鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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いさなとり

▽△▽――――――▽△▽

 

 タービンズとの衝突を前に警報が響き渡る〝イサリビ〟のモビルスーツ格納デッキ。

 

「………俺の〝グレイズ〟は!?」

「準備できてる!」

 

 昭弘の巨体が格納デッキ出入口から現れ、発進準備を完了しパイロットの到着を待ち望んでいた〝グレイズ改〟のコックピットへと吸い込まれていく。

 その隣にはもう1機、まだ損傷が残っているものの稼働可能な〝グレイズ〟が。地上仕様〝グレイズ〟の緑のカラーリングは、大半がそのままだが頭部だけは薄くシノカラー……ピンク色に染められている。

 と、続いてシノがパイロットスーツのチャックを上げながら、飛び込んできた。

 奥の、頭部だけピンク………もとい「流星カラー」の〝グレイズ改〟を見て、ニヤリと笑う。

 

「俺の2代目〝流星号〟は………お、あれだなァッ!」

 

 シノが即席の〝流星号〟へと近づくと、開かれたコックピットの中で、ヤマギがタブレットを手に作業をしている所だった。

 

「よう、ヤマギ! 準備はどうだ!?」

「今終わったとこだよ」

 

 そう言いながらヤマギは、コックピットから出るために腰を浮かせようと………

 

「そっか。いつも悪ィなあ」

 

 差し出されたシノの左手を、ヤマギは驚いたように見上げた。

 

「ん? ………へへ、遠慮すんじゃねえよ」

 

 やがて、おずおずと差し出されるヤマギの手を掴み、「よっと」とシノはヤマギをコックピットから出してやった。その勢いで後ろ上方に押し出してやり、代わりに〝流星号〟のコックピットへと収まる。

 

「シノ! モビルスーツの操縦は………!」

「何とかなるだろ。行ってくるぜ!」

 

 グッとサムズアップし、シノが座るシートがコックピットへと収まっていく。

 カタパルトデッキへと降下していくシノの〝流星号〟。ヤマギは、シノの手と触れた自分の手と〝流星号〟を戸惑ったように交互に見やりながらも、

 

「シノを下ろすぞォッ! 下気ィ付けろー!」

 

 雪之丞の怒声。ハッと我に返ったヤマギは、次の自分の仕事のために壁を蹴って無重力空間を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

『ノルバ・シノ! 〝流星号〟! 行ってくるぜェッ!!』

 

 カタパルトデッキからシノの〝流星号〟が飛びだしていく。

 次は〝ラーム〟の番。三日月は最後だ。

 愛機のコックピットの中で、俺は出撃の時を待った。

 やがて前方モニターにオペレーター……フミタンの顔が現れる。

 

『発進スタンバイ、どうぞ』

「了解。………おやっさん!」

『よォし! 次は〝ラーム〟だ! 下ぁ気をつけろよ!』

 

 ガコン、という音と共に、作業用クレーンが〝ラーム〟を下のカタパルトデッキへと降下させる。そして、カタパルトへと〝ラーム〟を横たえらせる。

 

『エアロック作動。カタパルト、ハッチ開放します』

 

 エアロックが開放される。

 広大な宇宙空間の中で………前方に見える一つの光点、タービンズの〝ハンマーヘッド〟だ。

 下を見れば、発進用レールがスライドして伸び、やがてロックされる。

 

『カタパルトスタンバイ。いつでもどうぞ』

「了解。〝ガンダムラーム〟。蒼月駆留で出撃する!」

 

 急激な射出によるG。凄まじい勢いで〝ラーム〟の巨体が〝イサリビ〟から弾き出される。

 飛び出した〝ラーム〟を制御し、センサーの表示に従って、先行している2機の〝グレイズ改〟と〝流星号〟を追った。

 本来であればシノの2代目〝流星号〟の初登場はドルトコロニー編からなのだが、火星編のうちに6機以上の〝グレイズ〟を鹵獲したことによりもう1機、準備することができたのだ。阿頼耶識システムは備えていない上、シノにはモビルスーツの操縦経験は無いが、とりあえず頭数にはなるはずだ。

 

『よォ!………え~と』

「カケルだ。よろしく」

 

 そういえばシノとはほぼ面識が無かったな。

 やがて〝バルバトス〟も発進し、一筋の閃光を纏いながらこちらと合流する。武装はメイスと滑空砲。背部のサブアームから伸ばされた滑空砲を構え、〝バルバトス〟は〝ラーム〟と距離を合わせた。

 

『お待たせ』

『………はっ! 待っちゃいねえよ』

『敵が来るぜェッ!!』

 

………あれか。センサーが捉えたのは、原作通り2機のモビルスーツ〝百錬〟。

 厄祭戦後期に開発予定だったモビルスーツ・フレームを参考に、テイワズが独自に開発したもので、小惑星やデブリによる過酷な木星圏の環境に対応するため、重装甲と質量、そして高出力スラスターを誇る。パイロット共々、厄介な相手だ。

