奥さん、貸した金が払えないなら身体で払ってもらおうか!   作:筆先文十郎

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王女であると同時に神の祝福を受けた勇者ミレイア。強さと美しさを兼ね備える彼女を魔王軍の歓迎が始まる。

ミレイアは魔王城にたどり着けるのか。そして彼女を待ち受ける運命とは!?

追記2に四天王と彼らがミレイアに仕掛ける前座が記載されています。ネタバレは嫌だという人は読まないことをお勧めします。


悪堕ちの女勇者ミレイア~正義の刃が悪へと変わる(前編)~

 文明というものが始まる以前から、人は魔物と呼ばれる異形の者と戦い続けた。

 しかし魔物は人よりも何倍も身体能力に優れ、中には魔法と呼ばれる未知の術に長けた個体も存在した。その力は凄まじく魔物が来れば戦う術を知らない者は逃げるしか方法がなかった。もし魔物の数が人間と同等であったのなら、人類は魔物に滅ぼされていたか奴隷になっていたかの二択しか残されていなかっただろう。

 だがそんな人類にも希望があった。

 

 勇者。

 

 神から祝福を受けた選ばれし者の名前。

 勇者は聖なる力で魔物を凌駕する身体能力だけではなく一度に多くの魔物を滅する魔法、瀕死の怪我を一瞬にして回復してしまう魔法を持っていた。

 その力は凄まじく、我が物顔で蹂躙していた魔物が勇者の名前を聞くだけで逃げ出すほどだった。中には人間を恐怖のどん底に陥れた魔物という自負から勇者に挑む者もいたが、生きて帰った者はいなかった。

 こうして勇者は人々の希望として。魔物の倒すべき存在として語られることとなる。

 

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 魔王城城下町から数キロ地点。

「ふう」

 川で顔を洗っていた少女がハンカチで水気をふき取ると、大きく息を吐いた。

 ミレイア・ゼーヴァリューン。

 脈々と続くゼーヴァリューン王国の第一王女で、神の祝福を受けた女勇者だ。

 流れるように艶やかな金の髪と、絶世の美女と称えられる母譲りの美貌。まだ顔立ちに幼さの影は残るものの、むしろそのことによってより一層引き立たせられる彼女の美しさと可愛らしさ。本来なら相殺するであろう、きりりと整った眉と切れ長の瞳から醸し出される勝気な印象も彼女を際立たせる要素となっている。

 男のみならず女も見てしまうほどに華麗で可憐であった。それは身体も同様。

 ほどよく豊かに膨らんだバストは、女性として魅力的なラインを描いている。下半身に目を移せば、動きやすさを重視した美しい白のスカートと、足を包む膝上までのソックスとロングブーツの間から健康的な太股が覗き、思わず目を奪われる眩しさであった。それでいてお尻は胸と対照的にきゅっと引き締まっている。訓練によって培われた程よい筋肉と、女性としての魅力を最大限に引き出す肉感の絶妙のバランス。

 その美しさに惹かれ、他国の王子や有力な貴族など求婚を申し込む男性は多数存在したが、「自分より弱い男とは付き合う気はない」という男勝りの性格と、神に選ばれた勇者に与えられた並外れた身体能力。それのみにとどまらず見事としか言いようのない剣捌き、に「今も昔も並ぶ者無し」と言われる魔術の前に、肩を並べられる男性は未だ存在しなかった。そんな彼女を民は称賛し、尊敬の眼差しを向けると同時に、異性であれば扇情的な感情を呼び起こさずにはいられないほどだった。 

「さて」

 ミレイアは振り返る。そこには天にも届きそうなほどの高さもある魔王城があった。その足元には多種多様な建物が碁盤の目のように建てられている城下町。

「私の旅もこれで終わる。魔物を統べる魔王を倒し、世界に平和をもたらす。それが私の使命だから」

 そう言うと勇者としての使命を果たすべく、王女は魔王城へと続く道を歩き始めた。

 

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 魔王城 玉座の間

「魔王様」

 首を刈り取るには十分すぎる巨大な鎌を持った、フード付きのローブを纏った上半身のみの骸骨が玉座に座る男に向かって膝を折る。

「どうした? デスランス」

 黒髪短髪オールバックにがっしりとした肉体を包み込むタキシードに黒マント服の服装。頬骨や顎のラインがはっきりしていて、がっしりとした骨格を感じさせるくっきりした顔の輪郭。彫りが深く目鼻立ちがはっきりしている濃い顔立ちは腹心に笑顔で尋ねる。

