鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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雪原の激闘

▽△▽――――――▽△▽

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 取り決め通り、最初に仕掛けたのはカルタたちだった。3機の〝グレイズリッター〟が爆発的な推力と共に、対する3機のガンダムフレームへと襲いかかる。

 ガンダムフレームは、ギャラルホルンでも厄祭戦を集結させた象徴として奉られている機体。その動力たるエイハブ・ツイン・リアクターは現行の技術を以てしても再現できておらず、パワーの面では現行機は完全に劣る。

 だがギャラルホルン最新鋭たる〝グレイズリッター〟は、ギャラルホルンの持てる技術の粋を凝らして造られた、新鋭中の新鋭。アビオニクスやスラスターシステムなどで旧世代機の追随を許すはずも無く、そこに地球外縁軌道統制統合艦隊精兵の技量を以てすれば、いかにガンダムフレームといえど恐れるに足らない。

 

 

 カルタの気迫のこもった一撃が―――――ガンダムフレーム〝フォルネウス〟へと迫る。

 だが………

 

 

『――――ぬんッ!!』

 

 

 カルタが振り下ろした剣戟を、〝フォルネウス〟はランスを掲げていとも簡単に防いで見せた。すかさず距離を取り、二閃、三閃と斬撃を繰り出すが、〝フォルネウス〟は悠然とそれを防ぎ、弾いていく。

 

「ぐ………こんなっ!」

『太刀筋は見事だが………システムにサポートされた斬撃ゆえ、読みやすいなッ!!』

 

 その瞬間、〝フォルネウス〟は大きく機体を沈み込ませ、〝グレイズリッター〟の斬撃は空を薙いだ。操縦サポートシステムに依存しない、まるで生身のような〝フォルネウス〟の戦いぶりを前に、カルタは徐々に追いきれなくなる。

 その、生まれた一瞬の隙を逃さず、〝フォルネウス〟は左肩から強烈なタックルを仕掛けた。カルタはすかさず受け身を取ったが徐々に押し込まれていく。ジリジリ………と機体が後ろへと引きずられ、踵部の雪原や地面が盛り上がっていく。

 

 このままでは押し切られるだけ。カルタはすかさず〝グレイズリッター〟をバックステップさせ距離を取った。だが、態勢を立て直す間もなく間髪入れずに〝フォルネウス〟が急襲してくる。

 

「ち………っ!」

『力押しに任せぬのも見事。機体の特性、そしてリアクターパワーの差をよく弁えている。―――――だがそれは、私とて同じこと!!』

 

 

 押し切らせてもらうッ! 鋭い気勢と共に肉薄してきた〝フォルネウス〟がランスを鋭く突き出してきた。

 

「おのれ………っ!」

 

 カルタは咄嗟にバトルブレードでガードするが相手はさらに機体のパワーとスラスター出力を増強させ、力任せに〝グレイズリッター〟のガードを破り、無防備になった胸部目がけて強烈なキックを打ちかましてきた。

 

 

「がぁッ!?」

 

 

 突き抜けるような凄まじい衝撃。

ガンダムフレームだからこそ可能な荒業を前に、雪原に〝グレイズリッター〟が無様に叩きつけられ、瞬間的に意識が暗転した。想像以上の衝撃にコックピットの慣性制御がカバーできず………したたかにコックピットの側面モニターに頭を打ち付けてしまったカルタの額から、生温かいものが一筋、流れた。

 

 

『か………カルタ様っ!? ぐはっ……!?』

『お、おのれぇ………!』

 

 

 見れば、親衛隊の1機は〝バルバトス〟の巨大なレンチメイスによって肩部を捉えられ、掴まれた部位から徐々に締め潰されている所だった。もう1機は〝グシオン〟と取っ組み合いを繰り広げていたがパワーの差を覆すことができずに膠着し――――刹那、隠し腕がバトルアックスを振り下ろして〝グレイズリッター〟の頭部を叩き潰してしまった。

 

『たかがメインカメラをやられただけ………がはっ!?』

 

「このままでは………っ!」

 

 敗北――――。イシュー家の人間として絶対に許されぬその二文字が否応なくカルタの脳裏をよぎる。迫る〝フォルネウス〟が繰り出すランスの閃撃をすんでの所で回避し、続く薙ぎ払いを衝撃とダメージを蓄積させつつ受け流しながら必死に悪しき予感を振り払おうとすぐが………

 

 

