鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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混沌の行く先

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 ドルト各工業コロニー群で同時多発的に武力暴動が発生。

 労働組合側とギャラルホルン駐留部隊がコロニー内外で戦闘を開始、L7駐留のギャラルホルン艦隊の他、ギャラルホルン最強のアリアンロッド艦隊までもがドルトコロニー群に迫りつつある。まるで、この事態を予期していたかのように。

 鉄華団、それにコロニー労働者たちの命運、そしてギャラルホルンの存在意義とプライドをかけた戦いの戦端が開かれたのだ。

 

「カケル! 準備は!?」

「できてる!〝ラーム〟もすぐに出せるな?」

「最終調整もバッチリよ! さ、行った行った!」

 

 ドルト6宇宙港に停泊している〝ハンマーヘッド〟。

 

 テイワズによって大規模な改修を受けていた〝グシオン〟と〝ラーム〟は全ての準備を整え、格納庫で整列してパイロットが飛び乗るその時を待ちわびているかのようだった。

 ガンダムフレーム〝グシオンリベイク〟は、原作と同様、改修前の重装甲機〝グシオン〟の面影をほぼ微塵も残さない、スマートで汎用性を重視した機体へと仕上がっていた。

 

〝ラーム〟は………元から太り気味だったのが、装甲を換装・追加することによってさらに着ぶくれしたような印象で、最初これを見せられた時には活動時間諸々に不安を覚えたのだが、テイワズで開発中の試作型スラスターユニットによって推力を底上げしたことにより、逆に機動力や活動時間等が微増しているとのことだった。色は変わらず深い青色で、追加装甲で着ぶくれした以外には特に変化はない。外見上は。

 

 俺は開け放たれている〝ラーム〟のコックピットに飛び込む。

 そして素早く端末を叩いて全システムを立ち上げる。外から見れば、〝ラーム〟の頭部ツイン・アイが一瞬輝いたことだろう。

 と、その時、外から一人の赤髪の女性……というより俺と同年代ぐらいの女子がコックピットに頭を突っ込んできた。

〝ラーム〟の改修を手掛けた、ドルト6のテイワズ支社に勤める技術者―――フェニー・リノアだ。

 

「カケル!〝ランペイジアーマー〟の起動方法だけど………」

「昨日からずっとシミュレーションしたから大丈夫だと思う。………フェニーには感謝してもしきれないな。これだけカスタマイズしてくれて、〝ラーム〟も喜んでる」

 

 そ、そう? フェニーは、少し頬を赤らめた。

 

「やっぱりモビルスーツの気持ちとか、考え方とかって分かるんだ」

「人間みたいに思考してる訳じゃないけどな。ただ、阿頼耶識の繋がりがいい時は、機嫌がいいんだろうって考えてる」

 

 原作「いさなとり」の〝バルバトス〟出撃シーンで、「リアクターだけじゃなく、各モーターに変な負荷がかかってる………」と三日月が言っていたと思うが、機体の各情報は直感的な情報へと変換され、阿頼耶識システムを介してパイロットに直接伝達される。それを「調子がいい」とか「機嫌がいい」と表現することができるのだ。

 特に今は、阿頼耶識システムの情報交換がいつにないほどスムーズだ。こういう時、「機嫌がいい」と評して差し支えないと思う。

 

「………こいつの初陣、派手に決めてやるよ」

「ふふん。しっかり観てるからね」

 

 手にかけていたコックピットハッチから手を放し、フェニーの身体が無重力下の慣性に従って遠ざかる。

 安全を確認して俺は開閉コマンドを操作してコックピットハッチを閉じた。

 見れば格納庫脇のキャットウォークから、ラフタやアジーが見送る中、昭弘が眼前の〝グシオン〟改修機……〝グシオンリベイク〟のコックピットへと飛び乗る所だった。

 

 

「昭弘。調子は?」

『問題ない。だが俺はまだ阿頼耶識に慣れてねえからな』

 

 ジュル……と鼻血をすする音が通信越しに聞こえてきた。

 

「昭弘は出撃後にドルト3に先行して三日月の援護を。俺はドルト4、5の連中をエスコートする」

『分かった』

 

 ラフタやアジー、それにタービンズやテイワズの技術者らが格納庫から退避し、減圧開始。

 やがて格納庫後部のハッチが開かれ、宇宙空間がぽっかりとその光景を覗かせた。

 

『ブリッジより〝ラーム〟へ。カタパルトは使えません。後部ハッチからどうぞ』

「了解。発進する!」

 

 

 固定用のアームが解除され、俺は〝ラーム〟のスラスターをわずかに吹かしながら後部ハッチから宇宙空間へと機体を発進させた。それに〝グシオンリベイク〟が続く。

 さらに………

 

『来た! 兄貴の機体だ!』

『昭弘さんっ!』

『俺たちもいくぜーっ!』

『お、俺だって!』

『初仕事ってやつだな』

 

