魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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溝鏡望鏡

「はじめまして、ハッフルパフの寮生よ。ヘルガ・ハッフルパフに作られた我が名は『みぞの鏡』。貴方の心を写す鏡です」

 

そう顔のない女性が俺に言う。落ち着いた声で人を安心させる声だった。口角が上がり、柔らかい笑みを浮かべている。俺はというと完全にキャパオーバーして頭が真っ白になっていた。え?ヘルガ・ハッフルパフってホグワーツの創設者の一人だよね?つか、千年前に作られた魔法道具が未だに実用できてるの?てか喋った!?エリスは何も言ってなかったんだけど?次々と疑問が浮かぶが何から聞いてよいかも分からず口をパクパクと開閉する。

 

「随分と困惑してますね」

 

そう困ったように微笑む女性。といっても口以外無いので雰囲気や声のトーンなどからそう思えるだけだ。

 

「会話はなんて何世紀ぶりでしょうかね。初対面ですし、ここは自己紹介しますか。私は『みぞの鏡』。私の機能と役目は写した人間の心を読み取り、その本人が抱える夢や理想の自分を映し出すものです。ヘルガ・ハッフルパフはあなたがご存知の通りです。ホグワーツの創設者の一人で、彼女は私を用いることで、本人の目標を認識もしくは再認識させて心を支えるために作成しました。ついでにおまけの機能としてもしハッフルパフの生徒を写した際に少し相談ができるように設定なさいました。まぁちょっとしたお茶目です。びっくりさせようと思ったくらいでしょうし、私にできるのはあくまで対話と心を読むだけですので。ですから昨日来たスリザリンの女子生徒、エリスと言うのですか、彼女と会ったときには私は出ませんでしたから」

 

ぺらぺらと喋る女性。随分と饒舌だな。というか俺が思ってることにまでに答えてなかった?いや、でも心を読み取りって言ってたから俺の心を読んだってことだろう。

 

「ええ、正解ですよ。私が表面に現れるのは実に数世紀ぶりですかね」

「久しぶりってハッフルパフの生徒が来たら出て来れるんじゃないの?というかヘルガ・ハッフルパフが作ったなんて話初めて聞いたよ」

 

考えていることが筒抜けなら思ったことを口に出した方が早いと考え、そのまま口にする。

 

「いえ、私は長らく放置されていましたから。過去の校長の一人が偉大なる創設者たちを越えようと、ヘルガ・ハッフルパフが作った私、のぞみの鏡に魔法をかけました。しかし、まぁ失敗しまして、本来なら本人の努力次第で叶う夢しか映さない私の機能は破綻してしまい、絶対に叶うことのない夢、というよりも幻想も映すようになり、本人が強く望んでいることしか映らなくなってしまいました。その結果、私はのぞみの鏡ではなく現実と理想の溝を映す、みぞの鏡と呼ばれるようになりました。私に魔法をかけた校長は自身の失敗を隠すために元々こういう機能と紹介したのです。結果私は放置されまして……そもそもこんな埃のかぶった部屋に誰も訪れませんし、来たとしてもグリフィンドールか図書館帰りのレイブンクローですので」

 

「なるほど、そんな経緯があったのか。それなら俺の望みはハーマイオニーとの対話かぁ。うん、確かにしたい。忙しいし寮も違うからなかなか会えないんだよなぁ」

 

「麗しき兄妹愛ですね。ところで、あなた不思議な記憶を持っていますね?」

 

「不思議な記憶?」

 

「ええ、言語化が難しいのですが、なんというか特定の記憶を覗こうとすると真っ暗になっているといいましょうか。特定の記憶だけ覗けないのですよ」

「え?あぁなるほど」

 

おそらく前世のことだろうか。世界が違うと記憶も覗けないらしい。

 

「あら、あなた前世の記憶があるのですか?珍しいですね」

 

「え、俺以外にもいるの?あ、エリスか」

 

「エリス、あぁ昨日の彼女ですか。彼女はあなたとは感じが違いましたね。魔法によるプロテクトによって記憶が覗かれるのを防いでいましたので。いえそうではなくてですね、前世の記憶を持って生まれてくる魔法使いは結構いるのですよ。前世がカエルだったからカエルと喋れるとか、蛇だったから蛇に変身できるようになったとか。あなたは前世何だったのですか?」

 

「え、人間だったよ」

 

俺がそういうと大袈裟に驚いたようなリアクションを全身でとる。おそらく顔が無いので体で表しているのだろう。お笑い芸人やタレントを見ているようでなんだか面白かった。

 