 

 

 

「ぐっ………こんな……こんな戦いッ! 宇宙ネズミ共を叩き潰しッ! 手柄を持ち帰らねば………」

『ハッ! 子供の首でも土産にしようというのか? ――――恰好がつかんなァそのような真似はッ!!』

 

 

 

 

 

〝フォルネウス〟のランスと〝グレイズリッター〟のバトルブレードが激突する。だがパワーでガンダムフレームに勝てるはずも無く、親衛隊も追い込まれている現状、カルタはただ、じりじりと追い詰められつつ防戦に終始するより他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

『すっげぇ!』

『そこだっ! 三日月さん! やっちゃえっ!』

『昭弘さんもかっこいいぞ!』

 

〝ラーム〟のコックピットモニター越し、見れば停止した列車から飛び出した少年兵たちが、三日月らの戦いぶりに飛び上がって快哉を上げていた。メリビットが雪に足を取られながらも年少組の子たちに車内に入るよう呼びかけるが、眼前で派手に繰り広げられる激闘を前に、列車に戻る子供は一人もいない。

 

 俺は〝ラーム〟のコックピットという特等席で、〝バルバトス〟〝グシオンリベイク〟〝フォルネウス〟対〝グレイズリッター〟3機の戦いをただ見守っていた。

開始数分で、既に親衛隊機とおぼしき〝グレイズリッター〟2機が〝バルバトス〟〝グシオンリベイク〟の猛撃によって腕や頭部を潰され圧倒されていた。が、機体全体がボコボコのスクラップ寸前の状態になりながらも〝グレイズリッター〟は尚もバトルブレードを取り落とすことなく、刃が交錯する耳をつんざくような金属音と轟音が立て続けにここまで揺さぶり続ける。

 

 

『ちょっとカケル! 煙ばっかで全然見えないんだけど………こっちが勝ってんの?』

「ああ、フェニー。―――――もうすぐケリがつく」

 

 

 1機の〝グレイズリッター〟が〝バルバトス〟の一撃を抑えきれずに倒れ伏し、その脚がレンチメイスで圧潰された。

 

『がぁッ! しまった………!』

『ザーツレウス! うぐ………ッ!?』

 

 僚機の戦闘不能に気を取られた親衛隊機のもう1機は、〝グシオンリベイク〟に組み伏せられ、バトルアックスをぶち込まれて両腕部を潰し飛ばされた。

 残るはカルタの1機のみ。もはや満身創痍の状態で、バトルブレードを構えるので精一杯の様子だ。

 

 

『………私は……勝利するしかないのよ………!』

 

 

 悲痛な咆哮と共に〝グレイズリッター〟は〝フォルネウス〟へバトルブレードを振り上げた。その刃を悠々と受け止め、押し返す〝フォルネウス〟。

 だがカルタの〝グレイズリッター〟は挫かれることなく、何度も、何度も刃を叩き込み続ける。がむしゃらに。

 

 

『立場を失い! 家の名に傷をつけ………っ!』

 

 

 絡み合う刃の一瞬の均衡。

 だが『ふんッ!』とクランクが気勢と共に〝フォルネウス〟のランスを振り上げた瞬間、刃を弾かれた〝グレイズリッター〟は姿勢制御を回復する猶予すら与えられず、なす術なく雪原へと叩きつけられた。

 

 

『が………ッ! こんな惨めな私は―――――アイツが憧れていたあたしじゃないのよ!!』

 

 

 駆動部が悲鳴を上げているにも関わらず、なおも起き上がり………ひしゃげた装甲を振り落としながら斬りかかろうとするカルタの〝グレイズリッター〟。

 だが乾坤の一撃への応えは………無情に突き出されたランスの刺突だった。嫌な衝撃音と共に胸部と肩部の間にランスが突き刺さり、〝フォルネウス〟はそのまま力任せに持ち上げて、次の瞬間――――食い込んだランスから逃れようともがく〝グレイズリッター〟の全身を雪原に叩きつけ、ランスでぶち抜いて地面に縫い付けた。

 

 これで全ての決着が着いた。

 カルタらには最早、ガンダムフレーム3機を倒す力は残っていない。

 

 

『こ……こんなの………違う………私はッ!!』

『カ、カルタ……さま………! 今………っ!』

 

 

 頭部と両脚部を潰された親衛隊の〝グレイズリッター〟が、残った片腕で懸命に地面を掻きながらカルタの下へと、少しでも近づこうとあがく。

 

