結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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お待たせしました。就職先も決まり、ようやく投稿の頻度が上がりそうですが、まだまだ忙しくなりそうですので、末永くお待ちください。

それにしても、しばらく投稿していない間に、以前後書き(前書き?)で紹介した『リリフレ』が、『ゆゆゆい』とコラボするとは夢にも思いませんでした。まだストーリーをプレイしてませんが、非常に楽しみです!


26:その出会いは成就

色鮮やかに装飾された、樹木の生い茂る世界。通称『樹海』の景色を見上げるのは本当に久方ぶりだ、と遊月は近場の巨根に手を触れながら、心の中で呟く。

もう2度とここには来れないとばかり思っていたが、敵の生き残りが確認された以上、『勇者』改め『武神』に選ばれた自分達が戦場に出向くのは必然だ。

 

「レーダーの情報によれば、敵は一体のみです。あと数分で、森を抜けるかと」

 

いち早く端末のレーダーで敵の位置を確認する昴がそう語るように、前回の総攻撃と比べれば、体の機能の一部が欠損している身ではあっても、14人がかりなら、さほど苦にはならない筈だ。

 

「一体だけならチョロいもんよ!」

「だからってあまり油断するなよ、銀」

「今回の敵で延長戦も終わり。ゲームセットにしましょう!」

「そうね! 絶対逃がさないわ!」

「その意気だ。準備も整った。全員構えるんだ!」

 

藤四郎が先陣を切るように叫ぶと、その場にいた一同はアプリを起動し、勇者、武神姿へと姿を変えた。

と、ここで冬弥がある事に気づく。

 

「あり? 巧先輩、その右足……」

「これって……、東郷さんと同じやつだよね?」

「右足の機能がままならない今、東郷のようにサポートがつくようだな」

「僕の右腕と、藤四郎先輩の左腕にも同じようなものがつけられてますね」

「戦闘時に支障をきたさないようにする為なのかもな」

 

巧の右足のみならず、真琴の右腕と藤四郎の左腕には、白い帯のようなものが取り付けられており、東郷の両足と同様に、欠落した機能を補助する役割を担っているようだ。

その一方で、園子は己が衣装の、お腹の部分に刻まれている花びらの紋章に目をやっていた。満開の使用後なのか、アップデートされた状態で戻ってきたからなのか定かではないが、ゲージは空になっている。

それを確認して少しばかりホッとする園子だが、ここから戦いが始まれば、否が応でもゲージは溜まっていく事になる。大赦の思考に今一つ共感できない彼女の表情は、いつになく真剣そのものだった。

そんな園子の表情を横目で見て少し心配になった東郷が声をかけるよりも早く、風のハツラツとした声が遮った。

 

「んじゃあ、またアレやろっか!」

「了解!」

「ほんと好きよね、こういうの」

「先輩が体育会系気質だしな」

 

そんなこんなで一同は、2ヶ月半ほど前と同じように、円陣を組み始める。

 

「さぁ! 敵さんをきっちり昇天させてあげましょ! 勇者部ファイトォ!」

『オォ!!』

 

一致団結した14人の少年少女達は、今いる場所を離れて、見晴らしの良い場所へと飛び移る。

レーダーの反応に従いながら現場に急行すると、ようやく一同の視界に、残党と思わしきバーテックスの姿を捉える事に成功する。

……のだが、全体像を把握した一同は首を傾げる事となる。

 

「ん? あれって……」

「あの変質者ってさ……。前に、樹と冬弥が倒したやつじゃないっけ?」

「そ、そうッスよね? 確かにおいらと樹が倒したやつと似てるッス」

「元々2体いるのが特徴のバーテックスかもしれません」

「2体でワンセット……。双子って事?」

「名は体を冠する、か」

 

視界の先で忙しなく全身している小柄なバーテックスの正体は、以前の決戦において、1年生組が満開を行使して倒した、『双子座』をモチーフとした『ジェミニ・バーテックス』と酷似するものだった。巧が言うように、双子を意味するのであれば、同じ個体が2体存在しているのも納得がいく。前回の戦いに参加してこなかった方が壁の外に留まり、今回侵攻して来たという事だろう。

