結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜 作:スターダストライダー
さて、話は変わりますが、今回はこの章の間にどうしてもやっておきたかった事をやります。
「「……あ」」
よく晴れた日の朝。休日の駅構内にて、遊月と東郷がバッタリと出くわし、思わず出た第一声は、互いに唖然とした表情から溢れ出た。
「は、晴人君?どうしてここに?貴方もお出かけなの?」
「そ、そういう須美こそ、遠出の予定があったんだな」
「え、えぇ。実は少し前に、玄関の郵便受けに、差出人のない封筒が入ってて……」
これを聞いた遊月は眉を顰める。
「封筒……?ひょっとしてこれの事か?」
そう呟いて、手持ちの鞄から取り出した封筒を見せる遊月。東郷は目を見開く。
「!そうよ晴人君!貴方も持っているという事はもしかして……」
「じゃあ目的地は一緒になるわけか。ならこのまま一緒に向かおうぜ」
「!えぇ、勿論!」
興奮した顔つきで首を縦に振る東郷。2人で並んでいられるのが嬉しいようだ。定刻通りにやってきた電車に乗り、目的地に向かってゆっくりと讃州市の街並みを通り過ぎていく。
しかし、2人の注目は外の景色に向けられる事はなかった。
「……けど、一体誰がこんな手紙、というか招待状を?いたずら、って感じでも無さそうだし」
改めて、2人が手に持っている手紙の内容を確認する遊月。
『神世紀300年○月×日、午前10:00頃に、神樹館小学校の校門前にお集まりください。また、私服でも構いませんが、なるべく身だしなみを整えるように心がけてください』
「神樹館小学校で何かが行われるのは間違いなさそうだな。何か、お役目と関係してるのか……?」
「それに、身だしなみの事まで書かれているのも変ね。服装にこだわる理由が、未だによく分からないわ」
2人の疑問は尽きる事なく、目的地にほど近い駅で降車。そのまま並んで、紅葉に染まった並木通りを通り抜け、指定された場所が見えてきた所で、前方からやってきた高級車が、校門前に止まった。
見覚えのある黒光りの車から降りてきたのは、これまた見知った顔ぶれの面子だった。
「!そのっち、昴君!」
「あ〜、わっしーとイッチーだ〜!」
「!お二人もここに用事があったんですね!」
「じゃあ、昴達も……?」
車から降りてきた昴と園子に駆け寄る遊月と東郷。車はそのまま近場の駐車場に止めるらしく、走り去っていった。残された4人は予定になかった会合に驚きつつも、ここに来るまでの経緯を確認し合う事に。
「じゃあ、昴達もあの招待状を……」
「私達はてっきり、そのっちが何かを催しているんじゃないかと思ってたわ」
「えへへ〜。それはそれで良いかもだけど、今回は違うんよ〜」
「でも、この4人が共通して招待状を受け取っているという事は、もしかしたら……」
何気なく呟いた昴の予想は、すぐさま的中した。
「はざーっすみんな!」
「やはりお前らも来てたか」
足音を立てて後方から駆け寄ってきた銀と、遅れてのんびりと歩いてきた巧の姿を見て、納得した表情を浮かべる一同。
この2人もまた、謎の招待状を受け取っており、小学校に向かっていたようだ。……銀のトラブル体質、もとい人助けも込みで、やや遅れていたようだが。
「けど、ますます分からなくなったな。招待状は俺達6人だけに送られてきたって事になるだろ?」
「友奈ちゃん達には来てないのかもしれないわね。友奈ちゃんだったら真っ先に相談してきそうだから」
「それは違いないな」
「何か忘れ物でもしたっけ?それを取りに来い、的なノリだったりして」
「そんな大袈裟な……」
昴が返答に困惑する中、時刻は約束の時間の5分前となり、校舎から人がやってくるのが見えた。その人物もまた、6人にとって顔馴染みだった。
「うむ!みんな揃ってるな!」
「!師匠!」
「先生だ〜」
「源道先生?もしかして貴方がこの招待状を?」
「いや、俺が書いた訳ではないが、君達をこれからある場所へ連れて行く為の案内役として、俺が出向いたまでだ」
