魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
しばらくステフを含めた四人で話をしていた。クィディッチのことや授業のこと、劇での裏話など聞いたことがないような話をたくさんしてもらっていた。談笑していると、突然部屋の扉が勢いよく開かれる。そして飛び出すように一人の男子生徒が入ってきて、その後遅れて一人の高身長な男子生徒が入ってきた。二人とも黄色のネクタイであり、つまりハッフルパフの生徒だ。小柄な方は辺りを見回すと、こちらを見つめて固まり、それから駆け出してきた。
「ハーマイオニー!!」
目にも留まらぬ速さでこちらへ走り、座っているハーマイオニーにハグをしてから手を握りしめる。
「ちょっと、アイクやめて!」
「久しぶりだね、ハーミー!まさかハーミーの方から来てくれるとは嬉しいよ!!」
「アイク、ハーマイオニーが嫌がってますよ、手を離しなさい」
ステフが少し強めの口調で言うとはっとしたような顔で大人しく手を離した。そしてまじまじと僕はハーマイオニーの兄、アイクを見る。彼は僕が最初に抱いていた印象とは全く異なる容姿をしていた。短く切られた栗色の髪に、メガネもかけておらず活発そうな目つき、小柄ながら健康的な体つき、少年らしさが抜けきっていない少し幼い印象を受けた。どうやらハーマイオニーは前に言っていた通り兄に頼らないようにしていたらしく、久々に会えたらしいアイクはとても喜んでいるようだった。
「いやいや、ハーマイオニーが来てくれるとは本当に今日は最高の日だよ!」
「先ほど談話室では魔法史のレポートが出るなんて最悪な日だ!とか言ってませんでした?終わりましたか?」
「うぐっ」
「セドに見てもらってさっさと終わらせるとか息巻いていたじゃないですか?」
「結局終わらなかったけど、妹が来たって知って部室でやるって言うからこっちに来たんだよ」
「あなたがここに来るのは珍しいわね、セド」
アイクの後ろから先ほどアイクに遅れて入って来た男子生徒が現れた。背が高くハンサムで、アイクには少年らしい可愛さがあったが、彼には落ち着いた雰囲気でかっこよかった。初対面のはずだが僕は彼をどこかで見たことがある気がする。
「普段はクィディッチで忙しいからね」
その言葉で思い出した。この人はハッフルパフのシーカーだ。確か名前は……。
「やぁはじめまして、ハリー。僕はセドリック・ディゴリー。ピッチ以外で会うのははじめてだね」
「よろしく、セドリック」
そう出された手を握る。プレイ中は集中してるため気がつかなかったが整った顔立ちをしている。それからセドリックはロンと自己紹介をして、ハーマイオニーとアイクを除いた四人で話をしていた。ハーマイオニーに対してアイクがかなり質問をしたり、嬉しそうに話をしていた。
「本当に妹、ハーマイオニーのことが好きだね、アイクは」
「そんなにアイクはハーマイオニーの話をしてたの?」
「ええ、いつも『俺の妹は賢いんだぞ』とか自慢してましたものね」
「確かに頭は良いよな」
そうこう話しているとエリスが戻って来た。首謀者と思われる双子とレイブンクローの生徒が正座させられているのが見えたので解決したのだろう。
「エリス解決したのですか?」
「ええ、何とか。全く面倒な魔法薬を作ったものだわ、スコージファイ使っても消えないどころか、更に色が派手になるんだもの」
「ここはいつも賑やかだよね」
「創作意欲が凄いですね、彼らは」
「勉強にもその熱意を向ければ良いのにね」
「少なくともあの双子には無理だわ」
コポコポとエリス用にステフがカップに紅茶を注ぐ。エリスはそれをため息まじりに飲み込み、一息ついた。それから僕とロンの方に視線を向ける。
「それで、あなたたちは何か質問があるんじゃないのかしら?それってアイクじゃないとマズイのかしら?」
「えっと……」
