鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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やっとこさドルトコロニー編終了です………



第8章 地球へ
旅の再開


▽△▽――――――▽△▽

 

「いやぁ。この度は大変お世話になりました」

「こっちこそな。………だが、アンタらはこれからが大変なんだろ?」

「そうですね。治安の問題もありますし、近々アフリカンユニオン当局の査察が入るようです。役員会の一新で私たちを巡る環境も大きく様変わりすることでしょう。大事なのは、この改革を維持し続けることなのです」

 

 ドルト2の荷下ろし場。

 コロニー中の労働者たちが、今日出航の日を迎える鉄華団を見送ろうと集まり、貨物でいっぱいであるべきはずの荷下ろし場は緑の作業服が特徴的なコロニー労働者たちの群れで埋め尽くされてしまっていた。

 鉄華団側は、オルガを始めとして三日月、ユージンやビスケット、シノら鉄華団年長者の面々が揃い、見送りの余りの多さに三日月以外は戸惑っている様子だった。俺は、少し離れた所からその様子を見守っている。

 

 コロニー労働者や鉄華団を代表して、ナボナとオルガがそれぞれ進み出て、固く握手を交わした。

 

「鉄華団の方々には、大変お世話になりました」

「こっちこそ………ご利用、ありがとうございました」

 

 

 向こうではビスケットが、駆けつけた兄…サヴァランと向かい合っていた。一新されることとなったドルトカンパニー役員会においてさらに責任のある立場となったサヴァランは、ドルトコロニーの公害問題や労働条件の問題にこれから精力的に取り組んでいくのだろう。

 

「どうか気をつけてな。またドルトに戻ってくるんだぞ」

「うん………ありがとう、兄さん」

「無理して背負い過ぎるんじゃないぞ。今は難しいかもしれないが、なるべく堅実で安定した生活を送るように………。ばあちゃんや妹たちに、よろしく伝えてくれ」

「分かった。………兄さんも元気でね。あの………俺やクッキー、クラッカーが小さいときに一生懸命働いてくれて、面倒見てくれて………本当にありがとうございました」

 

 互いに力強く抱きしめ合うビスケットとサヴァラン

 やがて、抱擁を離すとビスケットはオルガ共々踵を返し、仲間たちの下へと向かった。

 三日月たちと共に〝イサリビ〟へと戻ろうと………

 

 

 

「………それではッ!! クーデリアさんの交渉の成功と! 鉄華団のこれからの更なる躍進を願って!!! ―――――ばんざーいッ!!!」

 

 

「「「「「「「「ばんざーい!!」」」」」」」」

 

「ばんざーいッ!!!」

「「「「「「「「ばんざーいッ!!」」」」」」」」

 

「ばんざーい!!!!」

「「「「「「「「ばんざーい!!!!」」」」」」」」

 

 

 

 ナボナの音頭に万歳! 万歳!! の何百人もの唱和。突然の出来事に一瞬鉄華団の誰もがビクッと身をすくませたが、

 

「………こういうのも悪くねぇな」

「だね」

「ちょっと恥ずかしいけどね」

「バンザーイ! バンザーイ!!」

「お、おいシノっ! 俺たちが言ってどうすんだよ!」

「何だよユージン。やっちゃおかしいのかよぉ」

 

 等々言い合いつつ、コロニー労働者たちの万歳三唱や歓呼に送られながら、俺たちは〝イサリビ〟へ。

 全員が乗り込み、ドルトコロニー宛の貨物の代わりにこれからの旅に必要な物資を満載した〝イサリビ〟は、繋留を解除してゆっくりとドルト2を離れた。

 宇宙に出ても、組合のランチや組合所属となったモビルスーツ〝スピナ・ロディ〟が見送りのために展開し、ランチの上でノーマルスーツを着た人間たちが大きく手を振っているのが見えた。

 

 

 そして〝イサリビ〟の針路の奥で………数十隻のハーフビーク級戦艦やビスコー級、そして100機以上はいるだろうモビルスーツを展開させるアリアンロッド艦隊が待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

『これより本艦は戦闘態勢に入ります! 各員所定の配置についてください。繰り返します――――――――』

 

「〝バルバトス〟から下ろすぞォーっ! ガスはきっちり入れてるな!?」

「大丈夫ですっ!」

「さて………ホントにドンパチなっちまったらこっちにゃ勝ち目がねえぞ。大丈夫だろうな………」

 

 おそらく大丈夫です。と、パイロットスーツに着替えた俺は、ぼやく雪之丞の傍らに着地した。

 

「今ここで鉄華団やクーデリアさんに危害を加えれば、アフリカンユニオンから動きを抑えられているアリアンロッド艦隊はその意向を無視したことになりますから。政治的なダメージを考えたら俺たちを素通りさせるはずです」

「なら………いいんだけどなぁ」

 

 と、「〝ラーム〟の準備OKっす!!」と整備の年少組に混じっていたダンジが声を張り上げてきた。「おう!」とそれに返しつつ、

 

「じゃあ。また後で」

「おう。気ぃ付けてな」

 

