仮面ライダーエグゼイド レジェンダリー・エンディング 作:エクシ
第1話「Hurricaneの兆し!」
「僕たちCRはゲーム病で消滅した方々の命がなくなったとは考えていません。」
ゲーム病の担当医が仮面ライダークロニクルの終結を告げる会見の中で言っていた。データも命として扱う、人がそう考える時代が近づいているのかもしれない。
ならば私 南雲影成の計画はやはり正しいことなのだろう。もうすぐ命が尽きようとする者をゲーム病に感染させ保存しておくというこの計画。前の会社を辞めてこのマキナビジョンに幹部として入ったことは正解だったようだ。
以前の仕事でバグスターウイルスやライダーガシャットを軍事的な目的で利用するために調査を行ったことがあった。確かブレイブとかいう仮面ライダーに変身するための試験だった。
そこで私はブレイブになることは叶わずライダーガシャットも手に入れることは出来なかったのだが代わりにシュシュットニンジャというゲームのデータは手に入れることが出来た。先日CRのコンピューターをハッキングして奪った幻夢VRのデータ内容とは少々異なる経緯で手にしたものだが…。
とにかくそのシュシュットニンジャのデータはマキナビジョンに入る際、とても役立ったのだ。
「ニンジャ!素晴らしい!私とてもニンジャ大好きデース!」
私のプログラム技術を買って社長自らスカウトしたらしいのだが、どうにも私が忍者ゲームのデータを持っているから幹部になることが出来たのではないかと思わせるぐらいマキナヴィジョンの社長 ジョニー・マキシマは何を考えているのかわからない男であった。
「我々はハリケーンサバイバルというゲームのデータを持っていマス。そのニンジャのゲームと合わせて最強のゲームを作りましょう!」
「あの…私は…。」
「OKOK!わかってマス。あなたが何かをしたくて我が社へ来て下さるということを。お好きにしなさい。私は口を出しませんから。」
最後の方はカタコトの日本語ではなく真面目な顔で流暢に話していた。ここまで放任してくれるのは私にとってありがたい話だ。社長は新たな仮面ライダークロニクルでマキナヴィジョンの利益をあげる。ただそれだけうまく行けばいいのだ。
ならばハリケーンサバイバルとシュシュットニンジャ、この2つのゲームを合わせた新たな仮面ライダークロニクル ハリケーンニンジャで彼女を救おう。
暗い回廊を進んだ先には机が1つだけ置かれた部屋があった。その机の向こう側にはマネージメントチェアが向こう側を向いて置かれている。霧島がその部屋に着くと椅子がこちらを向いた。誰かが座っていたようだ。
「お待たせしました。」
「おぉ、霧島君。調子の方はどうかね?」
「抜群です。ディザストの力が幻夢コーポレーションでの戦いで戻りましたから。」
「ドクター・フェイスがハリケーンサバイバルとチゾメノミソギを併用しなければ君の力も弱体化することはなかった。面倒な段階を踏ませてしまったね。」
霧島の上司に当たる男は温和な態度で霧島に語り掛ける。
「いえ、彼は私のいわば…パートナーですから。それに幻夢コーポレーションでの戦いではレジェンドライダーガシャットを手に入れることが出来ました。」
「確かスペースギャラクシーフォーゼガシャットまでは君が天ノ川学園で作ったんだったね。マジックザウィザードガシャット以降は…。」
「檀黎斗がDr.パックマンとの戦いの際にデータ収集し作り出したようです。カイガンゴーストガシャットまで全て揃っております。」
「ならばそのガシャットらをすぐにマキナビジョンに渡してレジェンドライダークロニクルを始めようじゃないか。」
霧島はやはりそうきたかと苦々しい顔を見せる。その顔に彼の上司も何かがあったのだと気が付いた。
「問題発生かね?」
「…はい。急遽マキナビジョンがレジェンドライダークロニクルではなく独自の仮面ライダークロニクルを進めると言い始めました。」
「独自の仮面ライダークロニクル?…あの男が考えそうな話だ。」
「えぇ、ジョニー・マキシマ。彼は会社の利益や人々をゲームで楽しませようなどとは考えていない。支配です。彼の行動原理は支配にある。」
ジョニー・マキシマとの取引の中で霧島は彼の狂気に気がついていた。会社を大きくしていくのもあらゆる産業と取引をしているのも全て力を手に入れて自分の手中に収めたいという欲望からきているものだ。
「私がNEVERになりバグスターウイルスに耐えられる体を得て抗体を得たことはマキシマも知っています。」
「完全な抗体を得た状態でさらに大量のバグスターウイルスを摂取すれば人間がバグスター化することもか?」
「私がディザストであることを知っていますからね。」
「…あの男ならば自分もバグスターになって力を手にしようとする…か。」
