鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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・ASW-G-30〝ガンダムフォルネウス〟

マクギリス・ファリド=モンタークが、モンターク商会の傭兵となったクランク・ゼントに譲渡した機体。
ファリド家が秘蔵するガンダムフレームの1体だったが、現当主イズナリオ・ファリドが少年男娼を囲うために作った施設の資金確保のために売却。闇市場へ流れた末にモンターク商会の息のかかった企業へと売り払われ、モンターク(マクギリス)の手へと渡り、最終的にクランク・ゼントの乗機となった。

水中戦やアクアハイドロブースターによる高速海中航行を主眼に置いた機体であり、水中航行時は背中の変形ユニットが機体全体を覆い隠してイカのような形態を取る。変形ユニットにはアクアハイドロブースターと魚雷及びミサイル発射管が装備されている。
地上戦においても優れた戦闘力を発揮できるが当時の武器は散失しており、モンターク商会が独自に製造したバトルランスや腰部装備型キャノン、対艦ナパームミサイル、魚雷で武装している。

(全高)18.2m
(重量)39.5t

(武装)
バトルランス
腰部装備型200ミリキャノンユニット
対艦魚雷及びミサイル発射管×2


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EB-06A〝アクア・グレイズ〟

ギャラルホルンがかつて運用していた水中戦用モビルスーツ。
初期型グレイズ・フレームに水中戦用装甲やパーツ、アクアハイドロブースターを取り付け、水中における高次元での戦闘能力を実現。ギャラルホルンの水中戦力として運用されていたが、治安の良い地球では海賊等も存在せずほとんどニーズがないことと、現行のグレイズ・フレームに水中戦用オプション装備を取り付けることで代替が可能となったことから、運用期間はわずかに留まり、現在では全機が退役、スクラップ処分を待つのみとなっていた。
しかしモンタークが闇市場に流れた数機を入手し、うち1機をクランク同様モンターク商会所属の傭兵となったアイン・ダルトンへと譲渡。彼の運用機としてミレニアム島攻防戦以後活躍することとなる。

(全高)17.7m
(重量)29.8t

(武装)
バトルランス
水中戦用ネイル射出対応型100ミリライフル
小型ミサイル・魚雷発射管×2



行くべき場所

▽△▽――――――▽△▽

 

――――数日前。

 地球軌道上、某所にあるモンターク商会の秘密の格納庫にて。

 

『ASW-G-30〝ガンダムフォルネウス〟。元はセブンスターズ、ファリド家秘蔵のガンダムフレームの1体だったのだが、現当主のイズナリオが闇市場に流してな。紆余曲折を経て我らモンターク商会が入手することができた。ただ、幾分古い機体でな。阿頼耶識システム他機器類もいくつか失われているので、こちらで独自で現代化改修した』

『………これを、俺に見せてどうしようというのだ?』

 

 鉄華団やクーデリア・藍那・バーンスタインの革命を成就させるため。

その言葉を振り切れずに、エリザヴェラなる女にドルトコロニーから地球軌道上まで連れてこられたクランクと、同行を申し出たアインはここ、モンターク商会が所有するというモビルスーツ格納庫まで連れてこられたのだ。

 

 クランクの疑問に、仮面の男…モンタークと名乗ったその男はガンダムフレームを見上げていた表情をこちらへと向け、

 

『この機体を与える。モンターク商会直属の傭兵となってもらいたい』

『何だと? ここまで連れてきていただいて申し訳ないが、犯罪に手を貸す訳には………』

『――――鉄華団にその力を貸してもらいたい』

 

 クランクは沈黙し、真っ直ぐモンタークの仮面の奥…その瞳を見据えようとした。

 モンタークもそれを見返しながら、

 

『鉄華団はギャラルホルンに包囲され、間もなく地球外縁軌道統制統合艦隊の総攻撃を受けることとなるだろう。このままでは彼らが犠牲となるのは必須』

『………』

『クーデリア・藍那・バーンスタインは前アーブラウ代表、蒔苗東護ノ介氏を復権させるため、アーブラウ首都エドモントンを目指すだろう。当然、鉄華団がその力となる。だがギャラルホルンとまともに戦えば、子供たちに大きな犠牲が出るだろう。だが君と、この〝フォルネウス〟があれば………』

