鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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ちょっと短めです。



ブルワーズについて

▽△▽――――――▽△▽

 

「………で、感動的な兄弟の再開の後で、どうして弟君があばら骨を2、3本折ってメディカルナノマシンに入る羽目になったのか、誰か端的かつ客観的に説明してくれるかね?」

 

〝イサリビ〟の医務室。

 意識なくメディカルナノマシンベッドに沈んだ、痩せこけて古傷だらけの少年……昌弘の容態の安定を確認した後、ドクター・ノーマッドは呆れた様子でこちらへと振り返った。

 思わず、その場に集まっていたオルガやビスケット、シノ、ユージンらの………ドン引きしたような視線が昭弘に集中する。

 あの後、パイロットが死んで動かなくなった〝グシオン〟と、戦闘不能となった〝マン・ロディ〟5機をアミダや三日月、ようやく駆けつけたラフタやアジー、シノと手分けして回収。〝イサリビ〟へと戻った。

 先に〝マン・ロディ〟から甲板へと下ろし、ダンテの外部ハッキングによってコックピットを強制開放させ、中にいたパイロット………ブルワーズのヒューマンデブリである少年兵らを次々引きずり出した。当然彼らは抵抗するが、わずかな食事だけを与えられ栄養失調気味なのかほとんど力はなく、鉄華団の年長の少年兵によって艦内へと押し込まれる。

 そしてその中の一人………生き別れた弟である昌弘の姿を見た昭弘は、まだ着艦前だった〝グレイズ改〟のコックピットから飛び出し、

 

『昌弘おおおおォォォッ!!!!!』

 

 と傍にいた鉄華団団員を撥ね飛ばして思いきり、『あ、兄貴………!』とまだ困惑を隠しきれていない弟を抱き締めた。

 日々の過酷なトレーニングによって徹底的に鍛え上げられたその肉体で、全力で。

 大柄で腕力もある筋肉巨漢が、力も弱く、栄養失調気味で骨もやせ細った少年を全力で抱き締めればどうなるか。

 俺はその時まだ着艦前の〝ラーム〟のコックピットにいたのだが、……〝ベキッ〟という何かがへし折れる嫌な音を通信装置越しに間違いなく聞いた。おそらく三日月たちも。

 そして糸が切れた人形のように兄の太い腕の中でぐったりとなる昌弘。

 大慌てで兄弟を引き剥がし、医務室へと担ぎこんで……今に至る。

 

「あともう少し力が加わっていたら、折れた肋骨が内臓を傷つけていたところだ。しばらくは安静にする必要があるね。若干の栄養失調と、古い打撲の跡や擦り傷もある」

 

 おそらくブルワーズで受けた虐待の跡だろう。痩せ細り、いくつもの傷跡が残る身体で、そして心で、これまでどれだけ過酷な運命を辿ってきたのか。

 意気消沈する昭弘に、オルガはポンとその肩を叩いてやりながら、

 

「まぁ、どんな偶然かは知らねえが生き別れた兄弟がこうして再会したんだ。他の奴らは?」

「船室に集めて、メリビットさんが容態を確かめてる。ちょっと怪我してるみたいだけど、命に別状は無いってさ」

 

 ビスケットの報告に「そうか」と若干胸を撫でおろした様子のオルガ。敵なら容赦するつもりはないだろうが、殺さないに越したことはないだろう。

 アストン、デルマ、ビトー、それにペドロ。ヒューマンデブリとして使役されていた少年たちは、監視付きで保護されている。抵抗する様子も無く、タカキらが運んできた人並みの食事に戸惑いながらもがっついているようだ。

 

「じゃあ、俺たちは名瀬の兄貴に呼ばれてるからな。先生、後は頼んます」

「お願いします」

 

 オルガとビスケットが頭を下げると「うむ」とノーマッドは鷹揚に頷き、

 

「他の者たちも出ていきたまえ。許可を出すまで面会謝絶だ」

「先生! 俺はもう少し………!」

「バカを言うな。先ほどの体験がトラウマになっている可能性だってあるんだぞ。落ち着いたら連絡するから、今は弟君から離れていたまえ」

 

 ドクターに申し出を一蹴され、さらにどんよりした表情になった昭弘は「うす………」と肩を落とし、「ま、まあ、無事で良かったじゃねえか」とユージンに宥められながら医務室を後にした。

 俺も、その後に続いて医務室から出る。

 

 と、通路の角に、オルガとビスケットが消えていくのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 オルガとビスケットに同行しタービンズの〝ハンマーヘッド〟へと移動。

 ブリッジのドアを開くと、艦長席の傍に控えていたアミダがシッ、と人差し指を口に当てて静かにしているよう促す。俺たち3人はピタッとその場で足を止めた。

 艦長席に座す名瀬は、ブリッジのメインスクリーンに映し出されている肥満体の人物……宇宙海賊ブルワーズの頭、ブルック・カバヤンと静かに対峙している所だった。

 

「じゃあお前らは、本気で俺たちに喧嘩を売ろうってんだなァ? ブルック・カバヤンさんよお」

『へ……へっ! け、ケツがテイワズだからって、でけぇ面してんじゃあねぇ!! 何もテイワズだけが力を………!』

「出鼻でモビルスーツを6機も潰されておいて、よく吠えるぜ」

『貴様………ッ!』

 