上司は頭を抱えている。財団Xとしてはレジェンドライダークロニクルを実施しバグスターウイルスがどれほど仮面ライダーや怪人たちの力を”再現”出来るのか試したいのだが、ジョニー・マキシマがバグスター化すればそんな実験をしている場合ではなくなる。彼は世界を己の手中に収めようとするだろう。
「…マキナビジョンを止めなくてはいけないね。」
「えぇ、幸いにもマキナにはまだ完全な抗体を身につける技術はありません。ハリケーンニンジャガシャットを破壊すればマキシマも諦めが付くでしょう。」
上司はさらに上にそれを報告すると告げる。今回の霧島の任務が決まった。
久しぶりに社長に呼ばれた。恐らくα版がとりあえず完成したハリケーンニンジャガシャットのことについてだろう。マキナビジョン 日本支部に作られている社長室は日本のもので溢れている。日本の城の天守閣をイメージして作られているようだ。部屋の中には畳もある。
「Mr.影成、ハリケーンニンジャが出来たというのは本当ですカ?」
「まだ実用段階には至っていませんが。」
それに新型バグスターウイルスもまだ完成していない。このことは社長には言っていないが、いずれにせよまだまだ世間の目に触れるには早すぎる。
「それでもいいのですヨ。あ、そうそう。あなたが幻夢コーポレーションのメインコンピューターをハッキングして手に入れたゲーマドライバーの設計図、あれを元にして技術部が1台完成させましタ。あなたに預けておきまス。」
そう言って社長は私にゲーマドライバーを渡した。さすがは世界のマキナヴィジョン、社内間での動きが速い、もう完成させたのか。
「ありがとうございます。早くこちらもハリケーンニンジャを完成させますので…。」
「いいのです、いいのデス。私も急いでいませんカラ。」
結局話はそれだけだった。ゲーマドライバーを私に渡すために呼んだのか。何を考えているのか分からない人だ。
会社を出るともう日はとうに落ちていた。時刻を確認すると8時を回ろうとしている。この時間ならば当然か。もう今から向かっても病院の面接時間には間に合わないだろう。本当は彼女の顔を少しでも見たかったのだが…。とはいっても私はいつも正式に会いに行ったりはしない。彼女は私の顔を知らないのだから突然会いに行ったとしても誰だかわからない男に過ぎないのだ。
今日は帰るとするか。新型バグスターウイルスの開発に専念しなくては。
そう思い帰路につこうとした私の前に突然白い服を着た青年が現れた。
「南雲影成さんですね。」
「…どちら様で?」
「財団Xの霧島といいます。御社とお取引させて頂いていました…まぁエージェントといったところでしょうか。」
財団X…?確か社長から聞いたことがある。ハリケーンサバイバルのデータは財団Xという組織から取引の中で手に入れたものであると。
「それは…いつもお世話になっております。」
「いえいえ、ですからお取引させて頂いて”いた”…んですよ。」
「…。」
「…ハリケーンニンジャガシャットは持っていますね?大人しく差し出してください。」
そう言うと霧島は黒のガシャットを取り出す。どうやらこれは脅しのようだ。だが見た様子だとゲーマドライバーは持っておらずライダーガシャットしか手元にはないようだ。それでどう私を脅そうというのだろうか。
「生憎ですが極秘プロジェクトの重要なものですのであなたに渡すことは出来ない。」
「そうですか、ならば…。」
-ハリケーンサバイバル!-
…!ハリケーンサバイバルのマスターガシャットか!あくまで私たちはハリケーンサバイバルのコピーデータしか持っていなかった。コピーデータだけでは変身シークエンスを起動することは出来ない。だから元々持っていたデータ、幻夢VRから奪ったデータで何とか形になったシュシュットニンジャとコピーデータであるハリケーンサバイバルを合わせてハリケーンニンジャガシャットを作り出すことが出来たのだ。
霧島は起動させたハリケーンサバイバルガシャットを自分の体に挿した。そんなことをすれば大量のバグスターウイルスが人体を蝕みあっという間に消滅してしまう。そんなことは既に研究でわかっている。
しかし霧島の体は予想に反し異形の存在 バグスターへと変貌していく。竜巻を思わせるデザインが体のあちこちに施され、体のベースカラーである迷彩色はサバイバルゲームのバグスターであることを想起させる。
「私のこのディザストの姿を見てもまだ抵抗しますか?」
…やるしかない。私はゲーマドライバーを腰に装着した。
「何!?ゲーマドライバー!?」
-ハリケーンニンジャ!-
「変身!」
右手で起動した白と濃紺2色のハリケーンニンジャガシャットを前に突き出した後、掛け声と共にガシャットをメインガシャットスロットに装填する。そしてアクチュエーションレバーを展開。
