鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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お待たせしました。
予定していた【鉄と血のランペイジ仮想1.5期】本日より投稿したいと思います。
大体10話ぐらいにまとめて2期に突入できたらと予定中しています。

まずは、5日遅れのバレンタインネタから………

~仮想1.5期推奨イメージOP~
ONE OK ROCK「アンサイズニア」


仮想1.5期 ~Inside Answer~
1-1.My dear Valentine


▽△▽―――――▽△▽

 

 タービンズ独自の地球-火星間航路はデブリ帯の空隙を縫うようなコースが多い。

 だが、今はデブリ帯とデブリ帯の空白。小惑星一つ見当たらない「快晴」の宇宙空間が広がっている。

 

 

 

その宙域を駆ける〝ラーム〟のギガンティック・ガトリングキャノン、その照準が………遥か遠方の宙域を飛ぶ〝マン・ロディ〟を捉えた。

 俺はモニター端の重力偏差、その他諸条件の表示に一瞬目を走らせ、トリガーを引いた。

 

 瞬間的に撃ち出される数百発もの100ミリガトリング弾―――訓練用の模擬弾だが――――は、一瞬にして宇宙空間の虚空を奔り、まだこちらに気付いていない〝マン・ロディ〟の狙いをつけた胴体に………直撃しなかった。

 

 

「くそっ! 誤差が………!」

 

 

 地球、エドモントンでの戦いによって〝ラーム〟はコックピット部分が大破。

 鹵獲した〝グレイズ〟のコックピットを代わりに移植してみたはいいものの………フェニー曰く一部ガンダムフレーム本体とのシステムに不適合があり、精密射撃管制システム、特に超遠距離射撃能力が落ちているという。

 

 現代機であるだけあって〝グレイズ〟のコックピットは乗り心地は悪くないのだが、機体のポテンシャルが発揮できない現状は、かなり痛い。

 現に………眼前を薙いだガトリング弾からこちらの位置を把握した〝マン・ロディ〟のモノ・アイが、こちらに向かって鋭く光った。

 

 

『そこだ! 見つけたっ!』

 

 

 獲物を見つけたクレストの〝マン・ロディ〟がマシンガンを撃ちまくりながらこちらへと迫る。

 すかさずスラスターを噴かして回避機動。だが、避けきれたのは最初の一撃、二撃だけ。次の瞬間、こちらに急迫しながら撃ち放たれた数発が〝ラーム〟の胴をしたたかに打ち据え、模擬弾とはいえコックピットに衝撃を与えた。

 

「ちっ、やるな!」

 

 射撃戦でのクレストはかなり手強い。短時間とはいえ〝キマリス〟と互角に撃ち合っただけあって、鋭く機体を駆け回らせ、なおかつ狙いは正確。まさか〝ラーム〟が射撃戦で不利に陥るとは思わず、それが余計なプレッシャーになる。

 

 距離を詰められると、しかも先手を打たれて受け身の状態ではガトリングキャノンは取り回し辛くて不利だ。しかも射角も安定しない。

〝マン・ロディ〟の射撃を受け流しつつ、砲身を保持するサブアームでガトリングキャノンを肩部に格納。俺は〝ラーム〟のコンバットブレードを抜き放って〝マン・ロディ〟へと飛びかかった。衝撃緩和材が刀身に取り付けられており、直撃させてもナノラミネート装甲を破壊する心配はない。

 

 

『………っ!』

 

 

 迫る〝ラーム〟に、〝マン・ロディ〟も一拍遅れてハンマーチョッパーを繰り出した。

 刃と刃の直撃。それが幾度となく激しく打ち交わされ、その度に宇宙空間に一瞬、火花が散る。衝撃が、重力制御されているはずのコックピットさえ激しく揺さぶる。

 パワーではガンダムフレームの方が遥かに有利。クレストも最初は敵として、そして途中からは味方としてその戦いぶりを目の当たりにしているだけに、〝マン・ロディ〟で力押しの戦いを挑むようなことはしない。むしろ、突き出される〝ラーム〟のコンバットブレードを器用に受け流し、根気強くこちらの………一瞬の隙を待ち構えている。

 

