プリンセス・プリンシパル PROFESSOR(完結)   作:ファルメール

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第15話 プロフェッサーの駒

 

「う、うお……これは……っ」

 

 ダニー・マクビーンはとある屋敷の門前で、呆然と立ち尽くしていた。

 

 しばらく前に幽霊通りの死体置き場(モルグ)を訪ねてきたガスマスクの男(?)は、目当ての死体を引き渡す見返りとして多額の金を自分に渡すと同時にこう言い放った。

 

 技術屋としてもう一度働く気があるのなら、この住所を訪ねろと。

 

 正直、あまりにも何もかもが突飛すぎて、前日は随分と痛飲したものだし真っ昼間から夢でも見たのかと後になって思ったが……

 

 しかし封筒が直立する程の厚みを持った札束と、ポケットにねじ込まれたメモがあれが現実であった事を彼に教えていた。

 

 しばらくの間考えたが、「自分の技能を活かした職場で働ける」という欲求は、とうの昔に消え去ったと思っていたが実際には火種のようにくすぶって彼の中で残っていた。二度とは出来ないと諦めた所に垂らされた蜘蛛の糸。縋りたくなるのは当然だ。

 

 正直眉唾物だが……取り敢えず話だけでも。様子を見に行こう。

 

 そんな風に自分に言い聞かせて、二十数年振りの就職活動の気持ちで、クローゼットの中でかび臭くなっていた上着を引っ張り出して、精一杯の正装をして出掛けたのだが……

 

 目的地に近付くにつれ段々と、周囲の建築物が四十年以上も生きてきた中で見た事も無い程に壮麗な物へと変わってきて……

 

 そしてメモに書かれた住所に建っていた屋敷はそれらの中でも抜きんでて豪奢であり、目が眩む程の輝きを放っているようだった。ここはアルビオン王国の中でも有数の大貴族であるグランベル侯爵家の屋敷であった。

 

 尻込みしてしまう。

 

 まるで「お前なんかが来る所じゃねーよ」と、建物の門構えが言っているかのようだ。

 

「う……うむむ……」

 

 躊躇いがちに呼び鈴を鳴らすと……

 

 僅かな時間を置いてシワ一つ無い執事服を完璧に着こなした初老の家令が姿を見せた。

 

「何か、御用でしょうか?」

 

「あ、あぁ……じ、実は働く気があるならここに来いと言われたんだが……」

 

 圧倒されて、すっかり萎縮したダニーは相手の顔色を伺いつつ、ポケットに入っていたメモを手渡した。

 

 家令は「拝見致します」と前置きして受け取ったメモを見て……ぴくっと片眉が動いた。

 

「こちらへどうぞ。お嬢様がお待ちになられております」

 

 さっと手を振って、屋敷の中に通される。

 

 壁に掛けられた絵や、並んでいる壺、置かれている彫像。

 

 美術品に関する造詣などダニーは持ち合わせていないが、しかしそれでもこれらは名画や高価な芸術品である事が直感的に分かる。

 

 そうして応接室へと通される。

 

 この一室だけでも、ダニーの家の部屋全てを合わせたよりも広そうだった。金はある所にはあるのだと、労働意欲が吹き飛びそうだ。

 

「しばらくお待ちください。お嬢様はすぐに参られます」

 

「え、えぇ……どうもご苦労様です」

 

 畏まって応答するとメイドが運んできた紅茶を口に運ぶ。

 

 これも、こんな気取った飲み物はずっと口にしていないダニーをして高級品と分かる、口から脳に抜けるような味わいだった。

 

 数分すると、いくつもある扉の一つが開いて黒いローブに身を包んでガスマスクを身に付けた人物が姿を見せた。

 

 あの時、モルグに姿を見せた怪人、プロフェッサーだった。

 

 ダニーは、思わず起立して姿勢を正した。

 

<良く来てくれた、マクビーン技師。歓迎致します>

 

 男とも女ともつかないくぐもった声だが、しかし家令やメイドの発言から彼女は女性であるらしい。

 