 

「ま、何れにせよ、やる事は同じ! 止めるわよ!」

 

夏凜がそう叫ぶように、敵である事には違いない為、神樹の破壊を阻止するべく、夏凜は前に出ようとする。

ところがどういうわけか、夏凜以外の面々はその場から動こうする気配がない。

 

『……』

「(精霊の増えた人と、そうでない人。違いが満開にあるとしたら……)」

「(このまま戦いに出向く事が、本当に正しいのか……? 俺達は、とんでもないものに足を踏み入れようとしてるんじゃ……)」

「そう、よね。やらないと……」

「(園子の忠告通り、大赦の動きも怪しいが故に、慎重にならざるを得ない……。けど……!)」

「? どうしたのよ真琴。さっきテンションあげたばかりじゃ……」

「! そ、そうですよね。僕達がバーテックスと戦わないと……」

 

いつになく弱腰に見える真琴。いくら気の小さい彼といえど、ここまで竦む姿は見た事がない。

その原因を探る夏凜だが、真琴の右腕を見て、すぐにその理由を悟った。

 

「(! そっか……。みんな、また体のどこかにダメージが来るんじゃないかって、怖くなったんだ……)」

 

これが少し前の夏凜であれば、『何弱気になってるのよ! だらしないトーシロ共ね!』などとけなしていただろうが、勇者部との関わりを深めるうちに、どうしても彼らの身の安全を気にかけるようになってしまった。故に彼らが躊躇う気持ちも、大雑把ではあるが理解できてしまう。

勇者としての戦いと機能の欠損は関係ないと大赦から言われているが、それでも不安を隠せないようだ。こればっかりは達人だろうが素人だろうが、拭えぬ不安要素だろう。

現状、満開を行使していないのは、夏凜1人。他の面々が気落ちしている今、体に異常のない自分こそが、前に出て戦うのが相応しい筈だ。

 

「……問題ない! それなら私が」

 

1つ唾を呑みこんで、足に力を入れて飛び上ろうとしたその時。

 

「よぉぉぉぉぉぉぉぉぉし!」

 

人一倍迫力のある声が樹海内に響き渡る。夏凜にはその声の主がすぐに分かった。その人物は自身の頬を両手でパチンと叩いて気合いを入れている。

 

「友奈ちゃん……?」

「ちょ、お前! そんな近くで大声出すなよ⁉︎ 心臓止まりそうだったぞ……」

「アハハ……。驚かせちゃってゴメン、兎角」

 

耳を抑える兎角に謝りながら、友奈は先輩達に確認をとる。

 

「先輩! あの走ってるのを封印すれば、生き残りも片付くんですよね?」

「う、うん」

「じゃあとっとと終わらせて、文化祭の劇の話をしましょう!」

「賛成! あたしも久々に暴れるとするぞ! 勇者は根性!」

 

と、言うが早いか、友奈だけでなく、ほぼ同時に銀が双子型めがけて飛び上がった。

 

「あ、待ちなさいよ! 私も!」

「友奈、夏凜、銀!」

「あいつら勝手に……!」

 

慌てて呼び止めようとする風と藤四郎だが、時すでに遅しとは、まさにこの事。

 

「俺達も向かうぞ!」

 

続いて兎角も飛び出し、それに呼応する形で、残りの面々も前線へと向かう。

元々の基礎身体能力が高い夏凜は、すぐに先行していた2人に追いつく。

 

「ここは私に任せなさいっての! ……って言っても聞かないだろうから」

「へへっ! さすが夏凜だな!」

「連携して行くわよ!」

「うん!」

 

そうして3人は一丸となって、駆け抜けていく双子型へと突進していく。

 

「逃がすかぁ!」

「行くわよ!」

 

3人は拳を突き出し、息を揃えて向かっていく。

 

「「「せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

 

三位一体となって放たれた一撃は、的の小さい双子型を外す事なく命中し、地面に延びた。

 

「やった!」

「いや、また動き出すぞ!」

 

銀がそう叫ぶように、双子型もすぐさま体制を立て直そうと、起き上がって走りだそうとする。

 

「させるかぁ!」

 

