結城友奈は勇者である 〜勇者と武神の記録〜   作:スターダストライダー

91 / 127
大変長らくお待たせしました。

諸事情でリアルが忙しかった為、間が空いてしまいました……。

それと、皆さんは『アサルトリリィ  last bullet』をプレイしてますか?思ったより凝った内容で、サービスも悪くない感じですので、オススメします。

では、久々の戦闘回をどうぞ。


1:変身と新たな個体と謎の声

「まさか、またこの光景を目にするなんてな……」

 

遊月がそうボヤくように、14人の少年少女達の眼前に広がる、摩訶不思議な世界を前にして、一同は困惑を隠しきれない。

 

「ま、まさか、これも夢……だったりするのかな……?」

「なら、また試してみよっか〜」

「お、おいらも!」

 

そう言って友奈、園子、冬弥の3人が腕を伸ばし、それぞれの頬をつねる。が、ヒリヒリ痛むだけで、景色が移り変わる事はなかった。

 

「イタタ……」

「やっぱ夢じゃ無さそうッスね……」

「完璧に樹海だな……」

「しかも、いつの間にかあの端末も戻ってきてるしな……」

 

巧がそう呟くように、一同の手元には、既に大赦に返納されたはずの、変身用のアプリがダウンロードされていた端末が握られている。

 

「!師匠がいない⁉︎……ってそうか。ここが樹海なら、勇者や武神じゃない師匠達の姿が無くても当たり前か……」

 

遊月が辺りを見渡し、先ほどまで一緒にいたはずの源道や安芸の姿がない事を確認する。

 

「でも、どうして樹海化したのでしょうか……?大赦によれば、しばらくの間は敵も再生に時間がかかるとの見解で、侵攻までに猶予があったはずですけど……」

「!そうか、世界が樹海化したという事は……!」

 

真琴の意見を聞いていた藤四郎が慌てた様子で、端末を操作する。もう自分達にその役は回ってこないだろうと油断していたからか、基本的な事を見落としていた事に気づいたようだ。彼に続き、他の面々もアプリを起動してレーダーを表示する。

程なくして、彼らの予想通りの展開が。

 

「!アプリに反応が……!」

「敵だ!」

 

樹と銀が声を張り上げ、一同はレーダーの、赤く点滅している部分を示す方角に目線を向けた。肉眼ではまだ遠すぎる為、全貌を確認できないが、何かがこちらに向かってきているのは認識できた。

これを見た風は、声を震わせる。

 

「じょ、冗談でしょ……?またあたし達が、戦うって訳?また、そんなの……」

「落ち着け、風。どうやら向かってきているのは星屑だけのようだ」

「バーテックスの姿は、今の所は無さそうですね。それなら、これだけの人員があれば、個人の負担は軽減させられるかもしれません」

 

藤四郎は風の肩を叩いて、気持ちを鼓舞させる。昴もそれに続き、敵が星屑だけである事を伝えた。噛みつき攻撃が厄介とはいえ、驚異的な再生力を誇るバーテックスと比べれば、倒せない相手ではない。以前戦った時は、膨大な数の存在が彼らを苦しめたわけだが、幸いにもざっと数えて100体程しか見えない為、比較的早く終息しそうだ。

 

「そこまで激しい戦いにはならなさそうだな」

「何にせよ、やるしかないようね」

「はい。戦ってから、その後の事を考えましょう」

「私達が抜かれたら、神樹様に辿りつかれちゃうもんね!」

「そうなったら、全てが終わりだ。そんな事、させるわけにはいかない」

「こうも早く、戦いが始まるとは……!」

「よぉ〜し、頑張るよ〜。エイエイオー!」

「お、お姉ちゃん、私も頑張るから!」

「!樹、みんな。ありがとう」

 

妹の頼もしい姿勢を見て、姉も気持ちを奮い立たせたようだ。全員の覚悟が決まった所で、一同は並び立つ。

 

「何で復活したのか知らないけど、そっちがその気なら、殲滅してやるわ!」

「ヘヘッ、久々の戦闘だ!この三ノ輪銀様に、任せときな!」

「讃州中学勇者部、出動よ!」

 