 そして瞬間的な鍔迫り合い。

 接触回線を開く。鉄華団のパイロットスーツを着た、幼い少年の体躯と面立ちが通信ウィンドウに映し出された。

 

 

「まだ行けるか!?」

『おうっ!』

「よし………! それならッ!」

 

 

 力づくで〝マン・ロディ〟を押し飛ばし、肉薄してコンバットブレードを一閃。

 だが押し飛ばしたパワーを逆手に取った〝マン・ロディ〟は素早く後退して、俺の斬撃は虚しく空を薙ぐ。

 頭上を占位した〝マン・ロディ〟がすかさずマシンガンを撃ち放ち――――回避が間に合わず何発かが〝ラーム〟の装甲に直撃。

 

 

【損害率――31%】

 

 

 訓練用プログラムが計算する機体の損害率だ。50%を超えた段階で〝撃墜〟と判断される。対するクレストの〝マン・ロディ〟は18%。

〝マン・ロディ〟はさらに加速してこちらから距離を取った。〝ラーム〟の射撃精度が低下していることはクレストも知っている。その弱点を最大限生かそうという腹なのだろうが………。

 

――――加速力なら新型スラスターを搭載してる分、こっちが上なんだよ………!

 

 

「逃がさねーよ!」

『………っ!?』

 

 

〝ラーム〟の全スラスターをフルパワーで点火。最大加速で逃げる〝マン・ロディ〟に追いすがり、駄目押しでガトリングキャノンを撃ち放って追撃。

 やはり射撃精度の低下によって一撃目は〝マン・ロディ〟の脇を薙ぐだけに終わるが、今度は阿頼耶識システム越し、感覚的にその誤差を認識。そして補正。昭弘がミレニアム島で見せた、阿頼耶識システムによる感覚的な照準補正。

 

 滅茶苦茶な軌道を描く2機のモビルスーツによる追いかけっこの中、誤差を踏まえた上で再度撃ち放たれたガトリング弾は、次の瞬間〝マン・ロディ〟の背部をしたたかに打ち据えた。

 

 

『しまったっ!?』

「そこだッ!」

 

 

 さらにガトリングキャノンを撃ち出して追撃する。次々吸い込まれるように直撃弾を食らう〝マン・ロディ〟だが、損害率が45%を超える寸前で急速離脱。

 

『まだたたかえる………っ』

 

 再び〝ラーム〟から距離を取った〝マン・ロディ〟が、機体のサイドスカート部からスモーク手榴弾を取り出す。

 一瞬の静止。

 俺は見逃さなかった。

 

 

 重力偏差修正―――完了。

 阿頼耶識システムによる感覚的な照準補正―――完了。

 

 

 トリガーを引き絞り、またしても数秒間のうちに300発以上の100ミリガトリング弾がばら撒かれた。

 感覚的に照準が補正された100ミリ弾は、〝マン・ロディ〟とその周辺へと収束し、その一発が〝マン・ロディ〟の手にあるスモーク手榴弾へと直撃。『わっ!?』というクレストの短い悲鳴と共に、〝マン・ロディ〟は激しく噴き出すスモークの中に呑み込まれてしまった。

 

 

 トリガーを絞り続け、〝ラーム〟背部の大型ドラム弾倉内の模擬弾を空にする勢いで俺は〝ラーム〟のガトリングキャノンを撃ちまくる。うち何発かは着弾してスモーク内で一瞬火花を散らし――――〝マン・ロディ〟がヨロヨロと煙幕から這い出てきた時には、

 

 

【敵機損害率――61%】

 

 

「よっしゃ! 俺の勝ちだな」

『途中までおれの方が押してたのに………』

「悪いなクレスト。模擬戦付き合わせて。ガスの方は大丈夫か?」

『うん。まだ半分もへってないよ』

 

 

 まだ10歳ぐらい。声音にもまだまだあどけなさを残すクレストだが、パイロットとしては一級品だ。

 こちらの弱みに対応した戦術を取り、スラスターガスも浪費しないよう細かくわずかなスラスター展開だけで最大限モビルスーツを機動して見せる。ブルワーズから譲り渡され、ヒューマンデブリから一人の人間として鉄華団に加わった昌弘やアストンらを始めとする〝元デブリ組〟の団員たちは、鉄華団にとって即戦力であり、貴重なモビルスーツ戦力でもあった。

