魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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ワクワクの一年生
一意専心


もう一度人生をやり直したい、もしくは別の人生を今の記憶を保ったまま歩んでみたい。そんなことを思ったことはないだろうか。

他の人よりも一歩二歩先に進み、誰よりも賢くなんでもできるようになりたい。

俺はある。例えば中学生の時にみんなの前で恥をかいたときや、高校のときに彼女に振られたとき。はたまた大学受験に失敗したとき……エトセトラ。なんか思い出して凹んできた。それはさておき

 

 

俺がある日、目を覚ましたらなんと生まれ変わってイギリス人だった。

 

 

何を言っているかわからないと思うが、何が起こっているか俺にも分からない。

前世は日本で明るく楽しくやっていたはずなのに、気がついたらどうやら二歳児になっていた。

そして黒髪黒目を捨てて、くるんとした栗色の髪の毛に茶色のお目々。客観的にもなかなか可愛いんじゃないか。

 

だが、生まれた国はイギリスである。俺英語喋れないし!!

 

 

 

* * * * *

 

 

 

『どうしましょう?あなた、アイクはまだ一言も喋らないわ。他の子たちはもうそろそろ話始めているのに』

『まぁまぁ、個人差というものもあるし、心配しすぎじゃないか』

『そうかしら、病院に連れて行った方がいいと思うんだけど。喋らないと思ったら実は耳が聞こえなかったっていう話を聞いたの』

 

お腹の膨らんだ女性が心配そうに言っており、そんな女性の様子を安心させるように肩をさする男性。彼らが俺の現世の父さんと母さん、両親である。

 

そして俺の名前はアイザック、アイクというのは愛称である。まさか海外ドラマのように愛称で呼ばれることになるとは思ってもいなかった。

 

辛うじて俺の名前はわかるが未だに話される言葉が早いとよくわからない。

俺は両親の視線を受けて、クレヨンで絵を描いていたのを止めて二人の方を向く。

発音が怖いので本場の人たちが話す英語同様に喋れる気がしなくてまだ喋ったことはなかった。

 

 

意識を持って数ヶ月経ち、少しずつ英語も聞き取れるようになり、語彙も増えていった。ある日家で母さんと遊んでいると、急にうずくまり呻き始めた。どうしたんだと思い母さんの顔を伺うと、とても苦しそうな表情をしている。

 

「アイク、お父さん呼んできてくれる?『陣痛』が来たみたい」

 

母さんがなにかを言った。お父さんを呼ぶことはわかったが、何が来たかはわからなかった。

俺は急いで父を呼ぶためにリビングへと向かい、大声を出す。

 

「パパ!!」

「な!?初めて喋ってくれたじゃないか!!どうしたんだいアイク?」

「ママが!!」

「どうした!?」

 

俺がそう言うと血相を変えて父さんが俺を抱きかかえて母さんの方へと走り出し、俺の部屋へと向かう。

 

「どうした?大丈夫か?!」

「あなた、『陣痛』が来たみたい……」

 

それからはばたばたとしており、父さんが車で母さんと俺を乗せて病院へと向かった。俺を預ける余裕などなくて慌ただしくしていた。

それから母は分娩室に移動して、俺と父さんは二人で落ち着きなく動いていた。

 

二人でわたわたとしていると俺は気づいたら父さんの膝を枕にして眠っていたようで、一方目を覚まして見た父さんは眠っていないようでひどく不安そうな表情をしていた。

陣痛からかなり時間が経って、ようやく壁を隔てた先からオギャーと赤ちゃんの声が聞こえた。俺の弟か妹が生まれたのだ。

 

 

その後、母が個室で眠っており、父さんが俺を連れて赤ちゃんをガラス越しに眺めていると抱き抱えられて声をかけられた。

 

「アイク、あれがお前の妹のハーマイオニーだよ」

 

そのとき俺に衝撃が走った。俺の苗字はグレンジャーである。ということは俺の妹のフルネームはハーマイオニー・グレンジャーである。

なんということだ、ハリー・ポッターの主要人物じゃないか?!

世界的なベストセラーの児童文学のメインの人物の三人のうちの一人である。

俺はあまり本は読まずマンガやアニメのほうが好きだったので内容までは覚えていないが、確か魔法使いの話であったはずだ。

ということはこの世界には魔法があるのだろうか?いや単なる同姓同名かもしれない。

何はともあれ前世には俺には兄弟、姉妹がいなかったのだ。とても愛しい俺の唯一の妹なのだ。

彼女が『彼女』であろうがなかろうが大事にしよう。

俺は生まれたばかりの小さな命を見ながらそう思った。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

速報!!この世界には魔法があって俺も魔法が使えるのだ!!!

 

すくすく俺とハーミー(ハーマイオニーの愛称、今はちゃんとハーマイオニーと呼べるけど最初は発音が難しくて呼べなかったから愛称で呼んでいて定着した)は成長していき、俺は半ばこの妹ハーマイオニーがあの『ハーマイオニー・グレンジャー』であると確信していた。

なぜならハーマイオニーは頭が良すぎなのである。

受験生も真っ青なとんでもない記憶力をもち、そして学習意欲の化け物であった。そういう勤勉なところも可愛い。

俺が英語の勉強のために本を読んでいるとそれを横から眺めてきて感想を言ったり、父さんが俺に問題やクイズを出すと先にハーマイオニーが答えを言ったりと同年代の子供に比べると圧倒的に賢いのである。

そしてそれが分かると俺は焦った。今はまだ妹に尊敬されて頼りにされているがハーマイオニーはいずれ魔法使いになってしまう。ならば俺も使えないといずれ頼りにされなくなってしまう。

 

「魔法を使えるようになろう!」

「あら、アイク急に大きい声出してどうしたの?魔法使いになりたいのかしら」

「私も使いたい!!」

「ハーマイオニーも?何かの絵本に魔法使いでも出てきたのかしらね」

 

 

俺が魔法を使えるようになるために必死に祈った。そして毎晩毎晩魔法が使えるイメージを練習していたのだ。

そしてある日、気づいたら布団が燃えた。

魔法といえば色とりどりの光線をイメージしていた俺は両手を広げてひたすら手の間に光が出る想像をしていた。

するとある日赤い火花を出せたのだ!