 

『………一つ、確認しておきたい』

 

 クランクのその問いかけに『答えよう』とモンタークは鷹揚に頷いた。

 

『依頼内容は鉄華団の援護であり、方法は俺に一任していただけるか?』

『もちろんそのつもりだ。報酬前払いとしてこの〝ガンダムフォルネウス〟を。成功報酬も別途用意しよう。必要な支援もモンターク商会のネットワークを通じて受けられるように手配する』

 

『それとアインにもモビルスーツを用意していただきたい。彼は優れたパイロットだ。もし俺を傭兵として雇うつもりならば、彼も共に』

『分かった。用意させよう』

 

 モンタークなる仮面の商人は頷く。なれば、断る理由は最早無い。

 では。とクランクは眼前に佇む………アクアブルーのモビルスーツを見上げた。

 

 

 

 子供たちを過酷な運命から救い出すためだ。

 かつて世界を救済せしめたその力、示してみろ〝フォルネウス〟―――――

 

 

 

 そしてクランクとアインはミレニアム島へと新たなる乗機を駆り………その激闘に乱入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

『オルガ! あれ………』

「ああ。何なんだありゃ………」

 

 オルガ達に襲いかかってきたモビルスーツは、突如として横から飛び込んできた別の機体に弾かれ、木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいった。

 すさかず態勢を立て直したギャラルホルン機だったが、飛びかかったもう1機のモビルスーツに組みつかれ、ジリジリ………とパワーに押されて後ろに引きずられていく。

 

 ギャラルホルン機の女パイロットは、外部スピーカーを起動したまま、

 

『ぐ………バカなっ。この〝グレイズリッター〟が押し切られるだと!?』

『さすがはガンダムフレーム。何という性能だ。この機体………すごいッ! 最早ギャラルホルンなど―――――』

 

 恐れるに足らず!! と、ガンダムフレームらしき乱入機はギャラルホルンの機体を力任せに投げ飛ばし、そして滑走路に投げ捨てられていた長大なバトルランスを手に、まだ起き上がっていないギャラルホルン機を下から上へと薙ぎ払った。

 

『――――ああああアアァァァッ!?』

『か、カルタ様っ!………うぐあっ!?』

 

 注意がそれた一瞬の隙を突き、ミカの〝バルバトス〟もまたギャラルホルン機による拘束を強引に引き剥がし、勢いをそのままにメイスで殴り飛ばす。

 膠着していた戦況は、飛び入ってきたガンダムフレームにより一気に鉄華団側へと大きく傾いていった。

 

 だが、

 

『オルガ! さらにエイハブ・ウェーブの反応ッ! 後ろだ!』

「何ぃっ!?」

 

 また敵の増援か!? オルガは思わず歯ぎしりして振り返る。

 背後。正確には振り向いた先の上空から、巨大な何かが轟音と共にこちらへと近づきつつあった。

 

「また空から敵か………ミカ!」

 

 ミカやシノに迎え撃てと命じようとしたオルガだったが、ビスケットが通信に割り込んで遮った。

 

 

 

 

 

『待ってオルガ! このエイハブ・ウェーブの反応は………〝ラーム〟と〝マン・ロディ〟だっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 ガコン………という重厚な音と共にカセウェアリー級モビルスーツ輸送機の後部ハッチが開かれる。

 遥か眼下に、どこまでも続く南洋がぽっかりと姿を覗かせてきた。

 

「そろそろだ。準備いいか?」

『は、はいっ!』

 

〝ラーム〟コックピットの側面モニターに、上半身裸になったクレストの緊張した表情が表示される。鉄華団に保護されるまでは栄養が足りていない体つきだったが、鉄華団でしっかり食えるようになってから、少しずつだが筋肉がつき始めているようだ。

 