〝ハンマーヘッド〟の隣のベイに停泊しているブルワーズ艦から〝マン・ロディ〟が次々飛び出してきた。数は6機。

 口々に通信に飛び込んできた声は順に、昌弘、アストン、ビトー、ペドロ、それにデルマ。ブルワーズから保護した元ヒューマンデブリたちだ。

 

『お前ら………。待ってろっつっただろうが!』

『俺たちも一緒にたたかうっ! 俺たちだって、鉄華団だ!』

『昌弘………!』

 

『また居場所がなくなるのは困るんだよ!』

『キューリョーもらってないしな………』

 

 と、1機の〝マン・ロディ〟がこちらへと近づいてきた。

 通信が開かれ、モニターに映し出されたのは、

 

『あの………カケル、さん………?』

「クレスト………」

 

 元ヒューマンデブリの少年、クレストが少しブカブカのノーマルスーツ姿でモニター越しにこちらを見つめていた。

 

「お前、モビルスーツパイロットだったんだな」

『うん。その………カケル、さんの機体にも当てたことあるから………』

 

 ブルワーズ戦でブースターユニットに当てたの、お前だったのかよ。

 あれはかなり危なかった。

 

「機体の状況は? 前の戦いでかなりダメージを負ったかと思ったんだが」

『大丈夫だよ。ここの人たちが直してくれたから。ニコイチとか言ってたけど………』

 

 何機かバラして補修用パーツに変えたんだな。原作以上に無事だった機体も多いだろうし。

 正直、組合のモビルスーツ隊が健在でも、ギャラルホルン相手だとかなり心細い。経験豊富だろう元ブルワーズのパイロットが参戦してくれるのは、歓迎したい所なのだが、

 

「………だが、正直かなり厳しい戦いだ。死ぬかもしれないぞ」

『そうだ! 俺はもう………』

 

『俺だってもう兄貴と離れ離れになるのは嫌だっ!』

『いつものように、死なないように戦えばいいだけだ』

『俺たちをバカにするなっての!』

『そうだね』

『そういうこと』

 

 これまでは無理矢理戦わされてきた元ヒューマンデブリ達が、自分で戦うことを選んでいる。

 ヒューマンデブリとしての鎖が、徐々に緩み始めている証拠だ。

 

「どうする昭弘? さっさと行かないとドルト6のギャラルホルンに見つかるぞ」

『ぐ………分かった。なら、昌弘は俺について来い。絶対離れるなよ』

『兄貴………分かった!』

 

「アストンたちは隣のドルト5の組合側の援護に向かってくれ。そのままドルト3まで護衛するんだ。ガスがやばくなったら〝イサリビ〟に連絡を取れ。クレストは俺とついてきてくれ」

『『『『『了解!』』』』』

『分かった!』

 

 ドルト3に直進する〝グシオンリベイク〟と追随する昌弘の〝マン・ロディ〟。

 アストン、ビトー、ペドロ、デルマからなる〝マン・ロディ〟隊は隣のコロニー……ドルト5へ。すでに戦端が開かれ、いくつもの火球が浮かび上がっては瞬間的に消えていた。

 

「クレストも頼むぞ」

『まかせて!』

 

 タカキよりもずっと幼いぐらいなのに、頼もしい限りだ。

 フットペダルを踏みつけた瞬間、メインスラスターが改修前に比べ遥かに凄まじいパワーを吐き出し、爆発的な速度で〝ラーム〟を目的地……ドルト4に向かって突き上げる。〝マン・ロディ〟もそれに続き、2個の光点が、やがて星空に吸い込まれるように、景色に溶け込んで消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 4大経済圏が一つ、アフリカンユニオンの公営企業〝ドルトカンパニー〟。

 ドルト3の目抜き通りの先に、その巨大な本社ビルの威容がそびえている。そこをオフィスとするということはエリートであるということ。地球圏でも一つのステータスとして、人々の羨望の的だった。

 今、ドルトカンパニー本社はオフィスのどこを見ても、コロニー内外で繰り広げられている労働者の大暴動の件で大わらわになっていた。モビルスーツが奪取された他、暴徒により工場がいくつも破壊され、鎮圧にあたるはずのギャラルホルンは………対処が間に合わずに各所で分断されている有様だった。

 

「ギャラルホルンは何て言ってるんだ!?」

「どことも繋がりません!」

「ドルト1、2、4、5の支社と通信が途絶しています! 駐留部隊とも………」

「くそっ! ギャラルホルンは何をやってるんだ!? 労働者どもがノコノコ出てきたら鎮圧してくれるんじゃなかったのか!?」

 

 怒声や喧騒が飛び交う中、

 いくつものパーテーションで仕切られた一角で、ドルトカンパニー役員サヴァラン・カヌーレもまた事態への対処に追われていた。労働組合との窓口を任されているサヴァランへの問い合わせが、今までスラム街出身で養子であるサヴァランを役員会から半ば締め出していたはずの役員上役らから殺到しており、ひっきりなしに訪れるメールや電話に、サヴァランは一つ一つ丁寧に対応して回っていた。