「お、おう……」

 

 右手が義手である自分に配慮されて差し出されたプロフェッサーの左手を握り返すと、ダニーは勧められた席に座り直した。

 

 プロフェッサーも同じく、対面の席に着いた。

 

<さて、この家を訪ねてくれたという事は、私の下でもう一度技術者として働く事を決めてくれたと考えて良いのかな?>

 

「あ、あぁ……だが、その前に聞いておきたい事があるんだが……」

 

<伺おう>

 

 ガスマスクの吸気口にストローを挿すと、プロフェッサーは自分も紅茶を啜りつつ手を振ってダニーに発言を許可した。

 

「俺を技術屋として雇いたいって話だが……俺はこれだぜ?」

 

 粗末な義手を殊更強調するように掲げて、ダニーは自棄気味に笑いつつ言った。

 

 こんな手の自分が、今更どうして技術屋として働けるのかと。

 

 そうは思いつつも、しかしやはり一縷の期待があったからこそ此処を訪ねた訳だが……これは人間の矛盾した心理の一部分である。

 

<……ふ>

 

 少しだけ笑ったように、プロフェッサーの喉が鳴った。

 

 彼女は立ち上がると、右手の手袋をそっと外した。

 

「うっ……!!」

 

 ダニーは、思わず息を呑んだ。

 

 手袋の下から現れたのは柔らかな人肌ではなく、硬く冷たい輝きを放つ金属の光沢だったのだ。

 

 義手だ。ただし、自分の物とは比べものにならない程の精度で造られた最新技術の塊だと技術畑出身のダニーには一目で理解出来た。

 

 ウィン、ウィンと、手袋を外した事で防音効果が無くなって義手の駆動音が良く聞こえるようになった。

 

 五指の全ての関節があらゆる方向に曲がって、手首が360度時計回りに回って、また反時計回りに回転した。

 

「お……おおおおっ……!!」

 

 目を見開いたダニーの口がポカンと開いて、涎が垂れた。

 

 自分に、この義手があれば。

 

 何も言わずとも、彼の目と顔がこれ以上は無く雄弁に語っていた。

 

 釣れた。

 

 ガスマスクの下にある自分の口端が上がったのを、プロフェッサーは自覚した。

 

<この義手も、私が開発した物……私の下で働く気があるなら、あなたにもこれを付けてあげるわ>

 

 プロフェッサーはそう言って、暖炉の上に飾られていたゴルフボールをひょいと手に取る。

 

 義手がウィン、と音を立てて手の中にゴルフボールを隠した。

 

 パァン!!

 

 気持ちの良い音を立てて、硬質なゴルフボールが爆ぜた。

 

<そして……私の下で働くなら、契約金としてあなたの借金は全て私が支払う。新しい住居も用意しよう。無論、給料も十分に支払う>

 

 プロフェッサーは破裂したゴルフボールを捨てて、開いた掌をダニーへと差し出した。

 

<さて、ダニー・マクビーン技師。返答や如何に?>

 

 

 

 

 

 

 

 ダニーの返事は、聞かずとも分かっていた。

 

 借金から解放されて、もう一度技術者として働く機会が与えられるのだ。乗らない訳がなかった。

 

 この日はひとまず当座の金を受け取って、ダニーは帰っていった。

 

 プロフェッサーは応接室の椅子に腰掛けたまま紅茶を堪能していたが……先程彼女が入室してきた物とは別の扉が開いて、一人の女性が入ってきた。

 

「上手くやったわね」

 

 年齢は恐らく二十歳になるかならないかという所であろう。少女と大人の、ちょうど中間ぐらいに見える。

 

 黒髪で、眼鏡を掛けた理知的な印象を受ける女性だった。

 

<……? 何の事かしら?>

 

 カップの紅茶が空になって、プロフェッサーは吸気口からストローを引き抜いた。「とぼけなくても良いわよ」と女性が肩を竦める。

 

「あなた、彼の『借金を支払う』とは言ったけど義手については『進呈する』とか『あげる』とかは一言も言わなかったわね?」

 

