鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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海底の悪魔(ガンダム)

▽△▽――――――▽△▽

 

 1隻のタンカーを水中深くから追尾するのは、ギャラルホルン地球外縁軌道統制統合艦隊所属の潜水艦隊…2隻のフリンジヘッド級潜水艦。ギャラルホルンが水中戦力の主力に置く、モビルスーツ搭載可能な大型攻撃潜水艦だ。

 

「――――ステンジャ艦長! 鉄華団が乗っていると思しきタンカーを射程内に捉えました! いつでも攻撃可能です」

 

 その報告に、2隻のフリンジヘッド級潜水艦を率いるモーリス・ステンジャ三佐は小さく頷いた。ステンジャ一族特有の深い金髪に彫りの濃い目な整った面立ち。その表情には豊富な経験に裏打ちされた落ち着きがあり、敵を前に慌ただしくなるCIC(戦闘指揮所)にて、静かにモニター上の船舶反応を見やっていた。

 

「………うむ。そろそろ向こうも気づく頃だな」

「はッ! エイハブ・ウェーブ反応の移動を確認しております。おそらく、モビルスーツにパイロットを搭乗させこちらの攻撃を警戒しているのかと」

「ふ。そうでなくてはな。―――――これで、彼奴等にやられた従弟たち、オーリスとコーリスの仇が討てるというものだ」

 

 

 

 火星で散ったオーリス。

 ミレニアム島で斃れたコーリス。

 その無念………このモーリス・ステンジャが晴らしてくれよう。

 

 

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊総司令官カルタ・イシュー一佐は、先の敗戦に悄然としつつもモーリスら潜水艦隊に追撃を命じ、正々堂々とこれを撃破せよと命令してきた。

 だが、現代戦においてはファースト・ルック、ファースト・キルこそがセオリー。エイハブ・ウェーブの反応からタンカーに乗っているのが鉄華団であることが間違いない以上、彼らが防御態勢を整える前にこれを撃破するのが定石だった。

 

 必ずやここで仇を討ち、亡き従弟たちの魂を安んじて見せよう。

 

 静かな決意を胸に、モーリスは鋭く命令を発した。

 

「総員戦闘配置ッ! 対艦魚雷、ミサイル装填! 魚雷・ミサイル発射の後モビルスーツを出す。準備急げッ!」

 

 

 

 

 

 

 やがて、2隻のフリンジヘッド級潜水艦から十数発もの魚雷・水中発射ミサイルが撃ち放たれ、鉄華団が乗り込むタンカー……その横腹目がけ水中で鋭い軌跡を描いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 そして、警報が〝ラーム〟のコックピットに鳴り響いた。

 

『ソナーに感あり! ………魚雷だ!』

『さらにミサイル来るぞッ! カケルは左舷、昭弘とミカは右舷で魚雷を。他の奴らはミサイルを撃ち落とせ!』

 

 

 タンカーのブリッジに詰めているのだろうビスケットの報告と、オルガから飛ばされる命令。

 了解ッ! と〝ラーム〟でタンカー左舷に配置についた俺は、ソナーからのデータを元に迫る魚雷に照準を合わせ―――――ガトリングキャノンの引き金を引いた。

 海面を薙ぐようにガトリングキャノンの100ミリ弾がばら撒かれ、次の瞬間、爆発による凄まじい水柱がいくつも湧き上がった。船のソナーとリンクしたセンサー画面表示に映された魚雷数は10。その全てをタンカーに届く前に破壊することができた。

 タンカーの横腹寸前で、いくつもの水柱が高々と吹き上がり、巨大なタンカーを容赦なく揺さぶる。

 

 

『おらおらァッ!!』

『シノ! よく狙って撃ちな!』

『不安定な船の上にいるんだから、小まめにデータを修正するんだよ!』

 

 

 ラフタ、アジーのアドバイスを受けながら、〝流星号〟や昌弘、ビトー、ペドロ、クレストの〝ホバーマン・ロディ〟も甲板に上がって弾幕を築いた。水中から撃ち出されたミサイルもまた、タンカーに届く寸前に全てが撃墜される。

 

『こいつ………落ちろッ!』

『残弾に注意しろよビトー!』

『分かってる!!』

 

『モビルワーカー隊も支援入りますッ!』

 

 甲板のハッチから次々とモビルワーカーが飛び出し、弾幕を追加していく。

 だが海からの攻撃はとどまることを知らない。次から次へとミサイルが海面から撃ちあがり、水中では魚雷が矢継ぎ早に走り続ける。

 