 

〝ラーム〟のスラスター残量を確認してみる――――半分をかなり下回っていた。母艦である〝イサリビ〟に戻る分ぐらいはあるだろうが、もう一戦、という訳にはいかないだろう。

 

 

「俺はもうギリギリだな。模擬弾も残ってないし。そろそろ帰るか」

『了解!』

 

 

 遠くでスラスター噴射の軌跡が2本見える。位置からして、〝イサリビ〟から発進した哨戒のためのモビルスーツ隊だろう。現状、昭弘の〝グシオンリベイク〟と宇宙仕様に改修し直した〝マン・ロディ〟4機が使用可能な状態になっている。

 俺は〝マン・ロディ〟を引き連れ、母艦の現在位置目がけて〝ラーム〟を駆り飛ばした。

 

 

 

 火星まであと2週間の地点。

 今の所旅は順調で、海賊や敵対勢力が襲撃してくる気配は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

 鉄華団の初仕事となるクーデリア・藍那・バーンスタインを地球へ送り届けるミッション。

 そしてアーブラウ元代表の蒔苗東護ノ介をアーブラウ首都エドモントンへと連れていく仕事。

 ギャラルホルンとほとんど全面対決の様相を呈し、新参の弱小組織に過ぎない鉄華団など、誰もが風前の灯火だと高を括っていたことだろう。

 だが結果は………鉄華団はギャラルホルンの妨害を排して、無事2つの大仕事を成し遂げ、その勇名を地球・火星・木星圏、とにかく人類が暮らす領域全てに轟かせた。

 

 対するギャラルホルンは――――弱小組織に過ぎない鉄華団相手に甚大な損害を被り、さらにはギャラルホルン首脳たるセブンスターズの一席、ファリド家当主であるイズナリオ・ファリドとアーブラウ議員、故アンリ・フリュウの政治的癒着が明るみに出ると、中立的立場から世界を監視する組織であるはずのギャラルホルンの権威は大いに失墜。さらにはエドモントンでのギャラルホルン、ボードウィン家所有のガンダムフレームによるアーブラウ議員の虐殺。これが世界規模での混沌に拍車をかけた。

 

 このまま進めば原作通り………各経済圏はギャラルホルンに頼らない独自の軍事力を保有しようとするだろう。鉄華団には既に、アーブラウ軍事顧問就任への打診が来ており、鉄華団団長オルガ・イツカは、一度火星で陣容を整えてから地球に顧問団を派遣する用意があると言う。

 

 そして鉄華団初の仕事の要、クーデリアが推し進める火星ハーフメタルの規制解放。これもアーブラウ代表に返り咲いた蒔苗老によって実現し、今後の需要の高まりから火星は一気に経済成長の波に乗ることができるだろう。鉄華団でも今、参謀であるビスケット・グリフォンによる事業参入計画が進められている。これが上手くいけば、〝まっとうな商売だけでやっていく〟ことも夢ではない。

 

 

 火星に帰れば鉄華団や、世界を取り巻く現状すら更に大きく変わることになる。

 地球から火星へ――――この一ヶ月近い旅路は、鉄華団のジャケットを羽織る少年少女たちにとって、いわば嵐の前の静けさと言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

鉄華団の強襲装甲艦〝イサリビ〟は今、タービンズの〝ハンマーヘッド〟に先導される形で航行していた。海賊や敵対勢力の襲撃も無く、行きに比して帰りは至って平和そのものだった。

 

「あ~、さっぱりした」

「うん」

 

〝イサリビ〟艦内のシャワールームでひと浴びし、俺は上はタンクトップだけで、支給された鉄華団のジャケットを手に、まだ濡れた頭をタオルで拭きながら食堂に向かった。クレストも同様の恰好で、長いミルクティー色の後ろ髪を束ねて右肩に流しながらトコトコ俺の後ろからついてくる。

 平時であっても団員は皆トレーニングを欠かさず、モビルスーツやモビルワーカー、武器類の整備にも余念なく取り組んでいる。小型コンテナを抱えて格納デッキに向かう年少組の団員とすれ違いつつ、まずは腹ごしらえのために食堂へ。

 