部長の掛け声と共に、一同はアプリの画面をタップし、その身を光や多量の花びらが包み込む。やがて光が解けて、一同の姿は数ヶ月前に、壁の外から侵攻してきた敵と戦う為、神樹から与えられた力を身に纏った姿に変身。各々が所定のポジションにつき、戦闘を開始した。

結果は火を見るよりも明らかだった。如何に勇者や武神としての非日常を終えたと言っても、その感覚はまだ体に染み付いている。星屑の攻撃を難なく回避し、各々が武器を用いて直線的に薙ぎ倒していき、ものの5分もしないうちに、敵の影は見えなくなった。

 

「殲滅、確認しました!」

「ヘヘッ。これくらいお茶の子さいさいってな!」

「よくその言葉思いついたな、銀」

「みんな無事のようだな」

「樹、大丈夫?怪我はない?」

「うん!お姉ちゃんこそ大丈夫?」

「平気へいき!冬弥とか夏凜とかの心配でもしてあげて」

「おいらは全然平気ッスよ!」

「つーか完成型勇者をナメないでよね!ピンピンしてるわ。コツは日々の鍛錬と煮干しとサプリと、煮干しね!」

「煮干しを強調してる……」

「やっぱりにぼっしーはブレないね〜」

 

敵が見えなくなった所で、一同はリラックスタイムに入る。勇者部らしいやりとりを前にして、遊月もホッと一息つく。

 

「ふぅ、何とかなったな」

「お疲れ様、晴人君。戻ったら先生達と今回の件で相談して、それからまたゆっくりお茶菓子を堪能しましょう。今度は2人きりで、ね」

「?何で2人だけなのかは分からないが、疲れた後は甘い物、ってのは悪くないな」

「でしょ?うふふ」

「……見てるだけで甘ったるいというか、目線を合わせづらくなるな」

「アハハ……」

「安定のラブラブですな〜」

 

うっとりとした表情で遊月と距離を詰める東郷を見て、巧はげんなりし、真琴は苦笑し、園子はうんうんと頷く。あの戦いの後、互いに気持ちを伝え合って以降は、今まで以上に関係性が深まってきているのは、部員のみならず、クラスメイトでもちょっとした話題となっている。加えて、病院で目覚めた直後に2人が熱いキスを交わした事を、天然体質を持つ友奈や園子がうっかりクラスメイトにバラしてしまった事もあって、黄色い声が飛び交う事もしばしば。それでも2人はさほど気にする事なく、体を密着させている。

そんな中、友奈と兎角の幼馴染みコンビも肩の力を抜いている。

 

「う〜ん!久々だったから緊張したけど、何とかなったね!」

「だな。それじゃあこの後は先生達に……って、あれ?」

「?どうかしたの、兎角?」

「……変だな。もう敵の姿は見えないのに、何で樹海化が解けないんだ?」

「あれ?そう言われてみれば……」

 

兎角と友奈が首を傾げていると、兎角の疑問に答えるかのように、昴が慌てた様子で叫んだ。

 

「大変です!レーダーに、敵の第2波を確認!それに今度は……、バーテックスの姿も!」

「何⁉︎」

 

昴はレーダーと前方を交互に見ながら、敵の姿を確認した。敵の総数は、先ほどと変わってはいないようだが、彼らが着目したのは、星屑の後方からゆっくりと向かってきている、ピンク色の巨大な異形だった。見間違いでなければ、それは自分達が生きているうちは、もう二度と見る事がないと、たかを括っていた存在だった。

 

「あれは……乙女型⁉︎」

「やはり再生していたのか……⁉︎けど、何でこんなにも早く……⁉︎」

「大赦の観測が見誤っていた……とか?」

「ま、またこいつと戦うんスか⁉︎」

 

などと口々に会話が飛び交う中、風は焦りの表情を見せる。

 

「冗談じゃないって……!まだまだ戦えるけど、これ以上やって、もしもまた……」

 

風の最大の懸念は、戦い続ける事による、満開ゲージの蓄積と、それを機に発動してしまう満開、そして散華による後遺症である。神樹のお陰で供物として捧げられた部分は戻ってきているが、今回も同じようになるとは限らない。風のみならず、副部長の藤四郎も、苦々しい顔つきだ。

しかし誰かがやらなければ、防衛ラインを突破されてしまうかもしれない。ならば、と迷わず友奈が飛びあがろうとした、その時だった。

 

