鉄と血のランペイジ   作:芽茂カキコ

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2話で区切っても中途半端なので、少し長めです。


散華

▽△▽――――――▽△▽

 

『監視班から報告。ギャラルホルンのモビルスーツが……6機ッ!!』

「んな………っ!」

「6機だとォッ!?」

 

 社長室に詰めていたオルガやビスケット、ユージンら面々に衝撃が走った。

 

 民間軍事会社一つ潰すには………あまりに規模がデカすぎる。

 それだけ………ギャラルホルンを本気にさせちまったってことなのかよ………!

 

 オルガは人知れず、ギリッと歯ぎしりした。

 先ほどまでやすりを振り回して、ニヤケ面でクーデリアをギャラルホルンに引き渡して金を………云々抜かしていたトドは、すっかり青ざめきった表情で、

 

「あ、あいつらの目的はお嬢さんなんだろ!? こうなったらもうさっさと引き渡すしかねえよ!」

 

「そんなことより状況の把握だ! 全員、戦闘配置につけッ! ミカはどうした!?〝バルバトス〟にも出張ってもらうぞ!」

 

「はァッ!? モビルスーツ6機と………」

「やり合おうってのか? こりゃあまた………」

 

 呆れるやら驚くやら、忙しく表情を変える背後のユージンとシノ。

 さすがにビスケットも、

 

「お、オルガ………さすがにモビルスーツを6機も相手にするなんて………!」

「そ、そうだそうだっ! こんなトコでヤケになっちゃあいけないよォ~。ここは大人しく………」

 

 だがその時、凄まじい衝撃が、激しくCGS本部全体を揺さぶり、猫なで声で言いくるめようとしていたトドを強引に黙らせた。

 重砲……モビルスーツのライフル射撃による着弾だ。それも近い。

 

『か、管制塔に食らいました!』

「ち………あっちは殺る気満々ってことか」

 

 もうグズグズしては居られない。仲間たちはオルガの命令を待っている。

「出るぞ!」と怒鳴り、オルガは社長室から一気に駆けだした。

 

「で、でもよォ、オルガ! いくら何でも6機も相手にしてたら………」

 

 とその時、〝ヴァアアアアアアアアアア!!!!〟という、既に聞き慣れた発射音が、瞬間、オルガたちの鼓膜を打った。

 

「こ、これって………」

「カケルの〝ラーム〟だ。………こっちにはモビルスーツが2機ある。分の悪い賭けじゃねえ」

 

 

 

 ミカと組ませりゃ………百人力だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

「食らえッ!」

 

 短く発破し、トリガーを引く。

 ギガンテック・ガトリングキャノンの砲口が炸裂し、数百もの100ミリ弾をばら撒く。

 迫る〝グレイズ〟隊の足元を嘗めるように放たれた射撃は、次の瞬間、回避し損ねた1機の〝グレイズ〟に着弾。脚部が、腹部が、そして頭部が………着弾の閃光と、炎と、爆煙の中に閉ざされ、数秒後にはひしゃげた鉄塊と化していた。

 だが、ようやく撃墜できたのは1機だけ。

 その間に5機の〝グレイズ〟は一気に距離を詰めてくる。

 

『ふん!』

 

 弾幕も空しく1機の〝グレイズ〟に肉薄され、コンバットナイフを出す間もなく、やむなくガトリングキャノンの砲身で、〝グレイズ〟のバトルアックスを受け止めた。

 損傷は軽微でまだ発射に耐えられるが………そう何度も使えるものではない。

 

『先の戦いでは後れを取ったが、今度こそ潰してやろう!』

「ふざけッ!!」

 

 あれは、オーリスの声だ。何度聞いても耳障りなことこの上ない。

無理やり、〝ラーム〟の大出力にものを言わせて弾き飛ばし、ガトリングキャノンを再度乱射。

 だが数発を当てただけで回避されてしまう。

 そして逆に、何発ものライフル弾を食らい……コックピットは何度も衝撃に襲われた。

 

「う………っ!」

 

 さすがに1対6は無謀か………!

 そろそろ、三日月の救援が欲しい所だが。

 刹那、コックピットのセンサー表示が………2機の〝グレイズ〟が〝ラーム〟を飛び越えて、CGS本部の方へと向かっていることを知らせてきた。

まずい!

 まだ準備ができていなかったら………!

