結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
6箇条目が依然として分かっていないので、内容が気になるところです。
さて、今回は遂に同級生同士の対決に決着が……!
徐々に進行速度を上げて、神樹の結界内に入り込む獅子型。その巨体の前には、砲台を兼ね備えた戦艦のような乗り物に足をつけている、朝顔の勇者。
彼女が見据える先には、彼女を止めようと立ち上がった、7人の少年少女の姿が。
「市川……晴人、君……」
その小さな呟きは、7人いる勇者達の中心に立つ、薙刀を構えて真っ直ぐにこちらを見つめている武神に向けられた。
「須美……! 今助けてやるからな! みんなも、力を貸してくれ……!」
「勿論だよ! 絶対に東郷さんを守ってみせる!」
「そうだな! ……けどよ、まさかこのタイミングで遊月の記憶が戻るなんてな」
「正直、記憶がないから呑み込めないが、本当に俺達の仲間だったんだな」
「おうよ巧! 今なら分かるぜ。巧だけじゃない。昴や銀、園子、そして須美と過ごした、短いけどたくさん詰まった思い出が、ちゃんとここに刻まれてる! その思い出を糧に、俺はみんなを救ってみせる!」
遊月……もとい晴人は気迫のこもった表情で左胸に拳を打ち込む。友奈達もそれに鼓舞するように、足に力を込める。
やがて獅子型に動きが見られた。中央の輪っかの部分が左右に分かれて、炎の壁が形成されると、そこから炎に身を包んだ星屑が召喚され、次々と兎角達めがけて侵攻してきた。
「いっぱい来たよ〜!」
「怯むな! こいつらを倒して……!」
「東郷さんの所へ!」
「みんな、行くぞ!」
そうして7人は一斉に飛び上がり、特攻とも見て取れる攻撃を掻い潜りながら、東郷の元へと向かう。
敵の数は一向に減る事を知らず、次々と迫ってくる。それでも彼らは臆する事なく、ひたすらに前だけを向いている。ふと、東郷に目をやると、彼女は獅子型が出した星屑に狙われてはいるものの、冷静に近づいてきた星屑を撃ち倒している。その表情には、もの悲しげな雰囲気が。
「(やっぱり須美の奴、表情に迷いが出ている……。だからこそ、止めなくちゃいけないんだ……!)」
その戦闘を目撃した、風と藤四郎は……。
「東郷の奴、自分への攻撃をかわしながら、あのバーテックスを護衛しているのか。神樹様に向かわせる為に……」
「早くあいつを、封印しないと……!」
段々とこちらに向かってきている獅子型を止めるべく、そして部員達の援護に回るべく、立ち上がろうとする2人だったが、依然として足に力が入らず、その場に座り込むほかなかった。
「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
友奈達は果敢に星屑を撃退し、ようやく獅子型が直線上に見えてきた所で、砲撃が彼らに向かって降り注いだ。園子が槍を展開し、薙ぎ払う形で相殺する。
「ダメよ、みんな」
その砲撃を仕掛けた張本人は、なおも張り切る彼らの気力を削ごうと、小さな砲台を向かわせる。7人はそれぞれの武器を駆使してこれを破壊していった。しかし時間もかけてはいられない。ここで手間取っていては、獅子型が再びチャージして攻撃をいつ仕掛けてくるか分からないからだ。
「くっ……!」
「止めろ東郷!」
「そいつがたどり着いたら、私達の世界がなくなっちゃう!」
友奈達も必死に説得するが、相手は聞き入れるつもりはないようだ。
「それで、いいの。……一緒に、消えてしまおう。大丈夫、私も、一緒に……」
「……んなの、いい訳、ないだろぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
晴人がそう叫んだ瞬間、7人を中心に、7つの花が咲き誇る。友を、大切な人を救う為なら、後で背負うリスクなど、気にも留めない。そんな姿勢が表れているように、彼らは躊躇う事なく満開を行使する。さながら、先んじて再生した11体のバーテックスを殲滅するべく、満開や精霊降ろしを行使した2人の仲間のように。
『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』
7人は勢いよく跳躍し、迫り来る星屑を昴と園子が薙ぎ払い、巧と銀が武器を振るって獅子型にダメージを与える。そこへ間髪入れずに友奈の4つの拳と、兎角の巨大なレイピア、そして晴人の巨大な薙刀による突きが直撃し、獅子型の体が崩れていった。そして剥き出しになったのは、バーテックスの心臓部とも言われる、逆四角錐の物体。
「御霊だ!」
「あれをぶっ壊せば!」
「ダメ!」
銀が真っ先に飛び出るが、東郷の放った砲撃が行く手を阻む。砲台は7人に狙いを定めており、迂闊に御霊に近づく事が出来ない。先に東郷を止めなくてはならない。そう肌で感じた7人は、再度説得を試みる。
