鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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6-5.

▽△▽―――――▽△▽

 

【MAIN ARMOR PURGE】

【RAMPAGE ARMOR】

 

 砲火が殺到した瞬間、俺は〝ラーム〟を重装甲の枷から解き放つ。

 

 二重装甲を離脱させることによって現れる―――――〝ラームランペイジ〟。パージした二重装甲を迫りくる砲火の盾に、俺は一気に機体を上方へと飛び上がらせた。

 

 一拍遅れて、包囲していた敵モビルスーツ…〝ジルダ〟隊からの銃火が細く這い上ってくる。だがその一発すら、阿頼耶識システムによる直感的な操縦と従来モビルスーツではあり得ない高機動性を実現した〝ラームランペイジ〟を捉えること叶わない。

 

 次の瞬間、ほとんど一瞬にして舞い降りた〝ラームランペイジ〟が繰り出すコンバットブレードの斬撃。避ける間もなく〝ジルダ〟が1機、無残に頭部を斬り潰された。

 迫る銃火に、撃破した〝ジルダ〟を身代わりにしつつさらに急追。1機、また1機と宇宙海賊の〝ジルダ〟を裂き、潰し、ソードクラブを構えて迫ってきた機体には、コンバットブレードを振り下ろしてその武装を潰し、踵落としの要領で頭部を蹴り潰した。

 

 逃げ出そうとした最後の〝ジルダ〟には、コンバットブレードを突き出して岩塊に縫い潰す。

俺は残る敵――――後方に陣取っていたギャラルホルンの艦隊へと向き直った。

 

 

「………!」

 

 

〝ラームランペイジ〟目がけて砲撃、それにミサイルが迫ってくる。

 俺は、すぐに回避機動に移りつつ機体背部にマウントしてあったガトリングキャノンを構え、トリガーを引き絞った。

 ガトリングキャノンの砲口から、毎秒数十発に至るガトリング弾の奔流が吐き出され、〝ラームランペイジ〟前方を舐めるような射線が描かれる。

 刹那、弾幕を浴びた敵からのミサイルが次々と撃ち落とされ、激しい火球で俺の眼前を彩った。

 

 

【CAUTION!】

【ASW-G-67】

 

 

「く………っ!」

 

 迎撃のために〝ラームランペイジ〟が動きを止めた所を、敵モビルスーツ隊が襲いかかってきた。ギャラルホルンの〝グレイズ〟隊6機の先頭を飛ぶのは、ギャラルホルンのガンダムフレーム〝アムドゥシアス〟。

 

〝アムドゥシアス〟が構えるビームキャノンから光の激流が次々解き放たれ、俺は機体を宙返りさせて寸前の所でそれをかわし切る。

 お返しとばかりに撃ち出したガトリングキャノンの砲弾は――――〝アムドゥシアス〟の鋭い回避によって、つい数刻前までいた地点を撃ち払うのみに終わった。

 

 

『フ………なかなか面白い敵だよ、君は!』

 

 

 ビームを激しく撃ちかけながら〝アムドゥシアス〟が迫る。振り上げられるバトルアックスを、俺は〝ラームランペイジ〟のコンバットブレードで受け止めた。

 幾度となく斬り結ばれ、刃同士が衝突する度に火花と閃光が飛び散る。

 

 そんな中――――コックピットモニター映像の端で、〝グレイズ〟隊とハーフビーク級2隻が針路を変えたのが見えた。

 その先にいるのは、〝カガリビ〟と〝ローズリップ〟。

 

 

「行かせるかよ………っ!」

『困るね君ィ! ダンスの相手はこの私だよ!?』

 

 

〝アムドゥシアス〟が猛追し、再びバトルアックスを勢いよく振りかざしてくる。それを受け止め、力任せに振り払うが、なおも激しく刃を打ち込まれ続ける。

 この男………相当に強い。

 いくらアストンたちが手練れだからといって、厄祭戦時代の量産機でしかない〝ランドマン・ロディ〟でこいつの相手をするのは不可能だ。俺がやられたら、おそらくその時点で実働三番隊の全滅は確実だ。

 

 だが、こいつさえ落とせば後は大した連中じゃない。

 

 

「分かった………俺が相手して殺る」

 

