鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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5-2.

▽△▽―――――▽△▽

 

 歳星での俺の仕事は大きく4つ。

 

1つ。先の戦いで撃破した民間警備会社〝マーズファング〟から賠償金として譲渡されたモビルスーツのテイワズへの売却。―――これは、すでに納入を完了し、今頃見積書が火星のメリビットの所へ届いているはずだ。請求書発行等の手続は向こうに任せておけばいい。

 

 2つ。譲渡されたガンダムフレーム〝サブナック〟の修復を歳星工廠に依頼すること。これも完了し、今頃歳星整備長が夢中になって取り組んでくれていることだろう。

 

3つ。歳星の設備で修復された強襲装甲艦の受け取り。

鉄華団実働三番隊の所属艦となる〝カガリビ〟は出港準備を終え、残る物資や装備の搬入が完了し次第出発する。

 

 そして4つ目。テイワズ代表マクマード・バリストン氏との会談。

 成果を上げることはできたと思う。まさか、自分がやったことをあらかた見破られるとは思わなかったが………

 特に鉄華団地球支部開設にあたる監査役、それに事務アドバイザーの人選について現地の担当者と交渉してもよい、という言質を得られたのは大きい。簡単な覚書ももらった。

 

 歳星での下準備は全て完了だ。

 後は火星で実働三番隊となる団員たちを乗せて、地球へ出発するのみ。

 

 

 

「〝カガリビ〟、最後の物資コンテナの搬入終わりました!」

「機関異常なし! タービンズの船が準備でき次第いつでもいけますっ!」

 

 ブリッジで操舵を担うのは、ブルワーズでブリッジ要員だった元ヒューマンデブリたちだ。デブリ帯を潜り抜けてきただけあって、仕事ぶりを一目見ただけで腕は確かだと分かる。

 俺は、艦長席に腰を下ろした。

 

「タービンズの状況は? 応援が必要そうか?」

「モビルスーツ用重火器の搬入に手間取ってるみたいです。………あ、通信が来ました」

 

 管制オペレーター席の団員が端末を操作してメインスクリーンに回線を繋ぐ。

〝カガリビ〟の前に停泊するタービンズ所属のコンテナ船――――〝ローズリップ〟号の船長、キャンベラ・マーフォードがスクリーン上で『ハーイ』と右手、フック状の義手を挙げた。

 

 

『悪いわね。工廠から持ってきた例の武器―――〝ビッグガン〟をやっとこさ収め終わった所さ。あと1時間もあればこっちは出発できるよ』

「了解です。そちらの準備ができ次第発進します」

 

 

 今回の地球行きにあたって、テイワズ……マクマード氏からいくつか〝餞別〟が贈られた。

『将来販売される新型機〝獅電〟の格安提供の確約』それに『テイワズの工廠で実験的に製造されたものの、量産化する見込みが立たずに放置された兵器の無償譲渡』だ。

 特に歳星整備長のイチオシが―――エイハブ・リアクター内蔵の三脚固定式巨大レールキャノン、通称〝ビッグガン〟だ。

 

 

 

――――この〝ビッグガン〟はスッゴイよォッ!! ギャラルホルン艦の主砲なんてメじゃないぐらいさ! 理論上は通常弾でも戦艦の装甲を貫通できる!!………まあ、多少取り回しに苦労するのと、バレル自体がレールキャノン発射の高熱に耐えきれずに一度の発射で溶解するからその都度交換しないといけないし、構造に比して威力が強すぎるという設計上の問題から照準能力もかなり低いけどねぇ………それでもッ! 君ならこのロマンに………失礼。ロマンに満ち溢れた兵器を使いこなせると信じてるよッ!!

 

 

 

 思い出したのが『機動戦士ガンダム サンダーボルト』に登場する同名のビッグガン、もしくは田中芳樹『タイタニア』に登場するワイゲルト砲なのだが……とにかく史上最強の大砲を作りたがるのは、男にとってロマンなのかもしれない。

 使い道は色々ある。

 

「いよいよ地球か………」

「その前に火星で団員を拾ってかないといけないけどね~」

 

 艦長席に座る俺の横に、ブリッジ入りしたフェニーが立った。「ふぅ」とここ一連の作業の連続に流石に疲れが溜まった様子で、前髪を軽く掻き上げつつ、

 

