鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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6-3.

▽△▽―――――▽△▽

 

「く………っ!」

 

 さっきから【FUEL!】の警報がうるさくコックピットに響いている。もうすぐメインスラスターのガスが切れる。そうなれば一方的にやられるだけだ。

 

 襲ってきた6機の〝ジルダ〟のうち2機を何とか仕留めることができた。コックピットモニターの端で、頭部を潰された〝ジルダ〟が流されていくのが見える。

だが残る4機はなおも、クレストの〝ランドマン・ロディ〟をきつく包囲し、激しくマシンガンを撃ちかけてくる。〝ランドマン・ロディ〟のマシンガン残弾は残りわずか。勝ち目は無い。

 

 

『――――へっ! やっとへばりやがったか』

『その宇宙ネズミはお前らで始末しとけ! 俺は艦を………うおっ!』

 

「行かせるかぁッ!!」

 

 

 残るマシンガンを撃ちまくり、ここから離れようとした〝ジルダ〟にクレストは機体を突っ込ませた。

 

『このガキ………ぎゃ!』

「うおおおおおおおオオオオォォォッ!!!」

 

 獣同然に慟哭し、肉薄したクレストは〝ジルダ〟目がけてハンマーチョッパーを叩き込む。組み付かれ、頭部を激しく殴り潰された〝ジルダ〟は反撃する間もなくピクリとも動かなくなった。

 あと3機! クレストは背後に残した敵機に振り返り、フットペダルを――――

 

 

【FUEL EMPTY】

 

 

 無情にも、スラスターガスを失った〝ランドマン・ロディ〟のメインスラスターが、一瞬激しく噴きかけたがすぐに沈黙した。

 

「ガスが………っ! うわっ!!」

 

 

〝ジルダ〟3機による猛然とした反撃。〝ランドマン・ロディ〟は、回避もままならずにそれを食らうしかない。ノロノロ、と姿勢制御用のエイハブ・スラスターだけで身をよじるように逃れようとするが、次の瞬間、2機の〝ジルダ〟が〝ランドマン・ロディ〟の両脇に組み付く。

 

 

「くそ………っ!」

『手こずらせやがって、宇宙ネズミのクソガキが………』

『ぶっ殺せ!!』

 

 

 クレストは敵機の拘束から逃れようともがく。が、2機のモビルスーツに力づくで組み伏せられてしまっては身動き一つ取れない。ギシギシ………と金属が軋む嫌な音が聞こえるばかりで、2機の敵機は頑強にクレストを締め上げていた。

 

 そして、悠然と〝ランドマン・ロディ〟の目の前に降り立った〝ジルダ〟が手持ちの近接武器―――剣と棍棒を掛け合わせたかのような重厚なソードクラブを振り上げる。

 

 クレストは自分のヘマに歯噛みした。中途半端に敵を残した状態で死ねば、その分仲間に………カケルに迷惑がかかる。

 

 締め上げられ、しかし為す術ないクレストはコックピットで、ソードクラブの切っ先が〝ランドマン・ロディ〟の胸部を抉り潰す瞬間を待つしか………

 

 

 

 

 その時、上方から撃ち放たれた凄まじい銃撃が正確に〝ジルダ〟を捉え、敵機は機体各所に被弾し潰されて吹き飛んだ。

 

 

 

 

『ぐは………ッ!!』

『な、何だ!?』

『上だ! なんだ……デカいのが来るぞっ!!』

 

 

 敵機につられるようにクレストも上を見上げる。モビルスーツを一撃のうちに叩き伏せた正確かつ強力な射撃。そんな武器を取り回しているのは1機しかいない。

 刹那―――戦場に飛び込んできたのはカケルの〝ガンダムラーム〟だった。構えたガトリングキャノンが火を噴き、〝ランドマン・ロディ〟の右腕を抑えていた〝ジルダ〟を無数の射線で切り刻んで引き剥がす。

残る1機の敵はクレスト機を振り払って離脱。だが迫る〝ラーム〟のコンバットブレードに対処できず、構えたソードクラブを払い飛ばされ、次の瞬間にはしたたかに頭部を殴り潰されて沈黙した。

 

 

 瞬く間に3機の敵モビルスーツが撃破される。そして〝ランドマン・ロディ〟の傍らにカケルの〝ラーム〟が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

「――――クレスト! 無事か!?」

 

 コックピットモニター越しに見る限り、クレストの〝ランドマン・ロディ〟はあちこちに被弾してすっかりボロボロだが、致命傷は見当たらない。

 呼びかけると、通信ウィンドウが開かれクレストの幼い面立ちがノイズ混じりに映し出された。

 

『おれ、平気。でも何で………』

 

「〝カガリビ〟に戻るぞ。これ以上は長居できない」

 

 おそらくこいつらを運んできた〝母艦〟が近くにいるはずだ。俺は物言わぬ残骸と化し流れていく〝ジルダ〟を見やりながら予測する。手負いのモビルスーツを抱えたまま対艦戦に突入するのは不可能だ。

 

 そしてその時、【CAUTION!】の警報と共に新たなエイハブ・ウェーブの反応をセンサーが捉えた。モニターの端が拡大され、1隻の強襲装甲艦の姿が大写しとなる。

 あのカラーリング、まるでブルワーズの………

 

 

 

『おいそこのモビルスーツッ!! 今すぐ降伏すりゃあ命だけは助けてやるぜェ?』

 

 

 

