鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

50 / 78
2018年、新年あけましておめでとうございます!
今年が皆さんにとって良い年でありますように。

『鉄と血のランペイジ』の更新の方も頑張っていきたいと思いますm(_)m



終点

▽△▽――――――▽△▽

 

 沈黙は、即座に〝バルバトス〟によって打ち破られた。

 

『どういうこと? チョコの人が代わりに俺たちと戦うわけ?』

 

〝バルバトス〟がレンチメイスを、〝グシオンリベイク〟や〝フォルネウス〟も各々の武器を構えた。

ガンダムフレーム3機相手では、いかにギャラルホルン制式主力機たるグレイズ・フレームでも太刀打ちできないに違いない。その厳然たる証拠が…〝グレイズリッター〟の残骸として雪原に転がっていた。

 〝シュヴァルベグレイズ〟のコックピットで、マクギリスはフッと笑いかけた。

 

「まさか。我々だけでは勝負にならないことぐらい百も承知だ。………だが我々が全滅する前に、この線路を破壊し、君たちの交通を完全に遮断することは可能だ」

 

〝シュヴァルベグレイズ〟のすぐ傍で、鉄道の移動に必要な線路が敷かれている。これを破壊されればそこから鉄道は移動できなくなるだろう。

 だがその事実は〝バルバトス〟…パイロットである三日月・オーガスにはさして逡巡を与えなかったようで、

 

『撃たれる前に潰す』

 

得物を構えた〝バルバトス〟は腰を低くし、自機のメインスラスターに点火しようとした。

 その時、

 

 

『待て、ミカ!………勝負を〝預かる〟と言ったよな?』

 

 

 鉄華団の若き団長、オルガ・イツカからの通信だった。疑念に満ち満ちたその声音に、「そうだ」とマクギリスは頷く。

 

「この勝負。一旦このマクギリス・ファリドが預かろう。再戦は追って通達する。君たちはこのままエドモントンへの旅を続けるといい。君たちの決闘を邪魔した対価として、ファリド家の名においてエドモントンまでの交通の安全を保証する。――――いかがかな?」

 

 若輩とはいえ組織の長ならば、どちらに利があるか一目瞭然であろう。

 と、

 

 

『あ………あぁ……マク………ギリス………』

 

 

〝シュヴァルベグレイズ〟の腕に抱かれた、四肢をほとんど潰された状態の〝グレイズリッター〟から、接触回線越し、息も絶え絶えのカルタの声が飛び込んできた。

 ひどい怪我を負っていることだろうが、すぐに然るべき施設で治療を受ければ問題はない。

 

 

「心配はいらない、カルタ。駆けつけるのが遅くなってすまなかった。後のことは私に任せてくれ」

『あぁ………マクギ……リ………助け……ありが………』

 

 

 怪我と憔悴が重なり、カルタは意識を失ったようだった。

 一瞬、乗機の腕の中にある〝グレイズリッター〟に視線を落とした後、マクギリスは再度〝バルバトス〟らに向き直った。

 オルガ・イツカの結論は………

 

 

『………あんたのことを信じた訳じゃないが、こんな面倒事、俺たちもさっさと終わらせたいんでね。だがな、この決闘を受けたのはそっちのおっさんだ』

『うむ。ファリド家の名において我らの交通の安全が保証されるのであれば、これ以上の戦いは無意味だ。………決闘代表受立人の名において、この決闘の保留を認めよう。アイン!』

 

『は、ハッ! 決闘立会人、アイン・ダルトンはこの決闘の保留を宣言する!!』

 

 

〝アクア・グレイズ〟が手持ちのライフルを天高く掲げ、一発、撃ち放った。

 

 

「感謝する。さらばだ、少年たち」

 

 

 これ以上の長居は無用だった。

〝シュヴァルベグレイズ〟は〝グレイズリッター〟を。連れてきた地上仕様の〝グレイズ〟は大破した親衛隊機をそれぞれ抱えて翻り、スラスターで雪煙を舞い上げながらその場を離脱する。

 ガンダムフレーム3機は、どれも追撃することなく、黙ってマクギリスらが去るのを見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 大破した〝グレイズリッター〟3機を抱え、〝シュヴァルベグレイズ〟を筆頭とした〝グレイズ〟隊が撤退していく。

 その姿とスラスターの噴射で舞い上がる雪煙が見えなくなるまで、俺は〝ラーム〟のガトリングキャノンを彼らに向け続けた。

 

 一連の激闘が予想外の乱入者を以て集結し、見れば〝バルバトス〟がレンチメイスをドスッと地面に突き立てた所だった。消えゆく敵影を、三日月はコックピットで静かに見守っているのだろう。

 

 

『アイツ………』

『もういい、ミカ。わざわざ追撃してやることもねぇ。今のうちにとっとと進むぞ!』

 

 

 列車のスピーカーから発せられるオルガの声。列車から外に飛び出していた団員の誰もが、オルガただ一人を見上げていた。

 見れば、動力車両の足下に降りていたビスケットと、オルガが一瞬目配せし、

 

 