 

 それ以外の一切の雑念を強引に振り払い、俺は〝ラームランペイジ〟のガトリングキャノンを〝アムドゥシアス〟目がけて乱射し、次いで突進してコンバットブレードの先端を突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 それに………もう間もなくだ、

 モニターの右下に【00:10】の数字が表示され、眼前で繰り広げられる激闘に反して淡々とカウントし始めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

 後方で幾度となく戦闘の光や火線、それに火球が昇る。

 

〝カガリビ〟と〝ローズリップ〟は可能な限りの全速で、デブリ帯の外目がけて前進を続けていた。〝ランドマン・ロディ〟隊がその直掩のために周囲に展開する。

 

「――――敵モビルスーツ! それに敵艦2、接近中!」

 

 その報告の瞬間、〝カガリビ〟のブリッジに緊張が走った。メインスクリーンに表示される敵艦の位置はまだ遠い。それにチャドが阿頼耶識システムによって直感的に操艦することによりデブリの間を縫うように飛ぶこちらと違って、ハーフビーク級がこちらを追尾するのは困難を極めるだろう。

 

 だが、敵モビルスーツ隊は着々と、こちらへの距離を詰めつつあった。

 

『くそ………俺が引き付けるッ! 皆はこのまま………!』

『ダメだビトー! カケルさんからの命令だろ! 〝仕掛け〟が作動する前に少しでも遠くに逃げないと………!』

『でも!』

 

「アストンの言う通りだ。今は艦から離れるなよ。〝仕掛け〟が発動して混乱した隙に、反転して敵を撃破するんだ」

 

 チャドが通信越しに〝ランドマン・ロディ〟隊に呼びかける。ビトーは『りょ、了解……』と大人しく引き下がり、他の機体も陣形を乱すことなく〝カガリビ〟に続いた。

 そして、

 

 

「予定時間まであと10秒です! 9、8………」

 

 

 メインスクリーンで、カウントがゼロ目がけて刻まれていく。ブリッジにいる団員たちの誰もが息を呑んで、その表示を見守っていた。

 これが成功すれば、数的に圧倒的不利な現状を一気に挽回できる。だが、もし上手くいかなかったら………

 

 

 

 

 カウントが【00:00】を示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

 デブリ帯の中核――――ほとんど骨組みと一部の構造物しか残っていないスペースコロニー。

 その動力区画にて、300年近く活動を停止していたコンソール端末の一部が、起動した。

 

 

【WARNING!】

【AHAB REACTOR ACS(AUTO CONTROL SYSTEM) - OFFLINE】

 

 

 プリセットされていたタイマーが起動し、自動制御システム、それに安全装置が停止。安全制御の枷を外された大型エイハブ・リアクターが、その出力を急上昇させていく。

 

 

――――エイハブ粒子生成 最大出力。

――――重力制御システム 安全機構オフライン

 

 

 疑似重力制御システムが異常値に警報を発するが、安全機構を止められたエイハブ・リアクターは止まることなく、リアクター出力を上昇させ続けた。

 瞬く間に動力区画は、異常数値にまで稼働させられたエイハブ・リアクターが発する数百度もの高熱に晒され、未だ稼働していたコンソール、精密機器類が次々とスパークし、火花を散らし、溶け、破壊されていく。

 

 

 その混沌の中で生成された莫大なエイハブ粒子はコロニー外へと拡散していき――――――厄祭戦後、デブリ帯を形成・維持し続けてきた重力の微妙な均衡を、一瞬にして押し流した。

 

 

 

 

 

 

 デブリ帯が、揺れた。

 重力制御されたモビルスーツのコックピットに座していても全身に感じる、海の波のような感触。

 スペースコロニーの残骸から発せられるその奇妙な〝波〟は、モビルスーツのみならず、それまで安定した重力下で浮遊し続けていた岩塊や構造物の残骸を、揺り動かし始めた。

 

 巨大な岩塊が互いを引き寄せ合い、ゆっくりと激突して激しく破片をまき散らす。

 難破船や残骸がゆるやかにぶつかり合い、波に押されるかのように動き始める。

 

 そしてその勢いは徐々に速く、そして強さも次第に増していく。

 

 まるで、デブリ帯を突如として襲った〝嵐〟のように。

 