 耳障りなだみ声が、【SOUND ONLY】の通信越しに飛び込んできた。クレストが『ひ……!』と短く悲鳴を上げる。

こいつは聞き覚えのある………そう、ブルワーズの頭領ブルック・カバヤンの声だ。

 そしてさらに警報が。〝ラーム〟と〝ランドマン・ロディ〟が佇んでいた宙域に激しい砲撃とミサイルが次々叩き込まれ、その寸前、俺はクレスト機の腕部を掴んで最大推力でその場から離脱した。

 

 背後で幾度となく沸き上がる激しい爆発。だれそのいずれも鉄華団のモビルスーツを撃破すること叶わず、無意味に宇宙空間に火球を散らしただけだった。

 通信ウィンドウの中でなおもブルックが喚く。

 

 

『け………待ちやがれ宇宙ネズミのゴミクズ共がよォッ! お前らはもう袋のネズミだ! お前らの艦にも………』

「あんたは最後に殺してやる。ブルック・カバヤン。首を洗って待っていろ」

 

 

 先の戦いでヒューマンデブリやモビルスーツ、艦船を失い、おそらくブルワーズ頭領としての地位も追われたはずのこの男が何故? 可能であるなら問いただしたいが、生かす理由にはならない。俺たちの邪魔をするのであれば殺すまでだ。

 俺は冷たく言い返すと通信をシャットアウトし、俺はさらに加速してポイントX154、R0099―――フェニーの〝百里〟を待機させた補給ポイントへと飛んだ。

 補給ポイントに近づくと、〝百里〟のエイハブ・ウェーブの反応がセンサー表示ウィンドウに表示される。

 

 

「フェニー!」

 

『カケル! それにクレストも大丈夫!?』

 

「ああ。クレストも何とかな」

『うん………』

「フェニー、モビルスーツのガス補充を頼む」

 

 あいよ! とフェニーの〝百里〟が背部にある大型バックパックの、ガス補充用ホースの先端ソケットをせり上げた。

 

『クレスト。メインスラスター用燃料の吸入口を開けて』

『は、はい!』

 

 ちょうど〝ランドマン・ロディ〟の脇腹部分にある燃料補給用の吸入口、その小型ハッチが開かれ、ちょうどソケットが入るだけの穴が顔を覗かせる。〝百里〟のマニピュレーターは繊細な手つきで燃料吸入口にガス補充用ホースを挿し込んだ。こういう時、モビルスーツは優秀な宇宙作業機器としてその性能を発揮する。

 俺も、〝ラーム〟のマニピュレーターでもう一つの補充用ホースを掴み、自機の燃料吸入口に挿し込んだ。重装甲で全速で飛んできたため燃料計表示は既に〝イエロー〟警告ゾーン近くまで減っていた。〝ガンダムラーム〟や〝ランドマン・ロディ〟など、重装甲機ばかり揃えた実働三番隊の弊害と言えばそうなる。

 

『カケルっ! 早くしないとあいつが………!』

「大丈夫だクレスト。後ろの敵艦が追い付くまでにはまだ時間がある。――――問題はデブリ帯に入ってからだ」

 

 

 やがてスラスターガスの補充も終わり、「行くぞ!」と俺は〝百里〟と〝ランドマン・ロディ〟を引き連れ、眼前のデブリ帯へと突入した。

 俺の予想通りなら、おそらくデブリ帯で敵の本隊が待ち構えているはず。おそらくデブリ帯に入った直後、速度を落とした所を包囲して撃破しようとするだろう。

 

 

「上手くやってくれよ………」

 

 

 必要な指示は飛ばしてあるが、後はどれだけ敵の意表を突けるかが状況打開のカギだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

「〝ネオ・ブルワーズ〟のブルック・カバヤンより通信。敵艦のデブリ帯への追い込み、成功したそうです」

 

 ハーフビーク級旗艦〝バルドル〟からの通信に、フォーリスはほくそ笑んだ。

 

「ふ―――そうでなくてはな。全艦ッ! 鶴翼陣形で展開せよ! 包囲し、敵艦の速度が落ちた所で集中砲火を浴びせるのだ!!」

 

 フォーリスは〝ガンダムアムドゥシアス〟を、戦況を見下ろせる手近な残骸に着地させた。フォーリス擁する戦力は、ハーフビーク級戦艦が3隻。モビルスーツ〝グレイズ〟が12機。さらには今、鉄華団をデブリ帯に追い込んでいるブルック・カバヤン率いる新生宇宙海賊〝ネオ・ブルワーズ〟の強襲装甲艦が1隻。モビルスーツが8機。

 

 

 戦艦4隻にモビルスーツ20機。厄祭戦時代の骨董モビルスーツしか持たない宇宙ネズミ相手には少々大人げない戦力だが―――相手はギャラルホルン精鋭の守りを破り地球へと到達した〝鉄華団〟だ。ステンジャ一族としても、当主争いでトップをひた走っていたオーリスやコーリスを失い、モーリスの隊も撃破されている。

 

 つまり、ここで鉄華団を討てばその名誉は全てフォーリスのもの。当主候補の筆頭格として地球に凱旋するのも夢ではないのだ。

 

 

『ステンジャ司令。奴らが来ました!』

「ああ。こちらのセンサーでも捉えた。―――砲撃用意ッ!」

 

 

 いくら艦が抜けられる航路があるとはいえ、デブリ帯を高速で通過することなど不可能だ。速度を落とした時、それが敵―――鉄華団の艦にとっての致命傷となる。

 すでに有視界内のズームされたモニター越しに敵を捉えた。周囲をモビルスーツが護衛し、背後にはコンテナ船。

後は、敵艦が前方スラスターを噴かしてノロノロとデブリ帯に差し掛かった所を―――――

 