主催者では無かったとはいえ、どうやら源道はこれから行われる事について間接的に関わっているのは間違いなさそうだ。ますます首を傾げる一同を見て、源道は笑みを浮かべながら、東郷達を連れて校内に入る。
校舎を通り過ぎて彼らが止まった先には……。
「体育館、だな」
巧がそう呟くように、小学生の時には慣れ親しんだ体育館がそびえ立っていた。ふと聞く耳を澄ませると、中から話し声と思しき声が飛び交っているのが確認できた。かなりの人数が館内に収容されているようだ。
一体何が起ころうとしているのか。6人の疑問を他所に、源道は閉じられていた扉を軽くノックする。すると、中から聞こえていたざわめきはピタリと止み、少し間が空いた後、中からマイクを通じて、声が聞こえてきた。
『只今より、神世紀300年○月×日、神樹館小学校卒業式、第二部を、開催いたします』
そんなアナウンスが終わると同時に、中から演奏が鳴り響いてきた。6人の思考が停止する中、源道が引き戸を開け、体育館の中に入るように催促する。
戸惑いながらも入場した6人を待っていたのは、自分達と同い年くらいの男女が、拍手をしながら迎え入れていたり、手に持っていた楽器で入場曲を演奏したりしている光景だった。
アッと声を上げる遊月。記憶が戻っているからこそ、彼はすぐに理解した。自分達を迎え入れてくれている面々は、背丈こそ変わっていたが、何人かの顔には見覚えがある。皆、かつて6年1組として共に育んできたクラスメイトだ。瀬戸大橋跡地の合戦後、学校に来る事もなくなった6人は、当然ながら当時のクラスメイト達に会う事さえなかった。それが今日、約2年ぶりに顔を見れたとあっては、驚きを隠せない。
「東郷さん!」
「よう遊月、みんな!」
すると横手から、讃州中学勇者部の面々が6人に向かって歩いてきた。
「友奈ちゃん、みんな!」
「何でみんなここに?」
「はいはい、細かい話は後よ。とりあえずこれをつけなさい」
そう言いながら夏凜が銀の胸につけたのは、薔薇のコサージュ。同様に、友奈は東郷に、兎角は遊月に、真琴は巧に、藤四郎は昴に、風は園子に同じものをつけた。ふと前方に目をやると、壇上の上に設置された看板には、『神樹館小学校卒業式 第二部』と明記されており、『第二部』の部分だけが手書きとなっている。準備が整った所で、6人は盛大な音楽やクラスメイト、そして6人の家族に迎え入れられながら、前方に設置されていた6つのパイプ椅子に陣取る。
定位置についた所で音楽が止み、全員が起立すると、国歌を斉唱した後、司会の進行のもと、卒業証書の授与式へと移行する。最初に呼ばれたのは遊月だった。壇上に上がると、担任だった安芸が、証書を開いて読み上げる。
「市川晴人。貴方は、神樹館小学校の全課程を卒業した事を、ここに証します。神世紀300年、○月×日、神樹館小学校6年1組担任、安芸」
そう読み上げた後、卒業証書を閉じて、小さくおめでとう、と呟きながら、遊月に差し出す。それを遊月が受け取ると、後方から惜しみなく拍手が送られた。その後も昴、巧、園子、銀、そして東郷の順に証書が授与された後、全員で『仰げば尊し』を歌い上げ、簡略的ではあったものの、遊月ら6人にとって初めてでもあり、本当の意味で次のステップへ進む為の儀式は、大成功を収めたと言っても過言ではない。その証拠に、東郷が必死に涙を堪えながらも、歌い上げている姿が、このサプライズを企画した友奈と兎角の脳裏にしっかりと焼き付いていたのだ。
式は終わったものの、それだけでは物足りないだろうと、安芸の案内で、参加者全員が体育館から6年1組の教室へ移り、そこで軽食を交えながらの交流会が始まった。話題の中心人物はなんといっても、久しぶりの再会となった遊月ら6人であり、机に並べられた料理に手をつけるよりも先に、6人に群がって近況報告をし合う形となった。クラスメイトの殆どが附属の中学校に通っており、今尚お役目を果たしている者もいるとの事。その為クラスメイト全員が参加できたわけではないそうだが、この企画が持ち上がった際に、安芸が当時のクラスメイトに声をかけ、皆で秘密裏に準備を進めて、6人に喜んでもらえるような事をしてきたのだ。