 それまでのエイハブ粒子による安定した重力場を押し流されたデブリ帯は――――デブリ同士が激しくぶつかり合い、破片をまき散らしさらにデブリの濃さを増していく混沌へと、その姿を変えていった。

 

 そして、スペースコロニー周囲に形成された濃密なエイハブ粒子による疑似重力場目がけて、何もかもがゆっくりと、しかし確実に引き寄せられていく。

 

 

『何と………!』

 

 

〝アムドゥシアス〟が押し寄せるデブリ群を回避しつつ、離脱していく。俺も〝ラームランペイジ〟を駆り、飛び交う大小のデブリを避けつつ、周囲の光景を見回した。

 スペースコロニーのエイハブ・リアクターをオーバーロードさせ、莫大なエイハブ粒子を生成・周囲に拡散することによってデブリ帯の重力の均衡を打ち崩す。デブリ帯は瞬く間に混沌の坩堝へと姿を変えるだろう。

 

 

 エイハブ・ウェーブによって引き起こされた、一種の〝デブリ嵐〟。

 

 

 最初、このデブリ帯について知った時、俺の中で最も印象に残ったのはこのデブリ帯がスペースコロニーの残骸が有しているエイハブ・リアクターの疑似重力によって形成されているということだった。

 つまり………デブリ帯の核となるスペースコロニーのエイハブ・リアクターに異常が発生した場合、微妙な均衡によって保たれているデブリ帯はどのように変容するのか、そしてその内部に取り残されている者は一体どうなるのか………?

 

 

 効果は絶大だった。

 

 

 スペースコロニーへと引かれていく巨大なデブリが〝カガリビ〟〝ローズリップ〟の追撃コースに乗っていたハーフビーク級2隻へと〝落下〟してくる。

 2隻は直ちに針路を変えて、あらゆるスラスターを噴かし上げてその場から逃れようとするが―――――もう間に合わない。

 

 次の瞬間、目の前に押し寄せてきた巨大な岩塊とハーフビーク級1隻の艦首が激突。さらに追随していた2隻目も巻き添えを食らって、ナノラミネート装甲製の頑強な艦体はより巨大な質量との激突によってひしゃげ、潰れ、最終的に原作アニメの絵面通りに爆散していった。

 

〝ラームランペイジ〟のコックピットからも、その光景がよく見える。これで、ギャラルホルンは帰還する艦を失った。

 1隻、戦線離脱したハーフビーク級がいるようだが、彼らが合流し戦力を再編する頃には俺たちは宇宙航路の遥か彼方だ。

 

 戦略的に勝敗は決した。

 

 後は―――――――

 

 

「頭を潰せば………それで終わりだッ!!」

 

 

 このふざけた男を倒せば、この戦いは終わる。

 終わらせる。

 

 周囲は、安定した重力場の崩壊によって荒れ狂うデブリの嵐の中。

 飛び交う無数のデブリを目まぐるしく機体を操ってかわしつつ、細かいデブリの渦に巻き込まれて動きが鈍った〝アムドゥシアス〟目がけ、コンバットブレードを振り下ろし一気に飛びかかった。

 

 

 指揮官であるこの男を討って、戦いを終わらせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

『うわ、すっげ………』

『デブリ帯が………』

 

 その光景は、デブリ帯の中核部から脱出した〝カガリビ〟〝ローズリップ〟、それに護衛の〝ランドマン・ロディ〟のコックピットからもよく見ることができた。

巨大なデブリが引き寄せ合い、激突し合ってさらに凄まじい破壊が引き起こされる。あの中に閉じ込められたら、戦艦やモビルスーツと言えどひとたまりもないはず。………そしてあの中に、ギャラルホルンや宇宙海賊の艦隊が囮に引っかかって取り残されている。

 

 

 カケルも。

 

 

 最初にカケルの名を呟いたのはクレストだった。

 

「………カケルは?」

『え?』

「まだ〝ラーム〟の反応が無い。あそこに、残ってるんだ………!」

 