 そして開け放たれた〝ラーム〟のコックピットに飛び乗りつつ、素早く各システムを立ち上げていく。

 見れば、〝バルバトス〟が出撃準備を整えて、作業用クレーンで下部デッキのカタパルトへと降ろされていく所だった。

 

『お先に』

「ああ」

『気ぃつけろよ』

『腕が鳴るぜェ!』

 

 だが、まだ発進はしない。モビルスーツを下手に出せば、こちらに戦意ありとアリアンロッドに受け取られかねないからだ。

 地球への航路に沿って〝イサリビ〟は進んでいく。それに立ちはだかるようにアリアンロッド艦隊が展開しているはずだが、

 

「ブリッジ。状況は?」

『攻撃が始まる兆候は見受けられません。こちらの航路を邪魔しないよう、道も空けているみたいです』

 

 モニターの一角に映るメリビット。フミタンに代わって、これから彼女が〝イサリビ〟のオペレーターを務めることとなる。

 艦首映像にもアクセスすると、数十隻もの戦艦や宙域を埋め尽くすように展開するアリアンロッド艦隊仕様の〝グレイズ〟の姿が。

 真正面から戦えば、まず勝ち目はない。

 昭弘らもこの光景を見やっているようで、

 

『スゲェ数だな……!』

『逃げてぇ~』

『逃がしてもらえるもんならね……!』

 

 さて………ギャラルホルンが政治上の駆け引きを無視できない組織である以上結果は分かっているとはいえ、思わず掌に汗が滲む。

 そして完全にアリアンロッド艦隊の射程圏内に入った。

 瞬く間に〝イサリビ〟の周辺はハーフビーク級戦艦の群れで埋め尽くされる。そして100機以上はいるだろう〝グレイズ〟隊。

 もし、それらが一斉に砲火を〝イサリビ〟に集中させたならば………

 

 嫌な沈黙がしばらくコックピットを包み込む。誰もが固唾を飲んで〝イサリビ〟が無事、アリアンロッド艦隊の艦列を抜けるのを待っているかのようだった。

 そして―――――――

 

『――――アリアンロッド艦隊の包囲を抜けました。間もなく射程圏外。ですが指示があるまで警戒態勢を維持してください』

「了解」

 

 今度は艦尾のモニターに切り替える。

 反転して攻撃する訳でもなく、アリアンロッド艦隊各艦はその場に静止し続けていた。モニターにはハーフビーク級の艦尾が映し出され、時間と距離の経過と共にそれも小さくなる。

 やがて〝イサリビ〟はアリアンロッド艦隊の射程圏外まで完全に脱する。

 

「………ふぅ」

『あいつら、攻撃してこなかったな………』

『冷や冷やモンだったぜ………』

 

『………すごいんだな、アイツ。俺たちが必死になって、一匹一匹プチプチつぶしてきたヤツらを………声だけで、止めて動けなくした』

 

 

 やがて安全だと判断できる距離まで離れるとメリビットから警戒態勢の解除が通達された。

〝イサリビ〟の針路上には小さく蒼い星………地球が見えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 タービンズはギャラルホルン注意を誘わないよう遅れて、ブルワーズ艦を牽引して出航することになっていた。

 あらかじめ物資を満載し、そして――――――

 

 

『ああ、そうそう。テイワズからな、もう一人アドバイザーを送ることになった』

『………アドバイザー、ですか?』

『おいおい、オルガ。そう嫌な顔するんじゃねぇよ。今度は技術アドバイザーだ。お前たちはまだまだモビルスーツ整備に関しちゃ慣れてねぇ所が多いだろうからな。心配しなくても、腕は確かだがお前ら同様初心な娘だよ』

『………別に、そこは心配してないんですが………』

 

 

 そしてドルト2出航前。一人の少女が〝イサリビ〟へと飛び乗った。

 

 

 

 

 

「………ああっ! まさか〝バルバトス〟と〝ラーム〟〝グシオン〟!! 伝説のガンダムフレームを3体もこの手でいじれる日が来るなんて! この美しいフレームデザイン! 幻のツインリアクターシステム! メインOSの阿頼耶識システムがまだ生きてるなんてッ!! それにそれにっ!〝ガンダムラーム〟に至っては300年の劣化を一切感じさせない! こんな完璧な形で現存するガンダムフレームなんて見たことが無いわッ!!」

 

―――――凄まじくデジャヴ感のある台詞を怒涛の如く吐き出し続けるのは、〝ラーム〟の改修でも散々世話になった、テイワズの技術者である少女…フェニー・リノア。

 当初はテイワズから女性のアドバイザーが来る、と聞きつけて浮き足立っていた年頃の少年団員たちだったが、到着早々格納デッキのガンダムフレーム3機にへばりつき酸素欠乏症後のテム・レイよろしくガンダムへの愛の言葉を延々と吐き続けて離れない彼女の姿に………皆、何かを察したのか今では彼女の近くにいるのは俺とダンジとタカキ、それに雪之丞だけだ。

 

 