「アタシら地球で教官役するだけなんでしょ? いくら何でも重装備過ぎない?」

「政情が悪化して各経済圏が独自の軍事力を持つようになったんだぞ。経済圏単位で防衛軍が整備されるということは、つまり将来的には経済圏同士の戦争もあり得るってことだ。首を突っ込む気はさらさら無いけどな。あらゆる事態に備えておきたい。………家族を死なせる訳にはいかないからな」

 

 結局の所、鉄華団が今やっている仕事は、常に死と隣り合わせのものばかりだ。切った張ったの無い『まっとう』な商売をやっていくには、状況があまりに悪すぎる上に敵も多すぎる。

 面子を潰されたギャラルホルン。

 鉄華団や、兄貴分であるタービンズを疎ましく思うテイワズの派閥たち。

 ライバル業者。

 そして、万が一にも利害が対立すればマクマード・バリストンや、マクギリス・ファリドともやり合う事態だって想定できる。

 

 鉄華団が『本当の居場所』に辿り着く、それを守れる日を迎えるためには――――

 

 

「まーた難しい顔してるわね。最近、悩みすぎなんじゃないの?」

 

 コツン、とタブレット端末の端で軽く叩かれてしまい、思わず顔を上げると隣で立つフェニーがニッと笑いかけてこちらを見下ろしていた。

 

「大丈夫………なんて気楽に言えないかも知れないけどさ、鉄華団の子たちは皆、強い子ばかりだからさ。それに皆、カケルのこと信じてる。カケルも、アタシらを信じて頼ってみなよ」

「………だな」

 

 フェニーの言う通りだ。

 どの道、自分一人で達成できる問題じゃない。皆で力を合わせて戦わなければ、巨大な障害を乗り越えることなどできないのだ。今までも、それにこれからも。

 

「ああ。頼りにしてるからな、フェニー」

「モビルスーツの整備、それに補給は任せな!」

 

 操舵席やオペレーター席で、団員たちがソワソワしているのが分かった。俺は、一人一人に目を向けて、

 

「皆も、よろしく頼む。こんな頼りない隊長で悪いけど」

 

「そ、そんなことないですっ!」

「船のことは任せてください!」

「〝イサリビ〟には負けませんよ!」

「が、頑張ります………!」

 

 操舵手のティオ・ガーウェイに、パベル・スルール。

 通信管制のフォル・ティネアルに、火器管制のパウ・シェン。

 

 どれも11、12歳ぐらいの、食事事情が最悪だったブルワーズで育ってきたこともあって未だ発育不良さが残ってはいるが、大人顔負けの船乗りたちだ。メリビットによってIDも取り戻すことができ、ヒューマンデブリとしてではなく、一人の団員として鉄華団を、実働三番隊〝カガリビ〟を担ってもらうことになる。

 

 と、通信オペレーター席の端末に新しい表示が加わった。

 

 

「あ―――〝ローズリップ〟から入電! 予定前倒しで発進準備できたそうです!」

「よし。それじゃあ〝カガリビ〟が先行して発進する。総員配置につかせてくれ」

 

「了解!――――これより本艦は出港準備に入ります! 各班は担当のエアロック封鎖と人員の点呼を――――」

「エイハブ・リアクター出力上昇! メインエンジン点火! システム異常なし――――」

 

 メンテナンスケーブルや燃料補給用のガスが次々と解除され、準備が完了したエアロックは封鎖。物資や人員を往来させるための大型桟橋が港内に引き戻されていく。

 眼前のゲートの向こうには星の海が広がっており、全ての準備を整えた〝カガリビ〟が漕ぎ出でるのを待ち構えている。

 

「全システム異常なし。いつでも行けますっ!」

「推力15%。―――――〝カガリビ〟発進する!!」

 

 スカイブルーの強襲装甲艦が、機関に点火しゆっくりと〝歳星〟の宇宙港から出港する。続いてタービンズのコンテナ船〝ローズリップ〟も発進した。ゲートを潜った瞬間、満天の宇宙空間が全方位に広がる。

 

 2隻は木星外縁軌道を周回する〝歳星〟の航路軌道から離脱。火星に向かう航路へと転針した。

 

 

 

 

 2個の輝点………〝カガリビ〟と〝ローズリップが惑星間航行船〝歳星〟から離れる様を――――名瀬は宇宙港で、マクマードは自邸の前庭から、それぞれ静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

その同時刻。

 

『3番船、大破っ! 2番も推力低下中!』

『脱出を急がせろッ!! 敵モビルスーツを近づけさせるな!!』

『援護してくれ! 敵が――――――!!』

 