 出撃前にカケルに聞かされた作戦―――――カケルが〝ビッグガン〟で敵を引き付けつつ〝カガリビ〟と〝ローズリップ〟は脱出。その後、コロニーのエイハブ・リアクターを暴走させ、デブリ帯を崩落させてギャラルホルンの艦隊を叩き潰す。頃合いを見計らってカケルも脱出して〝カガリビ〟に合流する。

 

 だが、何度センサー表示ウィンドウを見直しても、〝ランドマン・ロディ〟以外のモビルスーツの反応は浮き出てこなかった。

 クレストら〝ランドマン・ロディ〟隊は艦の護衛を命令された。むやみに前に出ず、敵部隊から母艦や〝ローズリップ〟を守り切れ、と。それに、荒れ狂うデブリ帯には近寄るな、とも。

 

〝ランドマン・ロディ〟隊6機は今、〝ローズリップ〟の後方辺りで陣形を保ちつつ、艦の移動に合わせて動いていた。敵が来るとしたら後ろから。なら、前もって陣形を作って網を張っていた方がいい。

 だが1分、また1分と無為に時間とスラスターガスだけが費やされていく。

 

 待つ、ということにこれほど息苦しさを感じるのは初めてだった。クレストにとっても、他の仲間にとっても。

 特にビトーは『もう我慢できねえよ!』と乗機のメインスラスターを噴かし激情に身を任せて飛び出そうとしたが、

 

 

『ダメだビトー! 艦を護衛しろって命令だろ!?』

『でもよアストン! このままじゃカケルが………!』

 

「おれも、行きたい。カケル、助けないと」

 

 

 普段、仲間うちの中では無口…ペドロ同様に内気なクレストがこうして意見を言うのは珍しい。だが、クレストはカケルのことを人一倍慕っていたし、カケルも、何かとこの弟分のことを気にかけているのをアストン達は知っていた。身寄りの無いアストンらを昭弘が拾ってくれたように、カケルもクレストを引き取ろうと名乗りを上げてくれたのだ。

 

 その場にいた〝ランドマン・ロディ〟乗りの誰もが、艦の移動方向に機体を流しつつ黙りこくるしかなかった。助けに行きたい、という気持ちは当然誰もが同じ。しかしそうすればカケルの命令に反することになる。あれほど荒れ狂うデブリの嵐では、いかにデブリ帯で鍛え上げられてきたヒューマンデブリのパイロットといえど無事では済まない………。

 

 

読み書きも満足にできないヒューマンデブリの頭では妙案などでるはずもなく、また無駄な時間が流れ―――――

 

 

 だがその時だった。

 

 

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【CAUTION!】

 

【EB-06】

【EB-06】

【EB-06】

【EB-06】

【EB-06】

 

--------------------------------------

 

 

「! 敵だ!」

 

 デブリの間を縫いながら――――5機の〝グレイズ〟が荒れ狂うデブリの嵐から這い出るように飛び出してきた。片腕を失った機体が1機、頭部が損傷しセンサーが露出している状態の機体が1機。

 だが、その状態下にあっても、敵は明確な意思を持って〝ランドマン・ロディ〟隊へと襲いかかろうとしていた。鉄華団を叩き潰す、と。

 

 

〝ランドマン・ロディ〟各機はマシンガン、それにハンマーチョッパーを握り構えた。

 

 

『こいつら………』

『性能じゃ向こうがずっと上なんだ! いつものように落ち着いて連携して仕留めるぞ!―――――クレストはカケルさんの所へ!』

 

 え? と思わずクレストは、アストンからの命令に自分の耳を疑った。

 

「で、でもカケルは………!」

『敵モビルスーツが生きてるなんて作戦に無かっただろ!? カケルさんに報告して助けを頼むんだ! それなら命令違反にならないっ!』

 

 

 アストンの言う通りだ。

 作戦に無い事態になったのだから、カケルに報告しないと。そのためには、あのデブリ嵐に飛び込まなければならない。

 

 

『一人で大丈夫か? クレスト』

「大丈夫。おれのことは、心配しないで」

『分かった。でも気を付けろよ。………援護する、行けッ!』

 

 

〝グレイズ〟隊がライフルを撃ちかけ、アストンら〝ランドマン・ロディ〟隊もマシンガンをばら撒いて激しく反撃した。当てることを目的としない、ほとんどただの目くらましだ。

 

