながら人に喜んでもらえる事をしていく部なんだよ」
「友奈の言う通りだぜ。バーテックスなんていなくたって、関係ないのさ。勇者部は勇者部。戦うだけが全てじゃないんだ」
銀もフォローに入るが、依然として夏凜は否定的だ。
「でも……、私、戦う為に来たから……、もう戦いが終わったから……、だからもう、私には何の価値もなくて……、あの部に居場所もないって思って……、そもそも、私があそこにいられる理由なんて何も……」
夏凜が目線を3人から逸らそうとした時、その細い腕を優しく掴む、少年の手が。
「意味は……あると思うよ」
「え……」
「僕も、最初はこの街に武神の援軍として来た時は、凄く不安だったんだ。夏凜ちゃんとも別々に暮らす事だったり、編入したクラスの皆さんや、勇者部の皆さんと仲良くなれるのか、本当に不安で一杯だったよ。でも、そんな僕を夏凜ちゃんはいつも引っ張っていって、前に出る機会をたくさんくれたよね? 後ろばかり向いていた僕を、夏凜ちゃんはいつも怒りながら、姿勢を正してくれた。それって、夏凜ちゃんや勇者部を初めとした、周りの皆さんの後押しがあって、初めて成立するものだよね?」
「真琴……」
「僕にとって勇者部は、自分が自分らしくいられる場所だと思うんだ。悩んだり迷ったりした時は、皆さんからアドバイスをもらえるから」
「そうそう! 勇者部五箇条、1つ! 悩んだら相談!」
友奈も大きく頷いて便乗する。立ち止まる夏凜に対し、真琴はありったけの感情を幼馴染みにぶつけた。
「戦いが終わったら居場所がなくなるなんて、そんな事は絶対ないよ。夏凜ちゃんがいないと部室は寂しいし、僕も勇者部の皆さんも、夏凜ちゃんと一緒にいるのが楽しいと思ってるから」
それに……、とここで真琴は少しだけ恥ずかしげな表情になって、微笑みながらこの言葉を口にする。
「それに、僕は、夏凜ちゃんと一緒にいられるこの瞬間が、1番大好きなんだよ」
「……ッ⁉︎ な、ななな何よ急にそんな……!」
「私もだよ! 私も夏凜ちゃんが大好き!」
「あたしも! 一緒にここでトレーニングして汗流して、良い思い出が作れたから、あたし達もここで夏凜を見つけられたんだ」
真琴の両隣にいた友奈と銀も肩を並べてそう呟く。これを受けて、耳元まで茹でダコのように真っ赤に染まった夏凜は……。
「しゃ、しゃーないわね! あんた達がどうしてもって言うなら……!」
「やったー! 良かったね、銀ちゃん、真琴君!」
「おう!」
「はい!」
「どうやら話はまとまったみたいだな」
「あっ! 巧!」
新たに砂浜を歩く足音が聞こえて来たので振り返ると、そこには巧、昴、そして園子の姿が。
「あんた達まで……」
「園子ちゃんが、前に銀ちゃんとここでトレーニングをしていた事を思い出して、巧君と合流してからここに来てみたんです」
「まこぴー達の方が一足早かったみたいだね〜」
実際には、真琴達が到着してすぐに現場に駆けつけた3人だったが、園子の提案で、彼らの説得が終わるまで、黙ってその成り行きを見守る事となったのだ。
「さてと、じゃあ戻るぞ。とりあえず先輩達には顔を見せておいた方が良いぞ。あぁ見えてそれなりに心配はしていたからな」
「ったく、お節介ね……。まぁ良いわ」
「おっとその前に」
「な、何よ?」
「ちょっと、買い物をね」
そうして夏凜を連れ戻す事に成功した一同は、部室に戻る前に、友奈の提案でとある場所に立ち寄る事に。
それから30分後。夏凜を含めた7人は部室に到着した。室内には、友奈達の帰還を待っていた4人の姿が。
「結城 友奈、帰還しました!」
「お帰り〜」
「あっ! 夏凜先輩もいるッス!」
「おっ。ようやく戻って来たか」
「ま、真琴やみんながどうしてもって言うから……」
きっと色々なアプローチで心をくすぐったのだろうな、と思いつつ、敢えて経緯を聞かない事にする藤四郎。
「それと、これ! 差し入れです!」
そう言って友奈が手に持っていた箱を開けると、香ばしそうなシュークリームが入っているのが確認された。部室に戻る前に、友奈の発案で購入したお菓子である。
『これ、駅前の有名なお店のですよね!』
「樹ちゃん、正解!」
「美味そうッス!」
「! ちょっと待て。友奈、銀。お前ら確か、味覚が麻痺していると聞いているが……」
「あれ? どうしてその事を……?」
「ゴメンね〜。私がふーみん先輩とトッシー先輩に話しちゃったの〜」