<……>

 

 沈黙を肯定として受け取った女性が、話を続けていく。

 

「あの義手だけど、どれぐらいの値段になるのかしら?」

 

<私の下で真面目に働けば、15年もあれば完済できるぐらいの価格よ>

 

「呆れた」

 

 やれやれと首を振った女性が、溜息を吐いた。

 

「街金の借金から解放してやると言って自分の会社に雇って、そうしたら自分に借金させて囲い込んでしまおうって訳ね……借金取りより貴女の方がタチ悪いんじゃないの?」

 

<私は別にお金に困っている訳ではないから、担保や利子は付けないわよ>

 

 しれっと、プロフェッサーが答えた。

 

「では、もし彼が逃げた場合は?」

 

<殺すわ>

 

 これも、何でもない事のようにプロフェッサーは言った。

 

「……あなた、人からよく嫌な奴だと言われるでしょう」

 

<しょっちゅうよ、そんな事は>

 

 皮肉で言っているのだが、プロフェッサーは些かも堪えた様子は無かった。

 

「私や……この前の彼、エリックって言ったっけ……同じような手口で確保した手駒が、後何人居るのかしら?」

 

 じっと、女性がプロフェッサーを睨んだ。眼鏡越しの目が、キュイッと音を立てた。

 

<……一人だけではない、とだけ答えておくわ。それに>

 

 プロフェッサーは座り直して、女性と正対した。

 

<他の人は兎も角、あなたは取引の上で私の所に来た筈だと、記憶しているが?>

 

「……!!」

 

 女性が、プロフェッサーを見る目が鋭くなった。

 

「良く言うわね……!! 一年前……私のスパイとしての証拠をちらつかせて、自分に従わなければノルマンディー公に引き渡すと脅したくせに……!!」

 

<それは見解の相違だ>

 

 と、プロフェッサー。悪びれたり、慌てた様子は少しも無い。

 

<私は、黙ってノルマンディー公にあの書類を提出してあなたを共和国のスパイとして告発し、突き出す事も出来た。だけど私は、あなたにそれを知らせた上で選ぶ機会を与えた。全ての証拠を消す代わりに私に協力するか、それともノルマンディー公に引き渡されるか。これは真っ当な取引だ。実際に、あなたがスパイである証拠は全て抹消したわ。他に写しがあるなんていうオチも無いから、それは安心してくれて良い。これは対等な契約なのだから。そこに嘘は無いわ。あなた達スパイと違ってね>

 

「真っ当な取引、対等な契約……それ、まさか本気で言ってる訳じゃないわよね?」

 

<本気よ? 私は人体実験の為に、死んでしまっても問題の無い実験体が欲しかった。まぁ、天才である私にそんなミスは有り得ないが。そしてあなたはスパイとしての証拠を消したかった。これは双方にメリットのある話だったろう? それに、私にだってリスクはあった。あなたがスパイである証拠を消すという事は、それを他人に見られたら私だって共犯者になるのだから>

 

 とぼけたようにプロフェッサーは言う。

 

 だが実際にはこれは二択に見せかけた一択、選ばざるを得ない選択肢と言うのだ。最悪と最悪の一歩手前、どちらを選ぶかと問われて前者を選ぶ者は少数派だろう。

 

<それに、実験は成功したのだから契約は履行された。あなたはもう好きにしてくれて構わない。実際にこの一年、三ヶ月に一度この家に来る以外にはあなたの自由を阻害する何の干渉もしてはいない筈だが>

 

 プロフェッサーが続けた。

 

「……良く言うわね……!!」

 

 ドスを利かせた声で女性は言うとおもむろに眼鏡を外して、右目に手をやる。

 

 数秒してその手が下ろされると顔の一部、右目があった位置に異様な黒い空洞が発生していた。

 

 差し出された右掌には、小さな球形の結晶体が乗っていた。プロフェッサーの両眼に嵌められている物と同じ義眼だった。

 

「私の両目を抉り出して、代わりにこんな物を入れたくせに……!!」

 