 

『す、ステンジャ司令っ! 敵艦………速度を落としません! 高速で突入してきますっ!!』

「何だと?」

 

 

 唖然としたフォーリスの眼前で、鉄華団の青い強襲装甲艦、それに随伴するコンテナ船は最大船速でこちらへと突進してきた。予想外の事態に、フォーリスの反応はワンテンポ遅れてしまい、

 

「う、撃てッ!! 包囲を突破させるな!」

 

 号令の直後、三方向から包囲していた〝バルドル〟以下ハーフビーク級戦艦から砲火が放たれる。だが、高速で移動する艦相手に正確な側面射撃など望めるはずもなく、砲弾やミサイルは無意味に敵艦の周囲を薙ぎ、爆ぜるのみ。

 そのままの勢いで、敵艦はあろうことか針路を抑えていた〝バルドル〟へと真っ直ぐ突っ込んだ。

 

 

『て、敵艦接近―――――!』

『撃て! 敵を近づけるな! 左30度回頭っ!』

 

 砲火を浴びせながら〝バルドル〟が回頭する。だが敵艦は変針する素振りすら見せずに、ひたすら〝バルドル〟との衝突コースをひた走る。

 まさか特攻する気か――――? 疑念がよぎったのも束の間、次の瞬間、敵艦は速度そのままに艦体を横倒しし、〝バルドル〟のギリギリ真上を通過していった。コンテナ船もそれに続く。

 

 

 

 と、コンテナ船の上部甲板から、何やら大きな構造物がせり上がってくるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

〝ビッグガン〟。

 それは、カケルがテイワズから仕入れてきた、艦砲を遥かに超える大型砲台だ。細かい仕組みは………アストンにはよく分からなかったが、とにかく強襲装甲艦の主砲よりも威力が高いという。

 

 

「あれを撃つのかよ………」

 

 

 眼前に敵艦―――ギャラルホルンのハーフビーク級戦艦が迫る。アストンは掌に汗が滲むのを感じながら、操縦桿を握り直した。〝カガリビ〟と〝ローズリップ〟が無事、敵の包囲を突破できるかは自分の働きにかかっている。しくじればアストンを含めて、全員が死ぬ。失敗は許されない。

 

 今、アストンが乗る〝ランドマン・ロディ〟はタービンズのコンテナ船〝ローズリップ〟の上部甲板に立ち、その甲板に固定された巨砲〝ビッグガン〟のグリップを掴んで構えていた。〝ローズリップ〟は〝カガリビ〟を追うように高速でデブリ帯に突入しつつあり、細かいデブリがいくつもアストンの眼前を流れ、時に〝ローズリップ〟にぶつかって弾き飛ばされていく。

 

 それに、デブリ帯で待ち構えていたギャラルホルン艦隊からの砲撃。至近弾や艦体に直撃した砲弾が容赦なく2隻を揺さぶり、その度にアストンも激しい衝撃に耐えた。

 

「く………っ!」

『あと少しだ! 踏ん張りなッ!』

「は、はいっ………!!」

 

〝ローズリップ〟のキャンベラ船長からの叱咤に応え、アストンは歯を食いしばる。周囲を飛び回る護衛の〝ランドマン・ロディ〟隊も、この激しい砲撃に晒されているのだ。仲間にみっともない所は見せられない。

 

 アストンに与えられた役目。それは〝ビッグガン〟の砲手として〝ローズリップ〟がすれ違う敵戦艦に打撃を与えることだった。

 事前の説明によればこの〝ビッグガン〟という武器は、威力は桁外れに高いらしいが照準能力が低くまともに狙いも定められないらしい。だからこそギリギリまで敵艦に近づき、至近距離からこの砲を叩き込むのだ。

 

 

「〝ビッグガン〟準備よし。いつでも行けます!」

『あいよ! こっちの合図で撃ちな! あと5秒ッ!――――4、3、――――』

 

 敵の砲火を〝カガリビ〟と〝ローズリップ〟、それに周囲を飛び回る〝ランドマン・ロディ〟隊が突破する。

〝カガリビ〟が敵ハーフビーク級の上部スレスレの所をすれ違い、一瞬にして飛び去っていく。そう、タイミングはわずか一瞬。

 

 迫る敵戦艦からの砲撃に撃ち殴られる中、〝ローズリップ〟もまた〝カガリビ〟に続いて敵艦と肉薄した。ハーフビーク級の巨大な横腹が次の瞬間、アストンの視界全てを埋め尽くす。

 

 

『―――――撃てッ!』

 

 

 アストンがトリガーを絞った刹那、〝ビッグガン〟の砲口が火を噴いた。

 凄まじい威力――――艦砲など比べ物にならないその砲撃の軌跡は、すれ違ったハーフビーク級の艦尾をぶち抜き、威力をそのままにデブリ帯を貫いて延びる。

 

 

 飛び去った〝ローズリップ〟の背後で、敵ハーフビーク級が艦尾から炎上しながら漂流していくのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

『艦尾被弾ッ! 動力室に被害が――――』

『総員ノーマルスーツを着用しろ! ダメージコントロール! 被害区画からの退避急げ!』

『姿勢制御、維持できませんっ!』

『モビルスーツデッキに被害! 医療チームを………』

 

 

 艦尾から激しく炎上し、姿勢制御を保てずに漂流を始める〝バルドル〟。

 