 それは、楽勝な仕事のはずだった。

 積荷は、テイワズ代表マクマード・バリストンの肝入り。希少金属を地球まで送り届ける仕事。そしてその護衛だった。

 木星圏でも限られたパイロットにしか供給されていない〝百錬〟が3機と、最近本格的に市場に出回り始めた〝ガルム・ロディ〟が5機。〝百里〟が2機の、計10機。護衛対象は3隻のコンテナ船。

 使う航路もテイワズ警備組織が目を光らせている、テイワズが管理する中でもとりわけ安全と言われる航路。

 

 十分な戦力。

 警備の行き届いた安全な航路。

 出航後、順調に地球まで辿り着ける。

 

 そのはずだったのに………

 

 

「くそォッ!!」

 

 

〝百錬〟を駆るパイロットの男は、迫る敵………宇宙海賊が操るヘキサ・フレームのモビルスーツ〝ジルダ〟目がけてライフルを撃ちまくる。被弾し、怯んで動きを止めた所を素早く肉薄してブレードを叩き込み、コックピットを潰して沈黙させる。

 各方向から宇宙海賊のモビルスーツが迫るが、練度面ではこちらに分がある。〝百錬〟や〝ガルム・ロディ〟〝百里〟の猛反撃を前に、敵機は次々撃破されていく。

 

 雑魚は問題ない。

 問題なのは―――――――

 

 

『見ろっ! また光が――――――!!』

 

 

 刹那、壮絶な光の奔流がデブリ宙域を貫いた。

 それは次の瞬間、傷つきノロノロと進んでいた1隻のコンテナ船………その上方にあった小惑星を切り裂き、吹き飛ばされた岩塊が衝撃波に乗ってコンテナ船へと襲いかかる。

 鈍重なコンテナ船に回避行動を取るだけの推力などある訳がなく、その巨体は一瞬にして降り注ぐ岩塊に押しつぶされて沈んだ。

 

『もう駄目だ! 船が2隻も………!』

『ち、畜生なんなんだよッ!! 光が降ってきて小惑星が吹き飛ぶなんざ………俺は悪い夢でも見てんのか!?』

『逃げようぜ! もう勝ち目ねェよ!!』

 

 またしても太い光線が迸る。

それは先ほど同様に浮遊する小惑星を吹き飛ばして、砕かれた無数の欠片が逃げ遅れた〝ガルム・ロディ〟2機を一度にぶち抜き潰してしまった。

 この……滅茶苦茶な光線が放たれた地点は、観測する限りべらぼうに遠い。

 だが、このまま放っておいたら護衛対象どころか自分たちまで全滅することは間違いない。

 

「雑魚共は任せるぞ! 俺は向こうの敵をやるッ!!」

 

 僚機にそう呼びかけて、〝百錬〟は戦場から一気に飛び上がった。

 目指すはデブリ宙域の奥―――――このバカげた光線が発射されたと思しきポイントだ。

 

 この辺りの宙域は、厄祭戦時代には開拓コロニー群が存在していたが、戦時に破壊されて今日まで、一部の航路以外復興されることなくごくありふれた戦場跡として放置されてきた。

 遠くに見えるスペースコロニーの廃墟に近づけば近づくほど、その破壊された構造の破片がデブリとなって密集している。だが〝百錬〟は手練れた挙動で、浮遊するデブリを回避していき奥深くに潜む敵へと迫った。

 

 またしても光の奔流。

 それは〝百錬〟の足元をかすめて………背後に置いてきたコンテナ船や僚機の辺りで数個、炎の花を散らした。

 

「舐めやがって………!」

 

 失敗した任務。そして仲間を失ったことに歯噛みしつつも、パイロットは尚も速度を緩めることなく敵地へと駆ける。厄祭戦時代の戦場跡でもあるこのデブリ帯には、放置されたままのエイハブ・リアクターがデブリに混じって残っており、コックピットのセンサー表示画面にはいくつものエイハブ・ウェーブの反応が映し出されている。

 だが、その中でもセンサーがようやく1個の濃いエイハブ・ウェーブの反応を捉えた時、パイロットは凶暴な笑みを浮かべた。1対1の勝負ならば十分に勝ち目はある。デブリの奥でコソコソ撃ってるだけの奴が相手なら猶更――――

 

 だが、デブリが密集している区域をようやく抜け出した〝百錬〟の前方モニターに、次の瞬間映し出されていたのは、

 

 

 

 

「な………ギャラルホルンの戦艦だと!?」

 

 

 

 

 見間違えようもない。ギャラルホルンのハーフビーク級戦艦。

 それが1隻、悠然と〝百錬〟の目の前を航行していたのだ。続けて響くレーザー照準警報。

 ハーフビーク級戦艦が張った分厚い弾幕を目まぐるしい機動で回避しつつ、〝百錬〟は堪らずに撤退した。

 

 

「馬鹿な………! ギャラルホルンが何でテイワズの船を襲う!?」

 

 

 ギャラルホルンとテイワズは敵対関係にはない。むしろ、現代表マクマード・バリストンと圏外圏を統括するアリアンロッド艦隊は良好な関係を築けていると、木星圏裏社会の誰もが知っていた。

 それが何故――――――!?