 その隙を突いて、クレストはデブリ嵐目がけて突撃した。〝グレイズ〟はアストンらの射撃に気を取られて、1機が離れたことなど気にもかけていない様子だった。

 

 

 

「カケル………必ず助ける」

 

 

 

 命に代えても。

 ヒューマンデブリ一匹の命なんて惜しくも無い。何十匹まとめ売りで100ギャラーかそこらで買い叩かれた安い命だ。

 本当ならブルワーズでゴミクズとして使い潰されるはずだったこの命を、カケルのために役立てることができるなら―――――

 

 

 やがて、何度も激しく激突し合う二つの閃光の姿が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

『おや、艦を守りに行かなくてもいいのかね? グレイズフレームは君たちのロディ・フレームより高性能かつ強力だよ?』

 

 からかうように耳障りな笑い声を上げるフォーリス。その〝アムドゥシアス〟目がけ、俺は、トリガーを絞ってガトリングキャノンをばら撒いた。だが敵機は細かいデブリを盾にしながら目まぐるしい機動を繰り返して回避し、お返しとばかりにビームキャノンを撃ち放ってきた。

 

 

「く………っ!」

 

 

 閃光に一瞬、目が灼かれる。その僅かな間に〝アムドゥシアス〟は〝ラームランペイジ〟へと肉薄し、バトルアックスを一閃させてくる。俺は、コンバットブレードを振り上げてその斬撃を防ぎつつ、後退して牽制射撃を繰り返し、押し込まれた体勢を立て直すより他なかった。

 

〝カガリビ〟の援護に向かいたいのは山々だが………こいつに背を向けるのは危険だ。ここで〝アムドゥシアス〟を沈めなければ、逆に母艦が危険に晒される。

 この男の言う通り、ギャラルホルンの現主力機である〝グレイズ〟と、厄祭戦時のモビルスーツをレストアしたに過ぎない〝ランドマン・ロディ〟では、その性能差は比べるべくもない。

だが、阿頼耶識システムによる直感的な操縦・機動力を有し、歴戦の猛者揃いである実働三番隊のモビルスーツ隊は、多少の性能の差などものともしないだろう。アストンたちに艦の護衛を任せることに不安は無かった。

 

 

「俺は、俺がやるべきことをするだけだ」

 

 

 このふざけた男と、デブリ帯において猛威を振るうビーム兵器を有する、厄介なガンダムフレーム〝アムドゥシアス〟を倒す。

俺は〝ラームランペイジ〟を翻らせ、次々撃ち放たれるビームの弾幕を紙一重の所でかわしつつ敵の懐へと滑り込んだ。

 突き出すコンバットブレードは、鋭い反応を見せた〝アムドゥシアス〟のバトルアックスによってあえなく弾かれる。だが、気迫と共に再度斬りかかる。

 

 幾度となく刃同士がぶつかり合い、その都度激しく火花が飛び散った。

 

 

 

『フ………厄介な敵だよ、君は。だがそれがいい』

「何を………ッ!!」

『この戦いを――――血沸き肉躍る戦いを! 私は待ち望み続けてきたのだ! この腐った凡庸な世界で私はなァァッ!』

 

 

 

 狂ったように奇声を発しながら斬り込んでくる〝アムドゥシアス〟をかわし、俺はがら空きになったその胴目がけてキックを叩き込んだ。

 

『ぐぶ………っ! ははは………』

 

 蹴飛ばされながらもすぐに姿勢制御を取り戻した〝アムドゥシアス〟から、今度はショートライフルによる実弾が放たれる。俺もガトリングキャノンの砲口を跳ね上げて、激しい撃ち合いが暫し荒れ狂うデブリの合間を彩った。

 

 

『これだよ、これだ………ッ! 心の奥底からの興奮・戦慄・恐怖………! 私に生を実感させてくれるこの感覚!! 何と甘美な………』

「お前らはもう終わりだ! 撤退して部下を助けたらどうだ!?」

 

『はは、論外だな! ようやくこの退屈な世界から抜け出す契機を得たというのに! この感動が何故分からん!? 完璧なんだよ? 今日、この一瞬一瞬がッ!』

 

 