「――――で、俺の〝流星号〟、直せるのかぁ?」

「オルガはテイワズからモビルスーツを調達するとか言ってたけどよ」

「そっかぁ。結構気に入ってたんだけどな~」

「元がギャラルホルンのモビルスーツだし、乗り回し続けんのは色々………お?」

「ようカケル! 直った機体の調子どうだ!?」

 

 食堂にいる先客はユージンと、気さくに俺に声をかけてくるのはシノだ。

 俺も、軽く手を上げつつ、

 

「悪くない。足手まといにはならないさ」

 

 そう答えて厨房にいるアトラの所へ。「大盛りで」と注文すると「はーい!」と元気のいい声と笑顔で出迎えてくれた。

 

「クレスト君も、大盛りでいい?」

「あ………いや、おれは……いつもぐらい」

「遠慮しなくていいんだよ? いっぱい作ってるから!」

「えっと……じゃあ………」

 

 おずおず、と頷くクレストに「はーい! 大盛り二つ!」とアトラは2枚のフードプレートにコーンミールやサラダ、スパムとアスパラガス炒めなど栄養満点の食事をなみなみ盛りつけていく。

 

「はい! どうぞ!」

「うっす、いただきまーす」

「………うす」

 

 クレスト共々山盛りのフードプレートを受け取って、ユージンらの隣のテーブルへ。

 

「あ、そうだカケル」

「? どした、ユージン?」

「じきにブリッジで話し合いするからよ。放送で声かかると思うけど、時間空けとけよな」

「分かった。話し合いってことは、今後のことについて?」

 

 ああ。とユージンは首肯しながら、最後のアスパラガスをフォークで刺して口に入れた。シノの方はとっくの昔に食い終わっているようだ。

 

「報酬の残りの使い道とか、これからどう鉄華団を大きくしていくとか。お前ももう、鉄華団の一員なんだからよ。腹ァくくれよな」

「おっ! かっこいいこと言うねぇユージンくん!」

 

 途端にシノにおちょくられて「うっせぇ!」と唾飛ばす勢いで言い返し、

 

「うっし。じゃ、俺ら先行くからな」

「んじゃな~」

「おう」

 

 空のフードプレートを手に、それを厨房へと片付けて先に食堂を出ていくユージンとシノ。それを見送りつつ俺は自分のコーンミールをすくってようやく食事にありついた。

 隣ではとっくの昔にクレストが食事にがっついており、既に半分くらい食い終わっていた。毛並みのいいお坊ちゃんみたいな見た目の割には、他の団員同様メシには時間をかけたくない性分らしい。

 

「よく噛んで食わないと栄養にならないぞ」

「次、皆とトレーニングだから。遅れたくない」

 

 ブルワーズ時代は痛々しいほどに痩せこけていた元デブリ組の少年たちだが、鉄華団でしっかり食事を摂れるようになったことで少しずつではあるが体つきも良くなっていき、年少組のトレーニングにも進んで参加できるようになった。昌弘に至っては昭弘とトレーニングルームに入り浸っているほどだ。………やっぱり兄弟でガチムチに育ってしまうのだろうか。

 そんなことを考えているうちに、クレストはさっさとメシを平らげてしまい、「んじゃ!」とフードプレートを片付けに行ってしまった。

 

 俺は、メシの後は一度ブリッジに顔を出して………

 

「あ。カケルっ」

「ん~? どした?」

「また、模擬戦誘ってね。次は、勝つから」

 

 おう、とサムズアップしてやるとクレストは無邪気に表情を明るくし、てて………と食堂から駆け去っていった。モビルスーツによる激しい模擬戦を繰り広げたばかりだというのに、元気なものだ。

 トレーニング、模擬戦、訓練………モビルスーツやモビルワーカーに乗り、銃を持って戦うのは、鉄華団の団員たちにたって当然のことだ。クレストのように幼い少年兵にとっても。

 

 果たして、オルガやビスケットはこの先、彼らに戦わずとも食っていける未来を見せることができるのか。選択肢を見せたとして、彼らがそれを選ぶのか。

 

 鉄華団は、俺たちは今――――未来を変える旅路の第一歩を踏みしめている。

 

 

 と、そこで俺は、フードプレートの窪みの一つ………中身の入った包み紙に気が付いた。

 

