結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

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公式を通じて、また新たな勇者部五箇条が発表されましたね!

現時点で判明しているのは、『ゆゆゆい』の新章追加と、キャラソンCDの発売決定だけですが、前回の流れから察するに、ゆゆゆの3期、もしくはまさかの『乃木若葉は勇者である』(もしくは『楠芽吹は勇者である』)のアニメ化の可能性もあり、非常に期待が高まっております!


28:降り積もる不安

「勇者は、決して死ねない……。それに、体を供物として捧げる……か」

 

昨日と打って変わって、空模様の悪い午後。藤四郎はいつものようにチュッパチャプスを口に咥える……事なく、呆然と屋上から見える景色を見つめながら、丸一日前にこの場所で告げられた事実を復唱する。その隣にいる風も似たような顔つきだった。

一夜明け、気持ちの整理がつかない部長と副部長は、自然な流れで屋上へと足を運んでいた。何となく、外の空気を吸いたい気がしたからだ。されど、昨日のお役目が終わった直後に現れた、源道と名乗る男性から告げられた言葉が脳裏にこびりついており、今現在の天候と相まって、気分は優れない。

 

「藤四郎……」

「正直な話、俺はまだあの男が言っていた事を鵜呑みには信じられない。いくら遊月達と関わりのある人物とはいえ、満開の後遺症の事が真実だという確証はない……はずだ。……ただ」

「ただ?」

「満開の後、俺達の体の身体機能の一部が欠損しているのは事実。それがあの男の言う通り、供物として神樹様に捧げられたかどうかまでは分からないが……」

 

力なく首を横に振る藤四郎。

風も、源道の言葉を簡単に信じる気は無かった。大赦に勤めているとは言うが、それまで見ず知らずの人物が目の前に現れて、満開を行使する事のリスクをこのタイミングで話されても、信用には値しなかった。

しかしその一方で、彼女は知っている。入部した当初から体の機能が欠損していた人物が6人もいた事を。源道曰く、彼らは2年前に勇者や武神としてバーテックスと戦っていたらしい。しかし彼らにその当時の記憶はない。2年経った今となってもその症状が治る気配すら無いとなると……。

 

「……じゃあ、あたし達の体は、もう、元には戻らないんじゃ……!」

 

マイクを片手に笑顔で歌う、最愛の妹の姿が脳裏をよぎり、不安が姉を支配する。そんな彼女を慰めるように、右肩に手を置く藤四郎。

 

「そう簡単に肩を落とすな。満開の後遺症が起こるべくして起きたものだとしても、絶対に治らないと決めつけるには早すぎる」

 

確かに、自然治癒では難しいが、何かしらの手術を施せば、失った機能が回復する可能性は、現時点では否定できない。

まだ悲観に浸る場合ではない。気持ちを奮い立たせた風は小さく、ありがとう、と告げる。

 

「俺の方でも引き続き調査を進める。園子も以前から大赦のやり方に疑問を抱いていたようだからな。あいつの方がパイプも太いだろうし、協力して解決策を探ってみようと思っている。もしかしたら、風にも手伝ってもらうかもしれないが、その時は、申し訳ないが頼むぞ」

「任せなさい! 勇者部の部長として、ここで気落ちしてたら部員の士気に響くものね!」

 

午後の授業も控えている為、2人は教室に戻る事に。丁度そのタイミングで、頭に水滴が落ちてきた。地面が濡れ始める中、風は呆然と空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『消防等の調査によると、東西およそ4000平方メートルに渡って、地面に陥没やひび割れが発生しました。幸い、通行人や民家等に被害はありませんでした。原因は地盤沈下と推測されており、地盤の状態など、詳細の究明を急いでおります』

 

テレビのニュースを通して、昨晩起きたとされる事故が報道されているが、『かめや』の席にただ1人、ポツンと座る風は見向きもしなかった。

この日は依頼もなく、部室で簡単な作業を済ませた後、樹らと肩を並べる事なく学校を出た風は、そのまま例の如く、腹ごしらえを済ませる事に。

不意に目の前に、美味しそうな肉ぶっかけうどんが映り込んだ。顔見知りの、かめやの女店長が注文した品物を運んで来てくれたようだ。

 

「最近、みんなと一緒に来ないのね?」

 

どうやらここ最近、風が1人だけでこの店に訪れる事に、店長は疑問を抱いていたようだ。

 