 三方向からの包囲を悠々突破した敵艦は、さらに強襲装甲艦とは思えないアクロバティックな動きで岩塊の間を掻い潜ると、瞬く間にデブリ帯の奥へと飛び去っていってしまった………

 

 

「く、くく………っ! いいぞ………!」

 

 

 予想通り、歯ごたえのある敵だ。

〝獲物〟として、フォーリスを存分に愉しませてくれるに違いない。

 

 それにあの兵器―――レールガンと高硬度レアアロイ製弾頭を用いる違法兵器、通称〝ダインスレイブ〟を彷彿とさせる威力だ。

違法兵器と認定するためには弾頭に高硬度レアアロイが用いられているかが構成要件となるが、肝心の弾頭は発射と共にデブリに紛れ、最早明らかにする術も無い。それも織り込み済みでかの兵器を使ったのだろう。ギャラルホルンの圏外圏での宇宙海賊討伐作戦でもよく使われる手だ。

 

 

 全身を満たすように沸き上がる興奮に身を委ねたいが、〝バルドル〟の大破によってフォーリスの部隊は完全に浮き足立っていた。

 

 

「―――〝バルドル〟はエンジン系を最優先で修復して戦線を離脱、残りは海賊と一度合流し陣形を立て直せ! モビルスーツ隊は全機発進! 敵部隊を追撃しろッ! 私に続け!」

 

 かくも矢継ぎ早に指示を飛ばすとフォーリスは自らも〝アムドゥシアス〟を駆り、鉄華団が消えたデブリ帯の奥へ飛び込んだ。艦隊から発進した〝グレイズ〟隊もそれに続く。

 無数の岩塊、残骸で満たされたデブリ帯は、フォーリスにとって絶好の〝狩場〟だ。一瞬でも気を抜けば戦うまでもなく、周囲で荒れ狂うデブリに潰されて終わる。感覚を研ぎ澄まし、躍るようにデブリの間を駆け抜けながら――――フォーリスは敵艦を射程内に収めた。

 

 

 狙うのは、敵艦の針路上にある巨大なデブリ。

 フォーリスは〝アムドゥシアス〟の背部にマウントされた長大な砲――――エイハブ・リアクター直結の大出力ビームキャノンを跳ね上げ、腰だめに構えた。

 ナノラミネート装甲の実用化によって無用の長物と化し、戦後の技術の散逸と共に衰退したビーム兵器。だがこのデブリ帯においてはビーム兵器そのもののが有する、実弾兵器では成し得ない圧倒的な破壊力が凶器となる。

 

 

 

「さあ、宇宙ネズミたち―――――狩りの時間だ」

 

 

 

 狩りといえば野兎や鹿、熊など、仕留め甲斐のある美しさや高貴さすら併せ持つ動物が一般的だ。小汚い宇宙ネズミが相手では愉しみも半減だが、このような辺境で不満を言っても仕方がない。

 

 

【LCS――MICRO COCOON――CONECCTED】

【ALL SYSTEM RDY】

【TARGET ROCK ON】

 

 

 フォーリスがトリガーを引き絞った瞬間、凄まじいビームエネルギーが砲口から迸る。

それは鉄華団の強襲装甲艦……その眼前に浮かぶ巨大な岩塊を一瞬にして貫き、引き裂き、無数の破片を四方にまき散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

 カケルの指示に従い、背後から襲撃してきた敵部隊から逃れ、デブリ帯へと突入した〝カガリビ〟と〝ローズリップ〟。

 デブリ帯に入った直後に待ち構えていたのは――――ギャラルホルンの小艦隊。だがカケルの予測通りこちらが減速した所を包囲する陣形を取っており、正面を塞いでいたのはハーフビーク級1隻のみ。

 

 敵の混乱を突いて〝カガリビ〟と〝ローズリップ〟は敵の包囲を突破。肉薄した敵艦に〝ビッグガン〟の砲撃を叩き込み、敵が混乱しているうちに可能な限りの高速でデブリ帯の奥へと突き進んだのだが………

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

 刹那、〝カガリビ〟の眼前にあった巨大な岩塊が―――光の奔流にぶち抜かれ、吹き飛ばされた。無数の岩の破片が四方へと、〝カガリビ〟や〝ローズリップ〟目がけて撒き散らされる。1個1個が、モビルスーツ大にも匹敵する破片が、逃げる2隻の艦に襲いかかってきた。

 

「デブリが………っ!」

「回避するッ! しっかり掴まってろよ!!」

 

 艦長席の前に展開している操艦用ユニット。艦長席に座すチャドは阿頼耶識システムによって艦の操艦システムと神経を直接接続。感覚的に〝カガリビ〟をコントロールし通常の操艦ではありえない挙動で迫る岩塊を回避していった。

 

 だが、光の奔流は幾度となく〝カガリビ〟の遥か背後から撃ち放たれ、まるで行く手を阻むように周囲に浮かぶ岩塊を破壊。幾度となく破片を抉り散らす。

 大きな破片はともかく小さいものは到底回避しきれず、小さな岩塊や構造物の破片が艦体に激突する度、〝カガリビ〟は激しく揺さぶられる。

 

「ぐぅ………!」

「モビルスーツ隊は散開! 艦に近づくな! デブリに巻き込まれるぞ!!」

 

 チャドの指示を受けるが早いか、艦の周囲を護衛していた〝ランドマン・ロディ〟は素早く散開し、飛び散る無数のデブリを目まぐるしく飛び回りながら回避していった。鉄華団実働三番隊のモビルスーツ乗りは、アストン以下ブルワーズで、そしてデブリ帯で生き抜いてきた強者ばかりだ。デブリに巻き込まれて死ぬような奴はいない。

