結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
加えて秋原雪花の章は……。割とマジでキツイ。
海で遊んだ1日分の疲れを癒した勇者部一同は、風呂上がりの牛乳や卓球、そして売店巡りを終えて客間に戻ると、女将によって敷かれていた布団に潜り込み始める。
各々が好きな場所を確保したところで、開口一番と言わんばかりに、風と銀が張り切った様子で口を開く。
「せっかくの合宿なんだしさ!やっぱこれはやっとかないとな!」
「女7人が集った旅の夜。どんな話をするか、分かっているわよね、夏凜?」
そう尋ねられた夏凜は戸惑っている様子だ。
「えっ? えっと……。辛かった修行の体験談……とか?」
「違う」
「はい! 正解は、日本という国の在り方について存分に語り合う、です!」
「東郷。詳しい正解は分からないが、それだけは違うって言い切れる」
自信満々に挙手して答えた東郷の正面に陣取っていた遊月がそうツッコむ。中々正解が出てこない事に呆れつつ、風は答えを知っている妹に問いかける。
「樹、正解は?」
『コイバナ……?』
「そう、それよ! 恋の話よ!」
「ごめんなさい。聞き間違えたかもしれないので、もう1回言ってください」
「こ、恋の話よ兎角……。何度も言わせないで……」
自分から振っておいて恥ずかしくなった風が縮こまる中、友奈が代わりに指揮をとる事に。
「じゃ、じゃあ、誰かに、恋をしてる人は……」
そうして周りを見渡すが、誰一人として手を挙げる者はいない。
が、その場にいる女子達の目線は時折、向かい側で横になっている、特定の男子達に向けられているのだが、その様子に気づいた者は誰一人としていなかった。
空気が若干淀む中、友奈は声を張り上げた。
「ま、まぁ勇者とかでみんな忙しかったし!」
「まぁそんな形で片付けられるのがオチだよな」
「……っていうか、そういうあんた達は、何か体験談とかあるの?」
先程質問されていた夏凜が、この話題を切り出した張本人達に問い返す。すると、当時を懐かしむように口を開いたのは、そのうちの1人、風だった。
「……そうね。あれは、2年の時だったわね」
「えっ⁉︎(ホントにあったの、こんな大喰らいの部長に⁉︎)」
「園子と昴が編入する前、まだ部員が7人だった頃にね。チアリーディング部の助っ人をした事があったんだけど、そのチア姿に惚れたやつがいてさ。まぁ、デートとかしないかって、言われたりしたもんよ!」
「なるほど……!」
「凄いですね風先輩! それでその方とは……って、あれ?」
これには夏凜だけでなく、真琴も興味津々になって耳を傾けていたのだが、不意に周りが静かになっている事に気付き、目線を皆に向ける。どういうわけか、興味なさげな様子だ。
「あ、あの、どうしたんですか? 全然盛り上がってなさそうですけど……」
「いや、あのな2人とも……」
「この話、おいら達10回目なんスよ」
「「えぇっ⁉︎」」
「何よその反応⁉︎」
「それしか、浮いた話無いのね……」
期待して損した、とばかりに肩を竦める夏凜。
「あるだけいいでしょ?」
「た、確かにそうですよね……。それで、その方とはどうなったのですか?」
「断ったわよ。だってさ。同年代の男子って、なんか子供に見えるもん。そいつも端末にいやらしい画像とか入れてて、休み時間に男子達に見せてるようなやつだって知ってたからさ……。……あぁ、別に藤四郎の事をそう思ってるわけじゃないんだけどさ。誤解してたらゴメンね」
「いや、俺は別に気にはしないが……(まぁ、その男に風を紹介したのは、当時同級生だった俺なんだがな)」
当時の事を思い出す藤四郎とは裏腹に、銀はこれ以上恋バナでは話題が続かないと感じたのか、喚き始めた。
「あ〜もう! このまま終わるんじゃつまらないし、なんか別のやつにしようよ!」
「じゃあ、趣向を凝らして、際どいのはどうかな〜?」
そう発案したのは、浴衣からニワトリの被り物がついたパジャマ(自前)に着替えていた園子だった。
「際どいのったってお前……。そんな都合よく」
「際どいのなら任せてください!」
「東郷のは違う意味で際どいだろうから却下」
すかさず、意気揚々とした東郷を止めに入る巧。
すると、どこからともなく寝息が聞こえてきたので、一同が声のした方を振り向くと、先ほどまで風の話を聞いていたはずの夏凜が、目を瞑って寝込んでいるではないか。これには、普段から寝ている印象の強い園子も、ほぉ、と頷く。
