鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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第4章 ブルワーズ
暗礁に潜む海賊


 

▽△▽――――――▽△▽

 

『へぇ。あたしと模擬戦したいなんて、いい度胸してるじゃないか。しかもモビルスーツを実際に動かしてなんて………』

 

「前の戦いでは色々うやむやに終わりましたからね。手加減されてたみたいですし。………〝ラーム〟と俺の力、とことん試してみたいんです」

 

 アミダの赤い〝百錬〟と、俺の〝ラーム〟が宇宙空間で向かい合っている。

〝ラーム〟の試運転と模擬戦に、是非アミダさんに付き合ってほしい。一蹴されるかと思ったが、ちょうど手すきだったようで、アミダ自身から直接快諾され、今に至る。

 模擬戦のルールは簡単。演習用のペイント弾と、刀身に演習用カバーが施された近接武器を用い、一定以上のダメージが蓄積した方が負け。

 

『あたしが勝ったら、そのガトリングキャノンを好きなだけ撃たせてくれる、ってことでいいんだね?』

「ええ。費用は俺持ちです。弾倉に残る限り、好きなだけどうぞ」

『剛毅だねえ。ラフタとアジーも楽しみにしてたよ』

「俺が言うのもアレですけど………すごいですよ」

 

 ライフルやマシンガンとは全然違う。秒間数十発という怒涛の勢いで吐き出される100ミリ弾。巨大な多銃身砲が火を噴き、コックピットに直に伝わる地響きのような衝撃。近距離ならモビルスーツであろうが容赦なく引きちぎる、威力。

 

 ガトリングでしか味わえない感覚が、そこにはある。

 

『んじゃ………とっとと始めるかい? 先攻はそっちからでいいよ、カケル』

「ではお言葉に甘えて………行きますッ!!」

 

 模擬戦開始の合図と共に、ガトリングキャノンを跳ね上げ、その銃口をアミダの〝百錬〟へ向ける。

 だが一拍置いてそれが火を噴き、数百の模擬弾が殺到した時、〝百錬〟はすでにそこには存在していない。トリガーを引き続け、空間を舐め回すような弾道を残しながら〝百錬〟を狙い撃ちにしようとするが、一発たりとも当たることは無い。

 

「く………」

『今度はこっちから行くよッ!!』

 

〝百錬〟が近接武装である片刃式ブレードを引き抜いて一気に〝ラーム〟へと急迫してくる。その目まぐるしい機動に、鈍重なガトリングの砲火は全く間に合わない。阿頼耶識システムを介した射撃管制が〝百錬〟の俊足に追いついていないのだ。

 

「だめかっ!」

 

 ガトリングキャノンによる遠距離戦を断念し、こちらも近接武器………これまでのコンバットナイフから刀身を伸長させた新武器〝コンバットブレード〟を抜き放ち、〝百錬〟が振り下ろされた〝百錬〟のブレードを受け止めた。

 だが最初の一撃は、軽い。〝百錬〟は目まぐるしい速さで〝ラーム〟の後方へと回り込み………

 

『もらったよ!』

「ち………っ!」

 

 回り込まれる瞬間、背面のバーニアスラスターを全開にブレードの一閃から逃れる。続けざまにライフルを放たれるが、強引な回避機動によって射線のほとんどから逃れる。新型のバーニアスラスターや各所スラスターは吸い付くようにカケルの要求に応え、改修前よりもより細かい機動とそして大出力を〝ラーム〟にもたらしていた。

 だが、急激な機動により姿勢制御が追い付かず凄まじい荷重が〝ラーム〟のコックピットへと襲いかかり、さらには2、3発の着弾。

 休む間もなく〝百錬〟が迫る。

 回避か迎撃を………! だが荷重のショックで身体が………

 気づいた時には、さらに蹴飛ばされて制御不能に。そして次の瞬間、〝百錬〟のブレードの刀身が、〝ラーム〟の前面コックピットモニターに大写しとなっていた。これが実戦なら、〝ラーム〟のコックピットは抉り潰されていたことだろう。

 

 瞬殺。文字通りわずかな間に撃墜判定を食らい、改めて実力の差を思い知る。

 

