Cクラスの臆病者 作:ビビり山田
やはりか。
ため息をつきながら、僕は綾小路の暗躍を見ていた。正確には聞いたのだが、そんなことはどうでもいい。
問題は綾小路の行動だ。何をどうやったのかは知らないが、クラスを焚きつけて全員が勉強に勤しんでいる。
これでは、敵に塩を送ってしまったようなものだ。当初の予定ではDクラスに大差をつけて勝つことでCクラスの株を上げると同時に、Dクラスの評価を叩き落としてやろうという作戦だったのだが、この調子では差がつくとしても大差ではないだろう。
どこからか、綾小路が過去問を手に入れていたみたいだし。
「うまくいかないなぁ...」
一番大きなメインの計画が潰れてしまった今、僕には綾小路を一気に追い詰めることはできない。
精々、次への布石となる程度の計画しか残っていない。
それも見破られてしまう可能性が高いのだが。
僕はこの時点で、半ば綾小路を追い詰めることを諦めた。あとは龍園に任せて、別の計画をメインに据えてDクラスを潰し、崩壊させる。
本来僕は、Dクラスを潰すつもりはなかったのだが仕方がない。僕の知り合いには悪いけどクラスごと潰させてもらおう。
綾小路に対して既に用意してしまったた策は全て足止めになるとポジティブに考えて、別の計画を進めることにした。
・・・
翌日僕がやってきたのは、ウチの高校の一年生に人気のあるカフェだ。流石に一人で行くと怪しまれるので近くにいた女子生徒をナンパする体でカフェに入った。
誘った女子生徒に適当に話を合わせながら、目的の人物がやってくるのを待つ。
そして、ついに目的の生徒がカフェに入って来た。
アポを取っているわけではないので、僕から話しかけにいかないといけない。僕に話しかけてくれればいいのに。
仕方ないので、女子生徒にまた会おうと言って別れ、僕は一人になった。
早速話しかけようと思っていると、幸運な事に向こうから話しかけて来てくれた。
「端橋君...だよね?」
「うん、そうだよ。君は確か...櫛田さんだったかな」
「そうだよ!はじめましてだね。」
櫛田桔梗。フレンドリーでクラス内外問わず友達が多いと聞く。というか、僕と知り合うのも時間の問題だっただろう。
Cクラスとの交友関係は龍園の目に触れないように注意して気づく必要があるから他のクラスよりも友達の輪を広げるのに苦戦しているのだろう。
まあ、僕と接触するぐらいだ。
Cクラスの生徒の大部分と友達になったのだろう。
その後、他愛もない話で僕と櫛田は盛り上がった。しかしこの櫛田という女、会話の端々から人脈の広さをちょこちょこアピールして来る。
僕が友達から 〜 と聞いたんだけどと言うと、
『それってA君の事だよね!私も聞いたよ!」
と言う感じだ。色々なクラスの人間から聞いたと言う話を態々クラスと名前まで言って教えてくれる。
よく覚えていられるなと感心したほどだ。
それが数回程度なら僕も気にならないが、全ての話題にクラスと名前がひっついて来るのだ。
流石に顔が広いアピールをしたいと勘違いされても、文句は言えないのではないだろうか。
だが、今櫛田個人に関する思考は必要ない。そんな物は知ろうと思えばいつでも知ることができる。
「そうなんだね。ところで櫛田さん、ちょっとした相談があるんだけど聞いてくれるかな」
「うん、何かな?」
さて、櫛田が表向きの提案に乗って来るかどうか...
○○○
私がカフェで友達と話していると、Bクラスの女子生徒と一緒にとある男子生徒が入って来た。
ここのカフェは男子が一人で入って来ることは滅多にないのでカップルで入って来る事自体に驚きはないのだが、問題はその男子生徒が学年でも人気の高い男子、端橋渡だった事だ。
付き合っている噂もなかった分かなり目立っていた。女子生徒はかなりご機嫌だ。会話も弾んで楽しそうだ。
かなり控えめな音だが、チッという舌打ちも聞こえる。
しばらくあの女子生徒はあの端橋君と二人でカフェに行ったと友達に自慢しまくるだろう。
女子生徒は話し足りないようだったが、端橋君が話を終わらせ今度また会おうと言うと若干女子生徒の方は寂しそうにしていたが、別れた。
端橋君が席を立ち上がり、帰ろうとしていたので私は慌てて声を掛けた。
「端橋君...だよね?」
周りからの視線が痛いが、友達作りのためだやむを得ない。
後で周囲にいる知り合いにはフォローするとして...