 だがその時。見ればCGS本部から、凄まじいスラスターの閃光を発せられ、何か白い影が………飛翔した。

 

〝ガンダムバルバトス〟だ。

 本体重量28.5tとは思えない、あまりに身軽さを感じさせるその飛翔だったが、今度はその重量と重力を位置エネルギーに変換し、ちょうど着地点に差し掛かった〝グレイズ〟の頭部を、巨大メイスによって胸部コックピットごと潰し、地面へ沈める。

 そして振り返り際に薙いだ一撃で、もう1機………これも胸部と頭部を潰して吹き飛ばした。

 わずかな間に2機も………三日月・オーガスと〝バルバトス〟は屠って見せたのだ。

 

『お待たせ』

「いや、そんなに待ってない」

 

 負けてられないな。

 ほとんど一瞬のうちに2機を潰され、驚愕したのが回避機動を緩めた1機の〝グレイズ〟に照準を合わせる。

 トリガー引き、ガトリング砲を発射。〝グレイズ〟1機の胴体を激しく打ち据え、敵機はプスプスと各所から火花と煙を吐き、やがて動きを停止させた。

 

『そ、そんなバカな!? わずかな間に4機も………ぐお!?』

 

 ライフル弾がオーリスの〝グレイズ〟を直撃する。誤射か?

 いや………見れば、ボロボロながらも頭部や各所に改装を施された〝グレイズ〟がCGSの敷地内から姿を見せた。

宇宙に出てからが初登場のはずの〝グレイズ改〟か。

 

『パイロット、誰?』

『俺だ』

 

 特徴的な野太い声。昭弘・アルトランドだ。

 

『損傷はかなり激しいが………援護射撃ぐらいなら、やれる!』

『分かった。じゃ、お願い』

 

 メイスを構え直し、〝バルバトス〟は残る2機へと襲いかかった。

〝グレイズ改〟それに〝ラーム〟は援護射撃を加え、2対1の連携を敵に取らせないよう、その動きを妨害する。

 

『ぐ………おのれェッ!!』

 

 咆哮するオーリスの〝グレイズ〟目がけてガトリングキャノンを乱射。これで、残り1機との連携ができなくなる。

 その間に〝バルバトス〟は1機の〝グレイズ〟へと肉薄。さほど練度は高くないのか、もうほとんど止まった状態でライフルを撃ちまくるだけだ。メイスの有効内に入るその瞬間まで。

 

『ひ………!』

 

 ギャラルホルンのパイロットは、断末魔を上げる間すら与えられなかった。

 メイスの一突きによって、コックピット部分を無残に抉り飛ばされ、力なく倒れる〝グレイズ〟。

 残りは、オーリス機ただ1機のみ。

 もうほとんど、チェックメイトだ。

 

『お、おのれ………おのれおのれオノレオノレエエエエエエエェェェェェェええええっ!!!』

 

 狂ったように絶叫し、〝バルバトス〟へと襲いかかる〝グレイズ〟。

 すかさず牽制射撃を………だが〝バルバトス〟を巻き込む危険があり、もうここは、三日月一人に任せた方がいいのかもしれない。

 次の瞬間、〝バルバトス〟のメイスと〝グレイズ〟のバトルアックスが激しく激突した。

 

『貴様ら………CGSのドブネズミどもッ!! 社会の底辺どもがこの私にいいいいいィィィィィィッ!!!』

『は? 何言ってんのお前』

 

 いら立った様子で、三日月の〝バルバトス〟は〝グレイズ〟を押し飛ばす。

 そして勢いをつけて飛びかかり、

 

『俺は、俺と仲間たちのために………できることをやってるだけだ。で今は……とりあえずアンタが邪魔だッ!!』

 

 

〝バルバトス〟のメイスが繰り出す鋭い閃撃が、次の瞬間オーリスが乗る〝グレイズ〟の手からバトルアックスをもぎ取り、宙へ吸い込まれるように吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 ガン!! と〝グレイズ〟の手からバトルアックスが弾き飛ばされる。

 それは、くるくると宙を舞いながらやがて落下し………少し離れた荒れ地で戦いを見守るオルガたちのすぐ傍に落下した。

 激しく土煙が吹き荒れ、大騒ぎする中で誰もが……身を低くするか腕で顔を守り、目を瞑る。

 そんな中オルガだけが、激しい土煙などものともせずに、三日月の戦いをただ静かに見守っていたのだ。

 そして無防備と化した〝グレイズ〟の胸部に、〝バルバトス〟はそのメイスを打ち込む。

最後の〝グレイズ〟のコックピットが破壊され、瞬間的に迸る火花と閃光。

 