「俺の………負けです」

『ま………こんなモンさ。機体の相性の問題もあるしね。さっきの回避は中々見どころがあったよ。あんた、これからまだまだ伸びしろがある』

「どうも………」

 

 いじけてんじゃないよ! と、アミダの豪快な笑い声が飛び込んできた。

 

『今からラフタとアジーにしっかりしごいてもらいな。もう帰るかい? それとももう一戦………』

 

 昭弘の〝グレイズ改〟とタカキのMWが発進した時間から考えて………おそらくそろそろだ。

 

 

 

 

 

 

 そしてその時、視界の端で………いくつもの閃光が迸った。

 

『ん? あれは………!』

「あっちには昭弘がッ!!」

 

 その瞬間、〝ラーム〟のバーニアスラスターを全開に、戦闘が始まった宙域へと全速で飛翔した。一拍出遅れたが、アミダの〝百錬〟も続く。

 既にタカキのMWを庇う昭弘の〝グレイズ改〟と………ブルワーズのモビルスーツ〝マン・ロディ〟3機の戦いは始まっていた。MWを庇うために急激な回避機動が取れない〝グレイズ改〟に対し、目まぐるしく飛び回り続ける〝マン・ロディ〟は次々にマシンガンを射かけ、機体とパイロットの双方にダメージを蓄積させていく。

 そして疲弊した所を、1機が急迫して接近戦で撃破………という腹積もりなのだろう。

 

 悪くないが、重装甲と機動力を強引に両立させた〝マン・ロディ〟の直線的な機動なら、〝ラーム〟でも追いかけられる。

 俺は素早く端末を操作し、弾頭を模擬弾から実弾へと切り替えた。

 

〝マン・ロディ〟は、もうすぐそこだ。

 

「昭弘ーッ!!」

『! カケルか!?』

 

 ガトリングキャノンを乱射し、撃ちかけながら〝グレイズ改〟に接近しつつあった〝マン・ロディ〟1機を牽制。十数発の着弾を浴びせたものの持ち前の重装甲に弾かれるが、〝マン・ロディ〟は驚愕したように加速して後方に引き下がる。

 

「うおおおおおおおおッ!!!」

 

 さらに矢継ぎ早に残りの2機にも、ほとんど牽制同然で撃ちまくる。射線がかすめ、何発かは当たったものの致命傷には至らず、だがその弾幕によって〝マン・ロディ〟隊は、遠距離から射かけつつも〝ラーム〟にも〝グレイズ改〟にも近寄ることができない。

 

 さらに、

 

『ウチの昭弘に何やってんだい!?』

 

 アミダの〝百錬〟が〝マン・ロディ〟の1機にライフルを撃ちかけ、さらにブレードを振り上げる。〝マン・ロディ〟はすかさず腰部にマウントしてあるハンマーチョッパーを抜き放ち、最初の一撃を受け止めるが、目にも止まらぬ速さで繰り出された次の一閃を受け止めきれず、ハンマーチョッパーは〝マン・ロディ〟の手から弾き飛ばされる。

 

「気を付けてください、アミダさんッ! そいつらも阿頼耶識使いです!」

『ッ!? じゃあこいつら………!』

「ブルワーズの〝マン・ロディ〟は重装甲です。装甲の隙間から関節を破壊していけばッ!」

 

 急激な機動が取れない〝グレイズ改〟をカバーしつつ、未だ遠距離から射かけ続けるもう1機の〝マン・ロディ〟に〝ラーム〟のガトリングキャノンの弾幕を容赦なく浴びせかける。

 数十もの凄まじい閃光が〝マン・ロディ〟の装甲表面で迸り、さすがに装甲の一部がへこみ始めた。

 

「昭弘ッ! 援護頼む!」

『おうッ!』

 

 ガトリングキャノンを撃ちまくりながら、直撃によって怯んだ1機の〝マン・ロディ〟へと迫る。

 

『く………来るなぁっ!』

『ペドロッ! ぐぅ………っ!』

 

