鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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遭遇

▽△▽――――――▽△▽

 

 参番組、死者9名。

 負傷者17名。

 

 本来なら、発電機代わりに使っていたモビルスーツを出してもなお、倍以上の死人が出ておかしくなかった。相手はギャラルホルン。こっちが全滅したところで、誰も不思議だと思わないだろう。

 だが、あの青いモビルスーツ………ミカが乗った〝バルバトス〟と似た面影のモビルスーツが現れ、参番組を取り巻く戦局は一変した。

 終わってみれば、ギャラルホルンのMW隊は壊滅。

 襲撃してきた3機のモビルスーツも全滅。パイロットは、1人を捕虜にし、もう一人の………若い士官は意識不明で医務室に横にし、最初に撃墜されたモビルスーツのパイロットは、行方不明だ。コックピットに誰も乗っていなかった。

 今、点々とMWやMSの残骸が散らばる戦場で、参番組の少年兵らが疲弊した身体を引きずりながら、生き残っている者の救助やまだ使える残骸の回収に取り掛かっている。

 

「オルガ」

 

 仲間たちが点々と散らばって作業する戦場跡を丘の盛り上がった部分から見下ろしていたオルガは、自分を呼ぶユージンの声に「あん?」と振り返った。

 

「あん? じゃねえよ。どうすんだよ、アレ。ギャラルホルンの士官サマを捕虜にしろだの言ったっきり、何にも言ってこねえじゃねえか。コックピットからも出てこねえし」

 

 ユージンが示す先、作業中の仲間たちを見下ろすかのように、右肩に巨砲を携えた青いモビルスーツが静かに佇んでいる。

 

「待つしかねえんじゃねえの?」

「んな呑気なこと言って………敵だったらどうすんだよ」

「敵だったら最初から俺らを攻撃すりゃいい話じゃねえか」

 

 その時、「おい」と二人の背に……ヒューマンデブリの赤い一本線が入ったCGSの制服を着た、昭弘が声をかけた。

 

「一軍が戻ってきたみたいだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 火星軌道上。

 ギャラルホルン火星支部宇宙基地〝アーレス〟

 その支部長執務室にて。

 

「何ィッ!? 失敗しただと!?」

 

 ボロボロの体でモニターに現れた、中隊長オーリス・ステンジャ二尉の報告に、「ええい……!」と苛立たし気に火星支部長…コーラル・コンラッドは片手で頭を掻きむしった。

 疲弊し、焦燥した様子のオーリスの顔が、執務デスク上の端末のみならず背後のモニターでも大写しにされる。おそらく着替える手間も惜しんだのだろう、ボロボロな身なりのオーリスは、

 

『モビルスーツも、私の機体を含め3機が撃墜。MW隊も、8割を失いました。やむを得ず、撤退を………』

「ふざけるなァッ!!」

 

 ガン!! とコーラルは激高し拳をデスクに叩きつけた。その手元には、クーデリア・藍那・バーンスタインのプロフィールデータが表示されている。

 何てことだ………!

 火星独立運動の旗頭だったクーデリア・藍那・バーンスタインが我々の襲撃により華々しい戦死を遂げる………。

 ヒロインを失った火星は今まで以上の混乱に陥り、地球への憎しみを強くする。

 

 そういう手はずだったというのに!!

 

『コーラル司令。恐れながら、今一度私めに汚名返上・名誉挽回の機会を! 二度と同じ過ちは………!』

 

 オーリスの進言など耳に入らず、拳のみならず自分の額すらデスクに激しく打ち付ける。額が若干赤く擦れたことなど、今のコーラルにはどうでもいいことだった。

 このままではノブリスからの援助はオジャン。

 しかもモビルスーツを失ったとなれば………!

 

「………ファリド特務三佐がこっちに着くのはいつだ!?」

「はっ。二日後には」

 

 控えていた部下が淀みなく答える。

 二日後、地球からの厄介な監査が待ち構えている。このままでは、監査局からの若造どものせいで、失脚は免れない………!

 コーラルはキッとモニター越しのオーリスに向き直った。

 

「いいか! それまでに何としてもクーデリアを捕えろッ!! 第3地上基地のモビルスーツ隊はお前に一任する! そして、戦闘の証拠は全て消せ! 相手ごと全てッ!!」

 

『了解いたしました! 吉報をお待ちください!』

 

 

 吉報だと、当然だ!

