鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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ランペイジ

▽△▽――――――▽△▽

 

「ギャラルホルンを分断する! しばらく敵を俺に近づけさせないでくれ」

『了解っ!』

 

〝ラーム〟のガトリングキャノンを撃ち放ち、壮絶な弾幕に呑み込まれた〝グレイズ〟1機が、なす術なく全身の装甲を引き裂かれながら、宇宙空間に吸い込まれるように吹き飛ばされていった。

 さらに俺は、組合側のランチ隊に迫りつつある〝グレイズ〟隊に砲口を向ける。

 トリガーを引いた瞬間、ガトリングキャノンの砲口が炸裂し、数百ものガトリング弾が数秒のうちに密集していた〝グレイズ〟隊に襲いかかった。

 遠距離からの射撃ゆえに致命打を与えることは叶わないが、それでももろに直撃弾を食らった〝グレイズ〟数機が陣形から弾き出され、こちらへの反撃で身動きが取れなくなった。

〝グレイズ〟隊から放たれるささやかな銃撃は、距離がある上に〝ラーム〟の重装甲に弾かれて終わる。

 

 それでも前進を続けようとしたギャラルホルン部隊に容赦なくガトリング弾をぶちこみ続け………やがて彼らの怒りの矛先がこちらに向くのにそう時間はかからなかった。

 

「来い………!」

 

 迫る〝グレイズ〟隊に容赦なくガトリングキャノンを叩き込んでいき、1機、また1機と弾幕を突破しきれずにガトリング弾の雨嵐の中で〝グレイズ〟は撃墜されていく。運よく致命傷を避けた敵機も、戦闘続行は不可能と判断したのか、後続機に先陣を譲るように減速し、やがて反転していった。

 だがそれでも2機、運が良かったか先行機を犠牲にした結果か、〝ラーム〟の弾幕を突破して襲いかかってきた。

 

『まかせろっ!』

 

 背後に下がっていたクレストの〝マン・ロディ〟がマシンガンをばら撒きながら1機の〝グレイズ〟に襲いかかる。〝グレイズ〟は咄嗟にシールドで銃撃を受け流しつつ、迫る〝マン・ロディ〟を前にバトルアックスを抜き放つ。

〝マン・ロディ〟もハンマーチョッパーを手に、近接武器同士が激しくぶつかり合った。

 

 その脇をすり抜けるようにもう1機の〝グレイズ〟がこちらへと迫る。〝マン・ロディ〟が片手でマシンガンを撃ち放って牽制するが、その勢いは緩まない。

 

『カケルっ!』

「大丈夫だ」

 

 俺も、〝ラーム〟のガトリングキャノンを下げ、機体腰部にマウントしたコンバットブレードを抜き放った。

 バトルアックスを構えた〝グレイズ〟が迫り、次の瞬間には互いに鋭い剣戟を次々繰り出した。

 かなりレベルの高い相手だ。機体そのもののポテンシャル……アビオニクスの精度や機体の反射能力は、現行機である〝グレイズ〟の方が高い。

 だが………

 

「パワーで押し切るッ!!」

 

〝グレイズ〟のコックピット目がけてコンバットブレードをパワー全開で振り下ろす。

 対する〝グレイズ〟はすかさずアックスを掲げて防ごうとするが………そのパワーの差で少しずつ押し切られ始めた。

 互いにメインスラスター全開。だが〝ラーム〟の方が遥かにパワーで勝る。

 両機の関節部が激しく軋む中、徐々に押されていく敵機パイロットのうめき声が聞こえるような気がした。

 

「うおおおおおおッ!!!」

 

 力づくで〝グレイズ〟のアックスを上方へと跳ね上げ、次の瞬間、その胸部目がけて〝ラーム〟脚部による強烈な膝蹴りを叩きつけた。

 重厚な〝ラーム〟の膝部によるキックに、〝グレイズ〟のコックピットは内側へと潰れ………パイロットは圧死したのだろう、アックスを跳ね上げられた姿勢のまま後ろへと漂流していった。