 

 艦体に襲いかかる凄まじい衝撃に耐えながら、ブリッジクルーの一人であるティオが「くそ……っ!」と小さく毒づいた。

 

「何なんだよあれ………!」

「ビーム兵器だ。厄祭戦時代の古い兵器で――――ナノラミネート装甲相手じゃ効果がないはずなんだが………」

 

 だが、ナノラミネート装甲に守られていないものなら、大抵の物体を破壊できる。技術情報に理解のあるチャドだからこそ、この兵器の本当の恐ろしさを理解できた。

 

 ビーム兵器は、ナノラミネート装甲によって守られた現代の艦船やモビルスーツ相手では効果は無い。だがそれ以外の物体ならあらかた破壊できる。間接的に周囲の物体―――小惑星やナノラミネート装甲ではない構造物の破片を引き裂き、押し出し、撒き散らして凶器へと変えるのだ。ビームや実弾に対する高い防御力を誇るナノラミネート装甲でも、大質量が相手では容易に圧し潰されてしまう。

 

 このデブリ帯は――――ナノラミネート装甲の実用化によって無用の長物と化したはずのビーム兵器が、その機能を最大限発揮できる場なのだ。

 

 

 悪い事態はこれだけに留まらなかった。

 

 

「――――敵モビルスーツが接近! 1機を先頭に、およそ10機!」

「っ! アストンたちを迎撃に向かわせるんだ!」

 

 身動きが取れず、さらに背後からは敵モビルスーツ部隊。おそらくギャラルホルンの〝グレイズ〟だ。機体性能では向こうの方が遥かに勝る。

 追いつめられていく。その焦燥に押しつぶされまいと、チャドは鋭く前を見やった。

 

 

「すぐにカケルも戻ってくる! それまで無理せず持ちこたえるんだ!」

『了解!!』

 

 アストン率いる〝ランドマン・ロディ〟隊が、迫る敵モビルスーツの光輝目がけて突っ込んでいく。やがて戦端が開かれ、激しい銃火の軌跡と火球がデブリ帯の片隅を眩く彩った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

『このォッ!! 数ばかりゴチャゴチャと!』

 

 近づいてくる10機以上の敵モビルスーツ―――〝グレイズ〟の一隊に対して、〝ランドマン・ロディ〟隊のマシンガンの銃火が殺到した。〝グレイズ〟1機が射線に捉えられて被弾。よろめいて回避機動を取ろうとした所にビトー機がハンマーチョッパーを叩き込んだ。そして仕上げとばかりに至近距離からマシンガンを撃ちまくり、胸部を破壊された〝グレイズ〟を蹴飛ばす。

 

 それを取り囲もうとした〝グレイズ〟目がけて撃ちかけながら、アストンは、

 

「ビトー! 1機で深追いするなッ! 囲まれるぞ!」

『けどこのままじゃ!』

「命令は艦の護衛だろ!? とにかく近づけさせないで突出してきた奴を集中的に叩くんだ!」

 

 了解! とペドロの〝ランドマン・ロディ〟がビトー機を掴んで引き下がり、アストンは僚機を率いて〝グレイズ〟目がけ撃ちまくった。敵機も高威力のライフルで応戦してくるが、おそらくデブリ戦は不慣れなのだろう、飛び交うデブリ間のタイミングを掴めていない。敵機の弾は悉く周囲にデブリに撃ち込まれて阻まれていた。

 

 

「相手はデブリ戦に慣れてない………? それなら!」

 

 

 援護頼む! と背後の2機に通信を飛ばし、アストンはこちらに近づきつつある1機の〝グレイズ〟に迫った。

 狙われた〝グレイズ〟は当然、アストン目がけてライフルを撃ち放ってくる。が、アストンは周囲で飛び交うデブリを利用して巧みに被弾を回避しつつ―――僚機からの援護射撃で〝グレイズ〟が怯んだ所を、タックルを食らわせて背後の小惑星に叩き付ける。

 

 弱々しく敵機が起き上がろうとした時には、アストンの〝ランドマン・ロディ〟がハンマーチョッパーを高々と振り上げて、〝グレイズ〟の胸部コックピットを違わず叩き潰していた。

 

 

『アストン!!』

「デブリ帯なら俺たちの方が慣れてる! 1機1機確実に潰せば………っ!?」

 

 

 その時だった。

 センサーでも捉えられない遠距離から、突如として凄まじい光が奔り、デブリ帯を真っ直ぐ貫いた。

 

『な………っ!』

『これって! さっきの――――!?』

 

 光が迸った先………〝カガリビ〟や〝ローズリップ〟の行く手を阻んでいた巨大な岩塊が引き裂かれて割れ、無数の破片と化して傍らを進んでいた2隻に襲いかかった。〝ローズリップ〟の回避が間に合わず、〝カガリビ〟がそれを庇うように針路を変えて、迫る巨大なデブリの塊が真正面から直撃する。

 

『〝カガリビ〟が!』

『くそぉっ! このままじゃ………』

「く………! 何とかこいつらを突破して………」

 

 さらにもう1機の〝グレイズ〟目がけてアストンは飛びかかったが、次の瞬間には他の敵機の集中射撃を浴び、やむなく他のデブリの陰に逃げ込まざるを得なくなる。敵は、完全に〝ランドマン・ロディ〟隊を釘付けにするつもりだ。

 

「ダメだ。敵の包囲が厚すぎて………」

『こんのォッ!!』

「! ダメだビトーっ! 1機だけじゃ………」

 