「………時にクレスト」

『な、何?』

「何で上脱いでんだ。パイロットスーツ着ればいいのに」

『………パイロットスーツ、何か宇宙の時よりぶかぶかして重いから。反応が鈍ると嫌だから着たくない』

 

 その時。通信モニターに、同じく上に何も着ていないビトー、ペドロも追加された。この二人は2機目のカセウェアリー級輸送機に乗っている。

 

『俺たちも準備できてるぞ!』

『い、いつでもいけますっ!』

「よし。まずはビトー、ペドロから降ろすぞ。援護してやるが、対空砲火には十分気を付けろよ」

 

『『おうっ!!』』

 

 ビトー、ペドロの〝ホバーマン・ロディ〟を先行して降下させ、上から〝ラーム〟で援護。2機が安全に着地した後に、俺とクレストも降りる。

 初めての重力下での戦闘に、3人とも緊張した表情を見せていた。無理もない。なんせ………パラシュートも無しにスラスターの推進力だけを頼りに40t近いモビルスーツを地上に降ろさなければならないのだから。ヘマすれば乗機ごとぺしゃんこだ。

俺はニッと笑いかけながら、

 

「心配するなって。俺の指示した高度で脚部スラスターを全開にして降りればいい。シミュレーションの通りだ。ビトーが隊長だ。しっかり引っ張ってやれ」

『おうっ!』

 

「ペドロはビトーのサポートだ。ビトーにくっついて、死角をカバーするんだ」

『はいっ!』

 

「クレストは中距離支援だ。ビトーとペドロが仕掛けられるタイミングを作ってやれ」

『はいっ!』

 

 見た目は幼いが、この3人は今日まで過酷な戦場を潜り抜けてきた歴戦の勇士。戦場に送り出すことに不安は無い。

 こいつらを確実に地上に降ろせるよう援護し、この戦場を、そしてこれからの戦いを生き残らせることが俺の役割だ。

 

 そして―――――、

 

 

『よう少年たち! もうすぐミレニアム島だ』

『しけた小せぇ島だから、合図と同時に降りねえと海にドボンだから気を付けてくれよ』

 

 

 陽気なカセウェアリー乗りの親子………ハーバード・セビアとイエール・セビアJrからの通信。カセウェアリー級はかれこれ厄祭戦時代から運用されてきた時代で、親子2代でカセウェアリー乗りは当たり前。現実世界の南米にあたる地域には300年もの間代々カセウェアリー乗りを受け継いできた家系があるというからすごいものだ。

 

 ベテラン一家が操る2機のカセウェアリー級輸送機の先。俺は〝ラーム〟のコックピットモニターに輸送機の機種映像を表示させ、そのちっぽけな島の姿を捉えた。いくつもの黒煙が激しく立ち昇っている。

 

 その姿が徐々に大きくなってくる。

 クレストの〝ホバーマン・ロディ〟が開け放たれたハッチへと進み出た。

 

 

『よぉーし。3、2――――――っし今だッ!! 降りろ降りろGO! GO! GO!』

『っしゃああ!!』

『行きますっ!』

『カケル! 後でね!』

「おう、援護は任せとけ!」

 

 

 合図と共にビトー、ペドロ、クレストの〝ホバーマン・ロディ〟が空中へと躍り出、眼下のミレニアム島へと飛び降りていった。機上で俺はそれをしばし見送りながら、

 

「よし。じゃあこっちも………近接航空支援だ!」

 

 輸送機のハッチから〝ラーム〟のガトリングキャノンを突き出し、射撃管制システムを立ち上げる。

 重力偏差修正。再計算。

 完了。

 

 

【EB-06j ROCK】

 

 

 上空の航空機の存在に気づき、頭部のセンサーを剥き出しに走査してきた地上戦仕様の〝グレイズ〟1機目がけ、俺は引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 その瞬間、上から降り注いできた銃撃によって〝グレイズ〟1機が撃ち飛ばされた。