「何だ………?」

「あ、タービンズの皆からです! ばれんたいんでー、って言って、チョコレートを贈る日だって」

「へぇ」

 

 包み紙を開けてみると、厨房のアトラの言う通り、チョコレートが2個、コロンとフードプレートの上で転がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

 包み紙を開き、三日月がチョコレートを一つ、口の中に放り込んでいた。

 

「うまいか? ミカ」

「うん」

 

〝イサリビ〟のブリッジ全体に、ほのかな甘い香りが漂っている。

 タービンズから鉄華団に、と贈られたチョコレートだ。境遇柄、菓子なんて滅多にありつけない年少組は大喜びで、オルガら年長者も、心なしか表情が緩んでしまう。

 

「にしても〝バレンタイン〟か」

 

 オルガらにはこれまで縁がなかったイベントだ。そもそも火星でそんな行事があったという記憶もない。菓子なんて金持ちの贅沢品で、まだ小さい団員を喜ばせるのにちょうどいい、くらいにしかこれまで思わなかった。

 艦長席で一人ごちたオルガに、火器管制席に座るビスケットも表情明るく、

 

「3月には〝ホワイトデー〟って言って、お返しもしないといけないんだって」

「火星に帰ったらすぐに業者を手配しねえとな。タービンズつったら構成員3万人以上の大所帯だからな」

 

「………いえ。〝ハンマーヘッド〟の女性クルーたちからのチョコですから、彼女らだけで十分だと思いますが」

 

 冷静に通信管制席のメリビットが指摘してくる。どうにもこのイベントの具合が掴めず、オルガは居心地悪く頭を掻いた。

 

 地球での初仕事を終え、1週間が過ぎようとしている。

 タービンズが開拓した宇宙航路を使い、所要期間は1ヶ月ほど。敵襲の気配もなく、旅は至って順調そのもの。行きの過酷さを考えたら、平穏そのものだ。

 

「とりあえず、これからデブリ帯に入るんだからな。気ィ抜いてんじゃねえぞ」

「うんオルガ。そこは徹底させないとね」

 

 と、昼飯を済ませたユージンとシノがブリッジに入ってきた。続いて昭弘も。

 

「ユージン、カケルはどうした?」

「まだメシ食ってる。じきに顔出すだろ」

 

 カケルは、鉄華団初仕事成功の立役者の一人だ。持ち込んだ〝ガンダムラーム〟のみならず傭兵としての優れた技量に、冷静に大局を見ることができる指揮官としての能力。正式に鉄華団に加わった以上、オルガとしてはカケルには昭弘、シノと同様に鉄華団の一部隊を率いてもらうつもりだった。

 

 と、シノが目ざとく、ブリッジの端でチョコを頬張る三日月に目を向けた。

 

「おっ、いいの食ってんじゃん」

「シノだってもらったろ?」

「ちっちぇーのが2個だけじゃねえかよ。三日月はアトラからも貰ったんだろ?」

「うん。あとクーデリアもくれた」

「かーっ! モテ男は羨ましいねぇ」

 

 そんなバカ騒ぎの中、もう一度ブリッジの出入口がスライドし、カケルが姿を見せた。

 

「お待たせ」

「んじゃ、そろそろ始めよっか」

 

 ビスケットも火器管制席から立ち上がり、オルガも。

 自然と、いつものようにブリッジ後部、せり上がってきたディスプレイコンソールへと皆が集まる。

 

 団長であるオルガ。

 副団長ユージン。

 参謀のビスケット。

 モビルスーツ隊の要である三日月、昭弘、シノ、それにカケル。

 テイワズからのアドバイザーであり鉄華団の事務を引き受ける女性、メリビット。

 

 全員を見渡して、まずオルガが口を開いた。

 

「まずは………お前ら、本当によくやってくれた。この初仕事の成功はお前ら全員のお陰だ」

「へっ! 何言ってやがる。団長の指揮がよかったからだろ?」

「正直無茶な作戦ばっかりだったけどよ。………ま、上手くフォローできたんじゃねえの」

 

 シノは調子よく、ユージンはプイッと顔を背けつつ、少し頬を赤らめていた。

 それに、うん、と三日月も首肯する。昭弘にビスケット。カケルやメリビットも。

 