 イカれてる。それ以外の感想など出ようはずも無かった。

 俺には理解しがたい行動原理を基に、フォーリス・ステンジャという男は自分の部下すら生贄にして、戦い、殺し合うことによって得られる刹那的な快感に溺れようとしているのだ。

 そしてこのふざけた男によって、俺と、実働三番隊、フェニー……大事な家族たちの命が危険に晒されている。

 

 

「これ以上俺たちの邪魔をするのなら、排除するまでだ………!」

『もっと私を愉しませてくれェッ!!』

 

 

 耳障りな絶叫と共に突っ込んでくる〝アムドゥシアス〟を、俺は機体の位置を沈めつつ迎え撃ち、再び吶喊してくる敵をコンバットブレードを突き出して抑え込んだ。

 

 純然たるパワーの面で言えば、どちらもツインリアクターを有する〝ラームランペイジ〟〝アムドゥシアス〟はほぼ互角。

 勝敗を決するのはほんの僅かな力量差、戦術、それに運か。

 

 

 

 

 そしてフォーリス・ステンジャという男は狂暴であると同時に、狡猾な男だった。

 

 

 

 

 次の瞬間〝ラームランペイジ〟のコックピットに重い衝撃が響いた。

直撃? いや、これは………

 

「………組み付かれた!?」

 

 伏兵――――!?

 1機の〝グレイズ〟が、デブリの陰から飛び出して〝ラームランペイジ〟に後ろから掴みかかってきたのだ。

 俺は咄嗟にガンダムフレームのパワーを以てして〝グレイズ〟の腕を振りほどこうとする。〝グレイズ〟の腕が軋み、その装甲やフレームが歪み始めるが、この状況下では振りほどくのに時間がかかりすぎる。

 

 そして、その数秒が俺にとっては命取りになる―――――――

 

 

 

『ハァ―――――ッヒハハハハハハハ!!!! そのままァッ! 抑えてろォ―――――ッ!!!』

 

 

 

〝アムドゥシアス〟が迫り、その手に握られたバトルアックスが鋭い弧を描いて横薙ぎに振り上げられる。

 

 違わず、〝ラームランペイジ〟のコックピット目がけて。

 

 だが、

 

 

 

『カケルっ!!』

 

 

 

 まだあどけなさを残す声音が通信装置から飛び込んできた。

 刹那、〝ランドマン・ロディ〟が1機、マシンガンを撃ちまくりながら〝アムドゥシアス〟へと突っ込み、その両腕で敵機に絡み付いてさらにメインスラスターを激しく噴き上げた。

 

 あの機体は………

 

「クレスト!?」

 

 俺にトドメを刺すために減速していた〝アムドゥシアス〟は、クレストの〝ランドマン・ロディ〟の急加速を抑えることができない。

 

『何と!? この………っ!』

『ウオオオオオオオオアアアァァァァァアッ!!!!』

 

 

 2機は互いにもつれ合いながら滅茶苦茶な機動を描き、次の瞬間そのコース上にあった巨大な岩塊へと、共に激突する。

 激しい土煙が一瞬にして、2機のモビルスーツを覆い隠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽―――――▽△▽

 

「くく………やってくれる」

 

 デブリに激突した〝アムドゥシアス〟のコックピットで、瞬間的に意識を手放していたフォーリスだったが、ヨロヨロとコントロールグリップを握り直す。

 眼前には、〝アムドゥシアス〟をここまで押しやった鉄華団モビルスーツの姿が。頭部、片腕は激突によって潰れ、コックピットのある胸部も奇妙に歪んでいる。

 

あれでは、乗り手を守るはずの装甲が、逆に乗り手自身を押し潰していることだろう。

 

現に、大破同然の鉄華団モビルスーツは、頭部のモノアイの煌めきを焼失させ、ピクリとも動いていなかった。

 

 こちらは―――ビームキャノンの砲身が歪んでしまい使い物にならなくなったが、概ね損害は軽微だ。さすがは厄祭戦を終わらせたと言われるガンダムフレーム。量産機よりも遥かに頑丈だ。

 

「ふふ………端役にしてはなかなかの健闘ぶりだったが、まあこの程度か」

 

