鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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1話1万文字への挑戦。
(いい所で区切れなかったので……)


願いの重力

▽△▽――――――▽△▽

 

 ネズミ一匹見逃さない。

 地球外縁軌道統制統合艦隊が敷くは、まさにその通りの布陣だった。

 地球軌道上宇宙港ユトランド1、ギャラルホルン地球軌道上基地グラズヘイム1に艦隊を配備しつつ、さらにその前衛に旗艦〝ヴァナティース〟を中心とする7隻の主力艦隊を展開。地球外縁軌道統制統合艦隊のほとんど全戦力が、宇宙ネズミ討伐のためだけに集結していた。

 

「ユトランド1封鎖完了!」

「ユトランド2の警備も完了しました!」

 

 例え宇宙ネズミ共が大艦隊で攻めてきたとしても、この陣容を突破するのは不可能。ましてや相手は旧い強襲装甲艦1隻だというではないか。

 

「ふん。さすがにこの歓迎は、突撃艦1隻には大人気なかったかしら?」

 

 カルタの脳裏には、すでになす術なく撃沈するしかない強襲装甲艦の姿がありありと思い描かれていた。ギャラルホルン最精鋭たる地球外縁軌道統制統合艦隊の真の実力を示すには役者不足だが、どのような敵であれ最大の力を以て排除するのが、カルタ・イシュー並びに地球外縁軌道統制統合艦隊の誉れである。

 火星のバカ女がこのコースで地球に降下するのは読めている。後は、ノコノコ姿を現す敵を撃ち滅ぼすのみ。

 

「………来ましたッ! 奴らです!」

「停船信号、打て!」

 

 主力艦隊に先行するビスコー級艦から停船を要求知る発光信号が打ち出されるが、敵艦が止まる気配は一切ない。

 それでこそだ。

 

「停船信号に応答ありません」

 

 オペレーターの報告に、カルタは悠然とした面持ちから一気に表情を引き締めた。モニターには前進を続ける強襲装甲艦の艦首が小さく映し出されている。

 

「―――――鉄槌を下してやりなさい」

 

 全艦隊に通達! 砲撃戦用意!

 主力艦隊各艦が砲塔を展開し、その砲口を正確に敵艦に向ける。7隻のハーフビーク級戦艦の正確無比な砲撃を食らえば、骨董品の強襲装甲艦など瞬く間にデブリになってお終いだろう。

 やがて各艦砲撃準備完了が伝えられる。

 カルタはギュッと拳に力を入れ、

 

「撃てぃッ!!」

 

 その瞬間、7隻のハーフビーク級戦艦の砲口が一斉に火を噴いた。次々と砲弾が撃ち放たれ、強襲装甲艦が存在していた宙域を瞬く間に破壊と混沌の坩堝へと変えていく。

 ようやく撃ち方止めが各艦に通達された時、壮絶な破壊に晒された地点は、完全に爆煙に閉ざされてしまっていた。弱敵とはいえ容赦のない地球外縁軌道統制統合艦隊の砲撃によって、敵艦は今頃、無残な残骸になり果てているに違いない。

 

「………ふん、手ごたえの無い」

 

 もっと複数の艦艇で突撃すれば勝ち目もあったろうに。それでも、地球外縁軌道統制統合艦隊の鉄壁の陣を打ち崩すなど不可能だろうが。

 すっかり力を抜いたカルタは、オペレーターに敵艦の状態を確認するよう命令を――――

 

「………エイハブ・ウェーブ増大! 近づいています!」

「何ですって!?」

 

 あり得ない! あれだけの攻撃を受けておいて!?

 それに近づくとは!? 近づけばそれだけこちらの照準を利するだけだというのに―――――?

 

 教本にない事態に、カルタの心中は瞬く間に混乱に陥れられた。

 さらに、

 

「これは………エイハブ・ウェーブの反応が2つに!?」

 

 ブリッジのメインスクリーンに拡大画像が表示される。

 そこには砲撃を食らい満身創痍ながらも推力全開でこちらに突貫してくる青い敵艦と、その後ろ、ケーブルで牽引されるもう1隻の敵艦の姿が。

 未だ健在の敵艦隊の姿に、艦隊は直ちに砲撃を再開。だが、前方の敵艦艦首の分厚い装甲に阻まれ、決定打を与えることができなかった。

 あり得ない………あり得ないこんなことはッ!?