「あの………こいつってそんなにスゴいんスか?」

「すごいも何も! コイツは厄祭戦を終わらせたとも言われる72体のガンダム・フレームのうちの3体なんだよ!? ただ資料が少なくて、今じゃ幻の機体なんて呼ばれてる! そんな機体を3つ! 3つも弄り回せるなんてッ………嗚呼、生きててよかった!!」

「い、いや………弄り回されたら困るんだが………」

「しかも〝ラーム〟に至っては製造当時のデータがバッチリ残ってるときた! さらには背中のバックパック! これは兵装製造自動工場になっていてマテリアル・カートリッジから物質を分子レベルで分解してガトリングキャノンの特製弾を作るなんて! これはロストテクノロジー中のロストテクノロジー! 是非とも! 何が何でも調さ………いや、バラバラに分解しなければッ!!」

「「「「………」」」」

 

「さあ、見せてやるわよ! 歳星整備オヤジ直伝! フェニー・リノアのモビルスーツ鍛冶術ってヤツをねッ!! まずはギャラルホルンのモビルスーツを参考に作ったこの装置をガンダムフレームの記憶回路に取り付ければその総合戦闘力は最低でも3.2%の上昇値を………」

 

 

 どりゃー! と工具も無しに〝ラーム〟の頭部目がけて突っ込んでいくフェニーの姿に、一同ただただ唖然と見守るより他なかった。

 とりあえず、彼女がいれば鉄華団のメカニック周りもさらに改善されるだろうな。多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 出航前にタービンズとは段取りを済ませてあり、4時間後に〝ハンマーヘッド〟がブルワーズ艦を牽引して合流する予定となっている。

 いよいよこれから地球降下………地球外縁軌道統制統合艦隊との激戦が控えている。そして地球に降りてからも。

 

 俺が次にやるべきことは、決まっている。

 

「………で、どうしたカケル? 話ってのは」

「何か、あったのですか?」

 

 誰もいない通路の端。

 オルガは休息を取る予定だったのだが、俺は「話があります」とブリッジに呼び出した。自室で交渉の準備を進めていたクーデリアも。

 俺は「お休みのところすいません」と前置きしつつ、

 

「とりあえずこれを見てください」

 

 俺が二人に差し出したのはタブレット端末。表示されていたのは、クランクに調べてもらった地球・アーブラウに関する新聞記事。

 

 

【アーブラウ代表・蒔苗東護ノ介氏 辞任! 贈収賄疑惑が背景か!?】

【アーブラウ政財界の大物失脚劇 次期代表の椅子は誰の手に?】

【代表指名選挙は2ヶ月後に 次期代表はエリート官僚出身 アンリ・フリュウ氏か】

 

 

「これは………!?」

「な、なんだこりゃあ……?」

「クランクさん……ドルトで降ろしたギャラルホルン士官の人にお願いして調べてもらったんです。地球に関する情報が少しでもあれば、と思ったので。こちらの記事では、蒔苗東護ノ介氏は失脚後、オセアニア連邦で静養していると書かれていますが、事実上の亡命かと」

 

 果たして、端末に表示されている記事をオルガとクーデリアはしばらく凝視していたが、

 

 

「おいおい。じゃあ俺らは何の力もない爺さんに会うために地球くんだりまで………!」

「そんな……! では、では私たちのやってきたことは………!」

 

 狼狽えるオルガとクーデリアを「落ち着いてください」と宥めて、俺は、今度は記事が発刊してから2ヶ月後に行われるという代表指名選挙の記事を端末に表示させた。

 

「おそらくクーデリアさんが蒔苗氏と地球との交渉を取り付けた時点でその地位は危ういものであったと推測できますが………蒔苗氏はクーデリアさんを地球へと呼んだ。おそらく、代表指名選挙で再選する見込みがあるからではないでしょうか?」

 

 そう考える根拠を、俺はなるべく丁寧に説明した。一つ、経済圏各国ではギャラルホルンによる治安維持体制に不満と不安を抱いていること。一つ、蒔苗氏が政財界の大物であり、財力とコネクションで代表の地位に返り咲くことができる要素を持っていること。一つ、アンリ・フリュウ氏はギャラルホルンと深い関係にある議員と記事にも載っており、アーブラウへの渡航のために外部からの武力を蒔苗氏が求めているのではという推測。

 

「なるほどな………」

「確かに、それなら私たちを地球に呼んだ理由も分かります。ですがそれはつまり………」

「地球…ギャラルホルンの本丸で奴らと一戦交えなきゃいけねぇってことか」

 

 俺はこくり、と頷いた。

 

「別にギャラルホルン全軍が相手になるわけではないと思います。アンリ・フリュウ氏と懇意にしているギャラルホルン高官が動かす部隊との交戦が予想されますが。それでも大部隊相手の交戦は避けられません。なるべく、十分な装備と人員、それに作戦を以て事にあたるべきかと」

 

 

 その後、ブリッジからタービンズの船が接近しつつあるという放送が入り、話は一旦打ち切りとなった。

 

 

 後は〝イサリビ〟に乗船してくるだろう名瀬と話を詰めて、そしてその後………例の仮面の男の援助を取り付ける。できれば原作時以上に。

 

 

 

 

 


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