Cクラスのニ大巨党の一党の頭、端橋君と友達になるのが優先だ。
私はそんな軽い気持ちで彼に話し掛けた。
しかし、彼との話は初めの方こそありふれた世間話や最近の流行りものの話、噂など誰とでも話すことのできる内容だっのだが、もうそろそろいいだろうと思い、連絡先を交換して帰ろうと思い声をかけようと思ったその時、爆弾を投げかけて来たのだ。
『今のクラス、君はどう思う?』
その真意は分からない。分からなかったが、私は不安を煽られた。
堀北鈴音さえ居なければ、私は気兼ねなく交友関係を広げることができたはずだった。そう思ったことは一度やニ度ではない。
しかし、違うクラスで今日初めてあった人間にそんな自分の内心を見抜かされているとは到底思えない。
「どういう意味かな?」
良いクラスだよ。そういうのは簡単だ。しかし嘘はつけばつくほど、見抜かれやすくなってしまう。本当に騙したいのであれば、嘘をつく回数は最小限に抑えるべきだ。
私は疑問に疑問で返すことではぐらかした。
「櫛田さんは友達も多そうだし、Dクラスで支給されるポイントじゃ追いつかないんじゃないかと思ってさ」
にっこり笑顔でそう言ってくる。
「ん〜、確かに厳しいと感じることはあるかな〜」
「やっぱりそうだよね、そこで何だけど...」
『ちょっと協力してくれればお礼として.毎月五万ポイント渡そうと思うんだけど、どうかな』
5万ポイント..,cクラスの生徒にそこまでクラスポイントの余裕があるとは思えない。嘘かハッタリか、私の答えを聞きたいだけなのか...
何にしても危険な誘いであらかたには違いない。ちょっとした協力と言っているが、覚悟のいる協力になることは想像に難くない。
「ううん、いいよ。私は今のクラスの人たちが大好きだから、皆が沢山ポイントを貰えるようになった方がいいと思うんだ。だから、私だけ得するようなことは出来ないよ」
正直毎月五万ポイントという条件にはかなり揺れたが、私の第一目標はポイントの獲得ではない。ポイントは目的の為の手段に過ぎないので目的と手段を履き違えるような真似はできない。
「・・・そっか。そうだね、やっぱり自分のクラスが一番だよね。僕のクラスは色々あるから、他のクラスの人もそう思っているのかと思って勘違いしちゃったよ」
龍園の事だろう。絶対王政のようなクラスになってしまっていると聞く。龍園の命令は絶対だ。
あの存在がいるからこそ、目の前の男と知り合い、或いは友達になることもできなかったのだから。
「そうなんだ...色々あると思うけど、頑張ってね」
「ああ、ちょっと待って。もう一つだけ聞いてもいいかな」
ついさっき思い出したかのように、ふと思いついたかのように、ごく自然に目の前の男は私にこう尋ねた。
「堀北鈴音って人の事教えて貰えないかな」
急いでるから、とでも言ってその場を立ち去ろうとしたがあの女の名前を出されたら、私が立ち止まらないわけがない。
「堀北さん?どうして?」
「龍園に聞いて来いって言われてね」
龍園が目を付けている。堀北鈴音を何らかの形で貶めようと画策していることがわかった私は、内面嬉々として、外面不思議そうに知っていることを全て話した。
「なるほどね。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
お礼を言いたいのはこっちの方だ。
龍園に脅されていると聞かされて、端橋君が酷い目にあってしまうかと思って話してしまったという言い訳が使える。
本人に私が堀北鈴音の情報を漏らした事がバレても言い逃れができる。
そんなことを考えていると、さっきまで何か書いていた紙を半分に折って私に差し出してきた。
連絡先だろう。話している内容は店内がそこそこ騒がしいのでバレることはないが、携帯を見合って何か打ち込んでいたら連絡先を交換している事がモロにバレてしまう。
だから紙に書いて渡してきたのだろう。
私は頷いてその紙を受け取ると、端橋渡は席を立ち上がった。
私はまだ頼んでいたコーヒーが残っていたので、飲み終わってから帰ろうと席に座ったまま何となく端橋渡の後ろ姿を見ていた。