「人ですか、これは随分と珍しい。というよりも初めて聞きましたね。差し支えなければ少し教えていただけます?私、もうすぐ消えますので冥土の土産にでもお話しませんか?」

「いいけど、もうすぐ消えるってどういうこと」

「シンプルに私の存在が消えることですよ。そもそも私は千年前に作られた物です。千年も魔法が持続していること自体が奇跡のようなものですので。あ、ご安心を。望みを写す機能はもう少し長くかかりますよ。人格を作る魔法の方が複雑ですから」

 

たしかに千年前の魔法道具が未だに動いているのはすごいことな気がする。だけどその理屈でいうならおかしなことが少しある。

 

「じゃあ、城にかかってる魔法もいつか消えるの?それとあの組み分け帽子も」

 

「いえ、その二つは別ですね。この城が建てられている土地は霊脈という魔力の流れの上に立っていますのでそこから魔力を汲む、もしくは当人たちが気づかないほどにうっすらとですが、魔力を城内の人間から徴収してます。組み分け帽子も同様ですね。ホグワーツの校長か被った人間によって魔力が使用されますので」

 

「へぇ、創設者の人たちってやっぱり凄いんだなぁ」

 

「ええ、それはもちろん!!!」

 

声を一際大きくする鏡さん。口調に熱がこもり少し早口になっている。

 

「ええ、皆さんそれぞれ当時もっとも偉大なる魔法使いたちですので。

 

ゴドリック・グリフィンドールは当時戦闘において最強と言われていました。魔法もさることながら身体能力も凄まじく、だから剣なんて魔法使いとはかけ離れたものをホグワーツに遺したのですが他の方々から非難されまして帽子を作りました。

 

ロウェナ・レイブンクローは賢い魔女でした。新たな魔法理論や魔力の効率化などを見つけ、魔法の体系化なども彼女の功績です。まぁ教育者としては彼女自身を水準にするくせがありましたのであまり向いていませんでしたが。彼女は髪飾りを遺したらしいですが、なんでも娘に持ち逃げされたと風の噂で聞きましたよ。

 

サラザール・スリザリンは高貴な方でしたね。知略に富み、一見冷たいように思えましたが人一倍仲間を大事にしていました。そして彼は蛇と会話することができました。ですが悲しくも彼は入学者について他の創設者たちと意見が割れて去って行きましたが。なんでも秘密の部屋なるものを作ってそこに使い魔となるようなものを遺したのだとか。

 

そして、私を作ったヘルガ・ハッフルパフさま!!!彼女は精神や魂に関する魔法に長けておりまた彼女の料理は古今東西に通じておりとても美味でした。彼女は優しく!気高く!美しい!彼女だけでしたよ、誰にでも分け隔てなく教えようと考えたのは!!」

 

凄い語るなぁ。というかヘルガ・ハッフルパフ以外若干貶していなかったか。

それから俺たちは創設者についてや現代の魔法世界について、マグルの世界について話をした。結局前世についての話はしなかったがかなり満足したようだった。

 

「ふふふふ、楽しかったですよ。アイク」

「俺も楽しかったよ」

「最後に会えたハッフルパフの生徒があなたでよかったです。さようなら」

「うん……さようなら」

 

ドアを閉める間際に見た彼女の顔は最初に浮かべた安らかな笑みだった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

ドアが閉められたのを見届けると、みぞの鏡は笑みを消して部屋の一角の方へと顔を向ける。

 

「あなたも私と喋りたいですか?」

 

一見何もないように見えた空間がゆらぎ、一人の老人が姿を現わす。

 

「流石にバレていたようじゃな。鏡に人格があったとは驚いたのう」

 

ホグワーツ魔法魔術学校の現校長アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアである。

 

「私はハッフルパフの生徒以外には顔を出しませんので。あなたはグリフィンドールですよね。そもそも歪められた時点で私は壊れたと言っても過言ではないですし。それであなたは今日はどうしますか?もう二度と手に入らない幻想をゆったりと眺めますか?」

「いや、やめておこうかの。手に入らないものを求めても仕方ないとようやく学んだからの」

「賢明な判断です。それにしてもアイクは良い子ですね。ハッフルパフの寮生に相応しい人間ですよ。……ホグワーツの現校長よ、これから用心なさい。今後この学校、否、魔法世界に大いなる災いがもたらされます」

「……それは予言かの。あなたには未来を見る力がないと思うんじゃが」

「ええ、私にはありませんよ」

 

そう微笑んでみぞの鏡の姿は鏡に溶けるように消えていった。

 

「『私にはありません』か……」

 

ダンブルドアの呟きは埃まみれの部屋に消えた。

 

 


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