「この世界には……! 何も知らずに暮らしている人達が大勢います! その人達の明日を、僕達の都合で奪ってはいけないんです!」
「そうだよ! 私達が諦めたらダメだよ!」
「何故ならそれが」
「勇者だって言うの⁉︎」
「……っ!」
兎角の声を遮るように、東郷が悲痛な叫びがこだまする。
「そうやってずっと他の人の為に、自分の幸せを犠牲にし続けるの⁉︎」
「違うぜ須美! それを犠牲だなんて、俺は思わねぇ! 俺達の努力して頑張った結果が、他の人を助けられるんなら、俺は迷わず……!」
「他の人なんて関係ない! だってそうでしょ⁉︎ 一番大切な友達を守れないのだったら、勇者になんかなる意味がない……! 頑張れないよ……!」
すると、周囲に散らばっていた星屑が、御霊に集結し、再び怪物の姿に戻ろうとしているのが確認できた。想像以上に再生スピードが早い。手を打とうにも、涙を流す東郷がそれを許さない。
「……遊月君、みんな。あのままジッとしていれば良かったのに……。眠っていれば、それで何もかも済んだのに……。もう、手遅れだよ」
そうしてトドメを刺そうと、一斉に砲撃を放つ東郷。ほとんどの者が動けない中、たった1人、巨大な盾を形成し、砲撃を防ぐ者が。
「すばるん!」
「まだ手遅れと決めつけるには早すぎます! だから、僕が諦めるわけにはいきません! この盾は、その為に!」
「昴の言う通りだ! 今ならまだ、バーテックスを封印できる! まだ、終わりじゃない……!」
「壁だって、後から直せばいいだけだ! そんな単純な事、どうして分かんないんだよ東郷! あたしより頭いいくせに!」
「そんな事を言ってるんじゃないの! 単純な事なんかじゃ、ないよ!」
砲撃の威力が更に増し、徐々に押され始める昴。そんな彼を背後からサポートする園子。
「戦いは、終わらない。私達の生き地獄は、終わらないの……! こんな酷い仕組みの言いなりになって生きている事が、地獄なんだよ!」
「須美!」
ハッとなる東郷。今はもう思い出せない、かつての名前で自分をそう呼んでいる少年の瞳には、眩しくて目を背きたくなるほどの輝きが満ちているように感じられた。
「俺はこの世界を、地獄だなんて思わねぇ! この世界が、神樹様が守ってくれた時間があったから、俺はお前に出会えた! 神樹様が俺に力をくれたから、お前や、ここにいるみんなと繋がりを得られたんだ! そしてこれからも……! お前と一緒に生きていたいんだ!」
「そうだよ東郷さん! どんなに辛くても、私が守る!」
友奈も続けざまに声をかけるが、東郷も負けじと反論する。
「散華を続ければ、何れ大切な気持ちや想いをなくしてしまう! 私達6人がそうなったように! 忘れちゃいけない事だって忘れてしまうんだよ? 大丈夫なわけないよ!」
それは、当事者だからこそ言える事なのだろう。東郷のその心情は攻撃に変換され、更に威力を上げる。危険と判断した兎角が、乗っていた巨大な白馬を操作して、他の6人を押し出すようにその場から離れた。砲撃は地面を抉り、7人は軽く吹き飛ばされながらも体勢を整える。
「また、遊月君達の事だって忘れてしまう……! そればかりか今度は友奈ちゃんや兎角君、先輩達に、樹ちゃんや冬也君の事だって……! それを仕方がないなんて、割り切れない! 一番大切なものをなくしてしまうなら、いっそ……! でも、今は死ぬ事さえ出来ないんだよ! それを地獄じゃないって、どうしてそう言い切れるの⁉︎」
ありのままの感情をさらけ出す東郷。友奈と兎角の胸を締め付ける。だがそんな中でも、この少年の心は折れなかった。
「忘れるかよ! 忘れるわけ、ないだろ!」
「何でよ遊月君! どうしてそう言えるの⁉︎ あなただって……!」
「俺が、むちゃくちゃそう思っているからに決まってるだろ!」
「っ!」
「確かに俺は、2年前のあの戦いで、記憶をなくし、何も気づかないまま、お前と同じ時間を過ごしてきた……! けど、今はこうして全部覚えたまま、ここに俺がいる! 強い気持ちがあれば! 心にしっかり刻み込んでいれば! 俺はずっとお前の事を忘れないでいられる! 今は散華でみんなは記憶が戻ってないけど、だったら俺が刻み込んでみせる! みんなと過ごしたあの時間を! 楽しい事も辛い事も、沢山あった日々を! そしてあの時果たせなかった約束だって! 必ず成し遂げてみせる! その為に、俺は戦う! 生きるんだ!」
「……私、だって」
「!」
「私達も、きっと戻ってくるって……! そう思ってた……!」
東郷も、ずっと思い出そうとしていた。合宿で泊まった旅館において、夜明け前に向かい合って、失われた記憶に関する事を話し合っていた際、彼の恐れぬ姿勢に感銘した東郷は、大切だったはずの思い出を取り戻そうとした。しかしその想いは届く事なく、今に至る。
故に東郷は……。