「にぼっしー、おやすみモードに入ってたんだ〜」
「朝からずっとはしゃいでましたもんね」
『かわいい寝顔です』
「本当に初めて勇者部に来た時が懐かしいぐらいですね」
「夏凜ちゃん、お疲れ様」
そう言って真琴は上半身を起こして、夏凜の肩まで覆うように、布団を動かした。
「あたし達もそろそろ寝よっか。夜更かしは乙女の天敵よ」
「全然トーク出来なかったけどさ。ここに来る前に結構はしゃいでたからな。こんな感じの終わり方もいっか」
「……」
「東郷さん?」
「何でもないよ、友奈ちゃん」
「じゃあ、電気消しますね」
そうして部屋のスイッチに1番近かった昴が合図をすると、皆がほぼ同時にお休みなさい、と言って目を閉じ、部屋は暗闇に包まれた。
その一方で、電気を消す直前に見えた、不敵な笑みを浮かべた東郷の様子に一抹の不安を覚え、嫌な予感を感じる遊月であった……。
〜……あの日も、こんな感じの暗い、じっとりとした夜でした……〜
『⁉︎』
そして、悪い予感ほど当たりやすい、と言われているが、今まさにそういった事態が起こってしまった。
「こ、この声は……⁉︎」
〜……その男は、帰りを急いでいました。……でも、出来心で家への近道をしたのが間違いだったのです……〜
「東郷⁉︎」
「アワワワワワワ……⁉︎ な、何でこのタイミングで怪談を⁉︎」
〜……お墓の前を通った辺りから、自分をつけてくるような足音が……〜
「誰が今、際どいのを披露しろって言ったんだよ⁉︎」
「際どすぎるだろ⁉︎」
「誰かあいつを止めろよ!」
「ちょ⁉︎ そういうのあたし苦手なのよ〜!」
〜……男は思い切って、後ろを振り返る事にしたのです。すると……〜
「ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ⁉︎」
「うわっ、何だ⁉︎」
「ど、どうしたんですか?」
「東郷さん、まだオチまで終わってませんでしたよ⁉︎」
不意に風の甲高い悲鳴が怪談話を遮り、張本人の東郷も、気になって風に尋ねた。
「どうしたんだ?」
「何かモゾッて来たのよこの辺に!」
「何か潜り込んできたのか?」
「……って、なぁんだ樹じゃない。……え? もう怖くなって潜り込んできちゃったの?」
先ほどまでビビっていたはずの風も、樹が怯えているのを見てすぐに姉の威厳を取り戻したようだ。
「……うぁ〜。うるひゃい……」
『す、すみません……』
不意に夏凜から注意を受け、謝った後、今度こそ一同は眠りにつく。因みにこの時、園子と巧の意識は底深く眠っており、この一幕に気づく事はなかったそうだ。
そんなこんなで、その後は何事もなく時間が過ぎていき、月がようやく地平線に沈みかけた頃、不意に息苦しさを感じた夏凜が目を開けると、自分の体に抱きついている2人の人影を発見した。
「……ウヘヘ。女子力ぅ〜。コンビニで、売ってないかなぁ〜……」
「偉いぞ、マイブラザ〜……。ほらほらこっちにぃ〜……」
「2人して寝相悪いわね。ほら、自分の所に戻れっての。全く……」
ため息をつきながら、寝言をボヤく風と銀を定位置に戻した後、布団を被り直して目を閉じようとする夏凜だったが、またしても両サイドからこの2人が挟み込んできた。苛立った夏凜が注意しようとした、その時だった。
「……治ったんだね、樹。良かったぁ……」
「巧ぃ、ありがとな……。弟達の、面倒見てくれて……」
その表情は、これまで見て来た2人のどの表情よりも幸せそうだ、と夏凜は感じ取る。こうなっては、夏凜も無理やり退かす気にはなれず、諦めたように呟く。
「……仕方ないわね」
まんざらではない様子で、2人に抱かれながら、意識を手放す夏凜。その間際に、
「……フフ。夏凜ちゃん……。夏凜ちゃんは、やっぱり、優しい、なぁ〜……」
寝言らしき声が聞こえてきたのだが、その時にはすでに、深い眠りについていた。
それから小1時間ほど経ち、間も無く日が昇ろうとする頃。
ふと、近くで物音がしたような気がして、目が覚めた友奈は、何気なく周りを確認してみた。
未だに寝息を立てている幼馴染を初め、可愛らしげに寝ている者や、中には3人抱き合って寝ている姿が目撃された。が、何故か東郷と遊月の姿が見えない。どこにいるのだろうと、目線を少し上に向けると、
「よう、東郷」
「あら、おはよう遊月君」
「寝付けが悪いのか?」