 

 

「あいつら………正気の沙汰か!?」

 

 恐慌に包まれるブリッジで、カルタは咆哮した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「ぐぅっ!」

 

 ブルワーズ艦を盾にしているとはいえ、砲撃の一部は〝イサリビ〟にも容赦なく着弾し、立て続けにもたらされる衝撃はブリッジにいる3人…操舵手のチャド、ダンテと艦長席のユージンを激しく揺さぶった。

 地球軌道上を守るギャラルホルン艦隊からの砲撃は凄まじく、〝イサリビ〟に比べて分厚い艦首装甲を持っているはずのブルワーズ艦は艦体各所を次々と引き裂かれ、そう長く持ちそうにない。

 特に敵艦からの対艦ナパームミサイルは瞬間的にブルワーズ艦の艦首ナノラミネート装甲を焼き尽くし、その防御力を一気に低下させた。

 

 このままでは、未だに転針命令を出さない艦長席のユージンに焦れたようにチャドとダンテは振り返り、

 

「このままじゃブルワーズの船だってもたねぇぞ! そしたら次は俺たちだ!」

「もう………仕掛けるしかねぇよ!」

 

「まだだ! もっと突っ込ませるんだよ!………アイツに頼まれた仕事だぞ!」

 

 艦長席にて阿頼耶識システムに繋がり、ブルワーズ艦の牽引から振り落とされないよう〝イサリビ〟を制御するユージンは、艦長席前方のコンソールを睨みつつダンテの言葉を一蹴した。

 絶対にやり遂げなければならない。もし失敗したら………この仕事を託したオルガも含めて全員お陀仏だ。

 今俺は、鉄華団全員の命を預かってんだ。

 

 

 

 

 

『頼むぜユージン、ここ一番って時はやっぱお前じゃねえとな』

『いいんじゃねえの。かっこつけようぜ、お互いによ!』

 

 

 

 

 

 オルガ、それにシノ。あいつらを絶対―――――死なせる訳にはいかねえんだ!

 

「………お前、こんなところでかっこつけてどーすんだよ!?」

「チャド! 前の船のコントロールもよこせッ!」

 

 ユージンの言葉に「はぁ!?」とチャドは訳が分からないというように、

 

「バカ言うなって、阿頼耶識で船を2隻も制御するなんてできるわけが………!」

 

 チャドの抗弁を、ユージンは血相変えてキッと睨みつけた。気圧されたように言葉を失うチャドに構わず、

 

「ここでかっこつけねぇでどうすんだよ!」

「ど、どうなっても知らねェぞ!」

 

 チャドが操舵コンソールを操作した瞬間、艦長席の阿頼耶識システムがブルワーズ艦の操艦システムとリンクする。

 

 

【ALAYA-VIJNANA】

【TIR-0009 100%】

【CONNECTION COMPLETE】

 

 

 その瞬間、ユージンに注がれたのは………強襲装甲艦2隻分の操艦情報。

 常人では耐えられないであろう莫大な情報量に、ユージンの身体は反射的にビクリ!と跳ね上がった。そして阿頼耶識システムの過度な負荷によって、鼻血が一筋、垂れ落ちる。

 

「ぐっは………!!」

「ユージン!?」

 

 ここで失神していてもおかしくはない。

 だがユージンは、莫大な負荷による想像を絶する苦痛に………耐えきった。揺らぎつつも、徐々に明白さを取り戻していく意識と視界。

 耳元でガンガン鳴り響くような凄まじい頭痛を気合でねじ伏せ、ユージンはニヤリ、と笑った。

 

 

「ぐ……ぐ………大丈夫だ! 見とけよ、お前らァッ!!」

 

 

 阿頼耶識システムによって制御されたブルワーズ艦は、次の瞬間、回避プログラムではあり得ない機動を見せ、次々に砲撃や対艦ミサイルの弾雨を泳ぐように回避し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「う………!」

 

 これだけの猛撃を食らいながらなおも沈まない敵艦。

 それどころか唐突に機動力を高め、こちらの十字砲火を掻い潜っているではないか………!