 僚機の突然の被弾に動揺したもう1機の〝グレイズ〟にも、今度はバズーカ砲がぶち込まれる。

 数を抑えきれず、各個近接戦での迎撃を余儀なくされたラフタ、アジーの〝漏影〟や昭弘の〝グシオンリベイク〟だったが、上からの突然の支援射撃に。

 

「な、なーに!? 何事っ!?」

『このエイハブ・ウェーブの反応………〝ラーム〟と〝マン・ロディ〟じゃないか!』

『………上から来るぞッ!』

 

 ラフタたちが見上げる先。低空飛行する2機の大型航空機から3機のモビルスーツが吐き出され、こちらへと降下してくる所だった。その姿は……ラフタらもよく知る、鉄華団が手に入れた〝マン・ロディ〟だ。

 だが細部と機体の色が全く違う。

 

 

 

『………お、降りられるのかよぉっ!』

『今だッ! スラスター全開!』

『降りてるだけじゃいい的だ! 撃って牽制するっ!』

 

 

 

 抱えるバズーカ砲を撃ちまくりながら、スラスターをフルパワーで噴き放ち、ミレニアム島に降り立ったその機体は、確かに〝マン・ロディ〟の面影が残っているのだが、地上用改修なのか太めの脚部と、なによりも機体の色が違う。〝マン・ロディ〟がグリーンだったのに対して、今ラフタたちの前に降りてきたのは、禍々しいほどに真っ黒だ。

 

 数でラフタらを押しつつあったギャラルホルン側も、突然の乱入者に混乱し、

 

『何だあの機体は!?』

『構わん! 撃破し………ぐあ!?』

『くそっ! 早いぞ!!』

 

 後詰めの〝グレイズ〟隊が黒い〝マン・ロディ〟へと迫り、ライフルを撃ちかけてくるが、3機全てが目にも止まらぬ機動で回避。お返しとばかりに後ろに下がった機体が〝グレイズ〟へとバズーカを撃ち込み、

 

『おらあァッ!!』

 

 よろめいたその一瞬を逃さずに飛びかかったもう1機が、馬乗りになってハンマーチョッパーを叩き込んだ。その背後にもう1機の〝グレイズ〟が回り込もうとするが、今度は持ち換えたサブマシンガンに激しく打ち据えられて堪らず後退。その隙に懐に潜り込んだ1機の〝マン・ロディ〟が、ほとんどゼロ距離でバズーカ砲を撃ち込んで沈黙させた。

 

 重装甲の見た目に対してあまりに俊敏すぎる動きに、〝グレイズ〟隊は対処が遅れて1機、また1機とその数を減じていく。銃撃で牽制しようと〝グレイズ〟がライフルを向けるが、それは上空から降り注ぐ弾雨によって阻まれる。

 

 3機の黒い〝マン・ロディ〟、さらには上空からの援護によって、浜辺での戦況も鉄華団有利に大きく傾こうとしていた。

 ラフタやアジー、昭弘もそれぞれ対処していた敵をようやく撃破し、黒い〝マン・ロディ〟と合流する。

 

「あ、あんたたちってカケルと一緒に行った………!」

『援護します! この〝ホバーマン・ロディ〟ならッ!』

 

 黒い機体……〝ホバーマン・ロディ〟が3機編隊を組んで残る〝グレイズ〟へと殺到。その連携に加えてラフタ、アジー、昭弘、さらには上空からの射撃が支援に加わって、既に数の上でも劣勢に立たされたギャラルホルンは………瞬く間に1機を残して全滅し、残るその〝グレイズ〟も、逃げ去ろうと海上に疾った所を背後から集中砲火を食らって、無残に海に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 そしてその異常事態は、海上に展開するギャラルホルン艦隊でもしっかり捉えられていた。

 

「我が方のモビルスーツ隊………カルタ様らを残して全機、シグナルロストしました」

 

 呆然と報告してくる部下に、旗艦を移したコーリスもすっかり言葉を失ってしまった。

 

「馬鹿な………〝グレイズ〟15機を投入したのだぞ! それにあの輸送機は何だ!?」

「ギャラルホルンのカセウェアリー級ですが………識別信号を発しておらず所属不明です!」

「上陸部隊も全滅し、別働の艦隊からの応答もありません………! ステンジャ艦長、これは………」

 

