結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
今回はタイトル通り、勇者と武神の新たな精霊のお披露目回となります。
『地獄』と形容するのが相応しい、灼熱の世界。
目の前に映る、想像を絶するような光景がこうして視界に飛び込んでくる事自体、受け入れ難いものだ。大地は紅く爛れた溶岩のように流れており、炎があらゆる箇所から噴き上がっている。大地の一部は巨大な卵状のものでびっしり覆い尽くされており、少し上を見上げれば、夜中のように暗い。
〜何だ、ここは〜
それ以外、口から出る言葉が思いつかない。
ありえない光景を前に、しかし動揺を抑えながら、再度周りに目を配る。今現在自分がいるのは、地上というよりも、空の上に浮いているといった表現が正しいだろう。そればかりか、何か巨大なものに包まれていると言っても過言ではない。そしてそれは不思議と何かに守られているという安心感を掻き立てる。
奥に目を凝らすと、真紅に包まれた巨大な物体の存在が確認できた。数にして、およそ12個。何か見覚えのあるシルエットを彷彿とさせるが、頭の中のノイズがそれを遮ってしまう。
不意に声らしき音が聞こえてきたので視線を下に向けると、僅かに残されていた、足のつける大地に人影が見えた。1人は力尽きたようにぐったりとしており、もう1人は抱き抱えながら何かを叫んでいる。
会話も聞こえない。顔も見えない。それなのに、何故だろう……。
〜俺は、この時の出来事を、聞いた話を、知ってるような気がする〜
「……っ!」
不意に上半身を起こして目覚める遊月。すぐに意識はハッキリとし始めて、周りに目を向ける。
広がっていたのは、灼熱の大地ではなく、普段から見慣れている、木造の壁。そして窓の外に広がる、夜明け前の空と海。
「……夢」
そう呟く事で、反射的に自身を安心させたのだろう。脈も正常に戻りつつある。
汗で濡れてしまった体を乾かすべく、遊月は布団から出て起き上がり、いつものように窓を開けて、海を眺め始めた。窓から入ってくる穏やかな風が、全身を撫でて、淀んだ気持ちを払拭させる。
「(けど、何であんな夢を……。それにあの光景……。俺はあの地獄を見た事があるような気がしてならない……)」
失われた記憶と関連しているとしたら、追い求めるべきなのだろうが、それは同時に、真実を目の当たりにしたという恐怖心を増大させるものに違いない。
「(それでも追いかけるんだ。東郷にも約束したからな。俺は知る事を、恐れない)」
広大な海を前に、決意を新たにする遊月。
下の方から、叔母の声が聞こえてきた。朝食の支度で外に出ていたようだ。目線があって朝の挨拶を交わすと、支度の手伝いをするべく、遊月も下に降りる事に。
「(とにかく今は、先輩達が言っていた、バーテックスの残党を倒す事が最優先だよな。俺の記憶に関する手がかりがない以上、目の前に迫っている事から手をつけていくしかないんだ。その先に、きっと……)」
「……な〜んて意気込んだのはいいけどさ。2学期に入って2週間経っても来ないとはな」
「そう言われてみれば、ですね」
9月某日。本日の授業を終えて、部室に向かう兎角は誰ともなしにそうボヤく。彼の言う通り、3年生組を通して大赦から神託を受けてから、3週間近くが経過しようとしていた。
「敵を気にしないのは良くないけど、気にしすぎるのも良くないわ、兎角君」
「東郷さんは落ち着いてるなぁ。その秘訣は?」
「かつて、国を守り戦った英霊達の活動記録。うちで映像見る?」
「お、おう……」
「で、出来れば分かりやすくアニメになってるのがいいな〜……」
「あ、あたしも」
「大丈夫。あるわよ」
「あるんかい」
巧がツッコんだその直後、友奈の持つカバン……正確にはそこに入れておいた端末の中から、両手両足と尾に炎を纏っている猫型の精霊『
「うぉっと出てきた⁉︎」
「あわわ、火車……! 急に出てきたらダメだって」
「窮屈だったかな〜。部室に着いたら遊んであげるよ〜」
「とりあえず戻ってくれ」
特に手形傘は、雷のような音を鳴らして遊ぶ事があるので、廊下にちらほらと見える他の生徒達に見つかる危険性もある。精霊の事は極秘事項なので、4人はすぐに端末を操作して精霊達を元に戻した。幸いにも、周りに気づかれた様子はなさそうだ。