 艦隊を展開し半包囲下に置いているはずなのに、砲撃やミサイルはその多くが回避されてしまい、決定打を与えることができない。

 

「ほ、砲撃を集中! 集中っ!」

 

 半ば狂乱の体で命令を飛ばしながらも、イレギュラーの連続で正確な指示を発することができない。

 それが艦隊の挙動にも如実に現れており、前方の艦と後方の艦、どちらに砲撃を集中させるべきか指示がなされない結果、各艦の判断にて砲撃が展開され、さらには敵艦のあまりに生物的な挙動にこちらの照準が追いついておらず………2隻の敵艦は徐々に艦隊の中央、旗艦〝ヴァナディース〟に迫りつつあった。

 

「敵艦、なおも接近!」

「ぐ………我ら地球外縁軌道統制統合艦た………っ!」

 

 発破をかけ混乱と士気の低下に歯止めをかけようとしたカルタであったが、

 

「後方の船が進路を変更!」

 

 えっ!? 拡大モニターを見れば、盾にしていた青い強襲装甲艦からワイヤーケーブルがパージされ、解き放たれた赤い敵艦が急激な機動で艦隊の包囲を下に抜け出す所だった。

 どちらが本丸だ!? どちらが………

 

「ど、どちらへ砲撃を!?」

「と………とにかく撃沈なさいッ! 撃沈! 撃沈撃沈撃沈、げきちーん!!」

 

 冷静さを欠きヒステリックに喚きたてるカルタに、恐慌状態から抜け出せない艦隊はとにかくも………速度を落とした青い強襲装甲艦に砲火を集中させた。

 至近で、次々と砲弾やミサイルが着弾する敵艦は、数秒持ちこたえたが、次の瞬間には艦体各所から炎や煙を吹きだし始める。

 だがそれと同時に………ある着弾点から光の粒子のようなものが激しく噴き出し始め、その煙幕はあっという間に艦隊を白い輝きで覆いつくした。

 

「な、何だ!?」

「モニターロスト! 僚艦とのデーターリンク消失!」

 

「何をしているの!?撃ちなさい!」

 

 カルタはそう怒鳴りつけるが、一向に状況を回復させることができない。

 

「光学照準が目標を完全にロスト!」

「LCS途絶! 通信できませんっ!」

「これは………ナノミラーチャフです!」

 

 ナノミラーチャフ……それはナノラミネート装甲の素材となる粉末を利用したチャフ(金属片)で、光線を拡散させるナノラミネート装甲の特性によりLCSや光学探知装置を妨害することができる。

 だが、対処が容易で実戦や戦略に供せるようなものではなく、厄祭戦時代の一部の戦いで使用された記録が残っているものの、現代では到底使い物にならないはず………

 

 だが艦隊は混乱状態にあり、直ちに秩序を取り戻す必要がある。

 カルタはサッと指揮官席から立ち上がり、

 

「狼狽えるな! 全艦に光信号で通達! LCSを最大出力で全方位に照射、同時に時限信管でミサイル発射!」

 

旗艦〝ヴァナディース〟から発光信号が放たれ、その指示の下、全艦がミサイルを発射。

 

 

「―――――古臭いチャフなど焼き払いなさいッ!!」

 

 

 その瞬間、白一色だった周囲が炎で埋め尽くされ、一つ一つは小さな鉄片に過ぎないナノミラーチャフは次々焼き尽くされていった。

 チャフの効果が消失し、ノイズが走るばかりだったモニターが回復。撃沈され無残な姿を晒す青い強襲装甲艦がモニター上に映し出された。

 

「LCS回復しました!」

 

 通信と秩序を回復し、カルタは憮然と指揮官席に座り直した。まさか、ほんの一瞬とはいえ古臭いオモチャのような兵器に地球外縁軌道統制統合艦隊がこうも混乱をきたしてしまうとは………

 

「全く、さっさと位置の再特定! 急げッ!」

「光学照準が目標を再補足!」

 

 よし。とカルタはほくそ笑んだ。素早いのが取り得のネズミも、この短時間では何もできまい。再度包囲下に置き沈めてくれる。今度は盾になる艦など無い。

 

「どこだ?」

 

 まだ近くにいるはずだが、モニターを見回してもそれらしい光点は見当たらない。

 どこに隠れた………?

