魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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アイク視点です


方針会談

俺とエリスは夕食を終えて、二人で必要の部屋へと来ていた。まわりの内装は最初にこの部屋を知ったときと同じように前世の学校そっくりである。

俺たちは机を向かい合わせにくっつけて、俺は持ってきた食後のデザートとコーヒーを片手に、エリスはいつも持っている赤い本を読んでいた。なんだか前世の学校のようだが、座っている人間の見た目が完全な外人というちぐはぐなこの状況が少し面白い。

 

知り合って少し経ってからわかったのだがエリスはいつも必ず赤い本を持っていて、その本は何でも母の形見なんだとか。エリスのお母さんは早くに亡くなっており、二人いる妹はもし肖像画がなければ顔も覚えていなかったと思うとエリスは言っていた。その本の内容は俺やセドリックが読もうとしても白紙であり何も書いていないように見える。なんでも所有者にしか見えないものらしくステフも知らないらしい。エリスはその本を大切にしており、楽しそうに読んでいる。そして彼女はパンと本を閉じて顔を上げた。

 

「それじゃ今年の方針について話そうか」

「おー。といっても知ってるのはエリスだからエリスに教えてもらうだけだけどね」

 

俺とエリスはお互いに前世の記憶を持っているが、俺とエリスでは覚えているものがかなり違う。俺は全体的に前世でどう過ごしたか覚えている。対照的にエリスはほとんど覚えておらず、読んだ本についてはかなり覚えているらしい。エリスの前世はかなり病弱で闘病生活が長かったらしく、ほとんど本を読んで過ごしていたらしい。そのせいか印象的なのは本についてばかりで他は朧げらしい。その読んでいた本の中でのお気に入りがハリーポッターシリーズらしく、詳細に覚えているようだ。

俺はあんまり読書はしないし、アニメや漫画ばっかりだった上にハリーポッターの映画はあんまり見てないし、見たとしてもほぼ覚えていないため、ハリーポッターについては映画のタイトルとメインの人が二人いて、ヒロイン?の人がかなり美人だったことやシリーズがめっちゃ有名であることしか知らない。

セドリックが原作で結構活躍するらしいとか今年から事件が起こりまくるとか全く知らなかった。エリスはこれから起こる悲劇を可能な限り回避したいらしく、俺はそれに協力することを承諾した。

 

「今年はすることないわよ」

「え?今年から事件起こりまくるんじゃないの?」

「ええ、起こりまくるわ。このお城呪われたんじゃないかしらと考えるレベルでね。でもそのほとんどがその年にならないと起きないし、今年対策できるものは少ないのよ」

 

はぁと溜息をついて紅茶を一口飲むエリス。こんな感じで限定的にしかエリスは未来を語らない。俺が余計なことを知り何か行動をして未来が変わったら困るとか言っていた。未来についてはエリスにしかわからないので疑ったりすることはしないように決めているので彼女がないと言うならないのだろう。

 

「でも覚えておきたい呪文はあるわ」

「またかー」

 

軟体動物のようにぐでんと椅子の上で脱力してだらける。だらしないと叱咤されるが新しく覚える魔法があると言われたらこうなるわ、というのが正直な感想である。

 

「エリスが必要ってことは必ず後で使える魔法なんだけど一つ教えて。今回のと去年の動物もどきとどっちが難しいの?」

「動物もどきじゃないかしら。原作でも使えるのは数人だし、歴史上でも数少ないもの」

「ならまだマシか」

「それでもかなり難易度の高い呪文だけどね」

 

また学校では教わらないような高難易度の魔法を覚えるのか……。

俺とエリスは一年生から二年間、猛練習して動物もどきとなっている(ただし非公認。これバレたらまずいやつだよね)。メリットは少ないけど覚えておいて損はないとのことで必死に練習した。だって動物に変身するってすごく魔法っぽいし。幸いエリスが図書館で見つけた変身術の本の中に一冊すごい書き込みがされている本があって、それのおかげでなんとか習得できた。どこのどなたかは知らないけど、ありがとう、ワームテール、パッドフット、プロングズ。

 