だがしかし、予想していたのはパチパチとした線香花火のようなものだったのが、最初はパチパチと最後はバチバチと火花が点滅して爆発した。

 

その結果布団は燃え上がり、部屋が若干焦げた。

 

親には嘘をつかずに魔法が使えたと言ったが、火薬を使って悪戯したものと勘違いされ、普通に叱られた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

そしてある日、俺の元に手紙が届いた。

手紙には切手もなく、四色で彩られた四匹の動物が描かれた紋章が描かれていた。封を切り、中を開けるとそこには、

 

『親愛なるグレンジャー殿

このたびホグワーツ魔法魔術学校に入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

新学期は9月1日に始まります。7月31日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。

 

敬具

副校長ミネルヴァ・マグゴナガル』

 

両親は首を傾げていたが、俺は歓喜してハーマイオニーと喜んだ。俺は魔法使いなのだと!!

 

 

 

* * * * *

 

 

 

その手紙が来てからしばらくして俺の元にはマグゴナガル先生が来て魔法世界について、魔法使いについて、魔法について、ホグワーツについての説明を両親にしに来た。

両親は最初渋っていたが、俺と、そしてハーマイオニーの説得により俺はホグワーツに入学することになった。

 

そして説明をされた後日、俺はダイアゴン横丁に行き、魔法世界の教材や杖を入手することとなった。

ダイアゴン横丁には俺と同じく家系に魔法使いのいない、つまりマグルの新入生が集められて、一緒に教科書の購入や杖を買うことになったのだ。

マグゴナガル先生の引率で教材を買ったりして、続いて制服の採寸となった。

制服を仕立てるお店で動くメジャーや一人でに布を切るハサミを見て感動していると同様に採寸している子供に会った。

他の子供達にも言えることだが前世の周囲の人間とは遠く離れた容姿をしており、不思議な感じがする。

一緒に採寸をしていた少年はどうやらマグル出身ではないらしく、親が近くにいるようだった。その少年は茶髪で灰色の目をしている。

 

「やぁ、元気かい」

 

俺がそう話しかけるとびっくりしたような顔をする少年。たしかに前世の日本では馴れ馴れしく映るかもしれないが、イギリスなら普通だろう。いや偏見かもしれないが。

おどおどと返事をされて若干傷つきながらも採寸を終えて、マグル出身の子たちと一緒にマグゴナガル先生に連れられて杖を貰いに行った。杖はなんとかの木になんとかの尾とか色々言っていたが正直細かくて難しかったのでほとんど覚えていない。

 

その後先生から今後の学校生活についてや、ホグワーツへの向かい方などを習い、解散となった。

俺は今後、待ち受ける学校生活がとても楽しみだった。

 

俺が魔法使いの学校に通うとなり、俺よりもハーマイオニーが魔法についての本に興味を持った。

ホグワーツについての歴史や変身術の初級理論などの本を読み漁り、ハーマイオニーがホグワーツを話題に出さない日はなかったと言っても過言ではないだろう。

 

 

「アイク、ホグワーツに入ってから最初に寮の組み分けがあるらしいわ。どんな方法や儀式でわかるかわからないけど、アイクならきっとグリフィンドールかレイブンクローね。勇敢だし、勉強も好きだもの」

 

ハーマイオニーはそう言うが、俺は勇敢であることに特に思い当たる節はないし、勉強が好きなのは英語の勉強の延長だっただけなんだよな。お兄ちゃんは秀才な妹の期待が重いです……。

でも実際入るならその二つがいいと俺は思ってる。愛しいハーマイオニーと同じ寮か尊敬される寮だ。できればどちらかに入りたい。

 

そして入学初日。俺は家族に見送られてホグワーツ特急に乗り込む直前であった。

にしても本当に壁をすり抜けた時は感動した。まさか映画で見たことを実際できるとは!いや、今後もこういう機会が多いのだろうけど。

 

「ねぇ、学校が始まったら必ず手紙ちょうだいね」

「分かってるよハーミー」

「どの寮に入るかとか、どんな授業だったとか、どんな道具があったとか私知りたいわ。……あぁ、私にも入学許可証が来てくれればいいのに」

「大丈夫だよ。ハーミーにも来るから」

「本当に?!絶対!?」

「あぁ、絶対だよ」

 

そういうとぱぁと花が咲いたような笑顔を見せて俺に抱きついてくるハーマイオニー。あぁ可愛い、天使だ、天使が地上に舞い降りているよ……。

 

「ほら、ハーマイオニー、アイクを離しなさい。もうそろそろ出発よ」

 

母さんにそう言われて俺からハーマイオニーは離れていった。もう少し抱きしめてくれてもいいのよ。

 

「気をつけてね、アイク」

「分かってるよ、母さん」

「一人でも大丈夫か?不安になったらいつでも手紙を送るんだぞ」

「うん、ありがとう、父さん。タラリアにお願いするよ」

 

そういって籠に入っているフクロウを見つめる。俺の入学祝いに両親が買ってくれた雄のフクロウである。三人とそれぞれハグをして頬にキスをする。

 

「それじゃ、いって来ます」

 

俺は笑顔でそう言ってから列車へと乗り込んだ。

 

 

 

 


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