 そして次の瞬間、カルタはオペレーターがもたらした報告に、我が耳を疑った。

 

「それが………グラズヘイムです!」

「何?」

 

 定石であればこちらを混乱させた後、旗艦かその後背を突くはずでは?

 やはり学の無い宇宙ネズミに戦場のセオリーを期待するだけ無駄なのか。何にせよ艦隊は無傷だ。

 

「ならば全艦回頭! 味方や地表への着弾に注意しつつ………」

 

 だが、モニターに映し出された次の画像を見、カルタはようやくそこで……宇宙ネズミたちの真意を悟った。

 

「敵艦! グラズヘイム1に突っ込んでいきます!」

「まさか………!」

 

 艦隊が回頭した所で間に合わない。そしてグラズヘイム1直掩の小艦隊だけでは、その強襲装甲艦の特攻を止めることなどできない。

 そして、強襲装甲艦の艦首が宇宙基地グラズヘイム1の球状ブロックに激突した。

だが頑強な艦体はその衝撃に耐え抜き、むしろさらにエンジンノズルからパワーを吐き出し、ズリズリ………と球状ブロックの表面を下から上へと引き裂いていく。

 ようやく艦隊が回頭を終えた時には時すでに遅し。敵艦は目まぐるしく機動を見せて離脱していき、グラズヘイム1は裂かれた部分から炎上を始めていた。さらには激突によって軌道をずらされた結果、少しずつその巨体が地球目がけて傾いていく。

 

 やられた………!!

 

「グラズヘイム1より救難信号を受信! 軌道マイナス2………このままでは地球に落下します!」

 

 最初から、宇宙ネズミ共の手の内だったのだ。

 オペレーターの報告に、カルタはしばし打ちひしがれたようにアームレストをギリギリと握りしめて無念に震えたが、

 

「モビルスーツ隊を出撃後、救援に向かいなさい………っ!」

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊の全力でなければ、軌道がそれた宇宙基地を引き上げることなどできないだろう。ユトランド1のような宇宙港への同様の攻撃にも警戒する必要がある。

 敗北。してやられた、という事実を、カルタ・イシューはこの時ばかりは受け入れるより他なかった。

 

 

 

 そして、ナノミラーチャフの混乱の中、密かに防衛線を突破したランチとモビルスーツの小部隊がいたのだが、―――――この時、地球外縁軌道統制統合艦隊の誰一人としてその事実に気づくことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

―――――俺、かっこいいか?

 

 遥か遠ざかる〝イサリビ〟にて、ユージンがオルガや俺たちにそう問いかけているような気がしたので、(鼻血を噴出させながら)

 

「カッコよかったぜ。今日のMVPはユージンで決まりだな」

『カケル。ランチは全部下ろしたよ』

 

 クレストの〝マン・ロディ〟が近づいてくる。その奥には、最後のランチを格納し終えた2隻目の降下船の姿が。すでにオルガやビスケットの乗る1隻目は上部ハッチを閉鎖し、地球降下の準備を始めていた。

 2隻の降下船を護衛するのは、――――三日月の〝バルバトス〟、昭弘の〝グシオンリベイク〟、シノの〝流星号〟(グレイズ改)、それに昌弘、ビトー、ペドロ、クレストの〝マン・ロディ〟。そして俺の〝ラーム〟。総勢8機。

〝マン・ロディ〟はその仕様上、重力下で活動することができないが、地上換装用パーツはモンターク商会が用意し、地上で換装作業できる手はずとなっている。

 

 さて、この後は………

 

「クレスト。ビトーたちを呼び戻せ。敵が来たらこっちの降下船は任せるからな」

『了解!』

 

 クレスト機が飛び去っていく。俺も、火器管制システムから兵装の状態をチェック。異常なしを確認し、〝ラーム〟にガトリングキャノンを構えさせた。

〝ラーム〟の照準用高度光学センサーに反応。多数のモビルスーツの反応が………こっちに来る。

 

『………お、どうしたカケル?』

「上を見ろ。敵が来るぞ!」

 

 上ぇ? シノがとぼけた様子で〝クタン参型〟に収まった〝流星号〟の頭部を上に向ける。他の機体ではまだ敵機の反応を捉えられないか………!