 あの〝ガンダムラーム〟の乗り手は、さぞ手下たちに慕われているのだろう。その捨て身の特攻が首尾なく終わったのはフォーリスとしても少々遺憾ではあるが――――

 と、飛び立とうとした〝アムドゥシアス〟の片脚に、何か重いものがしがみついてきた。「うむ?」と怪訝な目で見下ろすと、鉄華団モビルスーツの生き残った片腕が、最後の力を振り絞るように〝アムドゥシアス〟の脚へと巻き付いたのだ。

 

 

『カケル………やらせな………』

 

 

 まだ生きているのか。宇宙ネズミらしくしぶとい生き物だ。

 接触回線越しに、まだ幼いのだろう、少年兵が血反吐を吐く音が聞こえた。

 

 

『カケル……おれ………家族だ……て……守……』

「麗しい兄弟愛だ」

 

 このような年端もいかない少年兵を殺すのは大いに遺憾ではあるが――――兄弟愛を引き裂く快感を味わうのは初めてだ。

 せめて楽に、その死を甘美に彩ってやろう。

 

 フォーリスは〝アムドゥシアス〟のビームサーベルを起動した。

 眩い光刃が現れ、ほんの少し近づけただけでもジリジリと敵機の装甲を焼く。損傷した装甲の合間にビームサーベルを突き立てれば、中の少年兵は一瞬にして焼け死ぬことだろう。苦痛を感じる間も無い。

 

 

『―――――――ッ!!』

 

 

 見上げれば、伏兵の〝グレイズ〟を撃破した〝ラーム〟がこちらへと襲いかかろうとしている。だが、あの距離では間に合うまい。

 美しい展開に、フォーリスは大いに満足した。

 

 

「では、終わりにしようか」

 

 

〝アムドゥシアス〟はビームサーベルを振り上げて、敵機の胸部目がけて振り下ろ――――――――

 

 

 

 

 

 

 その時。今にも敵機を潰そうとした〝アムドゥシアス〟のサーベルを、横から飛び込んできた長大な「何か」がぶち抜き、深々と刺し貫いた。

 

 

 

 

 

 

「なに?」

 

 ヒュン……と光刃が力なく消失する。

 ビームサーベルを振り上げた腕部をぶち抜いたもの………長大なランス状の武器だ。

 そして、デブリのせいで有効範囲と精度が低下しているセンサーが、甲高く警告音を発してくる。

 

 

【CAUTION!】

【ASW-G-30】

 

 

「新手だと? それに―――――」

 

 思案する間など無かった。

 次の瞬間、フォーリスの眼前に新手―――――水色のカラーリングのガンダムフレームが飛びかかってくる。

 ビームサーベルを保持していた右腕は、ランスに貫かれて使用不能に。すかさずもう一つの近接武器であるバトルアックスを掴もうとするが、その時には既に水色のガンダムフレームが眼前に立ちはだかる。

 

 バトルアックスを掴み終えた左のマニピュレーターが、敵のそれによってギリギリ………と締め上げられていく。

 

 まさか、同じガンダムフレーム同士で押し負けるだと………!?

 

 

『――――どこから持ってきたのか知らんが、そんな手負いのガンダムフレームで………』

 

 

 男の低い声が通信越しに〝アムドゥシアス〟のコックピットへ響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――――――この〝ガンダムフォルネウス・スクアルス〟の相手ができるとでも!?』

 

 

 

 

 

 




【オリメカ解説】

・ASW-G-30〝ガンダムフォルネウス・スクアルス〟

クランク・ゼントが操るガンダムフレーム。
先の戦いで水中戦用・地上戦用に最適化されていた〝フォルネウス〟を宇宙戦用に再改修した機体で、アクアハイドロブースター等の水中戦用装備をオミットし、宇宙用スラスター・ブースターを増設。さらには変形機構を洗練化することによって宇宙空間での高機動化を実現した。

武装はバトルランス、腰部キャノンユニット等従来のフォルネウスをほぼ踏襲しているが、対艦魚雷を取り外して対艦ナパームミサイルを増設している。

〝スクアルス〟とはラテン語で「サメ(ツノザメ)」を意味し、変形形態もサメのそれに近い。

(全高)18.1m

(重量)39.6t

(武装)
バトルランス
腰部装備型200ミリキャノンユニット
対艦ナパームミサイル発射管×4

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