 

「敵に近づきすぎるなよ。接近戦だとこっちが不利だ!………それと、〝イサリビ〟と敵艦の射線内に入らないように! 距離にも注意だ!」

『おうよ!』

『分かってる!』

『うん』

 

 シノ、昭弘、三日月から三者三様の返事。思わずニッと頬が緩む。

手持ちのライフルを撃ちながら迫る青い〝百錬〟に〝ラーム〟のガトリングキャノンを乱射。正確には狙わず、広範囲に牽制のために。

 数発の直撃を食らった青の〝百錬〟が接近を諦めて離れていく。射線を絞って狙いを定めたが、直後に赤い〝百錬〟が援護に入り、こちらも敵の射撃から逃れざるを得ない。

 

「く………!」

 

 見事な連携だ。4対2で現状こちらが数で押しているとはいえ、練度の差で数の有利を全く活かせない。

 

『おらおらァッ!!』

『くそッ! 当たれ!』

『早いな………!』

「練度は向こうが上なんだ! 近づけ過ぎず、弾幕の厚さで圧倒するしかないぞ!」

 

 ガトリングキャノンを撃ちまくるが、分厚い弾幕はほとんどかすりもせず、逆に〝百錬〟が撃ち放ったライフルの弾が数発、〝ラーム〟に命中。ナノラミネートの重装甲のおかけでダメージはほとんどないが、着弾の度にコックピットが衝撃で激しく揺さぶられる。

 だが敵も、こちらの弾幕のせいで上手く接近することができていない。上手く消耗戦に持ち込まれば、勝機はある………!

 原作通りに進めばじきに戦いは終わる。オルガたちが〝ハンマーヘッド〟に乗り込み、名瀬・タービンと直接話を付ける。それまで持てばいいのだ。

 

 と、

 

『〝イサリビ〟が敵モビルスーツの攻撃を受けています。援護を』

『! もう1機いたのか』

『三日月ッ!!』

 

 一瞬、攻撃を受ける〝イサリビ〟に気を取られて機動が緩む〝バルバトス〟。その一瞬の隙を赤い〝百錬〟は見逃さなかった。

 だが昭弘の〝グレイズ改〟がとっさに〝バルバトス〟の腕を掴んで引き上げ、〝百錬〟の射線から引き離す。そこにすかさず〝ラーム〟のガトリングキャノンを発射。赤い〝百錬〟は引き下がった。

 

『悪い昭弘。前の2つは任せていい?』

『! ………ああ、任せろ!』

『すぐに戻る』

 

 それだけ言うと〝バルバトス〟は加速し、母艦目がけて消え去った。

 こちらも行くべきか? と一瞬思ったが、〝イサリビ〟を襲撃している高機動の〝百里〟相手に、重装備の〝ラーム〟では母艦共々いい的だ。〝バルバトス〟リアクターや各所の調整が一応済んでいるので、原作よりはまともに戦えるはずだ。

 

『つれない真似をするじゃないか。………うっ!』

 

 ライフルを構え、足の止まった〝百錬〟に、昭弘機の射撃が着弾。一瞬、赤い〝百錬〟がよろめく。

 

『ここは俺らが任された!』

「俺たちで抑え込むぞ!」

『おうよッ!!』

 

 昭弘、シノ共に、阿頼耶識システム無しで、加えてほとんどモビルスーツの操縦経験が無いというのに、中々鋭い動きをする。歴戦の経験と勘からか、それとも〝グレイズ〟自体の優秀性からか。

 その時、視界の端が白色に塗りつぶされる。拡大すると、広範囲にスモークが拡散し、推力を反転させた〝イサリビ〟が突っ込んでいく所だった。そこから、オルガらが乗り込んで〝ハンマーヘッド〟の艦橋まで辿り着き、話を付ければそれで終わりだ。

 それから、しばらく膠着状態が続いた。遠距離からの撃ち合い。互いに命中弾を食らうが致命傷には至らない。

 と、〝ハンマーヘッド〟から離されつつあることに気付いたのか、2機の〝百錬〟が撃ち合いを止め、母艦を追おうとする。

 

『行かせるかァッ!』

『うおおおおおおおッ!!』

「っ! 無茶な突っ込みはよせ!」

 

 諫めようとするが、既に昭弘機とシノ機は赤青それぞれの〝百錬〟へと突っ込んでいく。

 昭弘の〝グレイズ改〟が繰り出したバトルアックスと、赤い〝百錬〟のブレードが激突。アックスの刃がブレードにめり込むが、逆に振り払われて、昭弘機はアックスを失い、殴り飛ばされてしまう。

 

『くそォッ! 俺は………!』

 

 昭弘は三日月を認めている。

 その三日月に「ここは任せる」と言われた。それがどれだけの重みを持つか、第三者にはなかなか分からないだろう。

 援護したいが………タイミング悪く青い〝百錬〟がこちらへと迫り、シノ共々撃ちまくって牽制せざるを得なくなる。

 だが………予想外に弾を使いすぎた。もうじき弾切れになる。

 

「シノ! 弾は!」

『もうそんなに残ってねぇ!』

 

 くそ………オルガはまだか!?