 

 その光の中に………オルガは自分たちが歩むべき未来、辿り着くべき〝本当の居場所〟への、その道筋を見出した。

 

 

「鉄華団」

「え?」

 

 傍らで同じく戦いを見守っていたクーデリアが、驚いたように顔を挙げる。

 オルガは、真っ直ぐ眼前の戦いを見据えたまま、

 

「俺たちの新しい名前。CGSなんてカビ臭い名前を名乗るのは癪に障るからな」

「テッカ………〝鉄〟の〝火〟、ですか?」

 

 そんなクーデリアの問いかけに、「いや」とオルガは否定し、しばし地面に視線を向け、そして瞑目する。

 再び前を見定めた時、そこには再び、迷いのない真っ直ぐなオルガの瞳が、目の前で繰り広げられている戦いを静かに映し出していた。

 

「〝鉄〟の〝華〟だ」

 

 

 決して散らない、鉄の華だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽――――――▽△▽

 

 その後、地上でギャラルホルンが襲ってくることは無かった。

 CGS改め〝鉄華団〟は、襲撃してきた6機の〝グレイズ〟を鹵獲、何機かは修復すれば稼働できる状態で、昭弘の〝グレイズ改〟と並び、鉄華団の貴重なモビルスーツ戦力か転売して資金源となってくれるだろう。

 乗っていた敵パイロットは、全員死亡していた。オーリス・ステンジャもコックピット内で無残な状態で発見され、他の遺体と同様火葬された。

〝ラーム〟で残った最後の〝グレイズ〟をCGS敷地内まで抱え、バンカーの一つに押し込む。元の主であった数機のMWは追い出され、肌寒い夜空に整列してその身を晒していた。

 

「やらかしてくれたなァ! 三日月よぉ!」

 

〝ラーム〟から降りると、トドとユージンが、呑気に火星ヤシを口にしている三日月に詰め寄っていた。

 

「そ、そうだよ! どーすんだよ! 完全にギャラルホルンを敵に回しちまって………」

 

 いいじゃん、勝ったんだからさ! と気楽な様子なシノに「そういうんじゃねーだろっ!」と怒りの矛先を変えるユージン。

 トドはぶつくさと、

 

「うまく交渉すればおめー、金にだってなったかもしれねぇのに………!」

 

 万が一、引き渡して金が入ったところで、その後殲滅されて終わりだろうけどな。そう思ったが口にはしない。

 とりあえず近くにいたダンジの傍で、事の次第を見守る。

 

「これから俺たち、どうなるんだろ………?」

「全てはクーデリアの意思次第だな」

 

 え? と驚いたように顔を上げるダンジに、ニッと笑いかけてやる。

 

「あの!」

 

 事態の膠着を打ち破ったのは、意を決して姿を見せたクーデリアだった。

 

「何の用です?」

 

 振り返ったオルガに、一瞬視線を落とすクーデリア。だが逡巡はほんの1秒足らずだった。

 

「私の………私の護衛任務を続けてください! そうすれば、当面の活動資金は何とかなるのでは?」

 

 お嬢様……! と付き人のフミタン・アドモス女史が異を唱えようとするが、クーデリアはサッとそれを手で制す。

 

「お父様の許可は必要ありません。資金を出してくれる人物には、当てがあります。………独立運動のスポンサーとして、わたしを支えてくれていた人物、ノブリス・ゴルドン」

 

 その人名に、息を呑んだのはビスケットだった。

 

「の、ノブリス………!?」

「誰?」

「名前は聞いたことあるぜぇ。何でもすげぇ大金持ちだって………」

 

 だったら資金的には一息つける………と、ビスケットが安堵の息をついた瞬間、重苦しい事態が打開できる可能性を感じたのか、伝播したように周りの雰囲気が一気に明るくなった。

 

「そうですよ! それに俺たちには三日月さんと、モビルスーツがある! ギャラルホルンなんか怖くないですよっ!」

「だよなっ!」

 