 

 

『俺たちは………皆で火星に戻らなきゃならねえんだ。そのためには、辿り着かなきゃならねえ場所がある。―――――辿り着き、皆で火星に帰るぞ。俺たち皆でな! いいなッ!』

 

 

 

 

 はいっ!! という団員たちの応えが一致して、鬨の声のように一瞬、雪原を震わせた。

 彼らがこれから向かう先………エドモントンではギャラルホルンの大部隊が待ち構えているだろう。団員の誰もが、それを知っているはずだ。

 そして、団員たちの誰か、もしくは自分の命が失われてしまうかもしれないことも。

 だが、恐れる者は誰もいなかった。

 

 幼いながらも、決意を湛えた強い瞳でオルガを見上げるタカキやライド、ダンジら年少組。

 シノも黙ってオルガを見やり、昭弘はその脇で腕組をして瞑目していた。

 戦場には出ず、専ら炊事係や家事洗濯などの裏方であるアトラも、ギュッと胸の前で手を握り、線路の先、遥かエドモントンのある方角を見つめる。

 彼らが掴み取る未来は、この先にある。

 

 そんな彼らの姿に、蒔苗老は一つ、重く嘆息して秘書を引き連れ列車へと戻っていった。きっと、分かっているのだろう。彼らが未来に進むには………流血が避けられないということを。

 

 

 

『よしっ、じゃあ皆早く中に入って! モビルスーツも全部戻して、班ごとに点呼して報告! 確認忘れが無いようにね!』

 

 ビスケットの指示に、団員たちはワッと列車内へと飛び込んでいく。列車の近くにいた俺の〝ラーム〟も、再び貨物車両内へと戻し、横たえる。そして1機、また1機とモビルスーツが慎重に収容されていく。

 そして車外に出た団員たちとモビルスーツを乗せ終えた列車は、高らかに汽笛を鳴らし、再びゆっくりと前に進み始める。

 

 

 旅の終着点、エドモントンへ向けて。

 

 

 

 

 

 ところで、

 

「決闘立会人、よくぞ務め上げてくれた、アイン」

「はいっ! クランクさんの日頃のご指導の賜物です! ですが今回のものは略式ですので………」

「うむ、そうだな。次に相まみえる際には、正式な作法を以て望まねばなるまい。戦いにひと段落がついたならば、ここの団員たちにもしっかり手ほどきしてやらねばな」

「はい! 特に三日月・オーガスは無礼な振る舞いでクランクさんの決闘を台無しにしかけましたので………」

 

 

 

 鉄華団の団員たちは、面倒事を察してしばらくこの二人に近寄らなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 どこまでも続く雪原を、〝シュヴァルベグレイズ〟と〝グレイズ〟3機が疾駆する。

 彼らが抱える〝グレイズリッター〟は、1機は四肢が潰され、もう1機は全身が無残にひしゃげられ、最も原型を留めているのが上半身を中破させたカルタ機、という有様だった。

 

 だが、ギャラルホルン最新のコックピットは辛うじてカルタらを守ることができたようだ。親衛隊員2名の無事を確認した他、カルタも、

 

 

 

『ああ……マク………ギリス……助けに来て……くれたのね………?』

「ああ、そうだ。君のことを思うと居ても立ってもいられなくなってね」

 

『私……無様………だったわ……ね………』

「そんなことはないさ。君は立派に戦ったよ、カルタ。もう安心するといい。まずは傷を癒すんだ」

 

『ああ………ありが………』

 

 

 カルタの震え声は、徐々に途切れていった。再び、意識を失ったのだろう。

 

 マクギリスは全速で駆ける乗機を操りながら、しばし思考に身を沈めた。

 カルタ・イシューは、かくて辛うじて命を長らえた。だが、地球外縁軌道統制統合艦隊もろともその名声や権威は失墜し、流石にセブンスターズを取り潰すことなどできるはずもないが、カルタ自身は地球外縁軌道統制統合艦隊司令官の地位を保つことができなくなるだろう。

 

 後継に据わるのは………エリオン公はすでに月外縁軌道統制統合艦隊司令官の地位にあり、バクラザン家やファルク家は武門ではない。

 となると、エリオン公の強い影響下にあるクジャン家か、武名猛々しいボードウィン家か、あるいは………。

 

 

「何にせよ。今はゆっくり休むといい、カルタ。後のことは俺と、ガエリオに任せておけ」

 

 

 これで薄汚い政争の舞台からしばらく、カルタやイシュー家を遠ざけることができるだろう。誰よりも高潔であったカルタが、これで他の家門に利用されるようなことはない。あの男さえ潰してしまえば、イシュー家の名誉回復など簡単なことだ。

 それにガエリオ。ギャラルホルンの誤った思想に毒された親友を救うには、もうあの『方法』以外残されていなかった。事が明るみに出ればガエリオは拒絶し嫌悪するだろうが、いつかは理解し、受け入れてくれるに違いない。その時こそ、ガエリオと心の底から理解し合える瞬間なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 全ては、世界があるべき厄祭の世を取り戻すために………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 夜が明け、鉄華団を乗せた貨物列車は広大な雪原を走破した。

