鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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鉄血ガンダムが終了してしばらく経ちますが、ハーメルンでの二次創作やPIXIVでの盛り上がりに影響されて、自分でも作りたくなってしまいました。

楽しんでいただけるよう頑張っていきたいと思います。


※スズ様より表紙タイトルイラストをいただきました。
 ありがとうございます!


【挿絵表示】



序章

 その星は、漂う宇宙のどこからやってきたのだろうか?

 

 

 それは、流れ星が満天の星を時折彩る、真夏の或る夜だった。

 寂しい我が家のベランダから、さらに屋根に登って顔を上げると、一瞬、また一瞬と光の筋が夜空を駆け、あっという間に視界の端で消え去る。

 

 そんな中、ひと際大きく、そして強い光を放つ流れ星が一筋………ゆっくりと夜空を駆けていたのだ。まるでいつかテレビで観た、昔の彗星が接近した時の光景のように。

 

 幻想的な光景を見上げた俺は、柄にもなく両手を握りしめて、動きの遅い流れ星にこう祈ったのだ。

 

 

 

 

 

「〝機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ〟がハッピーエンドに改変されますように」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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▽△▽――――――▽△▽

 

「………んあ?」

 

 全身を包む妙な違和感に、俺……蒼月駆留はようやく目を覚ました。

 流れ星を見ている間に屋根の上で眠ってしまっていたのか………と思ったのだが、視界に飛び込んできた光景全てがそれを否定する。

 

 いつの間にか、狭い空間の座席に腰を下ろしていた。

 

 前方と左右を囲うモニター。

 両手のコントロールグリップ(操縦桿)。

 モニターの端ではいくつもの数値が駆け巡っては流れていき、複数の情報がポップアップされては消えていく。

 

「どこだココ?」

 

 キョロキョロと辺りを見回すが、ヒントになりそうなものはない。

 何かの………コックピットのようだ。それに、何となく見覚えが………。

 

「まさか………モビルスーツのコックピットか?」

 

 だとしたら、戦場〇絆のあの筐体よりずっとリアルだ。

 それに、コックピットモニターに表示されている景色……宇宙空間は、到底ゲームのグラフィックのようには見えない。まるで、本物の宇宙をそのまま表示しているかのような………。

 

「な、何のドッキリだよ。それとも夢か?」

 

 流れ星を見て、そのまま屋根の上に横になって、すっかり夢の中に入ってしまったのだろうか?

 顔をつねってみるが、当然痛い。それに、夢の中で顔をつねったところで夢は覚めないというし。

 それに来ている服。ガンダムシリーズでお馴染みのパイロットスーツだ。雰囲気的には若干SEEDが入っている気も………

 

 と、両側のコントロールグリップが視界に入った。〝グレイズ〟のように、横に倒されたグリップを握って操作するタイプだ。

 恐る恐る、グリップに手を伸ばしてみる。

 と、その時。

 

「………っ!?」

 

 全身を駆け巡る奇妙な感覚。まるで、背中から何かが流れ出て、また身体に注ぎ直されたかのような。

 振り返ると、背中に何かを装着されている。一本の太いコードが座席の真ん中の辺りにある端子に伸びている。

 まさか、これって………

 

「あ、阿頼耶識システム………!」

 

 阿頼耶識システム………それは外科手術によって埋め込まれた〝ピアス〟と呼ばれるインプラント機器を介して機械のシステムと被験者の脳神経を直結させ、鍛錬や学習によらない直感的な機械操作を可能とする技術。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の物語の核となったテクノロジーだ。

 それが、自分の背中に埋め込まれている。慎重に背中に感覚を集中すれば確かに、その異物感を感じることができるのだ。

 

「嘘だろ………」

 

 じゃあ、ここは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の世界なのか?

 まさか、流れ星に願ったあの「〝機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ〟がハッピーエンドに改変されますように」、って願い事を、

 鉄血ガンダムの世界に、阿頼耶識とMS付けて転移させてやるから自分で何とかしろ、と。

 

「………なんつー流れ星だよ」

 

 俺以外の、もっとまともな願い事を叶えることだってできただろうに………。

 だが、とりあえずそう仮定して………コントロールグリップを握ってみた。

 両足もフットペダルに乗せる。

 

「おお………っ!」

 

 次の瞬間、まるで前もって知っていたかのように、操縦に関する情報が背中の……脊髄を通じて頭の中に入ってきて、その通りにコントロールグリップやフットペダルを操作することによって、モビルスーツを動かすことができるのだ。

 まるで直感的に、それこそ自分の身体を動かすのと同じように。

 

「すげ………」

 