「どんな呪文なの?」

「守護霊の呪文よ、杖から守護霊を出すの。守護霊は人によって様々な形になるのよ。例えばハリーポッターなら雄鹿だし、ダンブルドアなら不死鳥、ジニーなら馬よ」

「そのジニーって人は知らないけど、主人公が使う魔法ってことは確かに使う機会がありそうだね」

「今度用意してくるから、そうなったらステフやセドも誘いましょう」

「あれ、二人も誘うの?前の動物もどきの時は誘わなかったのに」

「動物もどきは秘匿性が大事なの、変身ができても変身した動物の特徴を相手が知っていたら逃げたり隠密に活動することもできないもの」

「なるほど」

 

エリスは賢いな、流石レイブンクローと迷われただけある。結局野心家であるのとグリーングラス家であることでスリザリンになったらしいが。

 

「それじゃあ、今日はもう帰りましょうか」

「そうだね。寮に戻ろう」

「あ、そういえば図書室の近くの部屋にね、鏡が置いてあるの」

「鏡?それがどうしたの?」

「まぁホグワーツに置いてある鏡ってことはもちろん普通の鏡じゃないんだけどね。その鏡はね、人の望みを写すの。名前は『みぞの鏡』。興味があったら行ってみると楽しいかもね」

 

そう言ってエリスは部屋から出て行った。望みを写す鏡か、面白そうだな。そう考えながら俺はハッフルパフの寮へと帰っていった。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

さて俺たちはチョークの劇をやってはいるが、あくまで部活のようなものであり、学生の本分は勉強。俺や宿題の終わっていない生徒は談話室に集まり協力して取り組んでいた。

 

「うわー、終わらない。あと15センチもレポートは書けない。魔法史しんどい」

「あらアイク。そこスペルと文法間違えてますよ」

「嘘だろ!?お願いステフ、嘘と言って」

「こことそこと、あぁ、あとここもだね」

「うわーセドまで!増えた!もうやだー」

「いつも変なミスしてるよね、アイク」

 

ぐでーとテーブルの上に体を預ける。もうやだ、英語嫌い……。元々日本人である俺にとっても文法は地獄である。こっちの人にとってはよくわからないミスをしているらしい。日本語が良いよう……。ただし日本語でも書けない自信がある。

 

「ナタリア、インクが袖についてるよぉ」

「わかってるわよ!急いでるの!そんなの気にならないくらいに!」

「でも後で騒ぐよねぇ」

「それとこれとは別よ!」

「お前はもう少し急げよ、キース」

「え〜、大丈夫だよ〜きっと〜」

「いや、そのペースだと朝までかけても間に合わねぇよ」

 

別のテーブルでは成績やばい組が悲鳴をあげている。まぁ彼らは別に今回に限ったことではないので見慣れたものである。

 

「ねぇねぇ、セドくんやい。もし良かったら参考に君のレポートを出してくれないかい?」

「良いけど、コピーは禁止だからね」

「くっ、ステフ、俺に」

「ダメです」

 

食い気味に拒否られた。残念だ。全く筆が進まない。台本を書くときのスピードが欲しい。なぜあのスピードが魔法史のレポートで出さないのだ。

 

「興味の差ではないですか?」

「あれ、口に出してた?!」

「良いから集中してください。これ以上集中しないでふざけている余裕があるなら新しい洋服を着てみますか?」

 

ステフを見ると笑顔だった。顔に真剣と書いてマジと読む字が出ていた。ちくしょう、心の中で悲鳴を上げながら黙々と書き続けた。後ろで楽しそうにセドリックやケビンが話しているのが聞こえる。羨ましい。あ、そういえば

 

「セド、クィディッチでまたレギュラーになれそう?」

「あぁ、うん。今年もシーカーになりそうかな」

「へぇ、すげぇな流石セドリックだな」

「ありがとう、ケビン。君は今回も主役やるのかい」

「いや、今回はグリフィンドールのやつがやることになった。まぁ劇にはサブメインとして出るけどな」

「アイクのキャスティングかい?」

「いや、今回は俺じゃなくて本人の希望と多数決だから」

「あいつ張り切ってたもんなぁ」

「そうなんだ。ところでアイク」

「ん?」

「ステフが部屋に戻って行ったけど良いの?」

「え?」

 