「全部、オルガのお陰だよ」

「そうだな。頭がしっかりしてねえと団はまとまらねえからな」

「オルガじゃなかったらここまで上手くできなかっただろうしね」

「団長の指揮と、鉄華団全体のチームワークや練度がギャラルホルンやブルワーズに優越していたことは間違いないと思います」

「胸を張っていただいて構いませんよ」

 

「………へ。おだててもボーナスは増やさねえからな」

 

 そう笑いかけつつ、オルガは「ビスケット、頼む」と先を促した。ビスケットは頷いて手元の端末を叩く。

 

「今日みんなに集まってもらったのは、鉄華団のこれからについて。貰った報酬をどう活用していくか、これから鉄華団を大きくしていくために何をするべきか、皆で話し合いたいと思ったからなんだ」

 

 そう言いながらビスケットは端末をさらに操作。ブリッジにいる全員で囲んでいるディスプレイコンソールに、【収支総決算】と銘打たれた数字の羅列が映し出された。

 

「まずは今回の仕事の報酬と、仕事にかかった費用について。依頼人であるクーデリアさん、蒔苗さんからの報酬。テイワズからの仕事の報酬。それに鹵獲したブルワーズやギャラルホルンのモビルスーツ、モビルワーカー、装備消耗品の売却金額を合わせて………っと」

 

 ディスプレイに表示された金額。火星、クリュセで一般的に流通しているギャラー貨幣で換算されその金額は………百万……千万……億………。

 真っ先にシノが目を丸くした。

 

「うぉあ!? そんな金見たことねぇよ!」

「アホ。ここから色々差っ引かれるんだよ」

 

 ユージンの突っ込みに、「そうですね」と今度はメリビットが頷いた。

 

「では支出に関しては私から。艦船、モビルスーツ、モビルワーカー、その他装備消耗品の修理・維持・整備コスト。人件費、支給ボーナス。タービンズへ支払う航路利用料、他手数料、今後発生が予想される組織や施設の維持費………」

 

 メリビットが手際よく端末を叩く度に、ディスプレイ上で支出項目が追加され、その都度大文字で表示されている収入総額が目まぐるしく減っていく。

 今回の仕事、鉄華団にとって初仕事だった上に、CGS時代にも経験したことがないようなデカい戦いばかりだった。当然その分使った消耗品の数も多く、もしかしたらアシが………

 

 だが、固唾を飲んで見守っていたオルガらの前で、唐突に収入総額は減少を止めた。ふぅ、とメリビットが一息つく。

 

「………こちらが今回の仕事の最終利益となります」

「すげ………元がでけェから結構残るんだな」

「こんなに、どーすんだオルガ?」

 

 ユージンの問いかけに「決まってんだろ」とオルガは答えた。

 

「このカネを元手に鉄華団をでかくする。まずは………鉄華団の再編成だ」

「再編成ぇ?」

 

 その先はビスケットが引き継いだ。

 

「今まではモビルスーツ隊、モビルワーカー隊って言ってもはっきり常設の部隊を決めてなかったからね。でもこれから装備を増やすならそうはいかない。実働隊をしっかり編成して指揮官も決めないと。とりあえずは〝実働隊〟を一番から三番まで作ろうと思う」

 

 収支決算を表示していたディスプレイの内容が変わり、今度は部隊の編成図へ。オルガを団長に、〝実働一番隊〟から〝三番隊〟までが編成され、さらにその下にモビルスーツやモビルワーカー、歩兵隊や後方部隊も。

 

「鉄華団実働一番隊は………シノ、お前にやってもらいたいと思う」

「よっしゃ!」

「実働二番隊は、昭弘」

「分かった」

「実働三番隊はカケルだ」

「了解」

 

 それぞれの名前がディスプレイに表示される。オルガはさらに続けた。

 

「とにかくこの3人には実働隊の頭を張ってもらう。腹くくっとけよ。細かい人選は火星に帰ってから………」

「ん? おい、三日月はどうすんだ? ウチのエースだろうが」

 

 もっともなユージンの指摘。

 だがオルガはニッと笑い、ディスプレイ上の表示、団長のアイコンから伸びる4本目の線の先を示した。

 

 

 

「ミカにはその力を最大限使ってもらう………遊撃隊長だ」

 

 

 

 


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