と、そこへ双子型の背中越しにサーベルが突き刺さり、地面にうつぶせの状態で固定されると、なおも素早く動く両足に散弾が降り注ぎ、煙が晴れると、その動きは完全に停止していた。

 

「兎角! 真琴君!」

「先走り過ぎだっつぅの。けど、ナイスな連携だったぜ」

「ぼ、僕も戦います!」

 

双子型に突き刺さったサーベルを引き抜く兎角と、隣に降り立つ真琴の姿が確認された。遅れて風を筆頭に勇者達が続々と双子型の周りに集まる。遊月と東郷は遠方から援護する為、皆から少し離れた位置に陣取っている。

 

「どうだ、東郷?」

「他に敵影なし。あいつさえ倒せば……」

「この延長戦も最後、か」

「頑張りましょう、この美しい御国を守る為に!」

「あぁ!」

 

そうして2人は、再び起き上がろうとする双子型の頭部を撃ち抜き、今度こそ、バーテックスの動きは封じられる事に。

 

「ナイス2人とも!」

「このまま封印の儀に取りかかるぞ!」

「殲滅開始!」

「バーテックス!」

「大人しくしやがれ!」

 

12人の勇者達が、各々の武器と精霊を呼び出し、中心にいる双子型に向けて封印の儀を行使する。

そうして力を失った双子型の下半身から、心臓部とも呼ばれる御霊が飛び出し、後はそれを破壊するだけなのだが……。

 

「何……⁉︎」

「数が多い……⁉︎」

「多過ぎッスよ!」

 

双子型から出てきた御霊は、1つひとつは小さいが、総数はざっと百を超える。以前樹と冬弥が倒した際は、満開による一撃だった為、封印の儀を介さずに倒した事になる。故に双子型を封印する際の情報が何一つ得られていないのだ。

こうなった以上、本物を仕留めるまで力技で片付けていくしかないのだが、その一方で藤四郎には一つの懸念があった。

 

「(闇雲に攻撃する事は、即ち満開ゲージを溜める事を意味する。正直、それが危険な行為だと言うのは皆も肌で感じ取っているはず……。だが、このまま手をこまねいていては、瘴気が広がって現実世界に悪影響が出る……!)」

 

藤四郎がそう考えるように、足元を中心に、樹海は枯れ始めており、これ以上拡大すれば、災害として現実世界へのダメージは免れない。そうなれば、かつての友がそうだったように、必要のない犠牲が生み出されてしまうかもしれない。

ならば今の自分がすべき選択は……。

そしてその思いは、風も同じだった。

 

「あたしがやるわ!(他のみんなに、やらせるわけにはいかない!)」

「! 風!」

 

覚悟を決めたように大剣を握る風。慌てて呼び止めようとする藤四郎だが、それを遮るように、夏凜が声高らかに双剣を握りながら叫んだ。

 

「トドメは私に任せてもらうわよ!」

「夏凜⁉︎ やめなさい、部長命令よ!」

 

動揺を露わにし、夏凜を止めようとする風だが、興奮気味の夏凜には通用しない。

 

「ふんっ! 私は助っ人で来ているのよ! 好きにやらせてもらうわ!」

「! やめ」

「ハァァァァァァァァァァァ!」

 

不意に藤四郎の声を遮るように、上空から灼熱の光が御霊めがけて下降していく。ハッとなって見上げると、降ってくるそれは、隕石ではなかった。

 

「勇者ぁ! キィィィィィィィィック!」

 

傍らに新たな精霊として追加された火車を従え、左足を突き出しているのは、言わずと知れた結城 友奈。

その強烈な蹴りは、偽物と思わしき御霊を次々と焼き払っていく。そうして個数も減り、数える程にまで減ったところで、更なる追撃が。

 

「ハッ! ハッ! ハァァァァァァァァァァァ!」

 

右肩に天照を乗せた兎角が、目にも留まらぬ速さで、残りの御霊をサーベルで突き刺し、破壊していく。そしてそのどれかが本物の御霊だったのだろう。残されていた御霊を含め、双子型の本体は砂となって消滅し、光は天に召されていく。

 