『また左から魚雷が来るッ! 測距データ送信します!』

「データリンク確認。偏差修正完了。迎撃に移る!」

 

 データと射角を調整し、海面目がけて〝ラーム〟のガトリングキャノンをばら撒いた。

 タンカーに直撃することなくガトリング弾に引き裂かれて爆散した魚雷が、またしても巨大な水柱をぶち上げて、大きく波打った海面の盛り上がりが船を大きく揺らした。

 

『うわぁっ!』

『ちょっとカケル! もっと遠くで撃ち落とせないの!?』

「ギリギリまで引き付けないと命中率が下がるんだよッ! ソナーからの魚雷位置データと水中での弾の速度をコンピュータで計算しながら………」

『御託並べてないでさっさと撃ち落としな!!』

 

 くそ………これでギリギリなんだぞ。

 言い返す間も惜しんで、俺はさらに迫った8基の魚雷目がけ引き金を引き続けた。

 だが、

 

『や、やばい! こっちからも来やがった!!』

『昭弘ッ!』

『分かってる!! 行くぞ昌弘ッ!』

『おうッ!!』

 

 今度は右舷からも魚雷攻撃。4つの鋭い影がタンカーへ迫る。

昭弘の〝グシオンリベイク〟や昌弘の〝ホバーマン・ロディ〟が滑空砲、サブマシンガンを撃ちまくり、迫ってきた4基中3基を水際で撃破するが………

 

『しまった! 一つ………!』

『―――ッ!!』

 

 刹那、三日月の〝バルバトス〟が腕部内臓の機関砲を発射。

 タンカーの横腹を食い破る寸前で魚雷は真っ二つにへし折られて破壊され、滝のような水しぶきが容赦なく甲板のモビルスーツやモビルワーカーに降り注いだ。

 

「くそ。キリがない………!」

 

 手元は休ませず次々撃ち出される魚雷やミサイルを迎撃しながら、膠着した状況に歯噛みを禁じ得なかった。敵艦の位置、距離はおおよそ把握している。だが距離があり鉄華団の装備では叩けない。水中戦用のモビルスーツでなければ………

 その時、大型の甲板ハッチが開かれ、奥から2機のモビルスーツの頭部が覗いた。お待ちかね、〝フォルネウス〟と〝アクア・グレイズ〟だ。

 そうだ。水中戦用モビルスーツで魚雷の発射母艦を叩けば――――

 

 

 

『すまん! 武装の装備に手間取った。我々が出て敵艦を叩こう』

『頼む。お前らはそれまで持ちこたえろ!』

 

 

 

 オルガの発破に『おうッ!!』と誰もが応え、次々撃ち出される魚雷・ミサイルの群れを撃ち落としていく。

 クランクの〝フォルネウス〟とアインの〝アクア・グレイズ〟は甲板の端に立ち、

 

 

『――――クランク・ゼント。〝ガンダムフォルネウス〟出るぞッ!』

『アイン・ダルトン。〝アクア・グレイズ〟、行きますっ!』

 

 

 瞬間的にスラスターを噴かしてタンカーから発進した2機は、次の瞬間海中へと飛び込んでいった。

 

 

「頼むぞ………」

『カケルさん! 魚雷接近中! 数は5!』

「―――ソナーデータ受信完了。迎撃に移るッ!」

 

 

 

 今俺たちがやるべきことは、一発もタンカーに魚雷・ミサイルを直撃させることなくクランクが戻る船を守ることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

かくて〝フォルネウス〟と〝アクア・グレイズ〟は、機体本来の戦場である水中へと舞い戻った。

 

「水中戦は互いに不慣れだ。常に連携を忘れるな」

『はいッ! クランク二尉………じゃなかった、クランクさん』

 

 モニター表示越し、上ずったアインの表情にクランクはふと……彼の初陣となった火星での戦いのことを思い出した。思えば荒涼とした火星から、よくぞこんな遠くまで来たものだ。あの時の自分は、まさか自分が地球の海で、少年兵たちを助けるために戦うことになると予想しただろうか。

 ここは、宇宙とも地上とも全く違う、海中という全く未知の戦場。深度が下がれば周囲の景色は瞬く間に暗くなり、ソナーやEセンサーが頼りだ。肉眼はほとんど役に立たない。

 

「エイハブ・ウェーブの反応から敵艦の位置はおおよそ把握している。まずは………」

『クランクさん! あれをッ! 下30度、5時の方角ですっ!』

 

 アインが示した先。見れば小さく………黒い影が深い水中をゆっくり進んでいるのが見えた。エイハブ・ウェーブの反応地点とも一致する。

 