 接近するにつれ〝マン・ロディ〟間で発せられる通信がこちらにも飛び込んでくる。ということはあの機体はペドロの………。

 こちらに追いすがろうとしたもう1機……おそらくビトーの〝マン・ロディ〟は昭弘の〝グレイズ改〟が放つライフルに撃たれ、こちらに集中することができない。もう1機は〝百錬〟が……装甲と装甲の狭間に器用にブレードを突き立てつつ、その戦闘力を奪っている最中だった。

 消去法的にそっちはアストンだが………さすがにアミダ相手では分が悪かったか。

 

「お前もッ!」

『うわああああっ!?』

 

〝マン・ロディ〟のマシンガンが発する貧弱な弾幕を、機動力と装甲で受け止め、次の瞬間、至近距離でガトリングキャノンの銃口を突きつけた。

 

『………っ!』

 

 敵パイロット……ペドロの息を呑む音。

 引き金を引いた瞬間、〝ラーム〟のガトリングキャノンが炸裂し、〝マン・ロディ〟の重装甲を激しく打ち据えた。

 

『ぐは………っ!』

 

 血反吐を吐くような少年の呻き声。

 これだけの至近距離でも……やはり〝マン・ロディ〟の装甲を完全に破壊することはできなかった。だがパイロットに襲いかかってきた衝撃は並大抵のものではないはずだ。

 事実、至近からガトリングキャノンをもろに浴びた〝マン・ロディ〟は、それほど深刻な破壊部位が無いにも関わらず、沈黙した。打撃程度で中のパイロットが死んだとは思わないが、意識が飛んだとしても不思議ではない。

 

『ペドロ……そ、そんな………ペドロが………ッ!』

『ぐ……ビトーっ! こっちに援護を………!』

『よくもペドロをッ!!』

『! 駄目だビトー! 連携しないとこいつらに………ぐあっ!?』

 

『よそ見とは、感心しないねェッ!!』

 

 武器を失い、今や〝百錬〟相手に一方的に、機体の関節やスラスター部を破壊されるがままのアストンの〝マン・ロディ〟。

 孤立したビトー機は、もうほとんど頭に血が上った様子で〝グレイズ改〟の牽制を振り払って〝ラーム〟へと襲いかかってきた。

 

『うおおおおおおおおッ!!』

「………ッ!」

 

 ガトリングキャノンは、照準が間に合わない。

 すかさず機体の左手でコンバットブレードを抜き放ち、〝マン・ロディ〟のハンマーチョッパーと激突。さらに次々斬撃が浴びせかけられ、受け流す間に押し込まれる。

 

『ペドロの仇ーッ!』

「力押しでガンダムに勝つつもりかッ!!」

 

 リアクター出力全開。

 次の瞬間、ギリギリ………と激しくつばぜり合いを繰り広げていた〝マン・ロディ〟のハンマーチョッパーを、強引に上へと跳ね除ける。

 

『な………っ!』

 

 がら空きになった胴体。

 そこにガトリングキャノンを、突き付けた。

 トリガーを引き絞る。

 

 壮絶なガトリングキャノンの奔流が〝マン・ロディ〟の胴体を打ち据え、そして上へと伸びた弾道は容赦なく頭部を破壊する。

 さらにその背後へと〝ラーム〟を回り込ませて、ビトーが機体の制御を回復する前に再度ガトリングキャノンを発射。

 狙うは背面の大型メインスラスター。

 ナノラミネート装甲や追加の重装甲によって守られているとはいえ、スラスターの内部は無防備だ。

 そこに数十発もの100ミリ弾が殺到した瞬間、溜め込んでいた推進剤と共にスラスターが破損。壊されたスラスターの暴走によって、ビトーの〝マン・ロディ〟は滅茶苦茶な軌道を描きながら、向こうの小惑星帯へと吹き飛んでいった。

 見ればアストン機も、主要な関節部やスラスターを悉く破壊されて、力なく宇宙空間を漂っている。

 アミダが、〝マン・ロディ〟の右肩装甲の狭間からブレードを引き抜きながら、

 

『ふぅ、これで全部かね?』

『助かった。恩に着る』

『す、すいません俺、何にも役に………』

 

 アミダ、昭弘、タカキの三者三葉だったが………

 次の瞬間、センサーがさらに3個のエイハブ・リアクターの反応接近を警告してきた。

 こいつは、原作なら逃げる昭弘機を追撃する形になったのだが………

 

 

 

 

『全く………クソの役にも立たないヒューマンデブリどもがッ!! あんたたちも………まだ、終わりじゃあないのよッ!!』

 

 

 

 

 2機の〝マン・ロディ〟を先行させ、その奥からひと際異彩を放つ巨体……〝ガンダムグシオン〟が姿を現した。

 

 くそ………三日月はまだか!?