 ぽつり、ぽつりと車窓に人家が見えるようになり、そして雪解けの草原の先………アーブラウ首都エドモントンが遠くに見えてきた。

 

 

「ついに………!」

 

 

 辿り着いた。

 辿り着いてしまった。鉄華団の、この旅の終着点に。

 ギャラルホルンはどれだけの大部隊で待ち構えていることか。厳しく、そして状況によっては団員の……家族の死は避けられないかもしれない。

 それを知っていても、オルガや三日月、鉄華団の団員たち、クーデリアは歩みを止めないだろう。その先にある未来を信じて。

 

「あれが、エドモントン?」

 

〝ラーム〟が擁する精密射撃システムの調整にひと段落つけたフェニーが近づいてくる。「ああ」と、軽くはにかんでやり、俺はまた窓の外の光景を見やった。

 

「ここまで辿り着いたんだ。絶対、辿り着いてやる。俺たち皆でな」

 

 いよいよ敵陣だ。

 鉄華団の誰もが、終着点が近づきつつあることを知り、各々で覚悟を決めていることだ折る。

 どれだけ血が流れても、誰も、歩みを止めようとはしないだろう。

 

 

 

「俺は願ったんだ。皆が………辿り着けるように。そのために、ここへ来た」

 

 

 

 最初は、自分でもバカな願い事だと思った。

 だけど、この世界に息づく彼らを知り、彼らの生き方を知り、共に行動することで願いはさらに大きく、思いは強くなった。

 彼らの生き方をもっと見たい。彼らの未来を見たいと、願った。

 力を与えられた。だからこそ俺の願い、思いを叶えるために、それを使う。

 俺は、俺に与えられた〝(ガンダムラーム)〟に向き直った。

 

 

 

 

 ガンダム。その名はどんな時、どんな世界でも未来を切り開くために戦う子供たちの味方だった。

 

 

 

 

「力を貸してくれ――――――ガンダム」

 

 戦いの中でただ消費される運命にあった孤児(オルフェンズ)たちが、自分の力で未来を切り開くために。そのための力を。

 

 と、その時だった。

 車内放送で、オルガの声が響く。

 

 

 

『皆、もうすぐエドモントンの終着駅だ! 降りる準備を始めてくれ! それと………これから頼れる味方と合流するからな。前の車列に来てみな!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 汽笛を吹き上げ、近づく貨物列車の姿が、駅のプラットホームで待つ彼らの目にも徐々に明らかとなってきた。

 

「へ! やっときたぜ。おせーんだよ」

「んなこと言ったってユージン。俺らだってついさっき来たばっかじゃねえか」

「それにしても、よくこれだけモビルワーカーが揃ったもんだぜ。しかも新品で」

 

 宇宙から降りたユージン、ダンテ、チャドの背後。そこには10台の新型モビルワーカーがずらりと並べられていた。ユージンらをここまで連れて来てくれたモンターク商会が提供してきた新品だ。これだけあれば、これからの戦いもぐっと楽になるに違いない。

 

 と、近づいてくる車列から「見ろよ!」「あれ、ユージンじゃね!? おーいっ!」「何でユージンさんがあそこにいるんだよ!」と仲間たちの騒ぎ声がユージンらの耳にも届き、

 

 

「おうよ! おせーぞてめーら! 待ちくたびれちまったぜ!」

「来たのはついさっきだけどな」

 

 等々、彼らが騒いでいるプラットホームの片隅。通信用端末の前では、

 

 

 

 

「はいモンターク様。宇宙に残っていた団員の方々は皆、ご指示通りに鉄華団本隊と合流させましたわ。――――はい、かしこまりました。では私はこれで」

 

 

 

 

 ユージンらをここまで連れてきたモンターク商会のエージェント、エリザヴェラは通話が終了した端末をオフラインにし、再開に大騒ぎする彼らにフフッと笑いかけると、踵を返してその場を後にした。

 

 

 

 

 列車がゆっくりとホームに入り、停止した車両から真っ先にオルガが飛び降りてくる。

 

「よおユージン! 驚いたぜ、大したヒーローっぷりじゃねえか」

「お、おうよ! 俺ならこれぐらいで、できて当然だぜ………」

「モンターク商会の人が連れて来てくれたんだ。装備も提供してくれて、さっきあそこで………ってあれ?」

 

 チャドが示す先。先刻までエリザヴェラなるモンターク商会の女性エージェントが佇んでいたのだが、その姿は忽然と消えておりすでに人影一つ残っていなかった。

 

「あ、あれ。どこ行ったんだろ?」

「まあいいさ。とにかくこれで、――――鉄華団の全力でぶつかることができる。最後の大仕事だ。気合いれていくぞッ!!」

 

 

 ここを乗り越えれば―――――でっかい未来が待っている。

 オルガの発破に、応ッ!! とその場の誰もが力強く応えた。

 

 

 

 

 数時間後。

 鉄華団の、未来を決定づける戦いが始まる。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。