「あれが目標だな。よく見つけたぞ、アイン! 行くぞッ!」

『了解ッ!』

 

〝フォルネウス〟と〝アクア・グレイズ〟が水中を引き裂きながら黒い影……ギャラルホルンの潜水艦目がけて突進した。肩部のアクアハイドロブースターユニットを展開し、それに包まれるような高速海中航行モードに変形した〝フォルネウス〟は、〝アクア・グレイズ〟に対して一気に先行し、

 

「食らうがいい!」

 

 ユニットから発射された2発の大型対艦魚雷が鋭い軌跡を描きながら、ギャラルホルン潜水艦に着弾。ナノラミネート装甲によって守られる潜水艦には微々たる被害しか与えられないが―――――次の瞬間、潜水艦は水上への攻撃を中断し、艦首から膨大な泡を吐き出しながら何かを射出した。

 

 データベースの回答は【EB-06m】―――水中戦仕様〝グレイズ〟だ。

 数は4機。初期型〝グレイズ〟をベースとした〝アクア・グレイズ〟より性能面でやや上回るが、こちらに迫るそのぎこちない挙動を目の当たりに、クランクは敵部隊の練度を悟った。

 

「モビルスーツは俺がやろう。アインは潜水艦を頼む!」

『はいっ!』

 

 クランクの”フォルネウス〟は敵機目がけて加速。こちらの急迫に4機の〝グレイズ〟隊は一斉に魚雷を撃ち放つが、高速海中航行モードに変形する〝フォルネウス〟の縦横無尽な機動を前に追尾できず、滅茶苦茶な方角へと飛び去っていった。そして魚雷をかいくぐった〝フォルネウス〟は1機の〝グレイズ〟へと迫る。

 

 

「――――ぬんッ!!」

 

 

〝グレイズ〟の鼻先でモビルスーツ形態へと戻った〝フォルネウス〟は、構えたバトルランスを振りかぶり、一気に叩き下ろした。その一閃で頭部を潰された〝グレイズ〟はさらに返す一閃で手持ちのライフルも腕ごと失い、ヨロヨロと水面目がけて逃げ去っていく。

 

『た、隊長がやられた!?』

『つ、強すぎる………!』

 

 

 

「ふっ。すまんな―――――強くてなァッ!!」

 

 

 

それを目の当たりにする間もなく、クランクはさらにもう1機の敵機へと迫り、その機体から撃ち出された水中戦用ネイルをランスで弾き返し、お返しとばかりに魚雷を撃ち込む。

 回避する間もなく魚雷を叩き込まれ、瞬間的に制御を失った〝グレイズ〟は次の瞬間、〝フォルネウス〟が突き出したランスに胸部を潰された。だが、中のパイロットは辛うじて無事のようで、先の機体同様上へと逃げ延びていく。

 

 近づいたらやられる――――。その事実を悟った残り2機の〝グレイズ〟は素早く距離を取りながら魚雷やネイルを撃ち出し、〝フォルネウス〟に対し射撃戦に持ち込もうとした。だが〝フォルネウス〟はすかさず高速海中航行モードに機体を変形させて、その射線が自機を捉えるのを許さない。

 

 

〝フォルネウス〟が水中戦仕様〝グレイズ〟を引き付けている隙………アインの〝アクア・グレイズ〟は下から潜水艦へと接近していた。

 一拍置いて魚雷が〝アクア・グレイズ〟へと迫る。だが、元より対艦用の大型魚雷は水中戦用モビルスーツの素早い回避機動を捉えることができない。

 

『はああああぁッ!』

 

 悠々と魚雷をかわしたアインの〝アクア・グレイズ〟はネイル射出ライフルと魚雷を撃ち放ちながら加速して一気に潜水艦へと迫り、着弾が集中した敵艦の装甲へとランスをぶち込んだで横に引き裂いた。隔壁がひしゃげ、穿たれた部分から水圧でひしゃげられた潜水艦から、やがて数基の脱出ポッドが打ち上げられる。

その数分後に、航行不能に陥ったその潜水艦は損傷部分から水圧に押しつぶされながら、暗い海底へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

『や………やりましたクランクさん! 敵艦を沈めましたっ!』

「よくやったぞアイン。こいつらを仕留めて次に行くぞ!」

『はい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「―――――ステンジャ艦長! 僚艦のシグナル、消失しましたっ!」

「モビルスーツ隊の信号も途絶! 敵モビルスーツ、本艦に接近しています!」

 

