魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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ハリー視点です


洗耳恭聴

僕とロン、ハーマイオニーはハロウィンパーティー以降仲良くなり、三人で行動していた。僕たちはスネイプが三頭犬が守っている四階にある部屋に隠された何かを盗もうとしていると疑っていた。

 

ハーマイオニーいわく、僕にクィディッチの試合中呪いをかけていたのもスネイプだと言う。ハグリッドに相談してみても「ダンブルドアが信用しているから大丈夫」の一点張りで何を隠しているかも教えてくれなかったけど、僕たちは一つヒントを得ることができた。なんでもニコラス・フラメルという人物が関係しているらしい。

 

それから僕たちは図書館でニコラス・フラメルについて調べたが一向に手がかりは見つからなかった。ロンのお兄さん、パーシーに聞いても「そんなことより勉強しろ」と言われただけだし、双子に聞いても「「知らない」」とだけしか返ってこなかった。

 

行き詰まってどうしようかと僕とロンが悩んでいると、ハーマイオニーが一つの提案をして来た。

 

「仕方ないわ、私の兄に聞きましょう」

「え、君、お兄さんいるの?」

「ええ、いるわ。成績も優秀だし多分知ってると思うわ」

 

僕とロンはハーマイオニーの兄について想像していた。ガリ勉のハーマイオニーの兄ということはおそらく相当なのだろう。メガネでボサボサの頭で猫背で暗そうな人間をイメージしていた。

 

「ねぇ、君のお兄さんってどこの寮なの?」

「レイブンクロー?」

「……ハッフルパフよ」

「「ハッフルパフ?!」」

 

意外すぎて僕たちは声を揃えて驚いた。言っては悪いがハッフルパフはあまり成績が良くなかったりマイペースでおっとりしている生徒の集まりなので、ハーマイオニーの兄というイメージからは程遠かった。唖然としている僕たちを他所にハーマイオニーはテキパキと荷物をまとめて談話室を出ようとしていた。僕たちは慌ててハーマイオニーを追いかける。

 

「意外だね、てっきり君のお兄さんなんだからレイブンクローかと」

「どういう意味よ、それ」

「それにしても君にも兄がいるならもっと先に言ってくれればいいのに」

 

ロンがそう声をかけるとスタスタと歩いていた足をピタリと止める。どうしたんだろうか。珍しいことにハーマイオニーが口をもごもごさせて言い淀んでいる。

 

「あのね、恥ずかしいから本当はこんなこと言いたくないんだけど、私、あんまり兄に頼らないようにしてるの。今まで勉強の仕方や友達と遊ぶこととか色んなことを兄から学んできてて、頼りっきりだったの。兄は私にとても甘いから今までは甘えてたけど、兄と同じホグワーツに入学することになって今年からは一人でなんでもしようと思っているのよ」

 

そう早口で言ったハーマイオニーの顔は羞恥で真っ赤だった。

 

「だから本当は頼りたくなかったんだけど仕方がないから。さぁ行きましょ」

 

そう言い終えるとまた早足でスタスタと歩いてしまった。

 

「……少なくとも友達は自分でできたもの」

 

小声でハーマイオニーが何かを言ったようだけど僕たちには聞こえなかった。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

その後速度を落として三人で向かう。

 

「ハーマイオニー、君のお兄さんはどこにいるんだい?」

「五階にたぶんいると思うわ」

「五階ってとくに授業で使われる教室もなにもないと思うんだけど」

「あるのよ、普段から使っている部屋がね」

 

階段を登り終えて五階に着き、一つの扉の目の前でハーマイオニーは足を止めた。扉には赤い獅子、青い大鷲、緑の蛇、黄色の穴熊が描かれていた。四匹はそれぞれ仲良くじゃれ合っている。ハーマイオニーがドアノブに手をかけようとすると威嚇するように四匹が吠えたり、鳴き声をあげる。

 

「きゃっ」

 

短い悲鳴をハーマイオニーを上げて手を退ける。するとまた四匹は扉を自由に遊び始めた。ハーマイオニーはドアノブをつかんだ手をぷらぷらと振るう。

 

「多分、この扉には各寮と同じようにセキュリティがあるんだわ」

「じゃあ僕たちは入れないってこと?」

「ええ、おそらく。入るための手順があると思うんだけど私はそれを知らないしあなた達もわからないでしょ」

 

僕とロンは大人しく首を縦に振るう。ハーマイオニーもどうしたものかと悩んでいた。僕たちはみんなハッフルパフの寮の場所を知らないし、困っていた。

 

「そもそもこの部屋ってなんの部屋なんだ?四寮全ての動物が描いた扉があるって僕は初めて知ったんだけど」

「劇団エリュシオンの部屋よ」

 