『大丈夫です。皆さん心配しないでください。全力で戦い抜いても、影響は出ません』

 

それを聞いて思わず立ち止まる友奈。他の面々も、困惑したような顔つきだ。

 

「え?今のって、誰の……?」

「友奈にも、聞こえたのか?」

「女の人の声、ですよね……。でもどこから?」

「まるで直接心に響いてくるような……」

「安芸先生の声か?でも何か違う感じがするし……」

 

銀が呟くと同時に、再び全員が謎の声を捉える。

 

『安芸さんも、源道さんも、私と一緒にいます。ですから、今は戦ってください』

 

今度ははっきりと、心に直接語りかけてきているのが分かった。そしてその声色は、今まで聞いたことのない人物のものだとも認識する。しかし不思議と警戒心が浮かんでこなかった。

 

「この人の声、温かい……」

「よく分からないけど、やっぱりここは戦うしか無さそうよ、風」

「くぅ、敵さんめぇ……。お断りだって言うのに、次から次へと押し寄せて……。そういうしつこいタイプは嫌われるってのにね、全く」

「またモテる人っぽい事を言ってる……」

「いつものフーミン先輩に戻ったね〜」

「けれど、僕達に語りかけてくるこの声は、一体……?」

「よく分からないですけど、何だか連戦の緊張はほぐれたような気がします!」

「なら、このまま……!」

 

謎の声の正体が気になる所だが、先ずは敵の殲滅が第一だ、という事で、一同は第2派の全貌を確認する。と、ここで何人かが眉を顰める事に。

 

「?敵の中に、見た事のない個体がいます!」

「バーテックスに似てるけど、違う……?」

「魚……かな?魚……じゃないかな?魚……かな?」

「どっちなんだよ……」

 

友奈の発言に項垂れる兎角。とはいえ友奈の気持ちも分からなくはない。その個体は、12星座をモチーフとしてきたバーテックス程の体長ではないが、星屑とは違った存在感を漂わせている。

 

「新型のバーテックスかな〜?」

「にしてはフォルムが別物のような気がするが……」

「でも、レーダーではちゃんと敵として認識されてるみたいだな」

「うーむ。何を考えているのか分からない表情が不気味だわ。敵ってこんなのばっかりよね」

「あ、それ分かるな。たまにやるゲームの敵キャラって結構凝ってるし」

 

風と銀がそう語る中、友奈が声を張り上げる。

 

「よーし!結城友奈、燃えてきたので、ここは一つ、私があの新型に仕掛けてみます!」

「!待て友奈!敵の力が未知数である以上、お前1人では行かせられない!」

「で、でも先輩……」

 

藤四郎に呼び止められ、戸惑う友奈。そんな彼女の肩を叩いたのが、兎角だった。

 

「みんなで行けばいいってだけの話だぜ」

「兎角!」

「心配すんな。どんな敵だろうが、俺達が力を合わせれば、勝てない相手じゃない筈だ。今までだってそうだったし、今度も同じ事だ」

「……うん、そうだね!ゴメンね、つい焦っちゃって」

「やれやれ。友奈らしいわね」

「優しすぎるってのもあるけどな……」

「よぉし、連戦行くわよ!」

「とにかく、あの新型の動きには常に細心の注意を!晴人君、須美ちゃん、後方から敵の動きを確認してください!」

「「了解!」」

「新型だろうと何だろうと、殲滅あるのみ!目指すは完全勝利よ!」

「行くぞ!」

 

そうして彼らは地面を蹴るように進軍し、敵もそれを見て、一気に加速する。中でも新型の敵は、魚に近い見た目も相まってか、乙女型のみならず、星屑をも上回るスピードを遺憾なく発揮し、勇者達の包囲網を突破しようとしている。

 

「くっ!絶妙に早いな!」

「友奈ちゃん!そのまま真っ直ぐ向かって!」

「うん!ヤァァァァァァァァァァァァァ!」

 

友奈が渾身のパンチを繰り出すが、敵はいとも簡単にすり抜けてしまう。双子型よりも回避能力が高いようだ。

 

「これじゃあキリがないな……!」

「あの新型ばかりに気を取られているわけにもいかないしな……!」

 