 だがその時だった。

 前方を航行していた僚艦に巨大な水柱が上がり、続けて激しい爆発。衝撃で僚艦の艦体が真っ二つに引き裂かれる様を、コーリスらは艦橋でまざまざと見せつけられてしまった。

 

「僚艦が大破しました!」

「エイハブ・ウェーブの反応! 海中ですっ!」

「―――魚雷発射! 爆雷も放って止めろ!」

 

 大型の魚雷が旗艦の魚雷発射管から撃ち出され、海中へと潜り込んでいく。

 さらには爆雷も次々と投下され海中をしばし無数の小規模爆発で彩る。

 だが通常兵器ならともかく………水中を駆けるモビルスーツを仕留めるには魚雷はあまりに鈍重すぎて、爆雷は威力不足だった。

 

「モビルスーツ、来ますッ!」

「そ、総員対ショック姿勢――――――!!」

 

 何もかも手遅れだった。

 下から突き上げるような激しい衝撃が旗艦である揚陸艦を襲い、艦内の誰もが反射的に手近な固定された機器で身を支えた。

 さらに立て続けの海中からの攻撃を食らい、床や、固定されたコンソールや、艦内の設備のなにもかもが跳ねあがって裂かれていく。壮絶な破壊に晒された艦橋は瞬く間に死と血の阿鼻叫喚と化した。

 

「そ、総員退艦ッ! 総員退か―――――――」

 

 火災すら発生した艦橋で、崩れ落ちてきた天井の瓦礫を押しのけてコーリスは絶叫する。

 がその時コーリスは、割れた船窓越しに海中から何かが飛び出し、旗艦の甲板に降り立つのを目の当たりにした。

 水中高速航行用の背面ユニットを備えたあの機体は………

 

「あ、〝アクア・グレイズ〝だと!? 旧式機が何故………!」

 

 何年も前に性能の陳腐化や汎用性・コスト上の問題で全機退役したはずの、かつてはギャラルホルン所属機の一つであった〝アクア・グレイズ〟が、ズシン、ズシン―――と艦を揺らしながらこちらへと歩み寄ってくる。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 

『クランクさんの邪魔をする奴は誰であろうと許さないッ!!』

 

 それが艦橋ごと叩き潰される寸前、コーリス・ステンジャが聞いた最期の言葉となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 積み上がる〝グレイズ〟や〝グレイズリッター〟の残骸。

 炎上し沈没するギャラルホルン艦。生き残った艦は、見渡す限り1隻もない。

 ミレニアム島上空を旋回するカセウェアリー級輸送機のハッチ越しに、俺は〝ラーム〟のコックピットでその全容を見下ろせる立場にあった。ガトリングキャノンも鎮まり、狙いを定めるべき敵はもういない。

 

 島中至る所で黒煙が昇っているものの、戦闘はもうどこを見ても確認できなかった。

 と、小さな光点を捉えた。確認してみると〝グレイズリッター〟が3機。2機が指揮官機らしき1機を両脇で抱えるようにして島から離脱しているのが見えた。

 

「ここから、狙えるか………?」

 

 俺は再び〝ラーム〟のガトリングキャノンを起動し、島から逃れる〝グレイズリッター〟を………

 

『ヘイ、少年! 用が済んだならさっさと降りて欲しいんだがね!』

『空軍に捕捉される前にシドニーベイくんだりまでさっさとトンズラしたいんでね』

 

 俺は一瞬、チラリと拡大モニター越しに離脱していく〝グレイズリッター〟を見やった。地上に降りたら追撃は不可能だ。降下中ではさほど射撃精度は期待できない。

 まあいいか。まだ再戦の機会はある。

 

「了解。ここまで運んできてくれたこと、感謝します。ありがとうございました」

『報酬はモンターク商会からタンマリいただいてるんでね。キャンベラ辺りで一杯やってから国に帰らせてもらうよ』

『幸運を。神のご加護を』

 