彼が歩いて行く方を見るとレジがある。そのことに気付いた私は机の上にあったレシートを探す。
「ない...」
席を立って私も払うよと言いに行こうとした時にはもう彼は会計を済ませていた。
出口はこちら側にあるので私がすれ違った時に礼を言うと、
「ああ、気にしなくても良いよ。じゃあね」
あまりにも自然にレシートを持って言ったので気付かなかった。
彼が学年で人気の男子生徒である理由の一端を垣間見た気がした。
○○○
間違いない。カフェで少し櫛田と話したが、堀北鈴音の事をよく思っていないのは明らかだった。
彼女は使える。堀北鈴音を害し、排するためならばなんだかんだと理由をつけて手を貸すだろう。
龍園に聞いて来いと言われたと知った瞬間、櫛田の笑みが一層深くなったのを僕は見逃さなかった。
間違いなく、教え過ぎだというぐらいの堀北鈴音に関する情報量を得る事ができた。
銀行を利用している人達にも話を聞いて見るが、おそらく櫛田ほどの情報を持っている人間はいないだろう。
これほどの情報だ、ただ知っているというには不自然極まりない。何かに利用しようと思っていたのは間違いない。
「Dクラスには癖の強い人が多いな」
○○○
僕はとあるレストランに来ていた。
「久し振りだねー。いつ以来かな?」
「一週間ぐらい前に一回会ったんじゃないかな、みんなで」
今日は2人で会っている訳だが、カフェの時のように周囲からの視線にさらされる事はない。
個室のある高級レストランだ。
「最近Bクラスの調子はどう?」
「うん!それがね、皆頑張ってるから徐々にクラスポイントが増えて来てるんだよ!」
Bクラスは着実にクラスポイントを挙げているようだ。裏技とか賭けとかせず、順調に正々堂々とルールに則り増やしている。
僕らCクラスとは大違いだ。
龍園も僕も、いかに他クラスの評価を下げるか若しくはクラスポイントを一気に手に入れるか。
勉強して少しずつクラスポイントを上げて行こうなんて気は更々ない。少なくとも僕と龍園はそうだ。
大体学力に見合ったクラスに初めから配置されているのだから、上に追いつくほど勉強する、させるなんてのは骨の折れるどころの話ではない。
「cクラスのも勉強頑張って教え合えば、きっと上のクラスにもいけるよ!」
笑顔で言ってくる一ノ瀬。だが良いのか一ノ瀬よ、僕らのクラスの一つ上は君たちBクラスなんだが。
「あ、そう言えばそうだった!ごめんね」
男子にも女子にも好かれるとよく聞くが、この見た目と性格だ、人気ものにならないほうがおかしいだろう。
「そんな事ないよ、それに端橋君だってかなり人気ものだよ?」
全くなんの冗談だ。僕は目立たないように気を遣いながら、かと言ってボッチにもならないように気を付けて過ごしているというのに。
そんな事あるはずがない。
「え〜そうかなぁ」
クラスの子にも君の事が気になってる子は結構いるんだけどな〜とか言っていたが気のせいだろう。目立つ事など一つもしていない。
適当に話を合わせて、笑っているだけで何でそんな事になる。
「それで今日は何のようなのかな」
「ん?特に用は無いよ。ただ2人でゆっくり話がしたいなと思っていただけで」
一ノ瀬と仲良くなって損な事は一つもない。Bクラスのトップとは他の生徒よりも仲良くしておいたほうがいいだろうという考えのもとご飯に誘ったのだ。
何もおかしなところはない。
「・・・普通2人で行くって言ったら、大事な話があるかデート以外ないと思うんだけど...」
「え、そうなの?今までにも何回か2人で食事に行った女子は居るんだけど、そんなこと言ってなかった...」
「多分、意識してると思うよ〜」
・・・不味い。料理は美味いが状況が不味い。
中学の頃も女子と2人で出かけるなんて事は何度もあったから、別におかしい事じゃない友達付き合いの一環だと思っていたのに...
「顔色悪いけど、大丈夫?」
全然大丈夫ではない。もし2人で出かけた女子がそんなことを思っているのだとしたら..僕はプレイボーイとでも思われてるんじゃないか!?
最悪だ。
終わった。内心テンションガタ落ちの状態のまま、僕は一ノ瀬との食事を楽しんだ。