「今はただ、『悲しかった』という事しか、覚えていない……! 自分の涙の意味が、分からないのぉ!」
遂に癇癪を起こした東郷が、砲撃を四方八方にばら撒き始めた。樹海化した世界にダメージが入ると、それに比例して現実世界に悪影響が出る。その事を分かっていて止めないのは、彼女の中で感情がコントロールできていない証拠だ。逆を言えば、今は頑なだった東郷の心に隙が生じている。
それに気づいた園子は、声を張り上げた。
「わっしー!」
普通なら『みもりん』と叫ぶ所を、敢えて『わっしー』と、かつて目線の先にいる少女に慣れ親しんでいたであろう呼び名で叫ぶ園子。
無論、彼女はかつての記憶を思い出した訳ではない。ただ、東郷がかつて自分と一緒にバーテックスと戦ってきた事、そして『鷲尾 須美』という名がつけられていた事を知ってから、自然とその単語が浮かんできたのだ。自分でもしっくりきている事を感じつつ、園子は叫ぶ。
「わっしー! 自分に負けないでぇ!」
それに呼応するかのように、巧、昴、そして銀も続く。
「須美!」
「須美ちゃん!」
「須美! 目を覚ませ!」
「やめて! もうやめてぇ! その名前で、私を呼ばないで! もう思い出したくない! 思い出す意味なんてない! 思い出したって、結局また失うだけなのにぃ! そんなのもう沢山よぉ!」
頭を抱えながら、荒れ狂うように叫ぶ東郷。砲撃の威力が更に増しているのがハッキリと見て取れる。
「嫌だよ! 怖いよ! きっと遊月君もみんなも! 私を忘れてしまう! だから……! こんな世界ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
不意に砲撃が止んだ。
ハッとなって顔を上げると、全ての砲台が、友奈、兎角、銀、巧、園子、昴によって動きを封じられている。砲撃を掻い潜り、いつのまにか接近していたようだ。そしてガラ空きとなった真正面からは……。
「須美ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「!」
本当は、こんな形で解決するのは良くないかもしれない。それでも、ぶつからなければ、分かり合えない事だってある。背中越しに見える、大切なものを守る為、そして、目の前で悲しんでいる少女を救う為に。
『間違った事を止めてあげるのも、友達の役目なんじゃ、ないでしょうか?』
あの時、失意に暮れていた自分に、真琴がそう声をかけてくれた。彼の言う通りだ。
そしてその為に、小さな砲台を薙刀で弾き、男は拳を握る。
鈍い音と共に、崩れ落ちる東郷。体に力が入っておらず、戦意は今の一手で喪失したようだ。
拳を解いた晴人は、すぐに彼女に駆け寄り、申し訳なさそうな顔をしながら、ゆっくりと抱き上げた。
「……悪いな、俺って意外と不器用だから。こうするしか、お前を止める方法が思いつかなくてさ。だから、ゴメンな」
でも、やっと手が届いた。
そう言って優しく抱きしめる晴人。離れようとする東郷だが、体に力が入らず、ただ晴人の体にもたれかかるしかない。
「もう、離さない。絶対に、忘れない」
「うそ……」
「うそじゃない!」
「……うそよ」
「うそじゃない!」
「うそよ!」
「うそじゃない!」
「だって……!」
「うそじゃない!」
執拗にそう答え、体を密着させる晴人。他の6人も、彼らを囲むようにやってくる。
「……本当に? ずっと……、ずっと、そばにいてくれるの……?」
「当たり前だ。俺はずっと、一緒にいる。何があっても、お前のそばにいる。そうすりゃ忘れないさ」
表情を緩めて、笑みを浮かべながら、東郷の涙を拭う晴人。
それでも溢れてくる量が多いのか、拭いきれていない。その頃には、東郷の腕にも力が戻って来ていた。
「う、ウゥ……! 怖いよ! 離れたくないよ! 忘れたくないよ! 私を、1人にしないでぇ!」
晴人の背中に手を回して、感情を爆発させる東郷。ようやく素の東郷 美森が戻って来た。そう確信した友奈達は、ホッと一息つく。そして晴人も、なるべく綺麗な髪の毛が傷まないように、優しく頭を撫でながら、こう呟く。
「約束する。だから全部片付いたら、2年前に交わした約束も果たそうぜ。……みんなで、イネスで祝勝会するって事をさ」
拳で解決……。
そういえば『リリカルなのはdetonation』でも最後の方で、なのはがそんな事してましたね。間も無く開催される『シンフォギアXD』とのコラボイベントでも、同じように拳を握る立花 響とどのように絡むのか、非常に楽しみです。
さて、次回でいよいよ1つの戦いに終止符が……!
〜次回予告〜
「早く止めないと……!」
「気合い入れろぉ!」
「勇者は根性ぉ!」
「全部乗せだよ〜!」
「勇者部ファイトォ!」
「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
〜咲き誇れ〜