 あなた達にも。そう返して俺は〝ラーム〟で島を旋回していた輸送機のハッチから飛び出した。

 50tもの巨体が見る間に吸い寄せられるかのように島へと落下していく。全スラスターをフルパワーで吹かし、わずかな揚力を得て落下速度を相殺していく。

 

 ものの1分と少々で、〝ラーム〟は島の陸地へと着地した。

 

 地上では〝バルバトス〟〝グシオンリベイク〟〝流星号〟〝漏影〟2機、〝ホバーマン・ロディ〟3機が寂れた空港の滑走路上に集結していた。

 それに見慣れぬモビルスーツも2機。あれは………

 

 

「………何でこの鉄血世界に〝アビスガンダム〟がいるんだ?」

 

 

SEED DESTINYでお馴染み〝アビスガンダム〟を鉄血風にしたようなガンダムフレームと、水中用と思しき大型ユニットを背負った〝グレイズ〟似の機体が、並んで佇んでいた。

 

『ようカケル! 助かったぜ。ちょっと降りてきてくれよ』

「了解」

 

 オルガからの通信に、俺は〝グシオンリベイク〟の隣で機体を止めると、システムをオフラインにしてコックピットハッチの開閉コマンドを押し込んだ。上部のハッチが開かれコックピットシートがせり上がり、塩気を含んだ外気が俺の横顔に当たる。

 ラダーを使ってコックピットを降りると、向こうのアビスガンダムもどきの方に団員の人だかりができていた。

 

「――――うっすカケル! 元気してたかぁ?」

「上からの支援、助かったよ。まさかあんな方法で来るなんてね」

 

 シノとアジーも機体から降りてこちらにやってきた。

 俺も、軽く笑いかけ返しながら、

 

「遅れてすいません。そういえばアジーさん、あの機体は?」

「さあね。海からやってきたみたいだけど。とりあえずは敵じゃなさそうだね」

「見ろよ。降りてきたぜ!」

 

 未知のモビルスーツからパイロットがラダーを使ってするする、と降りてくる。その隣の水中戦仕様と思しき〝グレイズ〟からもだ。

 俺は、「ちょっと失礼」と団員たちを掻き分けて先頭に進み出た。

 見れば、団員たちの先頭に立つオルガとビスケット、それに三日月がそのパイロットと向き直っている。

 あれは………

 

「く、クランクさん………!?」

「おう。久しいな、カケル」

 

 ドルトに留まったはずの、元ギャラルホルン士官であるクランク・ゼントが、黒を基調としたいかにも傭兵らしいいで立ちで佇んでいたのだ。後ろから歩み寄ってくるのは、似たような恰好のアイン・ダルトン。

 

「改めて自己紹介させてくれ。俺はモンターク商会預かりの傭兵、クランク・ゼントだ。こっちは相棒のアイン・ダルトン。モンターク商会から依頼を受けて参上した。お前たちの手助けをするようにとな」

「――――援護には感謝してる。けどな………」

「クランクさんって、確かギャラルホルンの人でしたよね………?」

 

 オルガとビスケットの懸念に、クランクはフッと笑みをこぼして返した。

 

「ギャラルホルンにはドルトで辞表を出した。今の俺はギャラルホルンに対して何ら義理立てする必要はない。まあ、多少の守秘義務はあるが。………俺は、俺にとって正しいことを為すためにここに来た。是非とも、世界を変えようとするお前たちの旅路に同行させてほしい」

「自分もクランク二尉………じゃなかった、クランクさんと同じ志を持っております!」

 

 アインも身を硬くして、すっかり染み付いてしまっているのだろうギャラルホルン式の敬礼を示して見せた。

 その背後にある2機のモビルスーツ。これが鉄華団の戦力に加われば………

 オルガもその辺りは承知しているようで、わずかな間クランクと視線をぶつけあったが、ふと頬を緩めると、

 

 

 