 

『あ、あれかぁ? まだセンサーにゃ何も………』

「こっちには見えている。………敵襲だ! 先制攻撃するッ!!」

 

 

 

【EB-06 LOCK】

【EB-06 LOCK】

【EB-06 LOCK】

【EB-06 LOCK】

 

 

 

 重力の塊である地球が足下にあるため少し手間取ったが、重力偏差修正完了。

 照準が確立した瞬間、俺はトリガーを引き絞り、〝ラーム〟のガトリングキャノンを発射した。

 わずか2、3秒のうちに数百もの特製弾丸が宇宙空間に吸い込まれていき―――刹那、わずかな閃光を散らす。

 小さな光点………ギャラルホルンのモビルスーツ隊が左右に散開した。そこにさらにガトリングキャノンを撃ち込んでいき、余念なく牽制していく。

 

 その騒動にオルガの乗る降下船から通信が飛び込んできた。

 

『どうした!?』

「ギャラルホルンに気付かれた! 敵モビルスーツが………こちらで分かる限りで、12機接近中!」

『何!?』

『こ、こんなに早く気づかれるなんて………!』

 

 原作よりはまだ遅い方だ。『願いの重力』では、降下船のハッチが閉鎖される前に攻撃を受けたからな。

 だが………アインや〝シュヴァルベ・グレイズ〟がいない分、宇宙仕様〝グレイズ〟の数がやたら多い。

 ガトリングキャノンで分厚く弾幕を張るものの、あまりに広範囲に散開した敵機全てを完全に捉えることができず、4機が弾幕を突破して〝ラーム〟足下の降下船目がけて襲いかかってきた。

 その中にはガエリオの〝キマリス〟の姿も――――――

 

「悪い! 抜かれた!」

『任せとけ!』

『昭弘! 行けるか!?』

『行くしかないだろッ!!』

 

〝クタン参型〟とドッキングした〝流星号〟、〝グシオンリベイク〟が猛然と銃撃を浴びせまくりながら〝グレイズ〟隊に突進していく。

しつこく降下船を狙う〝キマリス〟には、

 

 

『アイツは任せて』

「頼む!」

 

 

 三日月の〝バルバトス〟がメインスラスター全開で飛びあがり、引き寄せるように素早く後退する〝キマリス〟相手に追撃戦を繰り広げた。

 瞬間的な隙間を埋めるように俺は〝ラーム〟を敵モビルスーツ隊との間に割り込ませ、弾幕を敷いて寄せ付けない。

 が、その時、さらに敵機の増援を知らせる警告音がコックピットに鳴り響いた。

 

「くそ………!」

 

 まだ来るのかよ………! さらに10機の反応に思わず舌打ちを隠せない。

 これで20機以上の敵モビルスーツが襲撃してきたことになる。降下船を護衛しながらで十分な機動が取れない中、これだけの数を相手にするのはキツい。

 しかも、あのモスグリーンの〝グレイズ〟は―――――!?

 

「ち………ここでアリアンロッドかよ!」

 

 何でこんな所に――――!?

 ガエリオの部隊のみならずアリアンロッドを相手にするのは、流石にキツすぎる。

 

『やばい! 向こうの降下船が!』

『カケル! 援護に行けるかッ!? 向こうの方がヤバい!』

「んなこと言ったってな………!」

 

 オルガにそう言い返し、こちらの守備を打ち崩そうと突貫してきた〝グレイズ〟1機に集中砲火を浴びせ、したたかに打ちのめされ、武器も失ったその機体はヨロヨロと戦線離脱していく。〝グシオンリベイク〟や〝流星号〟も、1機、また1機と〝グレイズ〟を屠っていった。