「ううん。ちょっと考え事をしてて……。そういう遊月君は?」
「俺は普段から、この時間帯に起きてるからな。いつもと変わらないよ」
窓の近くの椅子に座る東郷の所に向かう、遊月の後ろ姿が見えた。会話の内容からして、遊月が起きたのはついさっきのようだ。
「いつも、朝起きたらこうして海を眺めるのが、あの民宿で暮らすようになってから、毎朝の日課になってたんだ」
「どうして、海を……?」
「こういうと照れ臭いけど、俺にとって海は、第2の母みたいなもんなんだ。だから、俺を叔父さん達の所へ導いてくれた感謝と、それから祈り事をする為の存在なんだ。いつか、記憶を取り戻して、本当の家族に出会える事。それから、人類を脅かすウイルスを撃退して、本当の意味での平和を取り戻す事。それを毎日祈るのが日課になったんだ。まぁ、2つ目の方はまさか自分達の手で実行するとは思わなかったけど」
皆を起こさない程度に笑い声をあげる遊月。その一方で東郷の不安そうな顔を、友奈は確かに見た。
「怖く、ないの……?」
「?」
「私も、あなたのように記憶をなくしてるから、不安に思う気持ちは、分かるの。だからこそ、怖くなるの。昔の自分は、どんな風に過ごしてきたんだろうって……。誰に聞いても答えてくれなくて、それが不安に繋がって……」
「……そうか」
遊月はただ一言、そう呟く。しばらくの沈黙の後、顔を上げて口を開いた。
「まぁ気持ちは分かるよ。拾われた当初はそんな感じだった。でも今となっては、不安なんてそんなに感じてないんだ。みんなが優しくしてくれたし、勇者部に入って、東郷や色んな人達と出会えた。仲間がいるだけで、こんなにも払拭されるなんて、あの頃は考えもしなかった。だから、真実を突き止めたいって思えるようになった。きっと俺が追い求めているものは、俺にとって何か、大切だったはずなんだ」
「でも……、もしかしたら、追い求めているものが遊月君にとって、知りたくない真実かもしれないのよ。もしそれを知ったら、あなたはあなたでいられるのかが、私には分からない……」
その言葉に対し、遊月は確固たる意志を持ってこう語る。
「俺が本当に怖いのはさ。何も知らない自分なんだ。例えどんな真実だったとしても、受け止める覚悟は出来てる」
「遊月、君……。でも、私にはそんな……」
「これは俺の覚悟であって、お前はお前らしくあればいいんだよ。少しずつ、向き合っていけばいいんだ」
「……そうね」
遊月の言葉に支えられて、少し落ち着きを取り戻したのだろう。彼女の表情は朗らかになった。
「……手がかりと呼べるものかは分からないけど、これも多分、そのピースの1つなんだ」
そう言って遊月が懐から取り出したのは、日本国旗が刻まれているハチマキ。
「見事なまでの日の丸ね。でもそれは……?」
「叔父さん達が言うには、引き揚げてくれた時からずっと握りしめてたものらしい。誰のものかは分からないけど、何となく、手放しちゃいけない気がしてさ。……けど、こういうのはどっちかっていうと、東郷に似合いそうだよな」
「きっと、私と同じ思想を抱いて、生きてきたのね。そのハチマキの持ち主は。会えると良いわね」
「あぁ」
そうしてしばらく海を眺めていた2人だったが、不意に東郷がこんな話題を口にする。
「ねぇ、遊月君」
「んっ?」
「バーテックスって、12星座がモチーフなんだよね」
「そうだな」
「でも、遊月君は知ってると思うけど、星座って他にもいっぱいあるでしょ?」
「(あぁ、夏の大三角形座とか)」
聞き耳を立てていた友奈は思わず、実際には存在しない星座の名を、心の中で呟く。
「……つまり東郷。バーテックスには他にも種類がいるんじゃないかって事か?」
「確証はないけど……。そもそも、本当に戦いは、終わったのかしら……?」
「! それは……」
戦いは本当に終わったのか。たった1つのその疑問が、東郷の中の不安を駆り立てていくのだろう。遊月自身、明確な答えを導く事は出来ないが、それでも彼女を安心させるべく、彼女と向き直った。
「こればっかりは俺達にも分からないからな。一先ずは大赦から何も言われていない事だし、それに俺達には、人類を死のウイルスから守ってくれている神樹様がついてるんだ。今はそれだけ理解していれば良いと思う」
「神樹様……」
「神樹様は、わざと結界に弱い所を作って敵を通してる。恵の源である以上、下手に防御に全振りすると、俺達の生活に悪影響を及ぼす。けどそれって、神樹様に意思が宿っているから行える事。だから、俺達に味方してくれるんだ」