そう聞かれると僕とロンは言い淀んでしまった。別にアイクである必要はないが、これは大多数に話していいものか。それにエリスはスリザリンだ。もしスネイプに伝わってしまったら大変なことである。
「アイクは成績優秀だけど、私やセド、ステフもなかなか優秀なのよ」
「まぁアイクを含めた四人の中でもセドが一番優秀だと思いますけど」
「そうかな?わりとみんな得意分野別々だからみんな同じくらいだと思うけど」
「結局全てが高水準なセドが一番良いと私も思うけど」
答えあぐねている僕たちをよそに三人は会話を進める。どうしたものかと悩ませていると一段落ついたらしいハーマイオニーが僕たちを呼んだ。
「ロン、ハリー、こっちに来てくれるかしら」
その指示に従い、僕とロンは三人に挨拶をしてからアイクとハーマイオニーの元へ向かった。
「それでハーマイオニー。質問ってなんだい?」
「アイク、ニコラス・フラメルって知ってるかしら?」
「ニコラス・フラメル?ええっと確か錬金術で有名な人だよ」
「錬金術?」
「うん、なんでも賢者の石を作ったのだとか。その石を使えば永遠の命が手に入るとかなんとか」
なるほど!!たしかにハグリッドが金庫から持ち出したのも小さな小包みだった。石と考えても不自然じゃない大きさだ。永遠の命。スネイプの狙いはそれか!僕たちは顔を見合わせてアイクに感謝を言ってから部屋を後にした。
* * * * *
去っていく三人の背を見ながら俺は不安に思っていた。今まで俺は純粋に魔法とこの学校を楽しんでいた。だってスリルはあっても危険はないし、劇をしたりして喜んだり苦労したりしていただけだったのだから。でもエリスの知識通りならこれからは危険なことが起こる。しかも命がかかるような事態が。エリスは今年は余計なことをしなくても誰も死なないと言っていた。しかし、それでも俺は妹と彼女の友達が心配なのだ。
「アイク、どうしたの?遠い目してたけど」
「妹に友達ができて嬉しさと寂しさが絡み合っているのではないですか?」
「なるほど」
「俺を差し置いて完結しないでよ!あってるけどさ!」
「本当にシスコンね」
「うるさいなぁ!家族なの!大事なの!!」
「はいはい」
エリスに軽くあしらわれる。ちくしょう、なんか悔しい。
「アイク、あとで話があるの。少し付き合ってくれる?」
「いいけど、今じゃダメなの?」
俺がそういうと俺の隣を指差す。視線を横にするとセドリックが笑顔だった。
「じゃあ、魔法史のレポートやろうか」
「うわぁー、忘れてたのに、うわぁー」
「下級生の前ですし、団長らしくしっかりしましょうね」
「さてはその意図もあったな、ステフ」
「何のことやら?」
「いいから早くペン持って書こうか」
「ちくしょう!」
* * * * *
魔法史のレポートを書き終えて場所を変えてエリスと二人で必要の部屋である。部屋の内装はいつもと同じく前世の学校だった。
「さてようやく二人きりね、アイク」
「色っぽく言われても……」
わざわざ髪を耳にかける仕草を間近でされるが、それよりも俺はエリスに聞きたいことがあった。
「ノリが悪いわね」
「それより今年起こることを教えて欲しいんだ。ハリー・ポッターが僕たちに訪ねるなんて原作にはなかったんでしょ」
「……ええなかったわ。だって原作には私たちいないもの。本当は教えなくても良いことしか今年は起こらないから別にいいかと思ってたんだけどね。今の貴方は教えなかったら勝手に行動するだろうし、そんなことされるよりは教えたほうがマシよね」
そう一息つくとエリスは赤い本をローブから取り出して、黒板にチョークで文字を書き始める。なんだか先生が板書しているようである。
一通り書き終えるとこちらを振り向いた。
「まずはなぜか今年進入禁止になった四階について話すわね」
「あぁ、知ってるよ。ケルベロスがいる場所でしょ」