兎角がそう呟いている間にも、頭上から卵型の物体が降下して、回避した地点が爆発する。乙女型が尾から爆弾を発射しているのだ。星屑はある程度殲滅したが、このまま強敵と認識した2体を同時に相手するのは難しい。打開策を考えていたその時、少し離れた位置から敵を観察していた園子が目を輝かせた。

 

「ピッカーンと閃いた!」

「お!久々のピッカーンだ!」

「それは今気にする所じゃないだろ。それよりどうすれば良い!」

「わっしー!そこから、開けた場所が見えたりする〜?」

「開けた場所……。7時の方角に見えるわ!」

「じゃあ、いっつんをそこの高い所に案内して〜」

「わ、私をですか⁉︎」

「私とミノさんとにぼっしー、それからとっくんで、あの敵を追いかけるよ〜!」

「なら、残ったメンバーは……」

「あいつの封印、だな!」

 

園子の作戦の全貌は分からないが、かつて勇者の隊長であった彼女の言葉を信じ、彼女に選抜されたメンバーは、園子の後を追う。そして残った面々は乙女型の対処にあたる。

園子から作戦を聞かされたメンバーは、一旦散開する。新型を後方から追いかけているのは、園子だった。距離は一定に保たれている。新型が横に移動しようとすると、銃弾がそれを遮る。高台から東郷がライフルで阻害しているようだ。そうして敵は一直線に向かっていき、ようやく先ほど園子が指摘した、開けた場所に姿を見せる。

新型の進行方向に、人影があった。レイピアを構える兎角だ。正面からくる敵を迎え撃とうとしているようだ。前は兎角、後方は園子。更に左右から挟み込む形で、夏凜と銀が姿を見せる。前後左右を挟まれた敵に向かって、4人は武器を下から掬い上げるように振り回す。そこで新型がとった回避行動は、上空へ飛び上がるものだった。

 

「いっつん!」

 

だが、それを待ってましたとばかりに、園子が合図を送ると、新型の上空を、網状に散りばめられた細いワイヤーが覆う。

 

「えーい!」

 

東郷と同じ高台にスタンバイしていた、ワイヤーを振り下ろした樹は、新型を絡め取る。ワイヤーに縛られて身動きが取れなくなった新型はそのまま地面に落下した。

 

「おお!これぞまさしく網漁だな!」

「作戦通りね!」

「良いぞ樹!」

 

銀が語ったように、園子の立案とは、即ち魚を捕まえる為の方法を応用したものだった。開けた場所で前後左右を挟んだ4人が攻撃すれば、敵も素早く回避する。ならばその回避場所を限定させられれば、樹が張った網状のワイヤーで捕らえるのも容易い。魚型のバーテックスのように地面に潜り込まれないように、武器を下から掬い上げるように攻撃したのも、園子の指示によるものだ。

 

「このまま、一気に行くぜ!」

 

兎角がいち早くダッシュし、レイピアを突き出し、ありったけの力を注ぎ込んで、新型に突き刺した。敵は地面を転がり、動かなくなると同時に、砂となって天に昇っていった。

 

「!封印の儀を介さずに消滅……。やっぱりバーテックスとは少し違うのかもな……」

「やったな兎角!」

「ったく、美味しいところだけ持ってくんだから!」

「無事解決だね〜」.

「あぁ、園子と樹のお陰だな」

 

兎角はそう呟き、高台に見える、今回の立役者である樹や、後方支援をしていた東郷に向かって手を振る。2人に笑顔で手を振り返していた。

一方で、乙女型を倒す事に専念していた友奈達も、決着がつこうとしていた。

 

「そぉれ!」

 

冬弥のハンマーで乙女型の動きを麻痺させた間に、各々が乙女型を取り囲むように位置につく。

 

「位置につきました!」

「じゃあ久々に、封印の儀をやるわよ!」

『了解!』

 

一同は慣れた手つきで、バーテックスを唯一消滅させられる手法『封印の儀』に取り掛かる。乙女型は抵抗する事なく地面に倒れ、体内から、逆四角錐の物体が飛び出してきた。バーテックスの心臓部である御霊だ。これを破壊すれば、バーテックスは消滅するのだが、そう簡単にいかないのもまた事実。

 