 一生仰向けに寝られない身体になってしまったが、そんなことは置いておいてとりあえずモビルスーツを宇宙空間で自在に操縦しているその感覚を、噛みしめる。

 それと頭に違和感を覚えて………撫でてみると額全体が少し盛り上がっているのを感じた。まるで傷跡のように。特に痛みは無いが。

 

「………っと。そういえばこのモビルスーツの名前って………?」

 

 手元の端末を操作し、機体情報を呼び出す。

 そこには、

 

 

【ASW-G-40 GUNDAM RALM】

 

 

「ガンダム………ラーム………」

 

 知らない名前だ。少なくとも「鉄血のオルフェンズ」本編や、外伝でも出てこなかったと思う。

 次の瞬間脳裏に〝ガンダムラーム〟に関する基本情報や、機体名の由来にまつわる情報が流れてきた。

 

 ラーム(Ralm)。それは、ソロモン72柱の悪魔の1柱で40番目。鴉の形を取るが召喚者が望めば人の形にも変えられる。財宝の転移や、召喚者が望む者の地位とプライドの破壊、未来予知に力を発揮する。かつては天使の位にあったが零落し、かつての地位の回復に異様な執着を見せる。

 

ASW-G-40〝ガンダムラーム〟は、ギガンテック・ガトリングキャノンを用いた、実弾による広域制圧を主眼に置いた機体で、重装甲と大重量のガトリングキャノンを保持することによる機動性の低下を補うため、バーニアスラスターが強化されている他、機体各所の多角化偏向スラスターによって、鈍重そのものの見た目に反した高い機動性をも実現している。

バックパックは小型の兵装製造自動工場となっており、ガトリングキャノンの砲弾の他、時間と資材があればガトリングキャノン自体を組立前のパーツの状態で複製することも可能。

 どうやらこの額の傷は………外伝のヴォルコ・ウォーレンと同様の情報チップらしい。おそらく一般知識を始め、技術情報にもアクセスできるようだ。

 

「つまり……こいつは火力支援を主眼に置いた機体なんだな」

 

 ガトリングキャノンと聞いて真っ先に思い出したのが宇宙世紀のガンダム5号機だが、コンセプト自体は似通っているのかもしれない。機体形状は、あのブルワーズのガンダムグシオンを、少し角ばったフォルムにしたような感じだが。

 

 

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【装備中武装】

・ギガンテック・ガトリングキャノン

・コンバットナイフ

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「………」

 

 ガトリング砲とナイフだけという、少々バランスの悪い組み合わせ。

 ガトリングキャノンの運用機として開発されたに過ぎないのだろうか………

 

 機体状態は良好。まるで、つい寸前まで完璧に整備されていたかのように、動作に問題はない。

 位置も確認しておく。真っ先に【MARS】の表示を目の当たりにすることができて、とりあえず一安心。〝ラーム〟はちょうど、静止軌道上に差し掛かりつつあり、近くにはギャラルホルンの宇宙基地〝アーレス〟が………

 

 何だって?

 

「え? ちょ、ちょっと待ていくら何でも近すぎ………うわっ!?」

 

【WARNING】の警報表示。

 エイハブ・ウェーブの反応。

 それに次の瞬間、コックピットは何かが激突したかのように激しい衝撃に揺さぶられた。

 

「いきなり撃ってきやがった!?」

 

 2度目の攻撃。

 だが、それは素早くバーニアスラスターを噴かし、急上昇して回避。

 

 コックピットモニターを一部拡大して、見れば2機の〝グレイズ〟が、ハーフビーク級戦艦の巨体を背にこちらへと急接近している所だった。

 さらに〝アーレス〟からも複数個の反応が………肉眼でも見えてきた〝アーレス〟の威容から、いくつもの光点が躍り出る。

 

「冗談きついぜ………」

『そこのMS! 所属を名乗り、直ちに武装解除せよ! さもなくば攻撃するッ!!』

 

 つい先程その攻撃をくらったばかりなんだが………後方からはハーフビーク級と〝グレイズ〟2機。前方からは10機以上………。

 火星に向かうには、何にせよ〝アーレス〟から発進した10機以上の〝グレイズ〟隊を突破しなければならない。

 

 となると、この〝広域制圧〟を謳い文句にした、ガトリングキャノンを使ってみるか。

 

 端末を操作し、右肩のマウント部からガトリングキャノンの巨砲を取り外し、構える。

 後方の敵機とは、まだ距離がある。前方の敵に集中して問題ない。

 

 

 重力偏差修正完了。

〝ラーム〟は、射撃に関する全ての準備を整えた。

 

 

「………行くぞッ!!」

 

 トリガーを引いた瞬間、着弾とは違う、それでも凄まじい衝撃と共にガトリングキャノンが火を噴いた。

 秒間60発もの100ミリ弾を吐き出し、前方に向けてばら撒かれた分厚い弾幕は次の瞬間、5機の〝グレイズ〟に激突。その前進を完全に狂わせ、撃墜には至らなかったものの、直撃を食らった機体はガトリング弾の勢いを抑えきれず明後日の方角へと吹き飛ばされる。