 一人残らず駆除しろ!

 これは命令だッ! 失敗は絶対に許されんぞォッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 そこから、夜更けまで〝ラーム〟のコックピットの中で待機した。

………腹減った。

 コックピットの中には、栄養バーすら無く、ただひたすらに空きっ腹を抱えて、夜が更けるのを待つ。奥にジャンプスーツが入っていたがさすがに服を食う訳にもいかず………

 下手に外に出ればCGSの大人たち………一軍に目を付けられる可能性があった。今は、第3話「散華」の辺り。ハエダやササイらが睡眠薬入りのメシを食って、縛られて転がされるのを待つしか………メシ………。

 

「………そろそろ、大丈夫だろ」

 

 阿頼耶識システム解除。ケーブルを解除し、自由になると端末のコマンドを操作してコックピットハッチを開く。

 ほとんど一日ぶりの外気を貪り、ラダーを使って機体から降りる。

〝ラーム〟の足元では、監視のための少年兵が、投光器を足下にあくびをかみ殺している最中だった。

 

「ふぁ………って、あれ!」

「コックピットから出てきたぞ!」

 

 よく見えないが、ガシャガシャ! という音は、おそらく銃のセーフティボルトを解除してこちらに構えたのだろう。

 

「ちょ、ちょい待ち。俺、は………」

 

 ちょっと空腹すぎて身体に力が入らず、思わず前のめりに倒れてしまう。

 

「え!? お、おい!」

「だ、大丈夫かぁ?」

 

 素っ頓狂な声を上げて、まだ幼さの残る少年兵が2人、抱き起こしてくれる。

 うち一人は、顔のそばかすが特徴的な………この時点で本編では生き残っていることがあり得ない少年兵、ダンジ・エイレイだった。

 まあ、それはいいとして。

 

「め、メシ………」

「メシっつってもこんなのしか………」

 

 おずおずとダンジがポケットから栄養バーを取り出し、すかさず「いただき!」と我ながらみっともなくひったくって、包みを破いて一気に食った。

 

 バーベキュー味か。

 確かに、瞬間的に満腹感を感じることができるが………栄養になった気はしない。無理やり腹を膨れさせられたような気分だ。

 足りん。

 

「も、もっと………」

「もっと、って言われても………」

「俺持ってるぜ」

 

 今度は、確か1話の初っ端から狙撃兵に殺された少年兵か? 差し出されたそれを「いただきます!」と、恥も外聞もなくひったくって………

 

 今度は野菜味か。

 だが、やっぱり栄養になった気がしない。空腹感を無理やり麻酔か何かで中和させられたような、そんな感じだ。

 足りん。

 

「もっと」

「ええぇ~!?」

「な、何なんだよアンタ………」

 

 こっちは命の恩人だぞ。

 

「どうするダンジ?」

「どうするったって………とりあえず出てきたら知らせろって言われてるし、食堂、連れてくか」

 

 立てるか? なんて言われてしまったので、さすがに「よっ」とよろめきつつも立ち上がる。

 

「恩に着るぜ。えーと………」

「俺はダンジ。こっちは、イリアムだ」

 

 よろしく、とそれぞれ握手する。てかこの最初に死んだ少年兵、名前あったんだな………。

 

「俺は、蒼月駆留だ。カケルって呼んでくれよ」

「うっす」

「んじゃ、まず食堂案内するから。イリアムは団長かユージンさん呼んできてくれよ」

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「………さて、これからCGSは俺たちのものだ。さあ選べ。俺たち宇宙ネズミの下で働き続けるか、それともここから出て行くか」

 

 一軍のハエダとササイを見せしめに殺し、その夜、CGS参番組によるクーデターが決行された。

 睡眠薬入りの食事ですっかり無力化されていた一軍の大人たちはなす術も無く、残るか去るか、それか殺されるかを選ばされる。唯一、会計担当のデクスター・キュラスターは退職を許されず、半ば強引に押し留められることになるが。

 退職するCGS一軍、それに参番組の退職希望の少年兵らには、新たにリーダーの位置に収まったオルガの意向により、退職金が手渡される。ユージンはそれに反発し、短い間だがオルガとの間に火花を散らす。結果的に一軍からの残留組、トド・ミコルネンが宥めるような形になるが。

 

 

 

 


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