「そういや、昨日も外を散歩してたら急に出てきて慌てたよな、友奈」
「うん。火車って、牛鬼みたいにいたずらっ子なんだよね」
「友奈ちゃんが優しいから、わんぱくなのよ」
「一理あるな」
そうして周りに気づかれていない事を確認した一同は、再び歩き出す。
「新たな戦力……」
「? どったの、遊月?」
「いや、何でも……」
不意に呟いた遊月を見て首を傾げる銀だったが、本人は何ともないように笑って誤魔化し、銀もそれ以上追求する事はなかった。
その後は精霊達も飛び出す事なく、部室に到着する一同。
「結城 友奈入りまーす!」
「こんにちは」
「チワー!」
「オッス!」
「あ、お疲れ様ッス!」
「ウィーッス」
『ウィースです』
部室には1年と3年、そして先んじて部室に来ていた夏凜と真琴の姿があった。
なお、いつにも増して上機嫌な風だが、その理由は左目の、園子からもらったとされている眼帯がつけられている事が関係しているそうだ。
「すっかりそのキャラ定着しましたね」
「いや〜、こんなに眼帯が似合うとはね。これも園子に感謝よ」
「いやいやそれほどでも〜。でもせっかくだから、たっくんも付ける〜?」
「面倒事に巻き込まれそうだから遠慮する」
「ええ〜……」
左目に大きな傷が付いている巧は肩を竦めながら、園子の意見を却下した。校内では誰も気に留めないし、外に出ても、常日頃からサングラスをかけている為、わざわざ眼帯をつける意味がない、と本人は語る。
そんな彼の、松葉杖をつきながら立っている後ろ姿を見つめながら、東郷は左耳を抑えつつ考え込む。
「(皆の体は治らないまま、秋になってしまった……。満開の後遺症は、本当に治るものなの……?)」
いつになれば本調子に戻るのか、不安を隠せない東郷。
ふと目線を外すと、遊月もどこか上の空な感じがしてならない。彼も東郷と共に、入院中に原因を探っていた協力者の1人なので、同じように不安を抱いているに違いない。そう思って話しかけようとしたその時、眼前に風の新たな精霊である鎌鼬が現れて、唐突に膝に乗った。
「わっ……!」
「あーごめん。そいつ好奇心旺盛でさ。犬神と違ってあんま言う事聞かなくてさ」
「これが風先輩の新しい精霊なんですね……。アハハ、くすぐったい……!」
鎌鼬は東郷の首回りを駆け回っており、その毛並みが東郷の肌を撫でているようだ。
するとそんな主の危機(?)に対し、東郷の端末から次々と精霊が飛び出してきた。青坊主に刑部狸、不知火。そして新たに追加された、蛍の光を彷彿とさせる精霊『
「東郷さんの精霊はいつ見てもユニークですね」
「賑やかッス!」
「全員、気をつけ!」
東郷の号令に合わせて、4体の精霊は一斉に、起立乱れぬ横並びに。
「割としつけられてるな」
「さすがは東郷、だな。ちゃんと訓練されてる」
と、今度は友奈達の前に、頭の上に鏡が付いた茎型の精霊『
『私の雲外鏡と木霊も出てしまいました』
どうやら雲外鏡は、樹の新たな精霊のようだ。スケッチブックに書かれているように、木霊もフワフワと漂っている。
「おっとっと。それじゃあ私も〜。すばるんも早く〜」
「あ、うん」
そう言って園子が端末を操作して、鴉天狗(改めセバスチャン)と鉄鼠、豆腐小僧、精霊風を呼び出し、昴も後を追うように、天岩戸と魔破羅魏、河伯、そして新たな精霊である、鴉天狗よりも一回り大きく、背中にゴコウリン、手に杖を持つ天狗型の『
すると自然な流れで、友奈の端末からは牛鬼と火車が飛び出してきた。それに続く形で、銀の端末からは鈴鹿御前と木魚達磨、一目連、陰摩羅鬼が、巧の端末からは金華猫と月読命、鹿丸、手形傘が出現した。
「まぁこうなるか」
「牛鬼! 他の精霊を食べちゃダメだからね!」
そうして、新しい精霊を中心とした交流会(?)が室内で開催されたのだが……。
「ますます賑やかになりましたね」
「大赦が新たな精霊を使えるようにアップデートしてくれたのはいい事だが……。これはもう、百鬼夜行だな」
両肩に居座っている、鳳凰と、ヤドカリの形をした、主に似て怯えたように殻に閉じこもっている新たな精霊『