 さすがに1話24分で話がつくわけじゃないのか………!

 その間にも、昭弘の〝グレイズ改〟は赤い〝百錬〟へと飛びかかり、装甲と装甲を激突させて〝百錬〟の頭部を殴りつける。だがその腕を、敵機のライフル銃床で打ち据えられ、潰されてしまう。

 

『ぐ………!』

「退け! 昭弘ッ!!」

 

 シノに牽制を任せ、ガトリングキャノンを撃ちまくりながら推力全開で〝ラーム〟を〝百錬〟へと迫らせる。

 ガトリング弾は〝百錬〟と〝グレイズ改〟のどちらにも命中してしまったが、怯んだ〝百錬〟は〝グレイズ改〟を引き剥がして、飛びずさった。

 

「逃がすかッ!!」

 

 赤い〝百錬〟が逃げ去る方向へ、薙ぐようにガトリングキャノンを撃ちまくる。

 その時………ただの牽制のつもりだったのだが、ガトリング弾の数発が〝百錬〟の右脚とスラスター、腕部の装甲の継ぎ目に命中。

 奇跡的な着弾によって次の瞬間、機体の制御を失った〝百錬〟が錐もみを始める。

 

 その瞬間を逃さず〝ラーム〟を急速接近させてガトリングキャノンを構え直した。

 

『姐さんッ!!』

『行かせっかァッ!!』

『く………邪魔だ!』

 

 シノの〝流星号〟を一蹴した青い〝百錬〟がこちらへと迫るが、もう遅い。

 赤い〝百錬〟が制御を回復した時、眼前には〝ラーム〟と構えられたガトリングキャノン。

 

 

『………ッ!!』

「………!」

 

 

 赤い〝百錬〟のパイロットが息を呑む音。

 一瞬の静寂。

 

 だが………

 

「くそっ………!」

 

 残弾数を見れば、とっくの昔に【0】の表示が躍っている。

 それに、一発でも残っていたとして、ここで撃って中のパイロット……アミダ・タービンをケガさせたり殺すようなことがあれば間違いなく名瀬の勘気に触れる。テイワズの後ろ盾の件も、オジャンになること間違いなしだ。

 銃口を下ろし、距離を取った。

 今度は青い〝百錬〟がライフルを撃ちながら襲ってくる。後ろから昭弘とシノが追撃しているが間に合っていない。

 

『こいつ! よくも姐さんをッ!!』

 

 振り下ろされたブレードを、すでに鈍器としてしか用を為さなくなったガトリングキャノンの砲身で受け止める。だが、次いで繰り出された強烈なキックによって、砲身が大きく上方へと突き上げられてしまう。

 接近戦ではもう、なす術が無かった。原作での昭弘機のように、殴られ、蹴飛ばされその度に装甲がひしゃげ、歪む。

 警報表示がけたましく鳴り響き、瞬間的にスパークが走る。外側からの衝撃にひび割れた壁面の欠片が、コックピット中に舞い散り、一瞬、腕や頬に鋭い痛みが走る。

 昭弘機やシノ機は、復帰した赤い〝百錬〟に牽制されて身動きが取れない。

 

「ぐううっ………!」

 

 ここまでか!

 まさに万事休す。そう思ったのだが。

 

「………ん?」

 

 組みつかれ、ブレードを〝ラーム〟の首に突きつけた所で青い〝百錬〟が動きを止めた。

 

「何で………!」

『全機、戦闘を中止して帰投してください。タービンズとの停戦が成立しました』

 

 通信越しのフミタンの声。

 おそらく、同様の指示を向こうも受けているのだろう。油断なくこちらにライフルを構えながらも、2機の〝百錬〟が離脱していく。途中、もう1機分の軌跡が追加され、宇宙に3本線が描かれて〝ハンマーヘッド〟へと消えていった。

 

「ふぅ………」

 

 すっかりボロボロだが、何とか生き残った。

 気づけば、無重力のコックピット中に汗と、わずかに血の滴が漂っていた。

 

『カケル! 無事か!?』

 

 比較的損傷軽微な昭弘の〝グレイズ改〟とシノの〝流星号〟が、スラスターを吹かしながら近寄ってくる。

 

「何とかな。だが………スラスターの調子が悪い。連れ帰ってくれよ」

『おう。捕まりな』

 

 差し出される〝流星号〟のマニピュレータを握り、牽引されながら〝ラーム〟は〝イサリビ〟へと戻る。〝グレイズ改〟が殿を務めた。

 

 

 

 

 


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