「園子が……?」
「でも、ゆーゆもミノさんも楽しそうに選んでるのを見て、反対できなくなったの〜」
「ゴメン、みんな。私が勇者部の活動に巻き込んだせいで……」
責任を感じたのか、頭を下げる風に対し、友奈は何ともないといった振る舞いを見せる。
「こんなのすぐに治りますよ! 風先輩は気にしすぎです」
「そだな!」
「はい。僕達は望んで勇者部に入ったんですから」
「と言うわけで、結城 友奈は今後先輩からの『ゴメン』は一切聞きません!」
『私も!』
「おいらもッス!」
「……ありがと」
「だらしない先輩で色々と申し訳ない気がするが、これからもよろしく頼む」
「はい!」
後輩達に後押しされて、少しだけ気が楽になる2人の先輩。
「さっ! 早くシュークリームを食べましょう! 風先輩が飢えて死んじゃうと思って買って来たんですから!」
「ちょっと! あたしが24時間お腹空かせてると思ってない⁉︎」
「えっ? 違うのか?」(by 銀)
「違うんですか?」(by 昴)
「違うのか……?」(by 藤四郎)
「違うんスか?」(by 冬弥)
『ちがうの?』(by 樹)
「げっ⁉︎ 妹にまで⁉︎」
「……と言いつつ、真っ先にシュークリームに向けて伸ばしているその右手は誰の手ですかね」
巧がそう呟くように、風の右手は誰よりも早くシュークリームの1つに添えられようとしている。
「こ、これは、その……。し、静まれ、私の右手! 私の中の獣が暴れ出す……!」
『獣(女子力)』
「そう、それ!」
「それで良いの……?」
などと、いつも通りの暴れっぷりを発揮する風を見て、心なしかホッとしたような感覚になる夏凜。
「(全く、あんた達って……)」
そしてその日の晩。日課のトレーニングを終えて、夏凜は大赦宛てにこんなメールを送信する。
『バーテックスは殲滅され、任務は完了しました。今後の私や真琴の処遇なのですが、讃州中学に残る事を許可してもらえないでしょうか 三好 夏凜』
「(私は、戦う為だけに、ここに存在するものだと思ってた……。戦う為に勇者になって、戦う為に真琴と一緒にこの学校に来て……。でも、真琴の言うように、戦いに関係なく、私がここにいていいなら……)」
彼女の脳裏には、夕日に照らされながら自分の事を好きだと言ってくれた幼馴染みの笑顔が今でも鮮明に出てくる。その度に顔が熱くなるが、不思議と嫌な気分にはなれない。
「(あんたも、少しは立派になったのね)」
フッと笑みを浮かべたその時、一通のメッセージが。相手は、入院している東郷からだった。
東郷:『私達の退院日が決まりました』
友奈:『やった!』
冬弥:『おぉ!』
銀:『キタキタァ!』
園子:『やったね〜』
樹:『退院おめでとうございます』
巧:『おめでとう』
昴:『おめでとうございます』
真琴:『無事に済んで良かったですね』
藤四郎:『思っていたより長かったからな』
風:『お勤めご苦労さん』
遊月:『あの、風先輩。気持ちは分かりますが、言葉がおかしいです』
兎角:『退院日ですが、急で悪いですが、3人揃って明日になるそうです』
翌日の放課後。病院の待合室で3人の到着を待っていた一同は、ようやく兎角達の姿を確認して立ち上がった。
遊月はいつものように東郷の乗る車椅子を押しており、すっかり定位置に落ち着いているように見受けられる。
「兎角! 退院おめでとう!」
「あぁ。ようやく入院生活ともおさらばだな」
真っ先に友奈が兎角に寄り添った。兎角も、暇な時が多い入院生活に退屈さを募らせていたようだ。
全員の姿を確認したところで、東郷が皆に見えるように敬礼をする。
「東郷 美森及び久利生 兎角、小川 遊月。勇者部に帰還しました」
「ご苦労である、東郷准尉!」
そのノリに合わせるかの如く、敬礼を返す風。これもまたいつも通りの光景だ。
「……全く、変な奴らね」
「でも、勇者部らしさが戻ってきましたね」
「これで勇者部メンバー、全員復帰だね!」
その後、一同は迎えの車が来るまでの暇を持て余すべく、病院の職員に許可を得て、屋上に立ち寄る事に。
「風が出てて気持ち良いッス!」
「日が暮れれば、涼しくなるからな」
夏場における涼しさにリラックスしつつ、一同は屋上から見える景色を一望する。
「俺達が、この街を守ったんだな」
「……はい!」
「といっても、普通の人達は、私達の戦いの事なんて、何も知らないんだけどね」