-ガシャット!ガッチャーン!レベルアップ!マキマキ!竜巻!ハリケーンニンジャ!-
パネルが私の体を通過していき仮面ライダー風魔 ニンジャゲーマーへと変身した。
「まさかゲーマドライバーの設計図までマキナ側が手に入れていたとはね。」
「私の手にかかれば幻夢コーポレーションのコンピューターなど数時間で侵入出来る。」
逆に言えば私でも数時間かかる…という意味でもあるが。
「いいでしょう、あなたと戦ってそのハリケーンニンジャガシャットを奪ってみせる。」
「私に到達できればだが。」
ハリケーンニンジャの力を見せてやろう。暗闇の中から忍者プレイヤーが現れディザストに襲い掛かる。
「な!これは…フェイス!?」
仮面ライダーフェイス。財団Xのメンバーが変身するらしいな。社長から渡された資料の中で見たことがある。どうやら数年前のブレイブの試験にもいたらしいことを幻夢VRのデータから知った。
フェイスはハリケーンサバイバルのガシャットで変身する仮面ライダーだ。当然ハリケーンニンジャにもそのデータの一部が使われている。サバイバルゲームということもあり複数人のフェイス改め忍者プレイヤーを僕として召喚できるようにしておいたのだ。
忍者プレイヤーたちは次々とディザストに襲い掛かる。それぞれの戦闘力も戦闘員にしては高めに設定してある。ハリケーンニンジャガシャット1本でギリギリコントロール出来るレベルにだ。それにもかかわらずディザストは忍者プレイヤーたちに竜巻をぶつけて吹き飛ばしていく。さすがは多人数ゲームの妨害キャラクターをモチーフにしたバグスターといったところだろうか。
「こんな姑息な手段を使わずに自分自身で戦ったらどうです?」
「そんな挑発に乗る私ではない。」
続けざまに忍者プレイヤーたちを召喚していく。がディザストも本気を出したのか。自分を中心に竜巻を発生させ周りのものを破壊していった。
「く…!」
私も巻き込まれる!手で前を覆った瞬間、目の前にディザストが現れパンチを叩き込んできた。吹き飛ばされる私は背中から忍者刀を抜いて地面に突き刺し何とか壁に叩きつけられるのを防いだ。手にしていたガシャコンバグヴァイザーも忍者刀を取る際に手放してしまったが今はこの戦法が最も理に適っているはずだ。
引きはがされまいとする私に接近し暴風をとめてから蹴りをいれてくるディザスト。まずい、このままではやられる…!
そこで再び暗闇の中から忍者プレイヤーが現れる。…しかしおかしい、こんな忍者プレイヤーを私が召喚した覚えはない。先ほど私が手放したガシャコンバグヴァイザーもいつの間にか拾っている。こんなプログラムを施してはいない。
その忍者プレイヤーは周りが暗いせいで良く見えないが白と黒の二色で色付けされているように見える。体や顔のあらゆる部分に騎士の意匠を思わせる装飾もある。
「お前は…!」
「おっと気が付いた?」
「やはりフェイス!なぜ私に攻撃を!」
2人は知り合いだったようだ。それに忍者プレイヤーだと思っていた戦士は先ほどいった仮面ライダーフェイス その人であったらしい。
「ドクター・フェイス。そのガシャットは…?」
「あぁ、チゾメノミソギが成長したタドルミソギさ。またこれで成長するがね。」
-ガッシューン!ガシャット!-
そういうとフェイスは自分のゲーマドライバーから抜いたタドルミソギガシャットをパッドモードのガシャコンバグヴァイザーに装填し、銃口を私の方へ向けた。変身は解除され銀髪のドクター・フェイスの姿が露わになる。
「…!」
私の体からバグスターウイルスが吸収されている…?
そうだ、あれはチゾメノミソギガシャットが成長したものだとフェイスは言っていた。チゾメノミソギガシャットは他のデータを吸収することで成長するガシャット。恐らく簡易版タドルクエストガシャットのデータを大量に吸収したことでタドルミソギガシャットにこの数年で変化したのだろう。
そして今私のバグスターウイルスのデータを吸収したことでタドルミソギガシャットはタドルホラーガシャットへとさらに成長した。
「どういうつもりです?ドクター・フェイス。」
「データ収集さ。これでこのガシャットはレベル100!素晴らしいガシャットの完成だ!試させてくれ!霧島!!」
-タドルホラー!-
「ランク100!変身!」
-ガシャット!ガッチャーン!レベルアップ!滴る生き血!甦る魂!タドルホラー!-
ドクター・フェイスは仮面ライダーフェイス ホラーゲーマー レベル100へと変身を遂げ、ガシャコンバグヴァイザーをチェーンソーモードにしてディザストに襲い掛かった。
しかしフェイスも霧島も財団Xのメンバーのはず。なぜ仲間同士で戦うのだ?だがこれはチャンス。ハリケーンニンジャガシャットを奪われぬために私はその場を後にした。