パッと隣を見るとさっきまで座っていたステフがいない。あれ、いつの間に?そう思ったらステフが服を持ってきいた。今回はテイストをだいぶ変えて黄色いチャイナ服である。スリットがあり、美脚な人間が履けばだいぶ映えそうである。

 

「ちょ、やめてお嬢様!?流石にそれは際どいです!」

「ス・テ・フ、そうお呼びください。それと大丈夫ですよ、アイク。あなたの足はほっそりして綺麗ですから。似合うと思いますよ」

「違、そういう問題じゃ、あ、そうだ、キース、キースの方が似合うはず」

「もう着てますよ」

「え?」

 

ちらりと別のテーブルを見ると赤いチャイナ服に身を包んだキースが目に入った。元々幼い男児のような容姿をしているので子供がコスプレしているようで可愛らしい。彼はその格好のままおもむろに立ち上がり、脚をケビンに振り下ろした。

 

「あちょー!!」

「あだ?!足急に振りあげんなよキース!」

「え〜。なんていうか、こう、拳法って感じがしない〜?」

「どうでもいいけどパンツ見えてるからやめてほしいんだけど」

「可愛いよぉ、キース」

 

適応していた。というか楽しんでいた。服をよく見るとデザインの細かいところが異なり、ステフの洋服に関するこだわりが見えた。

 

「くっ!だが俺は屈しな、あれ、ちょ、待っ」

 

その後書き終わるまで俺とキース、ついでにナタリアはチャイナ服で過ごしていた。ナタリアの脚が綺麗なこととステフが衣類関連の魔法に関して鬼強いことを知りました。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

そして深夜。俺はセドリックを起こさないようにそぉっと起きて、エリスの話していた鏡のある教室へと向かっていた。

動物もどきの能力を得た俺は、動物、アナグマに変身して四本の脚をとことこ動かし静かに歩く。

黒と白の綺麗な毛並みである。たまにエリスがもふもふしたがるので二人きりのときにだけ変身している。

アナグマから人へと戻り、ドアを音を立てずに開けると埃っぽい空気を感じた。中に入りドアをそっと閉め部屋の中を見ると真ん中に鏡が鎮座している。なるほどこれがエリスの話していた鏡か。

 

『すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』

 

この謎の言葉が書かれているがこの鏡は人の夢、理想つまりは『のぞみ』を写す鏡。それがなぜか『みぞの鏡』と呼ばれているのなら逆さから読んで

 

『わたしは あなたの かおではなく あなたの こころの のぞみ をうつす』

 

と文はなるのだろう。さて俺の『のぞみ』としてどんなものが写るのだろうか。鏡の正面に立ち何が写るかわくわくしていた。

映ったのは俺とハーマイオニーが仲よさそうに会話している様子だった。あぁ、確かに最近会話はおろか、会うことすらないからなぁ。せっかく同じ学校にいるんだからもっとおしゃべりがしたいなぁ。そんなことを考えているとハーマイオニーがこちらを見て微笑む。なんだか目があったような気がした。そう思っていると突然ハーマイオニーの体が泥のように崩れ落ちた。

 

「ハーミー?!え、どういうこと?俺そんな展開望んでないよ!?」

 

慌てふためく俺を他所に鏡の中の俺は冷静にこちらを向き、微笑んだ。いや、それは気がついたら俺ではなかった。滑らかな絹のような金髪を三つ編みにした一人の女性が写っている。落ち着いた雰囲気がどこかステフに似ているような気がした。しかし、写った女性には口以外の顔のパーツがなく前髪や暗さで顔の全貌がよく見えなくなっていた。驚いていると、唯一あるパーツ、唇を動かし口を開くと声が聞こえた。

 

「はじめまして、ハッフルパフの寮生よ。ヘルガ・ハッフルパフに作られた我が名は『みぞの鏡』。貴方の心を写す鏡です」

 

 

 

 

 




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