それを聞いて僕は魔法の劇を思い出していた。 触れれば壊れてしまいそうなほど脆そうに見えたのに、炎やドラゴンには迫力があり、花や木々には夢のような美しさがあった。登場するキャラクターは命があるかのように動き、物語には切なさと心が熱くなるような感動があった。

 

「エリュシオンってあのチョーク劇のやつだよね?君のお兄さん所属してるんだ」

「あら、団員のだれかの妹さんですか?」

 

僕がハーマイオニーに聞くと後ろから声が聞こえた。振り返ると柔らかそうな金髪に優しげな眼差し、どこか上品な雰囲気の女性が立っていた。ネクタイを見ると黄色、つまりハッフルパフの生徒だ。優しげな声が続いて聞こえた。

 

「あなた、誰の妹ですか?あ、もしかしてあなたがハーマイオニーですか?」

「は、はい」

 

ゆったりとした動作でハーマイオニーの手をふんわりと掴むと、ハーマイオニーは雰囲気に圧倒されたようにどもりながら答えた。ハーマイオニーの返事に満面の笑みを浮かべる。

 

「なるほど、あなたがそうですか。それでアイクに何か用があるんですか?」

「えっと、はい、アイクに質問があって」

「そうですか、それはアイクが喜びますね。アイクは今寮の談話室に居ますから待つ間しばらく中にいませんか」

「お言葉に甘えさせてもらいます」

 

ハーマイオニーの手を放してローブの中から一つの巻物を取り出し、それを扉の動物達に掲げると動物達はピタリと動きを止める。そしてドアを開けて入っていった。

 

 

* * * * *

 

 

彼女のあとをついて部屋の中に入ると白いローブを身に纏った人々がチョークでできた動物達で戦っていたり、怪しげな色をした薬品で実験していたり、まったりとお茶とお菓子を楽しんでいたりと様々な様子だった。

 

金髪の彼女はロッカーの中から白いローブと白い帽子を取り出してかぶり、テーブルとソファに僕たちを引き連れて座った。

 

「さて、それではみなさん、紅茶はお好きですか?確かまだあったと思うので」

「あ、あの」

 

とんとんとマイペースで進んでいく彼女を遮るようにハーマイオニーが言葉を発する。

 

「はい?どうかしましたか?アイクの妹さん。いえ面倒ですし失礼ですね、ハーマイオニーと呼んでもいいですか?」

「ええ、良いですよ。あのそれで私たちにあなたの名前を教えてもらえませんか?」

 

ハーマイオニーがそういうと彼女は紅茶を用意し終えて振っていた杖をしまう。

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はハッフルパフの三年生。ステファニー・ペンテレイシアです。ステフとお呼びください。それでみなさんのお名前は?」

「私はハーマイオニー・グレンジャーです。えっと、アイク・グレンジャーの妹です」

「あなたの名前は度々聞いていますよ。あなたのお兄さんはあなたのことを相当溺愛していますから」

 

ハーマイオニーが照れたように顔を赤らめた。そんな様子をステフは微笑ましそうに見ている。続いてロンの方を向いて視線で促す。

 

「えっとロン・ウィーズリーです。本名はロナウドだけどロンってみんな呼んでる」

「あらウィーズリーってことはフレッドとジョージの弟ですか?」

「うん。二人を知ってるの?」

「ええ、彼らも劇団に所属してますし、そもそもホグワーツで彼らを知らない人はいないんじゃないですか?」

「あの二人も入ってるの?!」

「裏方メインですけど。というか今もいますよ」

 

そういって指差されたほうをみると白い帽子とローブを被った双子と他に女子生徒一人が何らかの悪戯グッズを作っていた。蛍光色の薬品がフラスコの中で揺れていてとても不気味で嫌な予感しかしない。

 

「それであなたのお名前はなんですか?」

 

視線を双子たちから戻すとステフが僕たちに紅茶を配り終えて、視線を最後に僕に持ってきていた。

 

「えっとハリー・ポッターです」

「あら、あなたがかの有名なハリー・ポッターですか」

 

ステフはびっくりしたような顔をした。そう言われても僕にはそんな偉大なことをしたという実感がわかない。周りに言われるほど僕自身がそんな凄い存在と感じていないのだ。そんなことを考えていたら顔に出ていたのか、くすくすとステフが笑う。

 

「少しあなたはアイクに似ていますね」

「僕がハーマイオニーのお兄さんに?」

「ええ、そうです。彼も自分のなしたことに対して評価が低いですから」

 

まぁ自覚の有無という差はありますけどね、そう笑顔で言うと紅茶を飲んで一息つく。ステフはカップを置くとぽんと思い出したように手を叩いた。

 