「あ、あの……。ちょっと今、友達の調子が悪くて……。まぁでも、すぐに治りますよ! そいつには、あたしの女子力とこの店のうどんパワーを注ぎ込んでおきますから! うどんと女子力は万病に効きますからね!」

「うふふ。凄いのね!」

「それで、友達の調子が戻っ、たら……、そしたら、また来ます、みんなで!」

 

そう告げると、風は冷めないうちにと、器を持ってうどんを啜り始めた。店長に心配かけさせないようにと、いつも以上に勢いよく食べ始める風だったが、その姿勢が逆に店長にある種の不安を抱かせている事に、本人は気づいていない様子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

学級日誌を職員室に届けるべく、風は1年生の教室が並ぶ廊下に差し掛かっていた。その道中で、樹の後ろ姿を目撃する事に。彼女の前には、クラスの友人らしき姿も。樹はスケッチブックに何かを書き込むと、それをクラスメイトに見せる。散華によって声帯を失った彼女は日常生活においても、こうして会話する他ないのだ。

 

「……じゃあ、また今度ね」

 

クラスメイトは、少し残念そうな顔をしてその場を去った。その様子が気になった風は、後ろからスケッチブックを覗き込む。そこには、『ごめん。日曜は用事があって……』と記されていた。

 

「今のって、クラスの友達でしょ?誘われたんだったら、行ってきたらいいのに」

 

いくら妹愛が強くても、流石に友人との遊びを拒むほど気が小さくない風は、そう催促するが、樹は少し間を置いてから、スケッチブックにこう記した。

 

『カラオケで歌うのが好きな人たちなんだ』

「……っ」

『私がいると、気を使ってカラオケ行けないから……』

「でも……!」

 

眉間にしわを寄せながら、風が口を開こうとしたその時、2人の前に女教師が現れた。

 

「あら、犬吠埼さんのお姉さん?」

「……あ。樹の担任の先生」

 

それは樹のクラスを受け持っている、ベテランの教師だった。二者面談の際に顔を合わせているので、知らない仲ではなかった。

 

「……あの。この後、少し時間は取れますか?」

「? 大丈夫ですけど……」

 

教師の言い方に首を傾げる風だったが、職員室に日誌を届けた後、少人数教室に入り、席を挟んで向かい合う事に。

そして開口一番、教師が樹に関する事を話し始める。

 

「樹さんの今の状態は、一部の授業に支障が出ております」

「えっ……⁉︎ あの子が、誰かに迷惑をかけたんですか……?」

「いえ、他の子に、ではなくて、樹さんご自身の問題で……。音楽の歌の練習や、英語の会話の練習なども、樹さんは出来ませんし……。ある程度は授業内容を変える事で対応しておりますが、あまり露骨な変更は、逆に樹さんが気に病まれるでしょうし……」

 

確かにそうかもしれない。後遺症がいつ治るかも分かっていない状態では、教師の対応通り、授業内容を変更しても、何れどこかでそのサイクルが壊れてしまう。その結果他のクラスメイトに影響が出てしまっては、その親達からのバッシングは避けられない。事態が思った以上に切迫している事を改めて自覚した風は、改めて樹と相談してみる方針を伝えて、教師に頭を下げた後、2人で教室を後にした。

その後ろ姿を、シンと静まり返った廊下の片隅から、2人の人影が見つめていた。藤四郎と園子である。用事があって通りかかった際、偶然にも風と教師の会話を耳にして、そのまま隠れる形で事の次第を把握していたのだ。

 

「……分かってはいたが、私生活への影響は計り知れないな」

「いっつんも大変だね〜。大赦がもっと早くサポートしてたら、こんな事にならなかったのに〜」

「……」

 

こんな事なら、もっと前から探りを入れるべきだったか、と改めて大赦に対する不信感を募らせる藤四郎であった。

 

「……でも〜」

「……?」

「それ以上に大変なのは、ふーみん先輩だと思うんよ〜。最近ずっと溜め込んでばかりだから、ちょっと危ない感じかも〜……?」

 

園子曰く、風は誰にも晒す事なく何かを溜め込んでおり、それがいつ爆発してもおかしくない状態にあるそうだ。藤四郎も、風の後ろ姿を見て、不安を隠さずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……大丈夫。きっと治るから。医者だって治るって言ってたんだから……)」

 

藤四郎と園子に見られていた事など露知らず、そのまま帰宅した風は夕飯の支度に取り掛かった。味噌汁の味を確かめ、頃合いと見た風は、隣の部屋にいるであろう樹に声をかけた。