そうして和気藹々と交流会が続き、ようやくひと段落ついた所で、遊月ら6人は、クラスメイトから離れて、この企画を立ち上げた面々に挨拶をしに行った。
「よっ!本日の主役!」
「どうみんな?楽しんでくれてるかな?」
「勿論よ友奈ちゃん。みんなから聞いたんだけど、友奈ちゃんが企画してくれたんだよね?」
「うん!でも私だけじゃないよ。最初に兎角と相談して、それから夏凜ちゃん達と一緒に考えたんだ!」
「本当にありがとうございます!……でも、どうして今になってこのような企画を?」
「そうそれ!あたしも気になってたんだ」
昴と銀がそう尋ねると、兎角がその疑問に答えた。
「それは、こないだみんなと一緒に思い出巡りをしただろ?あの時アルバムとか見せてくれた時にさ、友奈が気が付いたんだ。お前らの卒業写真らしいものが全然見当たらないって事にさ」
6人の視線が友奈に一斉に向けられると、本人は照れる様子もなくあっけからんと答えた。
「うん。だって東郷さんもみんなも、2年前に勇者になって、みんなの為に頑張ってたのに、みんなみたいに卒業式にも出られなかったんでしょ?そんなの、思い出がみんなより一つ減って、損しちゃってるよね?勇者だからって、特別扱いされるのって、嫌でしょ?だから、今からでも東郷さん達には、うーんと幸せになってもらいたいの!兎角にも相談したら、私達の手で卒業式を開いてみようって思いついたの!」
「そういう訳だ。兎角と友奈から話をもらって、俺達も賛同して、こうして準備を進めてきたって訳だ」
「結構苦労したのよ?あんた達にバレないように、勇者部の依頼とかを使って、上手い事引き離したりしてたんだから」
「なるほど、言われてみればここ最近は、僕達6人での活動が多かったような気がしますね」
昴が納得のいった表情を浮かべる。
「でも僕達だけでは大変だったので、安芸先生にも頼んで、当時のクラスメイト達にも応援を呼んでもらったんです」
「その甲斐あって、式は大成功となった訳です」
「喜んでもらえたみたいで良かったッス!」
「何かこういうの、恥ずいけど悪い気はしないな!」
「……あぁ。ありがとな」
銀は金太郎を抱きながら照れ笑いを浮かべ、巧は普段見せないような笑みを浮かべてそう呟く。
「兎角」
「?遊月どうした?」
「……ありがとう。お前と会えて、本当に良かった」
「良いってもんよ。これからもよろしくな」
互いに拳を突きつけて、感謝の気持ちを伝える兎角と遊月。
長いようで短く感じた交流会も、名残惜しい形ではあるが、時間を迎え、締めに向かっていく。最後の挨拶として、代表して遊月が黒板の前に立ち、皆の視線が集まる中、口を開いた。
「え〜、色々と驚く事は多々ありましたが、本日は俺達の為にこの卒業式並びに交流会を主催して下さった勇者部の皆さん、そして師匠、安芸先生、クラスのみんな、そして父さん、母さん、婆ちゃん。俺達の思い出にまた一つ、新たな1ページを刻む事が出来ました。本当に、ありがとうございます。みんな、これからも大変な事が多々あると思いますが、一人一人が勇者となって、困難にもめげずに、周りの人達と支え合いながら、一歩ずつ前進していきましょう。最後に改めて申し上げます。本日は俺達にとって、遅咲きとなる新たな門出にお力添えをいただき、本当に、ありがとう!」
遊月の堂々とした挨拶が終わり、周りから盛大な拍手が巻き起こる。6人は自然と目線を合わせ、そして笑みを浮かべる。
そうして最後に集合写真を撮り、彼らのアルバムにまた一つ、新たな思い出が刻まれた。
その写真は今尚、遊月の部屋のドアに飾られている。
少し短いかとは思われますが、この辺で。
今回私がこの話を作った理由は、友奈が語った通りのままです。考えてみたら、本編では東郷も園子も、病室生活であったり祀られたり(銀は……言わずもがな)と、あのハロウィン以降の期間、空白の時間を過ごしていると考えたら、『何だか思い出が一つ減って可哀想だな』と考え、だったら多少強引にでもこの話を作って、前章に一応の決着をつけてみては良いのでは、と考え、このような展開にしました。気に入ってもらえたら何よりです。