 ミレニアム島戦にて、水上艦隊をも沈められたことから敵にも水中戦用モビルスーツがあることは知っていたが………

 部下からのひきつった声音の報告。背筋に走る戦慄を振り払うように、艦長席のモーリスは怒鳴った。

 

「タンカーへの攻撃を中断! 魚雷全門装填。こちらもモビルスーツ隊を出せッ!!」

 

 水中戦仕様〝グレイズ〟が艦首の格納ブロックから押し出され、敵……鉄華団の水中戦用モビルスーツを迎え撃つべく水中を進む。

 敵の姿を捉えた〝グレイズ〟隊が魚雷を一斉発射。だがその全てが回避されるかネイルガンに撃破され、先行した1機の〝グレイズ〟の反応が――――消失する。

 

「1番機、シグナルロスト! コックピットブロック分離脱出!」

「続いて二番機も………っ!」

 

『た、助けてくれ! 早すぎて狙いが………ぐあ!?』

 

 さらに1機が撃破され、残る1機の〝グレイズ〟も、艦のCICの拡大モニター越し…グレイズフレームとは異なるフォルムを持った、そのモビルスーツの槍にぶち抜かれて戦闘不能に陥った。

 

 

「も、モビルスーツ隊が………!」

「な……何をしているかッ! 魚雷発射! 全速後退! あの機体を近づかせるなァッ!!」

 

 

 フリンジヘッド級潜水艦の艦首から魚雷が次々と撃ち出され、水泡をまき散らしながら敵機へと、だが大型の魚雷は高速で回避機動を取る敵機を捉えること叶わず、

 

「ダメです! 全弾回避されましたっ!」

「敵機接近! 迎撃……間に合いません!!」

 

 総員衝撃に――――――そう命じる間も無かった。

 艦全体を揺さぶる壮絶な衝撃。艦首から艦体が傾いていき、無数の警告音がCIC全体に激しく響き渡る。

 

「デッキ1から4まで貫通! 第2区から3区! 浸水が始まっています!」

「魚雷発射口、ミサイル発射管に損傷! 発射不能です!」

「ダメージコントロールッ! 隔壁閉鎖! バラストタンク排水を………」

 

 あの近接武器にぶち抜かれたのだ。メインモニターに被害箇所と浸水区画が表示され、オペレータークルーは衝撃から立ち直った直後、ダメージコントロールの指示と対処に追われた。

 

「浮上だ! 急浮上!」

「ダメです! 敵モビルスーツが甲板上に………」

 

 バラストタンクからいくら排水を始めても、40t近いモビルスーツに頭を抑えられたら満足に浮上もできない。モニター端の深度計表示を見れば、むしろ少しずつ沈下を始めているのが見て取れた。

 このままでは―――――

 

 その時、接触回線が開かれ、見知らぬ男の声音がブリッジに響いた。

 

 

 

『――――俺は鉄華団預かりの傭兵、クランク。古巣へのせめてもの情けだ。我々の海上での安全を保証するならば、この場は見逃してやろう』

 

 

 

 CICに動揺が走った。攻撃オプションは既に全てが失われ、艦の命運はこの見知らぬ男の掌の上。だが敵の恐喝に恐れをなして逃げ出したとあれば地球外縁軌道統制統合艦隊におけるモーリスの地位や名声は………

 だがその時、ガギガギガギ!! という何かがねじ込まれる嫌な音が艦内中に響いた。オペレーターがゾッとした表情で振り返る。

 

「………さらにデッキ5の浸水を確認! これ以上ダメージが広がれば浮上できなくなります!」

 

『回答を聞こう』

 

 万事休すとはまさにこのこと。自分の評価にこだわって艦と乗組員を無為に危険に晒すか、それとも敵のお情けに乗って尻尾を巻いて逃げ出すか。

 モーリスは何よりも合理性を重んずる男だった。

 

 

「―――――本艦は僚艦、モビルスーツ隊生存者を回収した後、戦闘域から離脱する。地球外縁軌道統制統合艦隊が海上にてお前たちを脅かすことは、もうないだろう………」

 

 

 ガガガ………と、艦に打ち込まれた槍が抜かれる音と共に、敵機が甲板から離れるのが分かった。そして合流したもう1機と共に、タンカーのある方角へと疾り去っていく。

 モーリスはノイズの走るメインモニター越しにしばしそれを見守っていたが、

 

 

「――――何をしているか! 緊急浮上! 脱出した僚艦乗組員、モビルスーツパイロットの回収急げッ!!」

 

 

 モーリス同様しばし茫然と事態を見守るしかなかった乗組員たちが途端に弾かれたように行動を再開する。

 満身創痍のフリンジヘッド級潜水艦は、艦首をゆっくり海面へ突き出し、水上目がけ急浮上していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 唐突に、魚雷やミサイルによる飽和攻撃が途切れた。