「そういえば、まだアイクに連絡していませんでしたね。彼は妹が来たと聞けばすぐに来るでしょう」

 

先ほど取り出した巻物を開いて紙に触れてからペンを取り出して何かを書き込む。その様子を不思議に思いながら僕たちは黙って差し出された紅茶を飲んだり、クッキーを食べていた。ドライフルーツが練りこまれたクッキーはとても美味しく、紅茶にも会う程よい甘さである。

 

「ステフ、その子たちって新しい入部希望者?」

 

そばに一人、すらりとした高身長の黒髪の女性がやって来た。ステフとは方向性が異なるが彼女もまた美人である。

 

「違いますよ、エリス。アイクの妹さんですよ。なんでもアイクに相談したいことがあるそうです」

「あら、あなたがアイクの妹。彼のあなたへの愛情は凄まじいわよ」

 

楽しげに笑いながらハーマイオニーに話しかける。ハーマイオニーは本日何度目か顔を真っ赤にしていた。彼女はステフの隣に座り、長い足を組む。

 

「はじめまして、エリス・グリーングラスよ。よろしくね」

 

彼女が自己紹介するとロンの体が強張るのを感じた。どうしたのだろうか?

 

「あなたたちの名前は?」

「右からハーマイオニー・グレンジャー、ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリーですよ」

「へぇ、アイクの妹に、悪戯双子の弟、それにハリーポッターね。みんなグリフィンドール?」

「ええ」

「そう、少し残念だわ。私のとこの子が入りたいって子も少ないしね。可愛い下級生が欲しいわ」

「スリザリンからは難しいですから」

 

その言葉に僕とハーマイオニーの体が固まった気がする。エリスはスリザリンなのか。ステフが少し悲しげな顔をして僕たちを見ていることに気がつかなかった。エリスは僕たちやステフが飲んでいる紅茶や出されたクッキーを見て驚いた表情を浮かべる。

 

「ステフ。これナタリアのオススメの紅茶よね。しかもこのクッキーあなたが焼いたものでしょ。歓迎してるのね」

「だって自分の寮でも劇団でもない下級生の面倒を見るのは初めてですし、みんな可愛いですもの」

「ステフらしいわね」

 

部屋のどこからかパンと破裂音が響いて悲鳴が聞こえる。僕たち三人が慌てていると、対照的に二人は落ち着いた様子である。

 

「何の音?!」

「また誰か何かしたんでしょ。双子かレイブンクローのどっちかか両方ね」

「毎度賑やかですね」

 

のんびりと紅茶を飲む二人に他の生徒が詰め寄ってきた。

 

「エリス、双子とフレデリカの悪戯でダーナの髪が蛍光ピンクになっちゃった」

「またあの三人が首謀者?フレデリカも外では大人しい癖に。それじゃ三人ともごゆっくり。多分これから何度か会うことになると思うから」

 

がたりと椅子から立ち上がりエリスは事件現場へと駆けていった。遠くから「逃げろ」という双子と女子の声と追いかけるエリスの声が聞こえた。

 

「ふふふふ、素敵でしょ」

 

エリスが双子を追いかけ回し、髪が蛍光ピンクになった女子生徒を治そうと他の生徒が何かの呪文をかけている。それ以外の生徒たちはいつものことと慣れた様子で傍観していた。そんな様子を見てステフが笑いながら僕たちの方に話しかける。

 

「こんな光景ホグワーツの他のどんなところで見れないと思いますよ。グリフィンドールとレイブンクローの生徒が共同開発した悪戯でスリザリンに魔法をかけること。それをグリフィンドールの他の生徒とハッフルパフの生徒が治してあげようとすること。スリザリンとグリフィンドールが同じテーブルを囲んでお茶を飲むこと。レイブンクローがハッフルパフの生徒の提案に耳を貸して試すこと。みんなが仲良くするってことは素晴らしいことだと思いませんか」

 

確かに他のどこにいても生徒たちがここまで寮を問わず仲良くしている風景はないだろう。……なぜか髪がさらに蛍光オレンジになったスリザリンの女子生徒が双子のどちらかにマウントポジションを取っているのは見なかったことにした。

 

「ここは寮関係なく仲良くできる場所ですよ。誰がどこ出身かだけで、どこの家に生まれたかだけで、どんな人か決めるなんて馬鹿らしいですもの」

 

そういって優雅な手つきでお茶を注ぐステフ。確かにスリザリンとグリフィンドールがじゃれあったり、心配したりなんてここで目にするまでは想像つかなかった。

 

「ですから貴方たちも寮だけで判断してはいけませんよ。仲良くしろとは言いませんがね」

 

そういってパチリとウィンクするステフはとても優しげだった。

 

 

 

 

 

 

 




質問するだけでどれだけ書いているのやら……

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