 前方の封鎖陣形に、大きな風穴が空いた。

 

「今だ………っ!」

 

 バーニアスラスター全開で〝ラーム〟は駆ける。態勢を立て直した〝グレイズ〟隊が手持ちの100ミリライフルを撃ちかけてくるが、細かい機動で回避。さらにガトリングキャノンで反撃して、頭部を吹き飛ばされ腕部や胸部、各所から炎上し始めた1機を完全に行動不能に陥れた。

 そのまま一気に突っ込む。さすがに銃撃のいくつかは〝ラーム〟を直撃し、その度にコックピットは激しく揺さぶられるが………さすがは〝グシオン〟に似たガンダムフレーム。表示される損傷は軽微だ。

 敵陣を強引に突破する寸前、漂流していた1機の〝グレイズ〟を捕まえ、そのまま抱えて脱出。ギャラルホルンのパイロットは………おそらくコックピットの損傷具合から、当たり所が悪くて死んだのだろう。大火力高威力の100ミリガトリング弾は容赦なく〝グレイズ〟のコックピットをひしゃげさせ、潰していた。

 

 位置情報把握。

 戦闘開始直前にリンクしていた〝アリアドネ〟のデータから、目的地………CGS本部の位置を確認。

 表示された地点は太陽に対して陰になっており、今は夜中だろう。もし、意図されて自分がこの世界に突き落とされたのだとしたら、今日は………

 

「CGS本部の位置確認。大気圏突入。軌道予想、パターンを計算………」

 

 火星目がけて降下を開始。それまで激しい銃撃を浴びせてきた後背の〝グレイズ〟隊は、さすがに大気圏突入までは付き合う気が無いらしく、ある一点を境に引き上げ始めた。着弾により何度も揺さぶられたコックピットも、わずかな間だがようやく落ち着きを取り戻す。

 が、次の衝撃……大気圏突入による摩擦熱と低い振動が、再び〝ラーム〟のコックピットに襲いかかってきた。

 計器表示が、機体温度が限界値に差し掛かりつつあることをけたましい警告音と共に知らせてくる。

 このままだと、いくらガンダムフレームが頑丈とはいえ、大気圏の半ばで燃え尽きて終わるだろう。

 

 そこで………この連れてきた〝グレイズ〟を使う。

 第19話「願いの重力」で、三日月の〝ガンダムバルバトス〟が地球外縁軌道統制統合艦隊の〝グレイズリッター〟を盾に、強引に大気圏を突破したように。

〝バルバトス〟は太刀を突き立てて、盾にした〝グレイズリッター〟を固定していたが、そういった長物は〝ラーム〟には無い。

 故に、〝グレイズ〟を踏みつけにし、上手く胸部コックピット部と腹部の間、脚部の関節部分に〝ラーム〟の足をねじ込んで、強引に固定する。阿頼耶識システムによる、感覚的動作による微調整が無ければ、到底不可能な所業だ。

 

 ようやく、警報もいくつかが落ち着き始めた。

 だが、予想外に加速がつきすぎている。減速が間に合うのか………?

 

「CGSは、そこか………! く、速度が………っ!」

 

 ようやく機外温度が低下し始め、問題が無くなった高度でサーフィンボードにしていた〝グレイズ〟を放棄。放り出された機体は〝ラーム〟の軌道とは別の方角へと投げ出されて、薄い雲間に消えた。

 

 それでも、自前のスラスターだけでは十分に減速できない状況が続く。

 計算上、〝ラーム〟はちょうどCGS本部の直上1000メートル地点を音速の2倍以上の速度で通過。そこから50キロ以上離れた地点で着地、さらに1キロ圏内でようやく停止する………。

 

「もし、今日が第1話の日なら………」

 

 第1話「鉄と血と」のその日、クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を狙いギャラルホルンのMW隊とオーリス・ステンジャを隊長とする3機の〝グレイズ〟隊がCGS本部を攻め立てる。

 上手くいけば、接近しつつあるギャラルホルンの部隊の真上を通過できるかもしれない。

 そうすれば、このガトリングキャノンでフライパスした瞬間に撃つことができれば………

 

 チャンスは一度。

 右肩にマウントしたガトリングキャノンを再び構える。凄まじい空気抵抗で機体がまた揺れる。

 もう、地表のうねりがはっきり見えてきた。

 それに〝ラーム〟以外のエイハブ・リアクターの反応も………

 

 

 

 

「それじゃあ、始めるか。〝鉄血のオルフェンズ〟の………仕切り直しだ!」

 

 

 

 

 


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