 だがそれでギリギリの状況だ。〝バルバトス〟〝グシオンリベイク〟〝流星号〟〝ラーム〟のどれか1機でも離脱すれば、〝グレイズ〟隊は容赦なくその隙を突いてくるに違いない。

 しかし側面モニターで………2隻目の降下船周囲でいくつもの火球やスラスターの閃光が迸るのを見、焦燥感が俺の中で抑えきれずに波打った。阿頼耶識付きとはいえ〝マン・ロディ〟だけではギャラルホルン主力機〝グレイズ〟の一隊を抑えることは厳しいに違いない。今すぐに援護にいってやりたいが――――――

 

 と、その時だった。

〝ラーム〟にライフルを向けていた1機の〝グレイズ〟に、突如として重い銃撃がいくつも浴びせかけられた。ライフルを吹き飛ばされ、マニピュレーターごと火器を失った〝グレイズ〟はすかさず離脱。

 

 銃撃が放たれた先をコックピットモニター越しに見やると、

 

「あれは………!」

『兄貴ッ!!』

 

 昌弘の〝マン・ロディ〟が、本来の武装ではない大型のヘビーマシンガンを構え、さらにもう1機の〝グレイズ〟目がけて撃ち放つ。

 昭弘の〝グシオンリベイク〟に背後から迫ろうとしていたその〝グレイズ〟はその背から突き上げられるような直撃弾を食らい、姿勢制御を失ったその一瞬を突かれ、振り返った〝グシオンリベイク〟のハルバードアックスの餌食となった。

 

『!………昌弘か!?』

『俺がここを守ります! カケルさんは向こうの降下船を!』

「分かった。ここは任せるぞ!」

『はいっ!』

 

 ドルトコロニーで製造された〝ラームランペイジ〟用のヘビーマシンガン。ミニミ機関銃に似たフォルムを持つそれを昌弘は器用に取り回し、また1機の〝グレイズ〟を吹き飛ばした。そこに〝グシオンリベイク〟が殺到し、手早くトドメを刺す。息の合った兄弟の連携だ。

 

 だが、さらに敵機の増援。4機の〝グレイズ〟の一隊が新たに到着し、うち1機がバズーカ砲を降下船目がけて構えている。あれをもろに食らえば降下船などひとたまりもない。

 

『くそっ、数が多すぎて………!』

 

 俺のガトリングキャノンの照準もすぐには―――――

 だがその時………〝グレイズ〟が構えるバズーカ砲にいくつもの銃撃が着弾。内部の弾薬に引火したのか発射母機である〝グレイズ〟をも呑み込んで激しく爆発した。

 

 傷つきながらもすかさず爆発から抜け出す〝グレイズ〟だったが、次の瞬間、爆発を切り裂くように飛び出してきた黒い機体に頭部を掴まれ、その隙間から覗くコックピットブロックに銃撃を次々食らって沈黙した。

 

 さらにもう1機が〝グレイズ〟の隊形に乱入。巨大な重棍棒を振り回して1機を殴り飛ばし、その連携をズタズタに引き裂いた。

 

 

『あ………あんたらは………!?』

 

『ごっめんごめん! 装甲の換装に時間かかってさぁ~』

『遅れた分の仕事はするよ』

 

 通信越しの声は………タービンズのラフタとアジー。

 昭弘は状況を理解できず、

 

『な、何で二人が………?』

『ダーリンにアンタらのこと頼まれたのっ!』

『ならその機体は………!』

『〝百錬〟を持ち出せばテイワズだとこっちから名乗っているようなものだ』

 

 地球の重力をものともせず縦横無尽に暴れまわるその機体は、確かに〝百錬〟の面影をわずかに残している。

 その機体の名を、ラフタは自慢のオモチャをお披露目するかのように、

 

 

 

 

 

『これは〝百錬〟改め……〝漏影〟ってことで。ウチら共々よろしくぅ!』

 

 

 

 

 

『『………す、すげぇ』』

 