 膠着した状況に業を煮やしたビトーの〝ランドマン・ロディ〟が、マシンガンを撃ちまくりながら〝グレイズ〟隊へと突っ込む。

 だが、敵は素早く散開して、逆に多方向からビトー機をライフルで袋叩きにしてきた。デブリに慣れていないとはいえ、練度は高い。

 

 すかさずアストンが助けに割って入ろうとするが、さらに数機の〝グレイズ〟が脇から現れ、そちらへの回避と応戦に追われてしまう。ペドロも他の機体もそれぞれに攻撃を食らって連携が取れていない。完全に敵側のペースに乗せられてしまっていた。

 

 それにスラスターガスの残量も危険域だ。すぐにでも補給しないと動けなくなる。

 

 

『ちくしょ………こんな所でっ!』

 

 

 封じ込められてしまったビトーの〝ランドマン・ロディ〟。その傍らを2機の〝グレイズ〟がすり抜け、真っ直ぐ〝カガリビ〟がいる方角へと向かっていった。

 まずい………! アストンの背に冷たいものが走った。今、こちらの守りを突破されたら〝カガリビ〟まで阻むものは何も無い。

 

 

『しまった! 2機に抜けられたっ!?』

『誰か行ってくれ! ここは俺が………うぐっ!』

 

 巧妙に包囲されてしまった現状では………囲みを突破して追撃できる機体は無い。

〝カガリビ〟に迫った敵モビルスーツがライフルやバズーカで激しく艦に撃ち浴びせ始め―――――

 

 

 

 だが次の瞬間、その〝グレイズ〟の1機はどこからか降り注いだ射撃をもろに浴びて、機体各部を撃ち破られて沈黙した。

 

 

 

「………!」

 

 そしてもう1機の〝グレイズ〟がセンサーを露出展開させながら上を見上げた刹那、避ける間もなく肉薄してきた1機のモビルスーツ―――それが振るった大振りの刃をもろに食らって頭部と胸部を潰される。さらにはこちらを包囲していた〝グレイズ〟隊にも激しく、腰だめに構えた巨大なガトリングキャノンを撃ち放って統制を乱す。

 

 唐突な乱入者―――クレストを回収して戻ってきたカケルの〝ラーム〟を見、アストンは形勢がようやく逆転したことを悟った。

 

 

『態勢を立て直せ! 援護する』

 

 

 カケルからの指示が通信ウィンドウ越しに飛んでくる。「はい!」と素早く返事し、アストンら5機の〝ランドマン・ロディ〟は、煙を吐きながら流れていく大破した〝グレイズ〟を横目に母艦の方角へと下がった。追撃のために〝グレイズ〟が迫るが、〝ラーム〟のガトリングキャノンを浴び、損傷して離脱していく。アストンたちに代わるように、カケルの〝ラーム〟が前に進み出た。

 

 

「カケルさんっ! 敵に1機おかしい奴が………」

 

 

 謎の光を長距離から放つ敵機。アストンはそれをカケルに伝えようとしたのだが………

 その時、遥かデブリの陰からまた、一筋の太い光条が撃ち放たれた。デブリ帯を貫くように走ったその光は、先程同様に浮かぶ岩塊を切り裂き、破片の雨を〝カガリビ〟や〝ローズリップ〟に浴びせかける。コンテナ船を庇うように飛ぶ〝カガリビ〟は、特に被害を受け持つことで艦体各所に手酷いダメージを負いつつあった。

 

 

『ビーム兵器か。まさかこんな所で………アストン! まだ戦えるか?』

「ガスの残量が………5分ぐらいなら!」

 

 十分だ! と〝ラーム〟がメインスラスターを噴き上げながら飛び出し、光が撃ち出された方向目がけて消えていく。

 その動きに気付いた〝グレイズ〟の数機がすかさず振り返って〝ラーム〟へ銃口を向けようとするが、

 

『させるかよっ!』

「カケルさんを撃たせるな!」

 

 態勢を立て直し、密集陣形を取ったアストンら〝ランドマン・ロディ〟がマシンガンを撃ちまくりながら敵機へと迫った。ビトーが咆えながら1機の〝グレイズ〟へと突っ込み、アストンはマシンガンで援護に回る。

アストンの射撃で動きを封じられた〝グレイズ〟は、ビトー機の突貫を抑えきれずに、〝ランドマン・ロディ〟のハンマーチョッパーで殴り潰された。

 

 

 

 そしてその数秒後、遥か遠くでいくつもの閃光や爆発の火球が小さく上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

「そろそろ追いかけっこもフィナーレにしようかね?」

 

 予想外に宇宙ネズミ共の集団―――鉄華団のモビルスーツ隊が粘る。自軍…ギャラルホルンのモビルスーツ隊は既に5機が撃破され、このままでは〝アムドゥシアス〟が陣取っているこの場所も危うい。

 鉄華団の強襲装甲艦、それに随伴するコンテナ船は、フォーリスによる攻撃でダメージを蓄積させつつあった。トドメにもう一撃―――岩塊の一つでもぶつけてやれば、航行不能に陥るだろう。その後ならコンテナ船を調理するのは簡単だ。

 

 

 デブリ帯全体に張り巡らせてある小型LCSユニット……通称〝マイクロコクーン〟により、この遠距離、それもデブリ帯にあっても敵艦の位置は正確に把握できている。それに敵艦近くに存在する大型デブリの座標も。