グリフィンドールの悪戯双子とステフ、セドリックと共に一度行ってみたのだ。ステフは純粋に興味があって、セドリックはみんなのストッパーとして同行した。俺たちがそこで見たのは三つ頭がある巨大な番犬であり、その姿や獰猛性から俺たちは逃げ出した。が、しかしステフだけは違った。獰猛な番犬に対してまさかの「可愛い」と発言して、たまに餌として肉を与えているらしい。流石に今はもう俺とセドリックによる説得に応じてやめたが。
俺がこの話をエリスにすると目を丸くしていた。
「……なんというか、ステフはたまに想像もつかないようなことをするわね」
「あのときは犬とステフの両方が怖かった……」
「これからは危ないから絶対に近づかせないでね。本当に、絶対によ」
真剣な顔で忠告してくるエリス。いつになく真面目な顔である。それから俺に対して説明を始めた。
四階の部屋には賢者の石が隠されていること。それをスネイプが狙っていると三人は勘違いしてること。本当はクィレルが狙っており、クィレルはヴォルデモートをその身に宿していること。三人が守るために戦うこと。
そういったことを黒板を使ってわかりやすく説明された。危険はあるものの、命の危機があるわけではないという。
「初めて私の目的を言うけど、私の目的は可能な限り死者を無くしたいの。そのためにはまだ怪しまれるわけにはいかないし、アイクにも協力してもらいたいから今年は普通に過ごすこと、約束してね」
「わかった」
* * * * *
「それで、なんで君はここにいるのかのう」
ダンブルドアは虚空を見つめ、声をかける。彼の傍らには賢者の石を守り、意識を失ったハリーがいる。声をかけた方向には一見誰もいないように見える。がしかし、背景が歪み一人の少年が現れた。
「透明マント高かったんですけど、どうしてわかったんですか?」
アイザック・グレンジャーがマントを片手にそう愚痴る。顔には不満げな表情が浮かんでいた。
「おそらく君が買ったのは品質の良くない中古品じゃったのだろう。よく見ると君のいた位置の背景は歪んでいたからのう」
「くっ、飲み屋で知り合ったおっさん怪しげだったからな〜」
マントを自身の前に広げて睨みつける。ダンブルドアはそんなアイクの様子に好々爺とした笑みを浮かべるが、視線はまっすぐアイクから逸らさない。ダンブルドアは眼差しを鋭くして質問する。
「それで、ミスターグレンジャー。どうしてここにいるのかというわしの疑問には応えたくれぬのかな」
「あ、いや別に心配だったから着いてきただけっていうか、透明マントがあればバレずに手助けできるかなって思って来ただけです」
実際アイクはこっそりと手助けをしていた。悪魔の罠や羽の生えた鍵には動きが遅くなるように魔法をかけて、チェスではロンが重症を負わないように衝撃を緩和するようにしたり、ハーマイオニーとハリーがロンに駆け寄っている間先に行ってトロールを完全に動けないように拘束した。クィレルがハリーを襲うときも偶然を装って石に躓かせたり、不自然にならない程度にハリーの体を誘導したりとバレないように手助けしていたのだ。
「だって最近ハーマイオニーたちが何か調べ物してたのは知ってましたし、危険なことに首突っ込んでないか心配で心配で」
そう言ったアイクの顔には嘘をついてる様子が見られず、心底心配しているようであった。
「それに……妹が大切じゃない兄なんているわけないじゃないですか」
「…………そうじゃな」
アイクの台詞にダンブルドアは胸に込み上げてくるものを抑えてゆっくりとそう言った。それ以上アイクにダンブルドアは何も言うことはなく、ハリーを抱え上げる。
「じゃが、深夜に寮を抜け出した規則違反でハッフルパフから10点減点じゃ」
「うぐっ」
ダンブルドアが茶目っ気たっぷりに言うとアイクががっかりとうなだれる。その後ダンブルドアはアイクとハリーを連れて医務室へと姿現しをした。