 思わず昭弘と昌弘兄弟の感想が重なった。

 ラフタとアジーの乱入によりギャラルホルンのモビルスーツ隊は一気にペースを崩され、瞬く間に形勢は逆転した。

 シノの〝流星号〟も、ドッキングしている〝クタン参型〟の機動力を活かしつつ〝グレイズ〟を翻弄。2機目を仕留めた所だった。

 かくして、10機以上でオルガらの乗る降下船を包囲していた〝グレイズ〟隊は、わずか3機にまでその数を減らしていた。

 

 敵機を怯ませるよう援護射撃に集中しつつ事態を見守っていた俺は、そこでフットペダルを限界まで踏み込み、メインスラスター全開で〝ラーム〟を2隻目の降下船まで飛び上がらせた。

 

 

 

 

『くそおっ! こいつら………っ!』

『ビトー! 前に出すぎるなっ! 降下船を守らないと………!』

『けどこのままじゃ………!』

 

 2隻目の降下船を守るビトー、ペドロ、クレスト3機の〝マン・ロディ〟は、アリアンロッド仕様〝グレイズ〟隊と降下船の間で壁となり、銃撃から船を庇いつつ反撃していたが………〝マン・ロディ〟のサブマシンガンでは〝グレイズ〟に対して有効打を与えることができず、さらに数の差も相まって一方的に追い詰められつつあった。防ぎ漏らした何発かのライフル弾が降下船を激しく打ち、それが焦燥と混乱に拍車をかける。

 

「―――――すまない! 待たせたな!」

 

 照準を定めた1機の〝グレイズ〟目がけ、俺は〝ラーム〟のガトリングキャノンを撃ち放った。〝マン・ロディ〟に至近から撃ちかけていた〝グレイズ〟は、無数の弾雨を浴び、上手くコックピットブロックに直撃を食らったらしく、吹き飛んだ体勢のまま動かなくなってしまった。

 

『――――カケルっ!』

「クレストは俺とついて来い! ビトー、ペドロは援護頼むぞ!」

『『『了解っ!!』』』

 

 クレストの〝マン・ロディ〟を引き連れ、俺は〝ラーム〟を敵モビルスーツ部隊の隊形ど真ん中へと突進させた。

 当然襲いかかってくる激しい銃火。だが、元々重装甲の〝ラーム〟と〝マン・ロディ〟はそれを力任せに突破し、

 

「―――――こいつでッ!!」

 

 間近に迫った〝グレイズ〟1機に突っ込み、至近からガトリングキャノンをぶち込んでやった。そして胸部から腹部にかけて無残にひしゃげた〝グレイズ〟をもう1機目がけて蹴飛ばし、今度はコンバットブレードを引き抜いて飛びかかった。

 

 

 

『おのれ………ドルトで散った仲間の無念! ここで――――っ!』

「だからってやらせるか!!」

 

 

 

〝グレイズ〟との激しい鍔迫り合い。だがスラスターパワー全開で一気に押し飛ばし、弾き飛ばされた所を〝ラーム〟のガトリングキャノンで撃ち潰した。

 

『おらァッ!!』

 

 猛々しく雄叫びを上げながらクレストの〝マン・ロディ〟もまた〝グレイズ〟に接近戦を挑んでいた。総合的な性能では〝グレイズ〟の方が遥かに分があるはずだが、阿頼耶識システムと、パイロットとして優れた技量を持つクレストが操る〝マン・ロディ〟はギャラルホルンの現行モビルスーツを細かく目まぐるしい機動で圧倒。

ついには〝グレイズ〟が構えるバトルアックスを蹴飛ばし、頭部と胸部にハンマーチョッパーを滅茶苦茶に叩き込んで潰した。無残な残骸を踏み台に、クレスト機はさらにもう1機へと急迫していく。

 

 かくして、乱戦状態を余儀なくされた〝グレイズ〟隊は間近に迫った2機のモビルスーツの相手に注力しなければならなくなり、

 

「ビトーとペドロも来いッ! 一気に組み伏せるぞ!」

『よっしゃあ!!』

『行きますっ!』

 

 さらに飛び込んできた2機の〝マン・ロディ〟に強襲された〝グレイズ〟隊は既に単機ごとの応戦しかできず、降下船から引き離されたまま徐々にその数を減じていった。

 

 

 

 


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