<素晴らしいでしょう? 寿命が短い以外は、生身の目よりも調子が良い筈だが>

 

 ぎりっと、女性が奥歯を鳴らした。

 

<不満なら、もうここに此処に来る必要は無い……ただしその場合は義眼の寿命が切れて、あなたはまたあの暗闇の世界の住人になるだけの話だ>

 

「……スパイである私が言うのもなんだけど……あなた性格悪いわね」

 

 何かの事故や病気で失明したというのなら、諦められる。生来目が不自由であったというなら納得も出来る。

 

 だが一度失明して、それを晴眼者と変わらないほどに回復させられて、そこからもう一度光の無い世界に戻る事など……出来る訳が無い。プロフェッサーはそれを承知の上で言っているのだ。

 

 更に言うなら義眼は王国にも共和国にも無い独自の技術である為、プロフェッサーしか造ったりメンテしたりは出来ない。これでは女性は、実際にはプロフェッサーに首輪を付けられたも同然だった。

 

<自覚してるわ>

 

 ガスマスクを付けているプロフェッサーは、当たり前だが表情が全く伺い知れない。宇宙人を相手にしているかのようだ。どうにも調子が狂う。女性は肩を落とした。

 

<しかしこれは、見方を変えればより多くの人が幸せになったとも言えるわ>

 

「……どういう意味かしら?」

 

<もしあなたが私との取引を蹴っていた場合、あなたはノルマンディー公に引き渡されて殺されるか、良くて薬漬けにされて二重スパイに仕立て上げられていたでしょう。そして使われるだけ使われて始末される……その場合、ノルマンディー公しか幸せにならない。しかしあなたが私との取引に応じたお陰で、私は人体実験が出来て幸せ、あなたはスパイがバレなくて幸せ、そしてあなたから貰った目は、私が手術で、我が家の息が掛かった病院に入院しているケイバーライト障害で苦しむ患者に移植した。片目ずつで二人が視力が回復して幸せ。つまり合計で4人の人間が幸せになった計算になる。4マイナス1で3人も多くの人間が幸せになっているのよ? 素晴らしいじゃないの>

 

「…………」

 

 女性の目や表情から、怒気が消えた。

 

 怒りを通り越して呆れが先に立ったのだ。

 

「その言葉、最低の冗談ね」

 

<本気だった場合は?>

 

「もっと最低よ」

 

 女性が吐き捨てた。

 

<では、これが次の義眼だ>

 

 話を切るように、プロフェッサーは懐から取り出した木箱を差し出す。中には緩衝剤としてクローバーが敷き詰められていて、二つの義眼が納められていた。

 

 女性スパイは一つずつ新しい義眼を眼窩に嵌め込むと、古い義眼をプロフェッサーに提出した。

 

 これで用は済んだと、養成所では『委員長』と呼ばれていたその女性スパイは退室しようとしたが、その背中にプロフェッサーの声が掛けられた。

 

<もし何かあったら、この家に来なさい。知らない仲ではないし……匿ってあげるから>

 

「……!!」

 

 少しだけ意外そうに、委員長は手をドアノブに掛けたまま振り返った。この怪人にもそんな情があったとは。

 

 実際には違っている。

 

 プロフェッサーにとって、義眼の技術が流出するリスクは可能な限り低く抑えたいが、しかし実用化の為には自分以外の人間で人体実験もしなくてはならない二律背反。その為に、もし被験者がノルマンディー公や共和国の手に落ちて自分の技術が他に渡る事は避けたかった。よって「何かあったら自分の所に来るように」と言っておいて、逃げ込んできたらそこで委員長を殺して義眼を摘出・回収する心算なのだ。

 

 とは言えそんなプロフェッサーの心中など委員長には分からない。完全に気を許している訳ではないが、少しだけ視線が柔らかくなった。

 

<それじゃあ次はまた三ヶ月後に……それとどう? 今夜は一緒に食事でも……>

 

 言い掛けたその言葉は、委員長がドアが勢い良く閉じる音で遮られた。

 

