魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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エリス視点とアイク視点です
花言葉は「思い出」「友情」「謙虚」



捜査する四年生
ライラック


窓から朝日が差し込む部屋の中で自然に目を覚ました。ベットの中で体を伸ばしてから布団から体を出す。

今日、天気が良くてうれしい。みんなで久々に会うのだから晴れている方がいいもの。洗面所へと向かって顔を洗い、軽く寝癖のついた髪を梳かしてゆるく一つにまとめる。リビングへと向かうと下の妹、アステリアはいた。純血思想ではない彼女はとても話しやすく、素直な良い子である。わたしたち家族は彼女をテリーと呼んでいる。一方上の妹、ダフネの姿はなかった。全く、あの子はまた夜更かししたのね。美容に悪いのに。どうやら彼女はドラコ・マルフォイに夢中らしく、長い間手紙の返事を考えていたようだ。

 

「テリー、おはよう。よく眠れた?」

「おはようございます。エリス姉様」

 

席についてお互いに挨拶すると、我が家の屋敷しもべ妖精シンディーの用意した朝食を食べた。こんがり焼けたパンと新鮮なサラダ、簡単なスープ。慣れ親しんだものであり、私の舌に合うものである。大変美味なものだった。

 

「シンディー。お父様の食事をちょうだい。私が運ぶわ」

「わかりました。エリス様」

 

食べ終えた食器を下げて、代わりに父のための料理と薬を運んでくる。私に料理を運んできたシンディーの顔はどこか不満げである。

 

「本来でしたら私が運びますのに」

「そう言わないでよ、シンディー。愛する娘から手渡しされる方が父も喜ぶと思うわ」

 

そう微笑んでからトレイに乗せられた料理を運び、父の部屋へと向かった。豪華な装飾をされたドアを軽くノックすると、中から弱々しい返事が聞こえる。断りを入れてから部屋に入るとベッドの中には痩せた男性がいた。

 

「おはよう、エリス」

「おはようございます。体調はどうですか?お父様」

 

横たわった父の上半身を起こして、顔をあわせる。

 

「あぁ、まずまずだよ。いつもすまないな」

「いえ、お父様。家族ですから迷惑だなんて思いませんよ」

 

父に料理を食べさせながら、仲良くも歓談する。朗らかな天気もあり、父の様子は平時よりも良くなっていた。しばらく書斎で見つけた本や宿題の進捗などを話していると、一つ話題を切り出す。

 

「そういえばお父様」

「なんだいエリス?」

「頼みごとがあります。私とドラコ・マルフォイの婚約を破棄してください」

「………………」

 

私がそう告げると父は黙ってしまった。私とドラコ・マルフォイは生まれた頃から婚約者である。互いに純血の名家であり、互いの両親が旧知の仲であったので年も近くトントン拍子で話は決まったらしい。グリーングラス家はいずれ生まれると考えていた男の子に継がせるつもりが生まれることもなかった。このままもし父が亡くなると私はグリーングラス家の当主となる。するとグリーングラス家長女であり当主でもある私がマルフォイ家に嫁入りする訳にもいかず、逆にマルフォイ家の嫡男であるドラコをグリーングラス家に婿入りさせる訳にもいかない。男児がそのうち生まれると考えられていたため話はあったのだが、母が亡くなってからその問題は放置されていた。

 

「代わりにダフネかテリーのどちらかが婚約者になればよいと思いますがどうですかね?ダフネはドラコと同年齢ですし、テリーも愛嬌や可愛らしさもあって気に入られると思いますよ」

「………………。ふむ、わかった。ルシウスにはそのような旨の手紙を出そう」

「ありがとうございます。お父様。あ、こちらお薬と水です。苦いですけどきっちり飲んでくださいね」

 

苦い顔した父に微笑み、薬とカップを手渡す。この薬は私が調合した薬である。父の病は原因がわかっておらず、年々衰弱している。私が渡しているのは何の効果も無いがプラシーボ効果を望んで服薬させている。そして今日はそれ以外にも今日は別の薬も用意している。

 

「おや、今日は新しい薬もあるのかい?」

「快適に眠れるように用意したものですよ。最近うなされているとシンディーが言ってました。たまには薬の力を借りでもゆっくりお休みください」

「何でもお前にはお見通しだな、エリス」

「貴方の娘ですから」

 

私がそう言うと父は弱々しく笑ってから新しい薬を飲んだ。飲み終えるとゆったりと布団に潜り、まぶたが重そうに見える。

 

「おやすみ、エリス」

「おはようを言ったばかりですけどね。おやすみなさい、お父様」

 

まぶたを閉じた父から離れて部屋を出る。完全にドアが閉まったことを確認して杖を振って私は薬の瓶を消し飛ばした。

 

「おやすみなさい、お父様」

 