 屈辱に顔を歪ませたブルックはなおも吠えたてようとするが、名瀬はサッと片手を挙げて通信を断ち切らせた。

 通信が終了し艦長席から立ち上がった名瀬は手近な手すりに腰を預けながら、

 

「ったく、血の気の多い馬鹿がいたもんだよ。さっさと詫びを入れりゃいいものを。なぁ?」

 

 そう言ってこちらに振り返る名瀬に、「は、はぁ」といまいち状況が掴めていないオルガは曖昧に返事をするより他ない。

 場所を変えて応接室に。原作同様の位置にそれぞれ腰を下ろし、俺も、壁に腰を預けて遠巻きに状況を見守る。

 それぞれ腰を落ち着けて最初に口を開いたのはアミダだった。

 

「それで、昭弘の弟の容態はどうだい? 他の子たちも」

「安定しています。ノーマッドさんとステープルトンさんのお陰で助かりました」

 

 答えるビスケットに、名瀬はソファの傍に腰かけるアミダの髪を優しく弄りながら、

 

「役に立つ奴らだって言ったろ?」

「ええ、本当に恩に着ます、兄貴。………それで連中のことですが、何者です?」

「名は〝ブルワーズ〟。主に火星から地球にかけての航路で活躍している、海賊だ」

 

 海賊? とオルガはビスケットと顔を見合わせた。

 

「………じゃあ、狙いは船の積荷ってわけですか?」

「あと、クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄だとよ。おとなしく引き渡せば、命までは取らねぇと、えらく上から言ってきやがった」

「ブルワーズって、そんなに力を持った海賊なんですか?」

 

 ビスケットの問いかけに、答えたのはアミダだった。

 

「………武闘派で名の通った組織であることは確かだね。もちろん、テイワズと渡り合えるほどじゃあないんだが」

「だからこそ今回の件に関して、妙に強気なのが気に掛かる。でかいバックがついたのかもしれねぇ。………で、どう思うよ、カケル」

 

 このまま原作通りに話を終わらせるのかと思いきや、俺に話題を振ってくる名瀬。

 とりあえず知っていること、非公式の推測を洗いざらい喋るか。

 

「………知られているブルワーズの戦力は、強襲装甲艦が2隻と重装甲でカスタマイズしたロディ・フレームを中心としたモビルスーツが10機以上。それに、さっき鹵獲した〝ガンダムグシオン〟。厄祭戦時代のガンダムフレームの1機で、海賊の間で流れ続けてきた機体です。

 彼らの戦い方は、どこからか仕入れた大量のヒューマンデブリに阿頼耶識手術を施し、強襲兵やモビルスーツパイロットに仕立てて弾除けとして投入。ヒューマンデブリがどのような境遇にあるかは………昌弘を見れば明らかかと」

「ひどいよね。CGSですらあそこまで酷くなかったのに………」

「マルバや一軍も十分クズだったが、ブルワーズはそれ以下だ」

 

 ビスケットと吐き捨てるオルガ。

 それと、と俺はさらに加えた。

 

「でかいバックって言うのは………クーデリア・藍那・バーンスタインが今誰に最も目を付けられているかで分かるのでは?」

「………ギャラルホルンか」

 

 名瀬がぐったりとソファに身を預ける。テイワズなら張り合えるとはいえ、面倒な相手に目を付けられたと考えていることだろう。

 

「ですが、これがギャラルホルン全体の意思とは思えません。おそらく高官の一人が、政治的なカードとしてクーデリアさんの身柄を欲しているのではないでしょうか?」

「だといいんだがな。………で、どうするよ? 兄弟」

 

 ふいに名瀬がずい、と身を乗り出してきた。

 正直言って、〝グシオン〟と〝マン・ロディ〟5機を悉く失ったブルワーズがこちらを見逃す公算も大きい。下手にちょっかいをかけなければ彼らの領分を素通りできる可能性だってあるのだ。

 だがオルガは、既に結論を決めているようで不敵に微笑みを返し、

 

「道理のわからねぇチンピラが売ってきた安い喧嘩だが、舐められっぱなしってのも面白くねえ」

「ちょ……オルガ………!」

 

 穏便な形で彼らの領分を素通りする意見を口にしようとしたのだろう。だがオルガはビスケットの言葉を遮るように言葉を続けた。

 

「それに………昭弘の兄弟だってんなら、俺たち鉄華団の兄弟も同然。その仲間なら、俺らの仲間も同然だ。ここで見捨てて逃げるなんざ、筋が通らねえ。それに………」

「それに?」

「ヒューマンデブリを助け出したとあれば、海賊退治と併せていい宣伝にもなる。そうは思わねえか、カケル?」

 

 ソファの背後で控えていた俺にオルガが悪戯っぽく振り返る。

 俺は力強く頷いた。それ以上の言葉は要らなかった。

 

 そして今度は、オルガが名瀬に問いかける番だ。

 

「で、どうする兄貴?」

「ふ………俺も同感だ。それじゃあいっちょ、俺たちの道理ってヤツを教えてやろうじゃないか」

「ふぅ……ま、このままだと寝覚めが悪いしね」

 

 

 名瀬、ビスケットそれぞれの答えに、オルガはニヤリといつものように不敵に笑いかけた。

 

 

 

 


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