「ボクの名前は、"挑発&回復笛" だニャ。」
余りにも、冷たい名前だった。
ハンターが管理する為だけの名前だと思った。
大体予想はついた。ハンターからの扱いや、どういった立ち回りでオトモとして働いていたのか。
ハンターに管理されて、技やスキルを決められて、働いていた。
彼の名前を聞いただけで、全てわかってしまった。
それから彼は自分の一生を話し始めた。
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ボクは元々、ネコ嬢の元で生まれたんだニャ。オトモを引退したお父さんとお母さんの間で産まれて、ネコ嬢に色んな事を教えて貰ったニャ。その時は"ドン"って名前を貰ったニャ。
それから、沢山戦う練習や特訓をして、防御が得意なオトモとしてネコ嬢からハンターを紹介して貰って、雇われたんだニャ。
最初はモンニャン隊で旅に出たり、交易で色んなアイテムを作ったり集めたり、沢山働いたニャ。たまにご主人がアキンドングリをくれて、とっても嬉しかったニャ。
でも、ある時ご主人から装備を貰って、技やスキルを決めて貰って、新しい名前を貰ったニャ。
その時の名前が、"挑発&回復笛"だニャ。
ご主人はいつも採取クエストの時にボクをオトモに連れていってくれたニャ。ボクは挑発の技を使えるから、ご主人の所へモンスターが行かない様に、安全に採取出来る様にいっぱい働いたニャ。コレクトが得意なオトモに採取では敵わなかったけど、いっぱいアイテムも集めたニャ。
ボクはご主人の役に立てているのが、凄く嬉しかったニャ。
そして、半年くらい前にクエストで森丘へ来て、ハンターさんは鉱石を集めてたニャ。
そうしたら、奴が来たんだニャ。
火竜、リオレウス。
奴はご主人を狙って攻撃したニャ。
ボクの仕事は、挑発をする事。
一生懸命挑発をして、リオレウスの注意を引いて、ご主人に逃げる様に言ったニャ。
ご主人はモドリ玉でキャンプへ戻って、ボクも追いかけようとしたのニャ。
そうしたら、リオレウスに捕まってしまったのニャ。地面に潜れれば逃げられるのに、リオレウスはボクを掴んで空へ飛んでしまったのニャ。必死にもがいて、リオレウスの足からやっと逃げることが出来たと思ったら、そこは空の上ニャ。いくらボクがアイルーとは言え、着地した時に足を怪我したのニャ。
回復笛を吹こうかと思ったけど、回復笛を使う程の体力も無い。仕方なく、ゆっくりになってしまったけれど、なんとか穴を掘ってベースキャンプへ向かったニャ。
でも、
でも、
ベースキャンプには誰もいなかったニャ。
最初は何も思わなかったニャ。疲れてたからベースキャンプで寝ていれば、ご主人が迎えに来てくれるかと思っていたニャ。
でも、朝になっても誰も来なかったニャ。
追いかけようと思っても、ご主人の気配も匂いも感じない。
もう、わかっていたニャ。
待っていても、誰も来ない。
それも、わかっていたニャ。
全部、全部、わかっていたニャ。
そうしたら、お腹が鳴ったニャ。
ぐぅーっと鳴ったニャ。今まではご主人の許可を貰って、ご飯を食べていたのに、今はご主人がいないから許可を貰えない。ご飯を食べたいけど、食べていいのかわからない。
ぐぅー…
ぐぅーーー………
そしたら、一つ、わかったのニャ。
そっか、ボクは、"道具"だったんだニャぁ
ボクは、"挑発&回復笛"っていう、"道具"だったんだニャぁ…
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涙が止まらなくなっちゃった…
なんでそんなに単調に話すの?あなた自身の事なのに…
「なんで泣くのニャ?」
「……だって…だって…」
「ボクはオトモだったのニャ。ハンターが決めたのだから、従う。それがオトモの常識ニャ。」
「なんでよ!もっと自由にしたらいいじゃん!」
「ハンターも生きるのに必死なのニャ。しょうがないニャ。」
「なんで……なんでよ…」
「いいのにゃ。ボクは自分が道具だとわかった時に、悟ったのニャ。これからは野良アイルーになって、適当に生きるって決めたのニャ。」
「やだよ…そんなの………ひどいよ…」
「ニャハハ、案外野良も楽しいのニャ!」
「でも…それじゃあ救われないよ…」
「今はメラルー達にいろいろ教えているのニャ。防御のやり方とか、アイテムの集め方とかニャ」
「君は…」
「みんな頭は悪いけど、昔のボクを見ている様で楽しいのニャ」
「君は……!」
「みんなボクを慕ってくれるニャ。悪さはするけど、とってもいい子達のなのニャ」
「君は…!悲しく…無いの?!」
感極まって大声を出した。
後ろにいたアルが、「どうした?」と聞いてくるけど、「大丈夫だから」と言って制止した。
余りにも、アイルー君は自分の今までを淡々と話した。
未練なんてない。恨みもない。自分の過去に興味が無い。
そんな風に見える様に話していた。
でも、
澄ました顔で淡々と話す彼の、小さな拳が小刻みにプルプルと揺れていたのが、彼の隠し切れない気持ちの全てだと思った。
だから、彼に悲しく無いのかって聞いた。
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「悲しく無いかって?酷なコトを聞くのニャ。ミツネ殿は…。悲しみなんて無いニャ。ボクに残っているのは、ハンターと過ごして得た知識と、適当に暮らす事だけニャ」
「本当にそれでいいの?」
「それで…良いニャ。」
「本当に、それでいいの?」
「良い…ニャ。」
「…本当に?」
「しつこいニャ!良いって言ってるニャ!」
「じゃあなんで君は泣いてるの!!!」
ふと、アイルー君の動きが止まった。
前脚を目に当てて、肉球に着いた自分の涙を見る。
「アレ…?ニャんだろう…?これは…」
「涙だよ。泣いた事無いの?」
「うん…目から水が出たのは初めてニャ…」
「生きているとね、悲しい事、たくさんあるんだ。その気持ちが溢れちゃうと、涙になるんだよ」
「ボクは今、悲しいのかニャ?」
「……ほらあっ!うじうじしないッ!泣くんなら泣いて、全部出しちゃえばいいの!!私だって、そうやって生きてきた!!」
「ボクは…ボクは…」
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アイルー君がわんわん泣き出した。
それを見て、私も涙が出てくる。
ずっと溜めていた彼の気持ちが、私の中に流れ込む。
アルは戸惑っているけど、今はアイルー君の味方。ちょっと待っててね。