 そろそろ来てもいいはずなのだが………

 

『お前らは人質を取りな。あの青いデカブツは………俺が相手してやるッ!!』

 

 2機の〝マン・ロディ〟が散開し、〝グシオン〟がこちらへと迫ってくる。

 撃ち放ったガトリングキャノンは……予想通り弾き返されて牽制にもならない。だがあのハンマーをコンバットブレードで受け止めることは………〝バルバトス〟のように回避が間に合うか………!?

 そんな逡巡をしている間に―――――――――――――

 

 

 

 

『このクダル・カデル様と、〝グシオン〟を舐めるんじゃあ………っ!?』

 

 

 

 

 その時だった。

 上方から迸る一筋の光。

 それが1機のモビルスーツを形作ったかと思うと………次の瞬間それは〝グシオン〟へと突貫。

 手にしていた太刀が〝グシオン〟頭部の装甲と装甲の狭間に………ぶっ刺さった。

 

 

 

『んああああああああああぎゃああああああああああああああああああアアアァァァァァァァンっ!!!!』

 

 

 

 文字通り、瞬殺。

 乗り手の汚い断末魔の後、それきり〝グシオン〟は動かなくなった。

 

『……………』

「………………ええぇ?」

 

俺が唖然とする中、〝グシオン〟の首筋から汚い内容物を付着させた太刀を引き抜き、蹴飛ばして飛び上がったそのモビルスーツの姿は………磨き上げられた装甲が眩い、歳星で新品同然に改修された〝ガンダムバルバトス〟。

 

『大丈夫?』

 

 ブルワーズ編最悪の敵キャラをわずか数秒のうちに殺害してしまったことに対して、三日月は何ら感慨を抱いていない声音で、こちらへとそう呼びかけてきた。

 

『ねえ、大丈夫かって聞いてるんだけど』

「あ、ああ………」

『あっちも、もう終わりそうだね』

 

 見れば2機の〝マン・ロディ〟が向かった先………昭弘の〝グレイズ改〟とアミダの〝百錬〟がいたはずだ。

 見れば〝マン・ロディ〟が1機、各所から煙を吐きながら漂流。もう1機は……武器を全て失ってその首筋に〝百錬〟のブレードを突きつけられている所だった。

 近づくと、敵味方の通信が混在して飛び込んでくる。

 

『ふぅ………これで終わりにしてもらいたいね』

『く………殺すなら殺せっ! 俺は人質にも、捕虜にだってならないっ!!』

『それを決めるのはあたしらであって、アンタじゃないはずだよ?』

『くぅ………ちくしょうっ!!』

 

 タカキと同年代ぐらいの少年の声。

 ふと見れば、ノロノロと昭弘の〝グレイズ改〟が戦闘不能となった〝マン・ロディ〟へと近寄りつつあった。

 

『昭弘。ここはいいから早く〝イサリビ〟に………』

『昌………弘………?』

 

 はぁ? という首を傾げているだろうアミダの声音。

 だが昭弘は一向に構わず、〝グレイズ改〟の手で〝マン・ロディ〟の肩を力強く掴んだ。

 

『その声………昌弘……だよな………!』

『え………』

『俺だ! 昭弘だッ!!』

『昭弘………兄貴………』

 

 それからしばらく沈黙が流れる。

 おそらく、コックピットでお互いの画像を見、疑問を確信へと変えていく最中なのだろう。

 この宙域に、もう兄弟を引き離す者は存在しない。

 

『兄ちゃ………』

『昌弘………昌弘………!!』

 

 震える昭弘の声音。そして、

 

『あ、あぁ………! ま、昌弘―――――――――――――ッ!!』

 

 

 

 興奮とも感涙ともつかぬ絶叫が、しばし静まり返った戦場に木霊した。

 

 

 

 

 






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