魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
必要の部屋にていつもの学校の風景の中、俺とエリスは会話していた。
「これはなにかしら、アイク?」
会話というか説教であった。
エリスは眉を釣り上げて、片手に古ぼけたマントを持ち仁王立ちしている。俺はそんなエリスの様子を美人がキレると迫力あるな、なんて明後日の方向へ現実逃避していた。ぽけーっとしていると目力がさらに強まる。
「え、えっとこの前酒場で知り合ったおっさんから買ったマントです」
「へぇ?どうしてこんな古ぼけたマントを買ったのかしらね」
「デ、デザインが気に入って」
「へぇ」
俺はだらだらと冷や汗をかきながら弁明する。エリスの口角が上がり一見笑っているように見えるが目は全く笑っていない。おもむろに杖を取り出して振ると、近くの椅子が動いた。それに軽くマントを放ると椅子全体が覆われて背景に消えた。まぁ実際背景に校長に言われた通り目を凝らすと歪んで見えるのだが。
「デザインが気に入って買った、ねぇ……」
エリスは見なくなった椅子から視線をこちらに戻す。
「ところで、アイク。こんな便利な魔法があるんだけど知ってるかしら?」
「えっと、どんな魔法?」
俺が訊ねると氷のような微笑をいっそう深めるエリス。杖をゆるゆると左右に振るう。
「開心術って言ってね、人の心や記憶を読み取る魔法よ」
「へ、へぇ、そんなプライバシーの侵害みたいな魔法があるんだね」
「ええ、あるのよ。それでね、アイク」
杖をゆったりと上げて肩の高さまで持ち上げる。そして杖先を俺の方に向けた。
「私に無理矢理記憶を読まれるのと自分から何をしたのか話すのどっちがいいかしら?」
「申し訳ありませんでした!」
即答。迷わず俺は頭を下げた。
「全く、何かするかもとは予感してたけど、まさかわざわざあの子達の手助けに透明マントを買ってまで見守りにいくとはね」
「だってハーミーが心配だったし……」
「何らかの魔法道具とかでも良かったでしょ。攻撃から身を守るとか」
「いや、最近双子とレイブンクローの人たちと盾の呪文を自動で発動する道具の開発してるんだけども間に合わなくて」
しどろもどろに説明する俺を見て呆れたようにため息をつくエリス。だって可愛い可愛い俺のハーミーとその友達が心配で心配で……。
「まぁ、いいわ。ところでアイク、私やあなたが未来を知っていることは教えてないわよね?」
「それはもちろん。そんなわざわざ怪しまれるようなことは言わないよ」
「わざわざ怪しまれるようなことはあなたしたんですけどね。まぁそれならいいわ。今回はこれ以上言わない。でも今後何か行動するなら私に一言言ってくれるかしら?もしくは巻物でメッセージ残すでもいいわ」
「……はい」
しょんぼりとうなだれる俺を見て、少し苦笑をするエリス。
「でも開心術を防ぐ練習は必要ね」
「あ〜確かに。俺たちの会話とか覗かれたら大変だしな」
* * * * *
帰りのコンパートメントの中、俺、エリス、セドリック、ステフは談笑していた。
「劇の脚本を他の人に任せるの楽しみだなぁ」
「アイクも思い切ったことするね」
「まぁでも下級生に良い経験になると思いますわ」
「そうね、いつまでもアイクに任せっきりはマズイし、後輩も育てなきゃいけないものね」
「アイクが今まで書いてた脚本が高いハードルにならないと良いけどね」
「いや俺もいい加減ネタ切れてきたから」
劇団の今後について期待と不安が入り混じった感想を述べる。
「そういえば私たち校外で会ったことがなかったと思うんですが、みんなでどこかに出かけるか、誰かの家に集まりませんか?」
「いいわね、それなら私の家はどう?」
「エリスの家かい?僕たちが行って大丈夫なのかな」
「セドはともかく俺らだよなぁ、問題は」
純血主義の家に果たしてマグル二人が行っても問題はないのだろうか。俺たち殺されないかな。
「大丈夫よ。当主の父が今病床だから、別にバレなきゃ問題ないわよ」
「初めて父が病気って知ったんだが」
「大丈夫かい、お父さん」
「ええ、最近ようやく楽になりそうよ」
そういってエリスはクッキーを食べる。最近ステフがお菓作り子にはまっていて、よく作ってくれるのだ。
「ステフ、本当に美味しいわ。いいお嫁さんになるわね」
「本当ですか?ありがとうございます」
「この前のドライフルーツが練りこんだのも美味しかったよね」
「そういえばさ、この前ナタリアがさ」
仲良く話しながら風景は過ぎていった。
* * * * *
そして家に着き、夕飯を食べながらお互いの学校生活について話していた。
「ホグワーツに実際に行って見てどうだったかしらハーマイオニー」
「すごく素敵なところだったわ!絵本や絵画のようだったし、幻想的な風景だったわ!!勉強もとても楽しかったわ。変身術とか呪文学とかで私、とても良い成績だったから先生から加点も貰ったもの!!」
ハーマイオニーの話は止まらず、ヒートアップして長々と続いてく。俺たちは慣れたものでそんなハーマイオニーの様子を微笑ましそうに見ていた。学校始まって当初、たまに見かけるハーマイオニーの顔はあまり学校生活が楽しくはなさそうだったけど結果的に楽しく過ごしたようでお兄ちゃん安心です。しばらく話は続いていてようやく一区切りがついた。そして俺の話へと移る。
「ねえ、ママ聞いて、アイクったら凄いのよ。去年ホグワーツで特別功労賞を貰ってたのよ」
「あらそうなのアイク。どうして教えてくれなかったの、素晴らしいじゃない」
「いや、なんか照れくさくてさ……」
「それで、どうして賞を取ったの?」
「こうチョークで劇をやって」
「チョークで劇?」
「えっと写真があった気が……」
ごそごそとカバンの中を漁る。
こうやって学校について話しながら夜は更けていった。