「けど、確かこいつの御霊って相当硬い筈だったな」

「確かに銀と友奈の一発でも割れなかったし、先輩達や園子の攻撃でやっとヒビが入ったぐらいだからな」

「だったら今度は、全員で一斉に撃ち込みましょう!」

「それならいけるかもしれないな」

「賛成!せーので、一気にいくよ!」

「なら、それでいきましょう!」

『せーの!』

 

そうして全員が飛び上がり、御霊に向かって一斉に武器を振り下ろす。8人分の攻撃ともなれば、さすがの御霊も耐えきれなかったらしく、すぐにヒビが入って亀裂が広がり、ものの数秒もしないうちに、砂のように砕け散り、乙女型の胴体もろとも天に昇っていった。

 

「やったぁ!」

「バーテックス撃破ッス!」

「……本当にあの声の言った通りだったわね。みんながあれだけ全力を注いでも、体におかしな所はないみたいだし」

「色々と気にはなるが、さすがにこれで終わる筈だ」

「お姉ちゃん!皆さん!」

 

そこへ、新型との戦闘を終えた樹達がこちらに向かってくるのが確認できた。風は早速妹に駆け寄り、怪我がない事や、新型の討伐に貢献した事を本人以上に周りに自慢したりするなど、いつもと何ら変わらぬ溺愛ぶりを見せつける。樹が姉に抱かれながら恥ずかしさのあまり縮こまる姿を笑って見つめながら、遊月は周りの景色が光に包まれていくのを確認する。

 

「今度こそ終わりか。……けど、色々と分からない事があったな」

 

呆然とそう呟くように、今回の戦闘には、不可解な点が多すぎた。謎の声の主も気になる所だが、先ずは師匠達の無事を確認しよう。そう思いながら、目の前が真っ白に塗り潰されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、ここで時は友奈達が樹海に入り込んだ頃に遡る。

 

「みんなの姿がない……。やっぱり、樹海の中に引き込まれたみたいですね」

「うむ。だが気になるのは、あのアラームが、勇者や武神ではない俺達にも聞こえ、更には今現在この世界が樹海化している事を俺達が認識できている事だ。明らかに異常事態なのは間違いない」

 

そう呟いた後、源道は腕を組みながら、横手に目をやる。そこにいたのは、大赦の紋章が刻まれた巫女装束に身を包んだ、どことなく威厳を兼ね備えた、友奈達と同い年くらいの少女。

当初は友奈達と入れ替わるように突如として目の前に出現した事に驚きこそしたが、この事態に深く関わっているだろうと判断し、大人よろしく、冷静な対応を示している。

 

「樹海化した中でも、私達は動けている。……ひょっとして、今は教室だけが別の空間として作用しているのかしら?」

「ピンポーン。さすが真鈴さんの子孫ですね」

「なら、俺からも質問したい。今、この空間が人為的に別空間となっているのは、君の力によるものなのか?」

「そう、ですね……。半分正解、といったところでしょうか。私はここでは、巫女であり、特別な存在だからです。神樹様から、大きなお役目を仰せつかってます」

「特別な存在……?」

「つまりこの世界は神樹が創り出したもの、という事か。……所で、晴人君達は今どこに……?」

「今は、敵と交戦中です」

「「……!」」

 

敵と交戦。それを聞いて、2人の間に一気に緊張感が高まる。そんな気配を察してか、巫女は心配ない、といった顔つきで語りかける。

 

「彼らなら大丈夫です。間も無く戦闘を終えてこちらに戻ってきますので、その際に、まとめて事情をお話ししようかと」

「……そうか。彼らが無事なら、それで良いんだ。っと、失礼。聞きそびれてしまったが、君の名は?」

 

不意に、肝心の相手の名前を聞き忘れていた事に気づき、源道はそう問いかける。

 

「おっとそうでした。まだ素性を明かしてはいませんでしたね。私は……」

 

謎多き巫女の口から語られた、その名を聞いた途端、2人の教師の目が大きく見開かれるまで、さほど時間はかからなかった。

 

 

 

 

 




次回は、謎の巫女からの説明回です。


〜次回予告〜


「貴方は、一体……」

「繰り返したな」

「思った以上に深刻化してるんだな」

「今サラッとスゲェ事言わなかったか⁉︎」

「私は、約300年昔から、やってきたんですよ」

「よろしくね、ヒナちゃん!」


〜状況説明〜


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。