 そんなタカキとライドに、特に関心は無いのかポケットから火星ヤシをつまむ三日月。

 おいおい、そんな楽観的な………! と呆れた風のトドだが、すっかり周囲は差し込んだ希望で賑やかになっていた。

 

「カケルさんの〝ラーム〟もあるしな!」

 

 嬉しそうなダンジに俺も、思わずニヤリとなる。

 そんな中オルガは、ジッと黙って………クーデリアの方を見据えた。見定めるような雰囲気と視線を纏いつつ。

 

「………」

 

 その視線に気圧されたのか、クーデリアは息を呑み、表情を硬くする。仕事を受けるか受けないかは、オルガ次第だ。

 だが、オルガにだって………オルガだからこそ分かっているはずだ。生き残るため、自分が、自分たちが今何を為すべきか。

 鋭い視線を解き、フッとオルガは打って変わってニヤリと笑った。

 そして、恭しく胸に手を当てて仰々しく礼をする。仕事を与えてくれた依頼主に対する当然の礼儀として。

 

「引き続きのご利用ありがとうございます。俺たち鉄華団は、必ずあなたを無事……地球まで送り届けてみせましょう」

 

 クーデリアの表情が一気に明るくなった。

 

「よろしくお願いします………!」

 

 だが、話の進行を把握できていないユージンは「ちょ、ま、待てオルガ!」と詰め寄ろうと、

 だがその前にタカキが首を傾げて、

 

「てか、鉄華団ってなんすかぁ?」

「俺たちの名前だ。さっき決めた」

 

〝鉄華団〟。オルガがその名を口にしたその時、CGSという旧名が死に、新しい自分たちの名前が………彼ら少年兵らの間に広がった。

 決して散らない、鉄の華。

 居場所のない子供たちの、硝煙の匂いに閉ざされつつも暖かい、家。

 

 ユージンは「はぁ!? 待て、なに勝手に決めてんだよ!?」と納得できていない様子。

「うわ、かっけェ!」とシノははしゃぎ、「ね? いいっすよね三日月さん!」とタカキも嬉しそうだ。

 

 そして三日月も「いいね………!」と表情を緩ませつつ、また火星ヤシを口に運んだ。

 

「はァ~!? こういうのはもっと慎重にだな………」

「こまけ~なぁ。てめ、ハゲんぞ」

「んな!」

「まあまあ」

「つか、〝ハナ〟って何だ?」

「新しい名前っつーのはいいっすねェ!」

 

 気のいい少年兵たちの賑やかなざわめきに暖かな表情を見せつつ、クーデリアはふと、間もなく夜を迎える空を見上げた。

 その夜空の果てに………彼女が目指す地球がある。

 

 

 

 

 

 

 機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ第3話「散華」(終)

 

 

 

 

 

 

「って! エンディングの前にちょっと!」

 

 俺もクーデリアから仕事を受けないといけないんだった!

 

「んあ?」

「誰、あいつ?」

「見慣れない奴だな。いついたんだ?」

「気づかなかったぜ………」

 

 等々散々な言われように辟易としつつも、俺はクーデリアの前に歩み寄った。

 ああそうだ。とオルガも後ろ頭を掻きながら、

 

「こいつが青いモビルスーツのパイロットだ」

「この方が………」

「どうも。蒼月駆留といいます」

「俺たちが助かったのはこいつのお陰でもある。よかったら一緒に仕事させてくれませんかね? モビルスーツもそうだが、パイロットとしても見どころがある」

 

 自分で交渉しろと言っておいて、わざわざ紹介までしてくれるのか。

 さすがオルガ。筋が一本通ったいい奴だ。

 

「分かりました。十分な報酬をお支払いできるかどうかは現状分かりませんが」

「衣食住の支給と、モビルスーツの維持整備・補給はそちら持ちでお願いします。報酬は………全てが終わった後に俺にふさわしいと思う値段を、付けてください」

 

 こくり、とクーデリアが頷く。とりあえずは契約成立だ。

 

「俺も、地球まであなたの安全のために、全力を尽くします」

「衣食住うんぬんは俺らで面倒見て、後でお嬢さんに請求を渡す。………ビジネスパートナーってやつだ。よろしく頼む」

 

 再び差し出される手。

「よろしくお願いします」と握り返すと、先ほどよりは少し………温かみを感じることができた。

 

 

 

 CGS……改め鉄華団の喧騒は、夜が更けてもしばらく収まることを知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 


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