 

「樹〜。ご飯出来たわよー」

 

が、いつまで経っても姿を見せない。寝ているのだろうか。そう思って火を止めた風はエプロンを脱いで、扉を開ける。予想通り、樹は腕枕をして、勉強机に向かって伏せていた。相変わらず愛くるしい寝顔だが、昼間の事を思い出すと、どうしても気分が優れない。それでも起こさないわけにはいかない為、風は肩を揺すって彼女を起こした。

そうして向かい合った状態での食事が始まるわけだが、あの戦い以降、会話が弾む事はなかった。加えて一昨日は源道から残酷な事を告げられ、今日は放課後の件も相まって、今夜は重苦しい空気が漂っているように感じてしまう。

その原因が樹本人にあると自覚してしまっているのではないか、と不安を募らせる風は、少しでも解消するべく、口を開いた。

 

「あー、えっとさ!」

「?」

「ほら、ここんところずっと天気良くないよね? カバンに折り畳み傘とか、持ってった方が良いよ? いつ雨が降るか分からないから!」

 

樹はコクコクと頷くが、それ以上会話が発展しないように感じた風は、別の話題に切り替える事に。

 

「えっと……。そういえば、学園祭の劇、そろそろ練習を始めないとね。体育館のステージとか借りて、バーンと稽古を!」

「……」

「ん? どしたの樹?」

 

不意に浮かない表情を見せる樹。その答えは、彼女がスケッチブックに記した内容にあった。

 

『私、セリフのある役はできないね』

「……あ、そっか」

『だから、舞台裏の仕事をがんばるね』

 

地雷を踏んでしまった事に気付いて、息を詰まらせる風は、どうにかして妹を励ます。

 

「だ、大丈夫だって! 治るよ! きっと、学園祭までには……!」

 

それに対し、樹も微笑みながら頷く。まだ気を遣っているのかもしれないが、とりあえずホッとする風。

 

「(……そうよ。絶対治る。だってみんな、何も悪い事なんてしてないじゃない……)」

 

夕食の後片付けを終え、手鏡を持った風は、眼帯をめくって左目を確認する。相変わらず、光は宿っていない。依然として治癒する気配はない。

それから端末を手に取り、メールボックスを確認する。昨晩、『満開後の身体異常について、何か分かった事は無いでしょうか? 勇者部員13名、未だに治る兆候はありません。調査の程、よろしくお願い致します』と、大赦宛にメールを送信したのだが、未だにその返事は返ってきていない。その事が、不安を更に掻き立ててしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、有明浜の海岸沿いでは、木刀を打ち合う音が聞こえてきた。例の如く、夏凜と銀が模擬戦を行っているのだ。が、ものの30分もしないうちに、2人の息が上がり始め、遂にはピタリと足を止めてしまった。

 

「ハァッ、ハァッ……。ど、どうしたのよ銀。ず、随分とバテるのが、早いじゃない」

「そ、そういう夏凜も、だ、大分息が、切れかかってるぞ……。ハァッ、ハァッ……」

 

これ以上やっても身にならないと判断し、2人は鍛錬を早々に切り上げる事に。砂浜に腰を下ろした2人は、並んで夕暮れに染まった空を見上げた。息を整える為、しばらく会話は無かったが、ようやく先に口を開いたのは、銀だった。

 

「……なぁ、夏凜?」

「何よ」

「夏凜はさ。あの源道って人が言ってた事、どう思う?」

「どうって……。そんなの、信じられるわけないでしょ!」

 

夏凜は空を見上げながら、語気を強めてそう宣言する。彼女としては、大赦が自分達に嘘をついているなどと信じたくないようで、源道の事もほとんど信用していない様子だ。そしてそれ以上に……。

 

「(真琴も、銀も、他のみんなも……。このまま治らないなんて、そんなの受け入れたら、そこまでじゃない……! 認めるもんですか、こんな事……!)」

 

拳を固く握り締める夏凜。それから気を落ち着かせた後、顔だけを銀に向ける。

 

「……なら、あんたはどうなのよ? あの男とは、一応密接な関係はあったんでしょ? 信用できるの?」

「う〜ん……。一応そういう流れにはなってるみたいだけど、あたしは全然覚えてないや……。でも、あの人が嘘ついてるような気はしないんだよな……」

「! それって……!」

「正直、信じたくはないけどな……。けど、それが本当の事なら、もうどうしようもないけど……」

 