 

 クレストは………〝グレイズ〟と激しい鍔迫り合いを繰り広げていたが、刹那、瞬間的に爆発的な機動を見せてバックステップを踏み、〝グレイズ〟のアックスが大きく空を斬ったその間隙を突いて、

 

『うらァッ!!』

 

〝グレイズ〟の頭部に〝マン・ロディ〟のハンマーチョッパーを叩き込んだ。

 頭部が潰れ、胸部コックピット部も大きく抉れた〝グレイズ〟もまた、パイロットを喪って周辺に浮かぶ残骸の一つとなり果てる。

 

「これであらかた片付いたか………」

『そこのモビルスーツ! 誰だが知らんが礼を言うぜ!』

 

 ドルト3に向かう〝スピナ・ロディ〟の1機が、こちらへと、器用に手を振りながら飛び去っていった。見れば、ランチ隊もドルト3へ前進を再開。主だった〝グレイズ〟を失ったギャラルホルンの警備クルーザーは、砲火に押されてじわじわと後退していく所だった。もう、組合側のモビルスーツや武装ランチを止める手立てはないだろう。

 

 ドルト5でも………

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 激しく閃光と火球が入り乱れるドルト5周辺宙域。

 それを眼前に、

 

『いつものやり方で仕掛けるぞ! ビトー!!』

『おうッ!!』

 

 モビルスーツや武装ランチ、それにギャラルホルンの警備クルーザーらが滅茶苦茶に入り交じり、銃撃や砲火を撃ち交わし合う混沌とした戦場。

 そこに飛び込んできた4機の〝マン・ロディ〟は、縦横無尽に宇宙空間を飛び回りながらマシンガンを撃ちまくり、〝スピナ・ロディ〟にトドメを刺そうとしていた1機の〝グレイズ〟の動きを封じた。

 その機体のみならず周囲で戦っていたもう2機も、突然の乱入者に頭部センサーを向け、その機動力の高さから優先的な排除目標と判断して

 

『俺から行く! 援護頼むッ!』

『分かった。気を付けろよ!』

 

 メインスラスター全開で突貫するビトーの〝マン・ロディ〟。

 アストン機は横に機体を流しながら、〝マン・ロディ〟のサブウェポンであるスモーク入り手榴弾を〝グレイズ〟隊目がけて投擲した。

 アストンはそれを正確に狙い撃ち、3機の〝グレイズ〟隊のちょうど中間の地点で手榴弾が炸裂。瞬く間にスモークガスが広がって、3機とも完全に飲み込んでしまった。

 

『後ろが………がら空きだぜェッ!!』

 

 敵が混乱している間にビトーの〝マン・ロディ〟がその背後に回り込み、迫る1機の〝グレイズ〟に容赦なくハンマーチョッパーを叩き込んだ。回避する間もなく、〝グレイズ〟はコックピットを潰されて沈黙する。

 慌ててもう2機の〝グレイズ〟がビトー機目がけてライフルを撃ちまくるが、忍び寄っていたのはビトー機だけではない。

 

『そこだっ!』

『もらったぞ!!』

 

 2機の〝グレイズ〟にペドロ、デルマの〝マン・ロディ〟が急迫。1機の〝グレイズ〟は頭部を叩き潰され、もう1機は寸前で回避動作を取ることに成功したものの、手持ちのライフルが破壊された他、さらに一撃を食らって右肩部を大きく破損し、戦線離脱を余儀なくされた。

 突然の乱入者に、練度の低さからそれまで苦戦を強いられていた〝スピナ・ロディ〟隊だったが、

 

『な、何だぁおめえら!?』

『どこのモンだ?』

 

『俺たちはブルワ………じゃなかった、鉄華団だっ!』

『あんたたちを助けろって言われたから来た』

 

 鉄華団。その名を聞いた瞬間、おお! と組合側のモビルスーツ隊の間にどよめきが走る。

 