<……嫌われたものね>

 

 自嘲するようにプロフェッサーはそう言うと、持っていた鞄から板のような機械を取り出し、提出された古い義眼から伸びている端子をそこに繋ぐ。

 

 すると黒く塗り潰されていた板の表面に光が点って、映像が表示される。

 

 どこかのホテルか屋敷の一室のようだ。

 

 そこには壮年の男と妙齢の女性、小太りの男に軍服を着た神経質そうな男が集まっている。

 

<これがコントロール……王国に潜入している共和国側スパイの統括か……>

 

 委員長は、プロフェッサーが義眼を移植する実験台として自分を選んだのだと思っていた。

 

 それは間違いではないが、言っていない事もあった。

 

 医療用に生身の目と同じ機能だけを持たせているタイプのそれと違って、プロフェッサー自身や委員長に移植している義眼は装着者が見聞きした情報を記録保存する機能がある。プロフェッサーはそれらの記録を専用の機械を使って、自由に再生・閲覧する事が出来るのだ。

 

 つまり、この三ヶ月の間で委員長がスパイとして潜入して見聞きした機密情報も、コントロールとのやり取りも全てがプロフェッサーの知る所となる。

 

 スパイは機密を漏らさない為にメモを取らない。養成所でも座学をノートに写す事は許されず、全て暗記しなければならないそうだ。しかしそうした機密保持も、プロフェッサーには役に立たない。委員長が見聞きしたものが全て、ダイレクトに伝わるのだから。

 

 付け加えるなら今の委員長は、ある意味では最高のスパイだと言える。

 

『最もスパイに適した人物とはどんな人間だろう?』

 

 プロフェッサーは一度、アンジェとドロシーにそれを尋ねた事がある。ドロシーはこう答えた。

 

「そりゃあ、誰からもスパイだと思われないような人間だろう」

 

 と。

 

 一方で、アンジェの答えは違っていた。

 

「本人も自分がスパイだと思っていない人間が、一番スパイに向いているわ」

 

 プロフェッサーもアンジェの意見に同調した。ドロシーの答えは二番目にスパイに向いている人物像だ。スパイは嘘を吐く生き物だが、どんな天才サギ師も稀代のペテン師にも、絶対に騙せない人間が一人居る。それは自分自身だ。他人はどれだけ上手に騙せても、自分だけは騙せない。

 

 ならば自分がスパイだと思いもしない、気付いていない人間が最もスパイに向いているのは自明の理だろう。

 

 委員長はまさかこんな方法でプロフェッサーが情報を抜いているとは絶対に気付けない。何故なら王国にも共和国にも、義眼の技術は無いからだ。情報が無ければ推理は出来ない。まさしく、理想的な潜入工作員だった。

 

 嘘を吐いていた訳ではない。科学者であるプロフェッサーはアンジェやドロシーといったスパイとは違う。嘘は吐かない。ただ『聞かれなかったから言わなかった』『だけ』だ。言う義務も無い。委員長とプロフェッサーの間で交わされた契約は、スパイとしての証拠を全て消す代わりに彼女がプロフェッサーの実験体となる事。その契約は間違いなく履行されている。それ以外についてはプロフェッサーが認知する所では無かった。

 

 他人には真似出来ない独自の技術を持つプロフェッサーだが弱点もある。

 

 彼女の風体は異様に過ぎ、空気清浄機の無い場所ではマスクを外せないので行動には制限があって立ち入れない場所も多い。その為に、自分の代わりに「目」や「耳」になる人間が必要だった。が、浮浪者や孤児にこの手術を施すのも考えものだった。この義眼が流出する危険が大きいからだ。人体実験の被検体としては、ある程度自分の身を守れる心得があって、尚且つ殺しても問題無い人間が適切だった。

 

 共和国側のスパイである委員長は、見事にその条件を満たしていたのだ。

 

<……この情報は、王国相手にも共和国相手にも、プリンセスを女王にする為の大変な武器になる……有効に使わせてもらおう……>

 


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