「やった! やったよ兎角!」

「とりあえず、お互い何事もないようだな」

「うん! 成せば大抵何とかなるね!」

「おーい!」

 

互いの無事を確認する友奈と兎角の元へ、夏凜達が詰め寄る。遠くにいた遊月と東郷も合流を果たす。

 

「思ったより簡単だったね、みんな!」

「いやいや、そうじゃなくて……!」

「ちょっとあんた達! 何で勝手に……!」

 

不意に言葉を詰まらせる夏凜。2人の右手の甲には満開ゲージが刻まれており、それぞれ、花びら1枚分が貯められている。御霊を破壊する為に力を振るった影響だろう。それを見た一同の表情が曇る。2人もその視線に気づいたのか、友奈は笑いながら申し訳なさそうに口を開く。

 

「ご、ゴメンね。新しい精霊の力を使いたくて、つい先走っちゃった」

「そんな事だろうと思ったぜ。友奈だけじゃ色々と危なっかしいから、俺も行使しただけだ。まぁそれでも勝手に行動したのは事実だしな。先輩方にも心配かけてすいませんでした」

「あ、あぁ……。ヒヤッとはしたが、反省してるなら、それで良いんだ……」

「で、大丈夫なのか?」

「体は平気?」

「大丈夫! 元気そのものだよ! ねっ、兎角」

「そう、だな。特にこれといった不調はなさそうだし」

「良かった〜」

 

遊月と東郷を筆頭に、同級生組が2人を気遣う。

そうこうしているうちに、辺りが花びらに包まれ始めた。敵もいなくなり、樹海化が解けようとしているのだ。

 

「みんなに怪我なく終わって良かったぁ」

「ゆーゆらしいね〜」

「ま、終わり良ければ全て良し、だな!」

「やれやれ……」

「これで本当に、終わったんだな」

「……あぁ(多分、な)」

 

前回はその激しさ故に、気にも留めなかったが、こうして落ち着いて見ると、名残惜しい気もする。もう少し、この世界の事を、神樹様の事を知りたかったな、と思いつつ、遊月の視界は白い光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し離れた所から、部活動に励んでいる生徒達の声が聞こえてくる。そしてそれは、世界を守れた事を意味しているのだ、と屋上の祠の前に戻された友奈達に示されるものであった。

 

「はぁ……! これで終わったのね」

「そうですね」

『お疲れ様です』

「う〜ん! お腹空いたな!」

「ペコペコッス!」

「じゃあじゃあ! これから打ち上げって事で、うどん食べに行きましょう!」

「賛成!」

「待ちなさい友奈!」

「? どうしたの夏凜ちゃん?」

「うどん、食べたくないのか?」

 

早速祝勝会とばかりに、喜び勇んで『かめや』へ向かおうと、足を動かそうとするが、唐突に夏凜がそれを遮る。戦いが終わったにも関わらず、その表情はどことなく険しい。

 

「食べるわよ! でもその前に友奈!」

「は、はい!」

「あんたは今夜、うちに泊まりなさい! そこでみっちりお説教を……!」

「えぇ⁉︎ せっかく良いムードだったのに⁉︎」

「それとこれは別! あんた、勝手に動いて私達がどれだけ心配したか……!」

「だ、だから大丈夫だって……!」

「夏凜が友奈を心配するとはね。これも成長の表れってとこかしら」

「そ、そんなんじゃないし! と、とにかく友奈! 今言った事忘れないように!」

「ふぇ〜ん! よくわかんないけど夏凜ちゃんに怒られた〜⁉︎ 兎角助けてぇ⁉︎」

「……ま、今回は諦めろ」

「そんな〜……」

 

がっくりと肩を落とす友奈。それを見て、屋上にいる14人の少年少女達からは自然と笑みが溢れて、笑いの渦を巻き起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハ。俺もそうやってよく親友に怒られたものだ。それだけ期待されてるのだから、たまには聞いてやっても良いんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……否、訂正しよう。

屋上にいたのは、『勇者部員』だけではなかった。

 

「えっ……?」

 

不意に見知らぬ声が聞こえてきた為、一同は一斉に振り向く。振り向いた先に見えたのは、人影。

筋骨隆々な、屈強な男性。それが、友奈達が感じた第一印象だった。そんな男が、ゆっくりとこちらに向かって歩み寄ってくる。

 