「………分かった。それなら、ビジネス上のパートナーってことになるな。よろしく頼む」

「うむ! 俺の機体はガンダムフレーム〝フォルネウス〟、アインの機体は〝アクア・グレイズ〟だ。どちらも古い機体だが最大限改修が施されている。必ずお前たちの役に立って見せよう」

 

 

 

 固く握手を交わすオルガとクランク。

 新たに加わった戦力に、後ろで見守っていた団員たちもワッと色めき立った。

 

「またモビルスーツが来たぜ!」

「整備が大変だなぁ」

「もう、ギャラルホルン勝てねえんじゃね?」

「んな訳あるか」

 

 そんな中、一人〝フォルネウス〟へと近づく人影が―――――

 

 

 

 

 

「ああっ! まさか〝フォルネウス〟をこの手でいじれる日が来るなんて! 装甲越しにも分かるこの美しいフレームデザイン! 幻のツインリアクターシステム! アクアハイドロブースターユニット! メインOSの阿頼耶識はまだ生きてるの? すぐに調べなくちゃ………」

 

 

 またしても凄まじくデジャヴ感のある台詞を怒涛の如く吐き出し続けるのは、ドルト6から飛び入り参加したメカニック………フェニーだった。

 ここは、こう言うしかないだろう。

 

「………なあ、フェニー。これってそんなにスゴいのか?」

「すごいも何も! コイツは厄祭戦を終わらせたとも言われる72体のガンダム・フレームのうちの1体なんだよ!? ただ資料が少なくて、今じゃ幻の機体なんて呼ばれてる! そんな機体を滅茶苦茶に弄り回せるなんてッ………」

 

「い、いや………滅茶苦茶に弄り回されたら困るんだが………」

 

 クランクの突っ込みにも関わらず、フェニーはすっかり目をキラキラさせて佇む〝フォルネウス〟にバッと向かい直った。

 

「さあ、見せてやるわよ! 歳星整備オヤジ直伝! フェニー・リノアのモビルスーツ鍛冶術ってヤツをねッ!! まずは防水加工に漏れが無いか全てチェック! それから………」

 

 よーし、クーデリアたちと合流するぞー! と、ここ数日ですっかりフェニーの暴走に慣れてしまったオルガたちは、彼女をそのままに島を離れる準備を始めてしまった。

 雨もポツリ、ポツリと降り始めてさすがにずっと放っておく訳にもいかないので。

 

「風邪ひくぞ、フェニー」

 

 ぐいっと、フェニーが袖を通さず羽織っていたジャケットの後ろ襟を軽く掴んでクイっと簡単なフードになるように上げてやる。

 そこでようやく我に返ったのか、テヘ、と誤魔化すようにフェニーがちょっと笑いかけて振り返ってきた。

 

「おかえり、カケル」

「ああ。行こうぜ」

「………ラームの基礎フレーム、ヒビ一つ入れてないわよね?」

「た、多分」

 

「……………多分?」

 

 ブアっ! とその瞬間フェニーが邪悪なオーラを漂わせ始めたので「大丈夫! 無傷!!」とその場しのぎに弁明せざるを得なかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 数時間後、奪った揚陸艇を何度かピストン輸送し、モンターク商会が手配したタンカーに全団員、物資資材、MS、MW、運べるだけの鹵獲機の全てを運び終えると、鉄華団はアーブラウ首都エドモントンのある北アメリカ大陸へ出発した。

 

 残されたのは、放置されたギャラルホルン〝グレイズ〟の残骸の群れと、海中深くに没したギャラルホルン水上艦隊。戦闘に参加した艦は1隻残らず撃沈され………わずか十数人の生き残りが幸運にも脱出ボートで逃れ、駆けつけた後詰めの補給艦に救助されたという。

 

 鉄華団の犠牲はゼロで、モビルスーツやモビルワーカーが若干損傷を受けた程度。ここで死ぬはずだったビスケット・グリフォンも、原作での自分の運命など夢にも知らずに鉄華団を運ぶタンカーへと普通に乗船した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クーデリアの旅路を巡る戦いは、間もなく洋上、そしてアーブラウ国内へと舞台を変えることとなる――――――――

 

 

 

 


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