『あ。まだ生きてたんだ』

 

 その傍らに佇むのは無傷の〝バルバトス〟。

雪原に身を引きずりながら這い進む〝グレイズリッター〟を潰すため、手にしていたレンチメイスを―――――

 

 

『待て、三日月少年。このような場合は、決闘代表申込人に助命を嘆願する機会を与えなければならない』

『………ジョメーをタンガンしたらどうなる訳?』

『見逃す』

 

 

 さも当然と言わんばかりのクランク。今日何度目かの『マジかよ………』を発した昭弘は、ボコボコにされすぎて既にスクラップと化したもう1機の〝グレイズリッター〟を放り出した。

 

 

『さて………助命を嘆願するのであれば容れよう。すでに雌雄は決した。イシュー家の名において我らの交通の安全を保証するのであれば、この場は見逃そう。私としても誉れ高きイシュー家の跡取りを弑逆することは本意ではない』

 

 見逃す。確かに、そうすればカルタは生き延びることができるだろう。

 地位と名誉の何もかもを失った状態になるが。

 果たして、

 

 

 

『私は………私は恐れないッ!! 私に屈辱は似合わない! こんな………!』

 

 

 

 己が敗北を受け入れられず、絶叫するカルタ。

 

 クランクは………〝フォルネウス〟は静かにランスを〝グレイズリッター〟から引き抜き、再び、今度はコックピットをぶち抜くべく振りかざした。

〝ラーム〟のコックピットで、外野である俺はただ見ていることしかできない。列車から降りた少年兵たちも、息を呑んでいるかのように誰もが黙っている。

 

 そして――――――――

 

 

 

 

 

【CAUTION!】

【AHAB WAVE SIGNALS】

 

【EB-05s】

【EB-06j】

【EB-06j】

【EB-06j】

 

 

 

 

 

〝漏影〟のラフタがハッ! と息を呑むのが聞こえてきた。

 

『別のエイハブ・ウェーブの反応!? ―――――三日月ッ!!』

『!』

 

 突如として飛び込んできた数機のモビルスーツ。

 それが撃ち放ってきた銃撃は〝フォルネウス〟〝バルバトス〟〝グシオンリベイク〟の足元を抉り飛ばし、舞い上がった雪煙が瞬間的に彼らの視界を潰した。さらなる追撃を避けるため、3機は反射的に飛びずさる。

 

 

『ぐ………っ!』

『どこのどいつだ!?』

『この反応……ギャラルホルンかッ!』

 

「――――皆、早く車内に戻れッ! 流れ弾でも、かすったら死ぬぞ!」

 

 

 車外に群がっている団員たちに呼びかけながら俺は、〝ラーム〟のガトリングキャノンを構えた。エイハブ・ウェーブの個体反応を見る限り、原作での〝キマリス〟の救援ではないようだが………

 急襲し、三日月らを一時的に後退させたギャラルホルン機……〝シュヴァルベグレイズ〟と3機の地上仕様〝グレイズ〟は、油断なく周囲を見渡しながら雪原上に静かに着地した。

 

〝シュヴァルベグレイズ〟に照準を定め、慎重にガトリングキャノンの砲口を向ける。俺と同じく待機状態にあった〝漏影〟や〝ホバーマン・ロディ〟隊も戦闘態勢に。

 だが、〝シュヴァルベグレイズ〟と〝グレイズ〟3機はそのまま動くことなく………次の瞬間には手持ちのライフルを下ろした。〝シュヴァルベグレイズ〟は足下に倒れ伏したカルタの〝グレイズリッター〟をゆっくりと抱きかかえる。

 

 

「………?」

『カケルっ! 俺たちはいつでも戦える!』

「ちょっと待てクレスト。まさかあの〝シュヴァルベ〟は………!」

 

 

 そして外部スピーカー越しに飛び込んできた声は―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――鉄華団の諸君。私はギャラルホルン監査局所属、マクギリス・ファリド特務三佐だ。此度の決闘………どうか私に預からせてはもらえないだろうか?』

 

 

 

 

 

 




これにて、2017年最後の更新としたいと思います。
ここまで読んでくださった皆さん、感想、応援を頂き本当ににありがとうございます。

何とかここまで辿り着くことができました。
2018年も「鉄と血のランペイジ」を楽しんでいただけるよう頑張ります!

よいお年をお迎えください。

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