「ようやく、会う事が出来たな」

 

そう呟きながら、胸板の厚い男は笑みを浮かべ、友奈達の前に立った。しかしその視線は、何故か遊月や東郷、銀、巧、園子、昴に向けられているような気がしてならない。

 

「……えっ? 誰、ですか?」

「兄貴、知ってるんスか?」

「いや、初めて見る顔だ……。少なくとも、ここの学校の先生ではなさそうだが……」

「学校の関係者じゃないって事は……。大赦の……?」

「でも、見た事ないわよ。私も真琴も」

「君達の事は、人伝ではあるが、聞かせてもらっていたのさ」

 

それにしても……、と、男性は先程から視線を向けている6人の全体像をマジマジと見つめながら、どこか懐かしむように呟き始める。

 

「あれから、たった2年ほどとはいえ、肉体的にも精神的にも、ひと回りもふた回りも成長しているようだ。時の流れが早いとは、この事だな」

「えっと……。ひょっとして、東郷さん達の知り合い?」

 

友奈が、男性と東郷ら6人の関係性を聞き出そうとするが、当の本人達は首を傾げるばかり。

 

「……いいえ。初対面だわ」

「僕も、です」

「う〜ん……。とてもインパクトある人だけど、全然覚えてないや〜」

「あたしもさっぱり……。巧は?」

「……俺も、身に覚えがない」

「……」

 

などといった返答を聞き、男性の表情が僅かに翳ったのを、兎角は見逃さなかった。そして、一つため息をついて口を開く。

 

「! ……そうか。そうだったな。晴人君はともかく、他の5人は、あの戦いで記憶を喪失しているんだったな……」

 

これを聞いて、6人は動揺する事となる。

 

「! 今、何と言った……!」

「どうして、僕達の記憶が無い事をご存知なんですか……⁉︎ その事を知っているのは、ここにいる部員や家族しか知らない筈です……!」

 

限られた人物達にしか知らない筈の情報を握っている事に、その場にいた数人は警戒心を強める。

その一方で、遊月は別の意味で引っ掛かりを覚えていた。

 

「はる、と……」

 

その言葉を呟いた途端、今朝と同じような痛みが頭を駆け巡り、思わず片手で抑えてしまう。男性の口から出てきた、全く聞いた事のない名前のはずなのに、自分の中で、その単語が密接なものだと勝手に認識してしまうのだ。

しばらく目を瞑っていた男性だったが、唐突に口元を緩めて、フッと笑みを浮かべた。

 

「いや、失敬。かつての弟子達を前にして、つい気が緩んでしまった。俺の事を覚えていなくて当然だったな」

「! やっぱり、あなたは僕達の事を前から知っているようですね」

「あんた、一体何者なの?」

 

夏凜が呟いた事は、その場にいた少年少女達の疑問を代表するような内容だった。

 

「あなたは……」

 

初めて対面した筈の男性。なのに、彼を見ていると、懐かしさを感じさせる。

失われた記憶のピースである事は明白だ。だからこそ、遊月は聞きたくなった。この男性の正体を。この男性が伝えようとしている、その全てを。

 

「あなたは、何者なんですか? どうして、ここにやってきたのですか? 教えてください」

「……うむ。だがその前に、自己紹介から始めよう」

 

素性が分からんままでは、話し合いにもならないからな。

そう言って、男性は深呼吸をすると、『あの時』のように、ハツラツとした姿勢で口を開いた。

 

「俺は『源道』。かつて、神樹館小学校で体育教諭を勤め、同時に、君達6人のサポートを担当していた者だ」

 

 




遂に『ゆゆゆ』編にも登場を果たした源道。

彼の口から語られる、残酷な真実を前に、勇者達の運命は……。


〜次回予告〜


「どうして、あたし達が……⁉︎」

「せめてもの、償いだ……!」

「そうだったんだ〜……」

「それじゃあ、俺達は……!」

「こんなのって、アリかよ……」

「思い、出せない……!」

「俺、は……!」


〜供物 〜満開から散華へ〜 〜
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