「混乱を避ける為ですからね。仕方ありませんよ」
「ね〜」
「そうね。……でも、ここにいるみんながいなかったら、この世界は無くなってた」
「そうなれば、ここに住む人達はもうとっくの昔にあの世にいってたからな」
チュッパチャプス(レモンサワー味)に舌鼓を打ちながら、しみじみとそう語る藤四郎。
世界を救った、と言う自覚は未だにないが、名前を知っている人もそうでない人も、守る事は出来た。それだけは、彼らの胸の奥に、確かに刻まれているだろう。
やがて、東郷はこんな事を語り始める。
「私、初めての戦いの時、凄く怖かった……。怖くて、逃げ出したくて……。でも、逃げなくてよかった。ちゃんと勇者、出来てたかな……?」
「出来てたよ!」
「もちろんだ。東郷は、立派に勇者をやれてたぜ」
東郷に賞賛の言葉をかける友奈と遊月。東郷は微笑み、自然と遊月の手に触れていた。
と、その時。屋上に着信音が鳴り響いた。それも2箇所から。真っ先にスマホを取り出した夏凜は、メールの内容を確認した。大赦から、『申請受理』という件名でメッセージが届いた。
『ご家族からの許可も得て、申請は受理されました。あなたは卒業まで讃州中学にて勉学に励みなさい。一ノ瀬 真琴にも後を追って同等のメッセージを送ります』
この文言を見た夏凜の表情が緩んだのを、銀は見逃さなかった。
「おっ? 夏凜のやつ、何か嬉しそうだな」
「何のメールだったの?」
「べっ、別に喜んでないから!」
「へぇ〜。よっぽど嬉しい事が書かれてるんだな」
「見せて欲しいッス!」
「な、何だって良いでしょ⁉︎ 絶対見せないから!」
「またまた〜」
「ちょ、銀! 盗み見ようとすんな!」
などと、和気藹々な雰囲気が広がる中、もう1人、大赦からメールを受け取っていた藤四郎の表情は優れない。彼宛てのメッセージの件名は、『満開の後遺症に関して』。
『勇者並びに武神の身体変調と満開の後遺症については、現在調査中です。しかし貴方達の肉体の異常は見つかっておらず、変調は一時的なものと思われます』
「……」
「大赦からはダンマリだったね〜」
「! 園子か……」
藤四郎の横に立った園子は、彼のスマホに映るメッセージを確認する。
「これはまだ空想の範疇だけど〜……。大赦は、私達に知られたくない事を隠そうとしてるんじゃないのかな〜」
「知られたくない事……?」
「トッシー先輩。ふーみん先輩にも後で伝えておいてね〜。……大赦を簡単に信用しちゃダメだよ〜、って」
「……!」
園子からの忠告に、息が詰まりかける藤四郎。漠然とではあるが、園子は大赦に対して何らかの不信感を募らせているようだ。異様な空気が屋上の一角で立ち込める中、こんな話題が賑わっていた。
「そういえば、もうすぐ夏休みだよね! 何しよっか!」
「去年は療養とかで遊びに行く事なんてなかったからな。何かリクエストがあればそれで良いぜ?」
「う、海に、行く……とか」
「えー、何て? 聞こえないなぁー?」
「な、何でもないわよ!」
「夏といえば海。中々に定番どころを当てにいくじゃねぇか」
「潮干狩りもやりたいですね。そこで漁れたアサリの酒蒸しに挑戦してみたいです」
「魚釣りもやりたいッス!」
『山でキャンプ』
「夏祭りも楽しみね」
「あたしはもちろん、みんなをイネス巡りにご招待だ!」
「それは夏じゃなくても出来るだろ……」
「花火もやっとく? やるからには、打ち上げ花火100連発ぐらい!」
「はいは〜い! それなら、大っきな花火を打ち上げられるように、今からお願いしておくよ〜!」
と、ここで我慢できずに、園子も友奈達の会話に乱入する。藤四郎も、今は気にしないでおこうと考えを改めて、彼らと合流する。
「こうしてみると、みんなとやりたい事って結構あるんだな!」
「なら、全部やってみるか!」
「うんうん! それが良いよ!」
夢物語のような戦いが終わり、彼らは日常に戻る。
勇者にならなくても、勇者部は続いていく。
時間は、無限に有限なのだから。
卒論の発表を間近に控えておりますので、しばらく投稿できないかもしれませんが、何卒ご了承ください。
次回は、『ゆゆゆい』のとあるストーリーをベースとした回となります。
〜次回予告〜
「案外難しそうだな」
「言っちゃいなよ〜?」
「基本中の基本よ!」
「物騒すぎるって……」
「いつから⁉︎」
「あたしには伝わるわよ?」
〜あなたに伝えたい〜