「斥候の報告によると勇者がこの魔王城にむかってきているとのこと。如何しましょう?」

「そうだな」

 魔王と呼ばれた男は顎に手を置いて思案する。

「久しぶりの客人だ。これは無礼のないように丁重にお出迎えしなければなるまい」

「では」

「あぁ。他の四天王、および住民にすぐに通達しろ。勇者を歓迎しろ。無礼のない(・・・・・)ように(・・・)、な」

「ハッ! 主の望むがままに!!」

 デスランスと呼ばれる骸骨は微かに笑う魔王に会釈をすると煙のようにその場から姿を消した。

 

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「こ、これは……!?」

 魔王城城下町にたどり着いた女勇者は言葉を失った。

 ドカーン! と祝砲が鳴らされ二足歩行の獣や人の顔をした樹木などの異形の者たちが花吹雪を撒くと共に

 

「勇者様が来られたぞ!」、「盛大に歓迎するんだ!」、「お待ちしておりました、勇者殿!」

 

 と喝采を送っていたからだ。建物には至る所に『ようこそ魔王城へ!』、『勇者様歓迎!』などと文字通り勇者である自分を歓迎する垂れ幕が掲げられている。

「…………」

 裏の意味のない魔王軍の歓迎にその場で固まってしまうミレイア。そんな女勇者の前に2メートルは優に超える豚の亜人、オークが「お待ちしておりました勇者殿」と頭を下げる。

「私はこの魔王城の城下町の警護長を務めておりますガリバと申します。我が主である魔王様からあなたを歓迎するようにと言われてお待ちしておりました」

「……あ。これはどうも」

 いつでも魔法を出せるように警戒しながらミレイアは頭を下げる。

「それでは魔王城までご案内します! 竜騎兵!!」

 ガリバが振り返り叫ぶと二足歩行の竜に騎乗したゴブリンが現れた。竜の背中には馬車を牽引する縄がつけられていた。

「ボルド。丁重に魔王城までにお連れしろ。丁重にな」

「ハッ!」

 ボルドと呼ばれたゴブリンは巨躯(きょく)のオークに敬礼で返す。

「い、いえ。ご心配に及ばず。歩いていけますので!!」

 両手を前に出し、首を大きく横に振って断るミレイア。

「そういうわけにはいきません!」

 そんな女勇者に巨躯のオークはあわてふためく。

「魔王様から無礼のないように歓迎しろと厳命を受けております。魔王城にたどり着くまでの間怪我をされては困りますし、なによりここから魔王城までは距離があります。勇者殿も長旅で疲れておられるでしょう。そんな勇者殿に疲れさすような真似をさせれば、このガリバ……首を刎ねられてしまいます!!」

 そう言うと巨躯のオークは地響きが起きるのでは錯覚する勢いで地面に膝をつき、頭を下げる。

「どうか勇者殿! このガリバの顔を立てると思ってどうか!!」

「わ、わかりました……」

 自分が見上げるほどの巨躯のオークが涙を流しながら頭を下げる姿に引け目を感じたミレイアは牽引するゴブリンに「では。魔王城までお願いします」と声をかけると馬車に乗り込んだ。

 

 

 

「勇者様、頑張って!」、「元気でな、勇者殿!」、「また会おうね!」

 馬車に乗り込んだ女勇者に向けて応援する魔物達の声は、ミレイアが魔王城に入城するまでやむことはなかった。




自身を歓迎する魔物達を前に無事魔王城への入城を果たしたミレイア。しかし魔王城には魔王四天王筆頭のデスランスをはじめとする四天王が前座として待ち構えていた。
果たしてミレイアは四天王を倒し、魔王と対峙できるのか?

次回悪堕ちの女勇者ミレイア~正義の刃が悪へと変わる(後編)~

追記
デスランス。下半身のないフードをかぶった骸骨。
下半身がないのに膝を折るとはこれいかに?





追記2
魔王四天王
ブンメーラ
魔王の妹。相手の魔法を魔力に変換にして吸収する。
四天王先鋒を務め、箱につけられた上から降りてくる手でミレイアを苦しめる。

リングス
狼男。縦横無尽に動き回る機動力で相手を翻弄し鋭利な爪で敵を引き裂く。
四天王2番手。滑らかな机から高速で打ち出される丸い円盤がミレイアを襲う。

直刀(なおと)
旧日本軍のような格好をしたゾンビ。彼の刀身を見たものはいないと言われるほどの剣速を持つ。
四天王副将。複数の穴から繰り出されるワニにミレイアは苦戦を強いられる。

デスランス
魔王の腹心にして四天王リーダーの死神。大鎌による近接戦闘から魔法まで何でもこなせるオールラウンダー。
四天王大将。制限時間に樽に開けられたハズレ以外の穴に刀を差し込まないと黒ひげの男が飛び出すという全ての力を駆使しなければ突破できない仕掛けを施す。

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