ため息をつきながら今後の事を考える銀だったが、これといった解決策は思いつかない。

 

「……いっその事、神樹様に直接聞いてみるのもアリかもな。だって勇者システムも武神システムも、神樹様の力があって成り立つものだろ? だったら」

「そんなの無理に決まってるでしょ⁉︎ 私もそうだし、あんたも、きっと園子だって神樹様に問い詰める事なんて出来ないわよ! 大赦が認める訳ないし、第一そんな事したら、罰当たりだけじゃ済まなくなる……!」

「わ、分かってるって。どうしても、って時にはそのやり方もアリじゃないかなって思っただけ」

 

慌ててなだめる銀を見て、ホッとする夏凜。しかしその一方で、銀の意見をまんざら否定出来ない心情も残っていた。

 

「(でも、みんなの後遺症を治す方法がそれしかないんだとしたら……。真琴や銀の為にも、私も腹をくくらなきゃならないわね)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか。やはり樹も気にかけてる様子か」

「そうッスね。先生も色々と工夫して、音楽だけじゃなくて、他の授業でも、樹だけ当てないようにしてたんスけど、結構責任感じてるみたいッスよ」

「劇の事もある。そろそろ対応策を考えておかないとな……」

 

同時刻、藤四郎と冬弥は、竜一の墓参りをするべく、墓地へと歩いていた。その道中で話題になったのは、クラスの中での樹に関する事だった。廊下で盗み聞きした通り、樹の声帯が麻痺している事実は、授業や放課後の活動にも悪影響を及ぼしていた事が判明し、2人も風と同様に頭を悩ませていた。

 

「おいら達、これからどうなるんスかね……?」

 

不意に、不安げな声を出す冬弥。彼もまた、散華によって嗅覚を失っており、源道の言う通り、このまま治る事がないとなると、どのように生活していけば良いのか、未来を不安視しているのだ。

その様子を見て、藤四郎は責任を感じていた。

 

「(もっと早く、大赦の歪さに気づいていれば、冬弥も、風達も、こんな事にならずに済んだはず……。こういったところの詰めの甘さは竜一にも指摘されてたが、あいつがいなくなった今も、相変わらず、か)」

 

そうして竜一の眠る墓の前に立ち、手を合わせながら、こう問いかける。

 

「(俺は、どうすればいいんだ……? お前なら、どうやってこの真実に立ち向かっていくんだ……? 俺に、これから先もみんなを引っ張っていく資格はあるのか……?)」

「……にき、兄貴?」

「!」

「そろそろ目を開けてもいいんじゃないんスかね? ずっと黙りっぱなしじゃ竜一の兄貴も心配するッスよ」

「そ、そうか……」

 

そう言って後片付けを済ませると、すぐに墓地を後にする2人。

 

「兄貴も不安スよね?」

「えっ……」

「だって兄貴も当事者なんスから、不安になるのは当たり前ッスよ。だから、その……。無茶だけはして欲しくないんスよ! 兄貴はおいらだけじゃなくて、勇者部みんなにとっての、兄貴なんスから! 何かあったら、おいら達にドーンと頼ってくれて、いいんスからね!」

「みんなにとっての……」

「そうッス!」

 

朗らかにそう答える冬弥。それを見て、少しばかり気が楽になるような感覚を覚える藤四郎。

 

「……ありがとう。正直、お前がこうして隣にいなかったら、どこかで折れてたかもしれない」

「兄貴?」

「なら、その時が来たら、頼ってもいいか?」

「もちろんッス!」

 

堂々と胸を張る冬弥を見て、藤四郎は決意する。

 

「(竜一。俺にも分かってきた気がする。仲間がいる事の大切さが。だからこそ、みんなは俺が、守ってみせる)」

 

と、その時だった。懐にしまってあった端末が鳴り、手に取ってみる。NARUKOを通じてメッセージを送ってきたのは、東郷だった。

明日、大事な話がある、との事だった。

 

 

 




そういえば今日から『シンフォギア』の5期が放送されますね。前回の不安な終わり方から見て、嫌な予感しかありませんが、しっかりと結末を見届けたい所存です。


〜次回予告〜


「見てもらいたいものがあります」

「あんた……!」

「違う、と言いたいのか……?」

「……あぁそっか〜」

「大赦は、ずっと……!」

「あたしの、せいで……!」


〜突きつけられた結論〜


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