 フォーリスは〝アムドゥシアス〟の主砲…エイハブ・リアクター直結のビームキャノンを腰だめに構えた。敵の強襲装甲艦は損傷し、先程とは違い思ったように機動できない様子。致命傷を与えるなら今が好機だ。

 

 

【LCS――MICRO COCOON――CONECCTED】

【ALL SYSTEM RDY】

 

 

 母艦を沈めた後は敵モビルスーツを討つ。敵機の中にはブルック・カバヤン子飼いのヒューマンデブリ兵だった者がいるらしく、多少デブリを散らした所で悠々回避されるのがオチだろうが――――厄祭戦時代のロディ・フレームを重装甲化した敵機は、おそらくスラスターガスの消耗も早い。母艦を沈めて補給を断ってしまえば、長期戦でじわじわ弱らせて倒せばいい。

 

 

【TARGET ROCK ON】

 

 

 

「さらばだ、ドブネズミ諸君」

 

 ほくそ笑んだフォーリスは力強くトリガーを引き絞る。

〝アムドゥシアス〟の巨砲から、次の瞬間強烈な光の奔流が迸った。厄祭戦時代に猛威を振るった、全てを焼き尽くす死の光。それは鉄華団の強襲装甲艦、その上方にある岩塊へと殺到し―――――

 

 

 だが光条はその軌跡の半ばで、どこからか飛び込んできた何かに遮られた。

 

 

ビーム兵器を無効化するナノラミネート装甲によって〝アムドゥシアス〟から撃ち放たれたビームは四方に散乱し、うち幾つかに分かれた細い光線が目標として定めていた岩塊に直撃するが―――それはわずかにその表面を切り裂くのみに終わる。

 

 

「ち………無粋なことをしてくれる」

 

 

 忌々しげにフォーリスは舌打ちし、折角の舞台に水を差した青いモビルスーツを睨んだ。

 センサーは【ASW-G-40】【GUNDAM RALM】と、敵の反応を表示している。鉄華団が所有するガンダムフレームの1機だ。重装甲で覆われた巨体、それに不釣り合いな猛速で〝ガンダムラーム〟は〝アムドゥシアス〟へと飛びかかってくる。

 

――――いかんな。

 

 振り下ろされる巨大なブレード。素早く回避しつつフォーリスはバトルアックスを抜き放って、続く一撃を辛うじて受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

 まさかビーム兵器を使うモビルスーツ―――それもガンダムフレームが出てくるとは。

 それに中身のパイロットは、思いのほか手練れらしい。阿頼耶識使い特有の直感的な動きは見受けられないが、全ての挙動が鋭く、そして正確だ。

〝ラーム〟のコンバットブレードと敵機……【ASW-G-67】【GUNDAM AMDUSIAS】のバトルアックスが激しく激突し火花を散らす。その衝撃の中で俺は前面モニターいっぱいに広がる敵ガンダムフレーム〝アムドゥシアス〟の頭部ツイン・アイを睨みつけた。

 

 

『―――――お前が、子供たちの指揮をしているのかね?』

 

 

 嘲弄するような猫なで声が、通信越しに飛び込んできた。〝アムドゥシアス〟からだ。

 さらには接触回線によって通信ウィンドウまで開かれて、敵機のコックピット………そこに乗る者の顔がありありと映し出された。

 

 表示された敵パイロットの顔立ちに、思わず俺は息を呑む。

 

 

「オーリス・ステンジャ――――?」

『ほう。甥のオーリスを知っているのかね。嬉しいよ。私の名はフォーリス・ステンジャ。栄光あるステンジャ家の中では傍系もいいとこだが………君の首を取れば私の地位は一変するッ!!』

 

 

 出力が同格な2機のガンダムフレームによる激しい鍔迫り合い。

 フォーリスなる男が操る〝アムドゥシアス〟は、次の瞬間素早く身を引いて、再びバトルアックスの刃を〝ラーム〟目がけて叩き込んできた。

 俺はすかさずコンバットブレードを振り上げ、再び刃と刃が激しくぶつかり合う。

 

 

『――――素晴らしい! 君のような好敵手を待っていた!』

「………!?」

『ギャラルホルンの仕事は退屈だよ。強大な力を持つが故に逆らう者もなく、延々と続く安穏を享受し続けなければならない。―――それが私のような人間にはどれだけの苦痛かッ!!』

 

 

 ギリギリ………とバトルアックスや機体各所が悲鳴を上げるのも構わず、〝アムドゥシアス〟は狂ったように、あらん限りのパワーで踏み込んでくる。

―――俺は、ガトリングキャノンを保持するためのサブアームを起動した。

 

 

『は、はは……ひひ………君の流す血が………子供たちの流す血が私を潤すのを感じるよ!! 君を殺し、哀れな子供たちを血祭りに上げて――――あの男の目指す世界に付き従えば私はさらに殺して、殺して、殺しまくって私自身を満たすことができるッ! 美しい世界の扉が………』

 

「―――――ほざけッ!!」

 

 

 途方もない戯言を吐き続けるフォーリス目がけ、俺は〝アムドゥシアス〟のアックスを受け止めながら、保持用のサブアームでガトリングキャノンを構えた。

 狙いを定めるまでもない。引き金を引く。

 

〝アムドゥシアス〟の動きはあまりにも敏速だった。確実に眼前で敵機を捉えたはずなのに、ガトリングキャノンの砲口が火を噴いた次の瞬間には全スラスターを噴き上げながら〝アムドゥシアス〟が飛び上がる。

射線は、辛うじて胴体部の片隅と片脚を捉えるだけに終わり、被弾部から煙を噴き出しながら敵はデブリ帯に紛れるように離脱―――――

 