「(あれ? その説明、どこかで習ったような……)」
布団の中で友奈は、アプリの説明テキストに掲載されていたはずの事柄を思い返そうとするが、改めて忘れてしまっている事を自覚する。
「ふふっ。今日の遊月君、友奈ちゃんに似て、前向きね」
「そうか? ま、込み入った話はこれくらいにして、昨日言ってた通りに、病院で寝てた分は遊ぼうぜ。そうしてたら、嫌な気分も払拭されるだろうし」
「……そうね。1人になると、つい色々悪い方に考えちゃって……。みんなといると、そんな事も忘れられるんだけど」
「勇者部五箇条『悩んだら相談』だぜ」
「……でも、こんな事毎日のように相談されても、困るでしょ?」
「俺はそうは思わないけどな。もし1人が不安になるなら……」
そう言って遊月は立ち上がると、東郷の背後に立ち、そのまま優しく抱きしめた。
「……!」
「今日ぐらいは、ずっと一緒にいてやるよ。もしこれからも不安になる時はさ。頼ってくれても良いんだぜ。俺は、絶対に見捨てたりなんかしないから。それぐらいには、強くなれた気がするから」
「……ありがとう」
その時に見せた東郷の表情を、多分友奈は一生忘れないだろう。背後から伸びた遊月の手に優しく触れる東郷。その2ショットは、絵画にも匹敵する神々しさを、友奈は感覚的に感じ取った。
「朝ごはんまでまだ時間あるけど、遊月君はどうする?」
「このままでいいぜ。今日は一緒にいるって、約束したばかりだからな」
「……うん」
そして2人は、静かに窓の外に広がる広大な海を眺め続けた。その様子に一安心した友奈は、再び目を閉じる事に。
このまま起きて声をかけようかと思っていたが、2人の良さげな雰囲気を邪魔するのは悪いと思ったようだ。いくら能天気な彼女といえど、それくらいの配慮はできるようだ。
そして遊月が東郷を抱きしめるポーズは、皆がほぼ同じタイミングで起きる頃まで続いた。因みに、知らぬ間に3人で抱き合って寝ている事に気付いて、顔を赤くしながら驚きに満ちた悲鳴が室内に響き渡り、ちょっとした騒ぎになったのだが、それはまた別のお話。
「海が、騒がしいわね……!」
「急にどうしたんスか?」
「なんだか改まってますね」
「そのポーズに意味は……?」
風が謎のポーズをとりながらそう呟いたのは、荷物を迎えの車に詰め込んで、帰る準備を済ませた頃だった。風は皆からの疑問に答える事なく口を開いた。
「帰る前に、あたし達にはやる事があるでしょう?」
「なんかあったっけ?」
「花火とか?」
「まさかキャンプファイヤーなんて言わないだろうな」
『ナンパされてないとか言いそう』
「ちゃうわ! ……まぁ、それも少し引っかかってるけど」
「引っかかってるんかい!」
夏凜からの素早いツッコミを尻目に、風は真面目な表情でこう語る。
「一応勇者部の夏合宿なのよ。少しは内容のある話をしないと! 文化祭とか……文化祭とか……文化祭とか!」
『3回も言った』
すかさず樹が、スケッチブックを介してツッコミを入れた。
「まぁ、風の言ってる事も一理あるけどな」
「劇をやるって話だったし、そろそろ中身を詰めていく必要はありそうだな」
「では、車の中で予定や配役の話し合いをしましょうか」
「バーテックスを倒しても、あたし達の日常が被害受けてちゃ世話ないわ。しっかりと日常のスケジュールを守って、完全勝利といきましょう!」
「……まぁ、賛成してあげてもいいわ」
『帰るまでが合宿です』
樹に続き、夏凜もこの時ばかりは首を縦に振る。
「よーし! 文化祭、必ず成功させよう!」
『オー!』
友奈の掛け声で気持ちを1つにした勇者部一同は、まだ未完ではあるが、1泊2日の夏合宿を満喫し、秋の文化祭に向けて、新たなスタートを切るのであった。
……あぁそうだ。神託によれば、敵の残党が襲来するらしい。そうなれば、彼らは必ず出てくる。
その時が、君の出番だ。向こうまでの経路はこちらで確保してある。俺にできるのはそれぐらいだが、その後の事は頼んだぞ。
最近、聖地の香川県観音寺市では、ゆゆゆブームが返り咲いてるって、地方のニュースで語られてましたね。
〜次回予告〜
「ど〜んと来い!」
「成せば大抵なんとかなる!」
「本当にこの目が疼いてきたりして……」
「やってやりましょう!」
「……戦いは、終わっていない」
〜国防は続く〜