 と、また電話の呼出音が。内線で、このオフィス内からだ。

 

「………何だ?」

『弟と名乗る方から外線が来ているのですが………』

 

 弟? サヴァランは一瞬首を傾げた。カヌーレ家の子息は養子である自分一人で弟などいるはずがないのだが………

 だがそこでようやく、かつての自分の家……グリフォン家のことを思い出す。弟のビスケット、双子の妹のクッキーとクラッカー。だが、彼らは火星の祖母の所にやったはずなのだが。

 

「繋いでくれ」

 

 掛け間違いかイタズラか………? 多忙ながらもとりあえず繋ぐよう指示するとすぐに外線と繋がった。

 

『あの………サヴァラン兄さん? 俺、ビスケットだけど………』

 

 その声を聞いた瞬間、サヴァランはありありと………幼い頃、自分の周りをウロチョロ走り回っていた小さな弟の姿を思い出した。まさか………だが、間違いない………!

 

「ビスケットっ! 本当にお前なのか!?」

 

 思わず弾んだ声で問いかけると『う、うん………』と遠慮がちな声が返ってくる。この、少しシャイな所もよく覚えている。

 だが、次の瞬間飛び込んできた言葉に、サヴァランの全身に衝撃が走った。

 

『俺……あ、僕。今鉄華団っていうところで働いていて………』

 

〝鉄華団〟………!? 全身を殴りつけられるような感覚に、思わずノロノロと視線を、先ほどまでメールを見ていたタブレット端末へと向ける。

 そこには、民間軍事会社〝鉄華団〟が所有する強襲装甲艦の映像と、労働組合に武器を供給する危険で違法な組織であり注意を促す文面が表示されていた。

 だが、どうして………? 火星は治安が悪いが祖母の農家の辺りはギャラルホルンの警備が行き届いていて安全だと聞かされていたのに………?

 

 そして、さらに続く言葉に、サヴァランは言葉を失った。

 

 

『それで………兄さんと、鉄華団が運んできた荷物……武装蜂起のための武器弾薬について、兄さんと話がしたいんだ。今、クーデリアさんが戦いを早く終わらせようって頑張ってるんだけど、そのためには兄さんの力が必要なんだ………!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 ドルト4周辺では、おびただしい犠牲の果てにようやく態勢を立て直したギャラルホルン駐留部隊と、猛攻を仕掛けつつもドルト3に向かおうとして立ち往生している組合側の戦力が激突していた。

 

『ち、畜生こいつらっ!』

 

 メチャクチャにライフルを撃ちまくる〝スピナ・ロディ〟。だが〝グレイズ〟隊は悠々とそれを回避し、返す一撃で〝スピナ・ロディ〟のライフルと肩部を吹き飛ばした。

 

『ぎゃあっ!?』

 

 武装ランチもたて続けにミサイルを撃ちまくる。だが、戦列を組んで迎撃する〝グレイズ〟や警備クルーザーの前に次々撃ち落とされ、有効打を与えることができなかった。

 そして、

 

『な………何で弾が出ねえんだよォっ!?』

『弾切れだッ! 一旦補給に………うわ!?』

 

 弾切れになり後退しようとしていた〝スピナ・ロディ〟に対して〝グレイズ〟隊の銃撃が殺到する。長時間にわたる戦闘で、スラスターガスも消耗していた〝スピナ・ロディ〟は、満足に回避機動も取ることができずに撃破された。

 

『く、くそおっ!!』

『も、もうダメだ………っ!』

 

 一度は数の差で押したものの、純然たる戦闘部隊であるギャラルホルンとの練度や戦闘力の差は歴然。

 組合側部隊の先頭集団にいた武装ランチが1機、ついに集中砲火を浴びて爆散した。護衛していた〝スピナ・ロディ〟数機が回避が間に合わずに巻き込まれ、吹き飛ばされる。

 

『うおおおおおっ!!』

 

 吹き飛ばされる〝スピナ・ロディ〟目がけ、〝グレイズ〟2機がライフルを撃ちかけながら殺到した。姿勢回復が間に合わず、ようやく回転を止めたその時には、眼前にはアックスを振り上げる〝グレイズ〟の姿が………

 だがその時、横から降り注いだ凄まじい密度の弾幕を浴び、〝グレイズ〟が機体各所から破壊された装甲や煙を吹き散らしながら弾き飛ばされる。

 

『え………!?』

 

 助かったのか………? だがどこから………!?

命拾いした〝スピナ・ロディ〟のパイロットが頭部カメラを向けると、そこには見たこともないタイプの重装甲モビルスーツが、巨大な砲を構えて佇んでいた。

 

 

 

 

 

 


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