 

「逃がすかッ!!」

 

 俺はトリガーを引き絞り続け、舐めるようなガトリング弾の弾幕が〝アムドゥシアス〟へと殺到した。目まぐるしい挙動で回避し続ける敵機だが、次第に絞られていく射線に捉えられて、遂に弾幕をまともに浴びて後ろに吹き飛ばされる。だが、流石にガンダムフレームだ。硬い。

 

 

『カケルッ!!』

 

 

 新たなエイハブ・ウェーブ………味方機の反応だ。

 フェニーが操る〝百里〟が、〝ラーム〟の横をすり抜けて〝アムドゥシアス〟目がけ飛び駆け――――さらには敵機の傍らをすれ違って一瞬で飛び去っていった。

 その軌跡に、うっすらと残るガス状の「何か」をまき散らしながら。

 

『今よ! 撃って!!』

 

 フェニーからの通信で、俺は意味を悟った。

 再度ガトリングキャノンを撃ち放つ。狙いは定めず、ガトリング弾は〝アムドゥシアス〟周囲の岩塊や残骸に直撃して―――――火花を散らす。

 

 刹那、その火花は〝百里〟が補給用ユニットから撒いたスラスターガスに引火。〝百里〟が駆けた軌跡に沿うように大爆発が起こった。

 その爆発は瞬く間に途上にあった〝アムドゥシアス〟をも炎で飲み込み………

 

「………今だッ!!」

 

 敵機が引火したスラスターガスの爆発に飲まれた瞬間、俺は〝ラーム〟を突進させた。

 視界全体を舐めるような凄まじい爆発の炎。だがその見た目に比べて威力は大したことはない。ナノラミネート装甲で守られたモビルスーツ相手では、せいぜい目くらましがいい所だ。

 

 だが、飲み込んできた爆炎から逃れ、体勢を立て直した〝アムドゥシアス〟が見せた数秒の隙。それは、〝ラーム〟が懐に飛び込むのに十分すぎる時間だった。

 

『―――――ッ!?』

「うおおおおおォォォォ―――――ッ!!!」

 

 反応が遅れた〝アムドゥシアス〟目がけ、俺は突進した勢いそのままにコンバットブレードをその胸部――――わずかに退かれてしまい、右腕の付け根部分に刃が深々と吸い込まれた。

 構わず、さらにスラスターバーニアを全開に咆えさせて、背後の巨大な大岩へと〝アムドゥシアス〟を背部から激突させる。

 その衝撃で〝ラーム〟も大きく衝撃に揺さぶられたが、俺は〝ラーム〟のガトリングキャノンを、敵の眼前に突きつけた。

 

「これで………ッ!」

『おのれッ!』

 

 だが次の瞬間〝アムドゥシアス〟は大岩ごと縫い付けられた右腕をパージし、その目の前に突きつけていたガトリングキャノンは空しく岩肌を抉り飛ばすのみに終わった。

 逃れた〝アムドゥシアス〟は片腕を失った他すでに満身創痍で、失った右腕に保持していたビームキャノン、それにバトルアックスをも失い、最早〝ラーム〟を倒すだけの力を持っていなかった。

 

 

 青と赤の信号弾が〝アムドゥシアス〟から撃ち出されて、宇宙空間の片隅をしばし彩った。

 駆けつけた〝ランドマン・ロディ〟と交戦していた〝グレイズ〟が、見る間に翻って撤退していく。

 

 

『逃がすかよっ!』

「待てビトー。俺たちも撤退だ」

 

 俺たちの母艦〝カガリビ〟は、特に右舷の損害が酷く、メインエンジンノズルの噴き出しも弱々しい。どこかに落ち着いて修理しなければデブリ帯を脱出することすらままならないだろう。〝ローズリップ〟の方は比較的損害は少ないように見えるのが幸いだった。

 

 モビルスーツ……〝ランドマン・ロディ〟も傷ついた機体が多い。〝ラーム〟に付き従うように、ヨロヨロと母艦を目指して飛ぶ。

 と、『カケル!』とフェニーから通信が飛び込んできた。

 

 

『大丈夫!?』

「ああ。それよりすぐに艦とモビルスーツの修理・補給を。しばらくは大丈夫だろうが――――あいつらはまた攻撃してくる」

 

 ギャラルホルンの戦艦では立ち入ることができないデブリ帯の奥。そこに入ってしまえばしばらくは時間稼ぎができる。………それに、この状況を一気に打開できるかもしれない〝切り札〟も、運がよければ。

 

 

 脳に埋め込まれた情報チップに再度アクセス。このデブリ帯に関する情報を呼び出す。

 

 このデブリ帯の奥―――中心部にあるのは厄祭戦時代に破壊され、放棄されたスペースコロニーだ。すでに居住不可能な状態になっているもののエイハブ・リアクターは稼働しているらしく、リアクターが発する重力に引き寄せられるように、周囲には無数のデブリ……小惑星や難破船、モビルスーツや構造物の残骸、破片が集まり漂っている。

 

 何とかコロニーに辿り着くことができれば………

 

 

「モビルスーツで針路を開く! ガスに余裕のある機体はついて来い!」

『はいっ!!』

 

 

 2機の〝ランドマン・ロディ〟を引き連れ、俺はデブリ帯の奥を目指して〝ラーム〟を駆った。

 

 




すいませんが少し長めの話になるので、次話以降については執筆中になります。
出来上がり次第更新、もしくは活動報告で更新日時をお知らせしたいと思いますm(_)m

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