 

 

 それだけではない。

 

 

【CAUTION!】

 

 

 古い難破船を足場に、1機のモビルスーツが巨砲を構えて佇んでいた。

 こちらに目もくれることなく、次の瞬間、その砲口から――――凄まじい光の奔流を撃ち放った。

 デブリ宙域が真っ直ぐ撃ち抜かれ、遥か遠方で爆発の火球がいくつも上がる。ちょうどあの辺りに、護衛するはずだったコンテナ船と、それに仲間の機体が………

 

「く………貴様がァッ!!」

 

 ライフルを撃ちまくりながら、〝百錬〟は敵機に迫った。

 そこでようやく、敵が振り返る。

頭部の鋭い双眸が、静かにこちらを睨みつけてきた。

 

「こいつ………ぐあ!?」

 

 刹那、光の奔流が〝百錬〟を周囲のデブリごと一瞬にして飲み込んだ。

 激光、それに降り注ぐデブリや岩石。コックピットモニターは灼かれ、デブリの直撃、そして爆発。衝撃。引き裂かれる装甲。

 サブモニターに次々と警告が表示され………パイロットは弾倉の爆発によって右腕ごと火器を失ったことを知った。

 

 そして凄まじい光と衝撃の混沌がようやく収まったその時―――――――

 

 

 

「な………!?」

 

 

 

 敵が、すぐ目の前にいた。

 視界全てに大写しとなる敵機のツイン・アイ。

 敵機の左のマニピュレーターが伸び、モビルスーツの頭部が潰される音と共に視界の半分が覆われる。

 そして残る敵の右手に握られていたのは………見たことも無い、光の剣。

 

 それに――――――?

 

 

 

 

『――――――ハッハッハぁッ!! まさしく………虫ケラだなァッ!!』

 

 

 

 

 飛び込んできた敵からの接触通信。

 それが、光の剣にコックピットごと飲み込まれる寸前、パイロットが最期に聞いた「悪意」だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日。

 テイワズ資源採掘部門のコンテナ船3隻と護衛のモビルスーツ10機が、テイワズ保有の木星圏―地球間航路内、廃棄コロニー群のデブリ宙域で消息を絶った。

 

 

 




【オリキャラ解説】

キャンベラ・マーフォード

出身:木星圏
年齢:31歳

タービンズ所属のコンテナ船〝ローズリップ〟号の船長を務める女性。
過去の事故から右腕を失っており、先端が鋭利なフック状義手を取りつけている。
男の下につくことを良しとしない男優りの豪放な性格の持ち主であり、危険な惑星間航行を行うコンテナ船を指揮するだけの技量と頭脳、それに度胸を備えている。

(原作では)
登場無し。
2期時点にてギャラルホルンの強制査察により身柄を拘束されたが、解放後はアジー率いる新しい輸送船団に合流した。


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【オリメカ解説】

・ビッグガン

テイワズ技術部門から鉄華団実働三番隊に譲渡された、エイハブ・リアクター内蔵の三脚固定式巨大レールキャノン
エイハブ・リアクター1基をジェネレーターとして内蔵し、モビルスーツ用火器としては破格の攻撃力を誇る。理論上は最大出力で発射すれば、通常弾頭であっても戦艦の装甲すら貫通できると言われるほど。

しかしその出力にバレルの耐久力が追いついておらず、一度発射すればバレルが溶解するため、発射毎にバレルの交換・調整が必要となる他、艦砲並みの大型兵器であるため、取り回しが難しいという欠点も持つ。また、試作段階で構造調整が不十分なままとなっており、照準能力は低く遠距離射撃には適しない為、通常戦闘での運用には向かない。


(ナタタク さんよりアイデアをいただきました。ありがとうございます!)




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1.5期第5話についてはこれで終わりとなります。
次話については、準備でき次第更新もしくは活動報告でお知らせできたらと思います。




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