「もういっそ、今回の文化祭はこれでいいんじゃないですか?」
「……それでみんな納得すると本気で思ってたのか?」
「で、ですよね……」
「私はグッドアイデアだと思うんよ〜」
「園子ちゃん⁉︎」
ジト目でそう呟く兎角の傍らには、因幡の頭の上に乗っかる形で、白い外見に六角形のような模様の目がついた、鳥型の新たな精霊『
「ったくあんた達……。精霊の管理くらい、東郷みたいにちゃんとしなさいよ!」
「あぁ、その新しいおいらの精霊、割といたずらっ子なんスよ。ここは1つ大目に見て欲しいッス!」
イライラ交じりにそう口を開く夏凜の頭の上では、木霊にしがみつく形で、冬弥の新たな精霊である、狸のような容姿の『
『外道メ!』
そして例の如く夏凜の精霊である義輝がツッコミを入れるのだが、すかさず牛鬼が足から義輝にかじりつく。
「ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ⁉︎ 何すんのよー⁉︎」
『諸行無常……』
「ま、これも平常運転という事で……」
巧が誰ともなしにボソリとそう呟く。
ようやく全ての精霊が落ち着きを取り戻して端末に戻っていったのは、夕日が見え始めた頃だった。そうして別の意味で疲れを感じ始める部員達。
「……そういや、夏凜だけ新しいやつ来なかったな」
「確かに、そうですよね。どうしてでしょうか? 調達が間に合わなかった……とか考えにくいですし」
「私に聞かれても知らないわよ。けどまぁ、完成型勇者であるこの私なら、精霊なんてこの義輝がいれば十分よ!」
そう強気に喚く夏凜だったが、彼女自身も、精霊が追加されていない事に疑問を感じているのか、眉間に皺を寄せているのが側から見て取れる。
そして同じように、彼もまたその事に疑問を抱いていた。
「(精霊が増えたのは、夏凜以外の面々だ。夏凜はあぁ言っているが、戦闘をサポートする上で、精霊の保有数は、多くて損はないはず。いくらなんでも、数が揃わなかったという理由では説明がつかない部分もあるはず。満開を行使した者だけに新たな精霊が付与されたと仮定するなら……。……やはり大赦は、俺達に知られたくないものを抱えているのか? だとしたら、それは一体どれほど巨大なものなんだ……?)」
チュッパチャプスを咥えながら考え込んでいる藤四郎は、遠目でいち早く大赦の危険性を示唆してきた園子を見てみる。その視線に気づいた園子も小さく頷いている。彼女も、今回の件に疑問を抱いているようだ。
大赦に対する不信感を募らせる中、弟分である冬弥が不意に呟いた。
「敵、いつ来るんスかね?」
『そうだね。ドキドキ』
隣にいる樹も同じ心情のようだ。兎角達もそうだったが、どうやら学年関係なく、同じ疑問を抱いていたようだ。
「こればっかりは分からんな。神託とて必ずしも当たるとは限らない」
「そうね。とりあえず、あたし達は劇の練習から始めよっか」
「そうですね!」
「ま、私の勘では来週辺りが危ないわね」
「実は気のせいでした、なら、それに越した事はないよな!」
夏凜と銀が言い合う中、風もその会話に割り込んできた。
「あの諸葛亮孔明だって、負け戦はあるのよ? 『弘法も筆の誤り』って言うし、神樹様も予知のミスぐらい……」
得意げにそう語る風の発言は、室内にいた全員の端末から久々に流れてきた、『樹海化警報』を意味する警報によって遮られる。
「えぇっ⁉︎」
「噂をすれば、ってやつか」
「……まるで狙ったかのようなタイミングだな」
「風が変な事言うからだろ⁉︎」
「神樹様の的確なツッコミね」
「あんたらだって勘外してるじゃないの!」
そんなこんなで言い争っている間にも、勇者以外の全てが静止した世界が、刻々と神樹が張る防御結界に包まれていく。
「いよいよ来たか」
「上等! 殲滅してやるわ!」
夏凜の高らかな宣言に、全員が大きく頷く。
お役目の、延長戦の幕が、上がる。
諸事情でまた投稿が遅れるかもしれませんが、末永くお待ちください。
そして次回、遂にあの人物が……!
〜次回予告〜
「ゲームセットにしましょう!」
「逃がすかぁ!」
「連携していくわよ!」
「数が多い……⁉︎」
「そんな事だろうと思ったぜ」
「あなたは……」
「自己紹介から始めよう」
〜その出会いは成就〜