奥さん、貸した金が払えないなら身体で払ってもらおうか!   作:筆先文十郎

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唯一の肉親である父を失って天涯孤独になった少女、久木桃。父の親友である九頭本健吾に引き取られた少女が、引き取った男好みの色に染められる物語です。


天涯孤独の少女は父の親友に徹底的に調教される

「うぅ、ゲホゲホ……」

薄暗い病室のベッドに枯れ木のようにやせ細った男が大きく咳き込んでいた。真っ白な布団に赤い斑点が飛び散っている。

九頭本(くずもと)。お前に……俺の一人娘……(もも)を、頼む」

「ハァ?……お前何を言ってんだ?」

今にも目の前で死にそうな男の願いを鼻で笑う。

「お前は『桃が嫁にいくまで死ねねぇな。あいつを嫁にいくまで成長させるのが弱い身体なのに桃を生んでくれたひな子(あいつ)に対するせめてもの礼だ』って言っていただろう。死ぬならあと10年は生きるんだな。そしたら結婚できる16歳になるから」

「ゲホッゲホッ!そ、そうしたい……んだが、もう、俺は……」

無理だ。

紙のように白い肌と30代前半にもかかわらず二回りほど老け込んだ顔つきが、自分がかつて言っていた宣言を果たせないことを物語っていた。

「……」

今日明日にも死にそうな親友に男は言い放つ。

「おい、久木。お前が死んだらお前の娘は引き取ってやる。保障(・・)はしないがな」

意味深な笑みを浮かべる男に、ベッドに横たわる男は心残りのない清々しい笑みを浮かべた。

 

 

 

死を目の前にした親友を最後まで笑った九頭本(くずもと)健吾(けんご)が病室を後にしたその日、久木(ひさぎ)耕平(こうへい)は他界した。

その死に顔は天涯孤独になる一人娘がいるにもかかわらず一点の不安や心残りのない、心穏やかな物だった。

そして久木耕平の一人娘、久木桃は自分の父親を最後まで笑っていた男に引き取られることになる。

この日を境に久木桃の人生は男の望む女になるように調教される人生を歩まされることとなる。

 

 

 

男の家に連れてこられた少女は朝昼晩食事を食べたら歯磨き、家から帰ったら手洗いうがいをするように強要された。

一人で遠くに外出することは許されず、友達と出かける場合でも午後5時という門限を設け束縛した。門限を過ぎたのにもかかわらず連絡一つしなかった時は事情を聞いた上とはいえ晩御飯抜きという拷問を加えられたこともあった。

 

中学校に上がる年頃になると自分の部屋を与える代わりに「自分のことは自分で出来るようにしろ!!」とこれまで男がやっていた家事を強要された。

さらに男は自分が楽になるように「これで今日の晩御飯を買ってこい!お前のお菓子は200円以下だ!」と一人で買い物を行かせるようになった。

 

物心つく頃には反抗する少女に罵声を浴びせるようになった。

「なんで九頭本さんをお父さんって呼んじゃあいけないんですか!!」

「バカか、お前は!!お前の父親は久木耕平ただ一人だ!!」

 

長年にわたる男の徹底的な調教に高校生になる頃には少女は変わり果てていた。

成績は全国でもトップレベル、運動神経は運動部にひっきりなしに勧誘され、先輩や同級生・後輩に慕われ一年生で生徒会長に任命されるほどの才色兼備の女性に。

 

そして。遂に男の調教から解放される時が来る。

高校を卒業して地元の一流企業に就職し、そこで出会った男性と婚約するまでの仲に発展。結婚式をすると決めた一ヶ月前に自分を調教した男が倒れたのだ。

病院で診察を受けた結果はガン。それも胃や肺にも転移した末期の状態で余命は一ヶ月ほど。

偶然にも長年に渡り調教した男の病室は、父である久木耕平と同じ部屋だった。

 

「死なないで下さい!九頭本さん……せめて結婚式で『育ててくれてありがとう、お父さん』って言わせてから死んで下さい。お父さん!!」

「……ば、バカだろ。……お前の、ちち、おや……は、ひさ、ぎ……こうへい……ただ、一人……――――」

そういい残し、少女を長年に渡り調教した男は、滝のように涙を流す、一人前の女性に成長した少女の前で息を引き取った。

その目には一筋の涙がこぼれていた。

 

 

 

長年に渡る調教から解き放たれた少女は男が残していた遺書に従って、予定通り一ヵ月後に結婚式を挙げ二人の子どもを産んで末永く幸せに暮らした。

家の仏壇には彼女の産みの親である両親と、何故か自分を結婚するまで調教し続けた男の遺影があった。

 


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