 そう思った矢先に遠くの海面が幾度も波打っては揺らぎ、爆発の水泡や水柱を噴き出してきた。

 

〝フォルネウス〟〝アクア・グレイズ〟以外に鉄華団には水中で戦える機体や装備は無い。敵がどれだけの戦力を投入してきたとしてもあの2機に頼るより他ないのだ。

 タンカーの甲板上で俺たちは固唾を飲んで遠くの水面下で繰り広げられているだろう激闘を見守った。

 

『おいおい大丈夫なのかよ………』

『〝バルバトス〟で降りたらダメなの?』

 

『ダメに決まってるでしょ! 防水加工してない部分がオシャカになるのよ!? 向こう半年オーバーホールに回すことになるわよその機体』

 

 フェニーにあっけなく却下され、三日月共々俺も、海中の戦いの結果を待つしかない。

 と、唐突に海面が静寂さを取り戻した。それからしばらくして――――2機のモビルスーツ、〝フォルネウス〟と〝アクア・グレイズ〟が水上へと躍り出た。

 

「クランクさん!」

『おう、心配をかけたな。敵は退いた。もう海上で我々を脅かすことは無いだろう』

『ってことは………勝ったんだな俺たち!!』

 

 ワッ!! と途端に通信回線いっぱいに団員たちの快哉が溢れた。

 

『すげぇ! ギャラルホルンを2回も追い払っちまったぜ!』

『この調子ならエドモントンも何とかなるかもね………』

 

『ふぅ………疲れた』

『兄貴、大丈夫?』

『ああ。昌弘はどうだ?』

『俺は全然平気。このぐらいなら毎日やってたし』

『………そんな身体で結構タフな奴だな』

 

 

 俺も、センサーに反応が残ってないか視線を落としつつ、ゆっくり緊張の糸を解いた。

 

 

『よし! 皆よくやった! これでギャラルホルンも思い知っただろうな。自分たちが誰を相手にしているかを。だが警戒を怠るなよ! ミカとカケルはそのまま待機。残りも交代でしばらく見張りに立ってくれ』

 

 役目を終えたモビルワーカーから船内の倉庫へと戻っていく。続いて〝グシオンリベイク〟や〝流星号〟〝漏影〟〝ホバーマン・ロディ〟に、甲板上に降りた〝フォルネウス〟と〝アクア・グレイズ〟も。

 

 

 

 

 その後、俺と三日月。途中で昭弘と昌弘。ラフタ、アジーらで交代で見張りにたったものの、遂に海上でギャラルホルンに襲撃されることは無かった。

 鉄華団の犠牲はゼロ………強いて言うなら船体が激しく揺さぶられた結果ドクター・ノーマッドや団員数名が、船酔いでダウンしたぐらいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




【オリキャラ解説】

モーリス・ステンジャ

・年齢:38歳
・出身:ヴィーンゴールヴ

地球外縁軌道統制統合艦隊・太平洋方面潜水艦隊の指揮官。
親戚であるオーリスとコーリスの敵討ちを誓い、指揮する潜水艦隊にて鉄華団が乗るタンカーに攻撃を仕掛ける。
冷静沈着なベテラン指揮官として経験に裏打ちされた優れた能力を持つが、現代戦の戦訓を守ることにこだわり、カルタ・イシューの敵に対する正々堂々とした戦い方を「現代戦に相応しくない」と断じている。

(原作では)
登場無し。


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【オリメカ解説】

・フリンジヘッド級潜水艦

ギャラルホルンが保有する攻撃型潜水艦。
ギャラルホルンは情勢が安定した地球内においても一定の陸上・海上・航空戦力を保有しており、フリンジヘッド級もまた揚陸艦と並んでギャラルホルン海上戦力の主戦力として運用される。

揚陸艦と異なりエイハブ・リアクターとナノラミネート装甲を有する頑丈な艦であり、数発程度なら魚雷の直撃にも耐えられる。

魚雷発射管、垂直ミサイル発射機構の他、艦種に水中用MS射出機構を左右2基、計4基備えており、それぞれに1機のモビルスーツを搭載・射出可能である。


(全長)198.1m

(動力源)艦船用大型エイハブ・リアクター×1

(潜航深度)5900m

(乗員)50名程度で運用可能

(武装)
魚雷発射管×6
垂直発射ミサイルハッチ×14

(搭載可能モビルスーツ)
水中活動用装備〝グレイズ〟4機。


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