『あんたらが噂の鉄華団か!』

『救援に感謝する! 危ない所だったぜ』

『鉄華団とクーデリアさんがいればギャラルホルンなんざ怖くねえぜ! やっちまえ!!』

 

 士気と統率を取り戻した組合側の猛攻にさらに〝マン・ロディ〟4機の遊撃が加わった。

 総数で劣りつつも練度と戦闘力で勝っていたギャラルホルンだったが、〝マン・ロディ〟の目まぐるしい機動とヒット・アンド・アウェイの前に陣形と連携を悉く打ち崩され、そこに〝スピナ・ロディ〟の突撃を食らって徐々に追い込まれていく。

 

『吹っ飛びやがれーッ!!』

 

 1機の〝グレイズ〟の懐に潜り込んだビトーの〝マン・ロディ〟が、ハンマーチョッパーで〝グレイズ〟の胸部を叩き潰す。

 止まった所を狙い撃ちにしようと静止したもう1機の〝グレイズ〟だったが、アストンやペドロ機のマシンガン、さらには〝スピナ・ロディ〟のライフルをもろに食らって機体各所が損壊。離脱していった。

 

 結果、ものの30分のうちに、それまで優勢だったギャラルホルン部隊はモビルスーツの半数以上を失い、状況不利と判断したのか撤退を開始する。

 反転する警備クルーザーを前に、組合側の〝スピナ・ロディ〟隊は大きく快哉を上げた。

 

『やったぞ!』

『俺たちでギャラルホルンを追い返した!』

『ドルト3に向かうぞ!』

『飛ばせ飛ばせーっ!』

『ガスが少ない機体はランチで補充を受けろ! ほら、鉄華団のあんたらも』

 

 重装甲ゆえにスラスターガスの消費が激しい〝マン・ロディ〟は、どの機体も速やかな補充を必要としていた。

 ドルト5から出撃した組合側部隊は、かくて障害のほとんどを打ち破り、ドルト1、4の同志らと同様にドルト3へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 組合側のモビルスーツや武装ランチは、概ね順調にドルト3目指し進軍を続けていた。コロニー駐留のギャラルホルン部隊は戦力の過半を失って散り散りとなり、もはやその戦力の集合を妨げるものは存在しない。

 だが………

 

『カケル! あれ………っ!』

「ち………! アリアンロッドの本隊じゃないだけマシだが………」

 

 いくつもの輝点が、唐突に宇宙空間に浮かび上がった。

 おそらくアリアンロッドに先行していた、L7宙域駐留のギャラルホルン艦隊。センサーに映るだけでもハーフビーク級戦艦が5隻以上。数十の〝グレイズ〟が展開し………このままではドルト4、5辺りの組合側部隊は集合する前に背後から狙い撃ちにされてしまうだろう。

 それを防ぐためには、敵艦隊に急襲を仕掛けて指揮系統や連携を混乱させるしかない。

 そしてそれが可能なモビルスーツは、今この場では〝ラーム〟ただ1機のみ。

 

「クレストはこのままドルト3に向かえ」

『え………!? まさかカケル………っ!』

「誰かが足止めするしかないだろう。後は任せたぞ!」

 

 大軍を前に引き留めようとするクレストに構わず、俺は〝ラーム〟のメインスラスター全開に、敵艦隊目がけて機体を加速させた。

 重厚な見た目に見合わぬ加速力。だがその分スラスターガスの消耗も激しく、そう長時間戦うことはできないだろう。

 この『姿』のままでは。

 

【レーザー照準警報】

 

 ハーフビーク級戦艦の射程内に入ったということだ。照準用レーザーが〝ラーム〟へと照射され、次の瞬間には各艦の主砲から閃光が迸る。

 俺は〝ラーム〟の加速を緩めなかった。今は敵艦隊との距離を詰めることに集中したかったからだ。

 大丈夫だ。問題ない。

 

【WARNING】

 

 その時、撃ち出されたハーフビーク級各艦の一斉砲火が〝ラーム〟を包み込み、そして飲み込んだ。壮絶な砲撃による着弾、炸裂、爆発が何度も何度も………〝ラーム〟の姿が爆煙で見えなくなってもなお繰り返される。

 並みのモビルスーツであれば、この時点で木端微塵に撃破されたことだろう。

 

 

『命中を確認!』

『や、やったのか………?』

『特攻のつもりか……?』

『えらくあっけないじゃないか』

『油断するな。まだ反応が………!?』

 

 

 まだ爆煙も晴れぬ中、母艦から発進し恐る恐る前進する〝グレイズ〟隊。

 爆煙が晴れ始めた時、そこにあったのは1機の重装甲モビルスーツの残骸………

 

 

 ではなかった。

 

 

【MAIN ARMOR PURGE】

【RAMPAGE ARMOR】

 

 

 その瞬間、頭部、胸部、腕部、腰部、脚部………そのガンダムフレームを重装甲機たらしめていた分厚い装甲パーツの数々が、鎧を弾くかのように分離していった。

 それまで機体を守ってきた分厚い装甲が次々剥がされていったその果て、現れたその姿は、これまでの〝ガンダムラーム〟からは全く想像もできない、スリムな装甲とフォルムを持つ、蒼いガンダムフレームの姿。

 

 その機体が自身をベールのように覆い隠していた煙を、振るったコンバットブレードで斬り飛ばし、次の瞬間には信じがたい推進力で、最接近していた〝グレイズ〟1機に襲いかかった。

 

『ひ………!?』

 

 その〝グレイズ〟は慌ててライフルを構えようとするが、もう遅い。

 次の瞬間には突き出されたブレードに胸部装甲の間をぶち抜かれ、コックピットを破壊されて中のパイロットは即死。

 すかさず背後へと回り込んだもう1機の〝グレイズ〟だったが、予想外の反応速度を見せつけられ、振るったアックスはコンバットブレードに弾き上げられる。態勢を立て直す間もなく強烈なタックルを食らい、さらに加速。

その〝グレイズ〟は、ハーフビーク級の甲板へもろに叩きつけられて、とどめとばかりに胸部にコンバットブレードの刃を突き立てられた。

 

 ハーフビーク級艦の主砲が炸裂。

 だがその時には既に、目標は射線上にはいない。

 

「よく見とけよ。これが………」

 

 重装甲によって守られ、そして戒められ続けてきた〝ラーム〟がその覆いを剥がし、今、高機動戦用装甲〝ランペイジアーマー〟を露に、生まれ変わった新たなる姿を敵に見せつけた。

 そして稲光のように宇宙を駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが―――――――――ガンダムフレーム〝ラームランペイジ〟だッ!!」

 

 

 




【機体解説】
・ASW-G-40R〝ガンダムラームランペイジ〟

蒼月駆留の〝ガンダムラーム〟をタービンズ、テイワズの技術部門が改修したモビルスーツ。
機体名の〝ランペイジ〟とは英語で「暴れまわること」を意味する名詞。

同時期に改修され、ロールアウトした〝ガンダムグシオンリベイク〟が軽量化を目指したのに対し、新型の二重装甲によりさらに防御力と重量がアップ。新型のスラスターに換装することによって、改修前の〝ラーム〟時と変わらない機動性能で防御力の向上が実現している。

装甲は二重となっており、表面の重装甲パーツをパージすることによって、内部の細身のボディ〝ランペイジアーマー〟が姿を見せる。この状態になった時、機体は高機動機に変貌し、対モビルスーツ格闘戦において優れた性能を発揮する。この状態時でもガトリングキャノンを運用することが可能。
火器管制システムも現代の技術でアップグレードしており、阿頼耶識システムと連携することによって、従来機では不可能な超長距離狙撃・超精密射撃をも可能とする。

(全高)
18.77メートル

(重量)
50.25t

(武装)
ギガンティック・ガトリングキャノン
コンバットブレード



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