再度そっと呟いて私は父の部屋を後にした。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

ようやくリビングに現れたダフネに挨拶してから自室に戻り、服を着替える。それからカバンを手に取ってから自宅を出て近所の公園へと向かった。麗らかな日差しの中、帽子をかぶり緩いペースで歩く。ちらりと時計を見るとまだ待ち合わせには猶予があった。待ち合わせに指定した公園のベンチに座ってみんなの集合を本を読みながら待つ。私が読むのはいつも持ち歩いてる赤い本。すらすらと文字を目で追って待っていると、灰色の瞳の高身長のイケメンに声を掛けられた。

 

「こんにちはエリス」

「こんにちはセド。良い天気ね」

「そうだね、マグルの子供達が仲良くボールを蹴って遊んでたよ。サッカーって言うんだっけ?」

「ええ、人気のスポーツよ。それでセド。どうして貴方の背中にアイクがいるのよ?」

 

話しかけてきたときから疑問に思っていたのだがなぜかセドリックがアイクを背中におぶっていた。アイクは顔を赤くして気絶している。

 

「えっとちょっと不幸なことがあってね。エリス、ベンチにアイクを横たわらせていいかい?」

「どうぞ。今なら膝枕もしてあげるわ」

 

私がクスクスと笑うとセドリックはそっとアイクをベンチに下ろして体を横にする。アイクの頭は私の膝の上に来た。気を失っているアイクの顔をじっと見つめる。出会ったころは幼く性差も少なかったから女の子のように見えたが、最近は少しづつ男らしくなってきた気がする。顔つきや体つきが前よりも男っぽい。といっても身長はイマイチだが。それでも下級生からはモテている。内面が子供っぽく思えるのかマスコット的なモテ方ではあるけど。それにセドリックに比べたら歯牙にもかけないレベルのモテ方だし。かつては長かったが今は短くなってしまった髪を指でいじる。

 

「成長したわね、アイク」

「そりゃ僕たちまだ子供だもの。ふふ、髪を前は伸ばしてたのにね。今はもう短くなっちゃったし。ステフが残念がってたよ」

「ステフが?」

「うん。今までは僕が寝癖を直してからステフが髪を結んでたからね。それがなくなって寂しいみたいだよ」

「アイクは朝弱いのよね」

「未だにね。寝癖がひどいのも相変わらずだから結局僕は毎朝自分とアイクの分を治してるんだけどね」

 

セドリックはそういいながら優しい顔をしている。なんだか、まるで

 

「まるで恋人のようね?」

 

私がそう言うとびっくりしたような顔を見せるセドリック。目を数度パチクリして口を開く。

 

「んー、そうかな。どちらかというとエリスとアイクの方が恋人っぽいと思うんだけどな」

「私とアイクが?そう?」

「二人でよくこっそり話してることが多いし、一緒に行動していることも多いからね」

「なるほど。周りから見るとそう見えるのね。でも私とアイク別に付き合ってないわよ」

 

優しい手つきでアイクの頭を撫でながら、公園で遊んでいる子どもたちへと視線を移す。

 

「だって私、好きな人がいるもの。アイクよりも素晴らしい人がね」

 

笑みを浮かべながらそういうと、セドリックがびっくりしたような顔をする。セドリックが何かを私に尋ねようと口を開きかけると、最後の一人ステフが現れた。

 

「セド、エリス、こんにちは。すみません、遅くなってしまいまして」

「いいのよ、時間通りだし」

「僕たちが早く着いただけだしね」

「あの、アイクどうしたんですか?」

 

私たちに挨拶した後に、ステフは私の膝の上にいるアイクを見る。そういえば私も理由を聞いていなかった。

私たち二人の視線を受けて苦笑しながらセドリックは答えた。

 

「あはは。えっと、僕とアイクはこの公園に先に着いたんだけど結構早く来ちゃって。暇を持て余してたらボールが飛んできて、それからアイクはボールを飛ばしてきた男の子たちと仲良くサッカー始めてたんだ。それで遊んでたら途中で余所見してたアイクの顔にすごい勢いのパスが来て、当たりどころが悪かったみたいで気絶しちゃったみたい」

 

なんというか憐れである。でもアイクが男の子たちと遊んでいるのは容易く想像ができた。セドリックはアイクの顔をパチパチ叩いて起こそうてしている。

 

「それじゃあ、みんな揃ったし、私の家に行きましょう」

「アイクがまだ起きてませんよ?」

「セド、背負ってもらえる?」

「いいよ」

 

会ったときと同じように背中に軽く担ぐ。家についても目覚めなければ魔法薬飲ませて目を覚まさせればいいでしょう。私を先頭に三人で家に向かって歩く。

 

「そういえばエリス、私やアイクが家にお邪魔して本当によろしいのですか?」

「大丈夫よ。父は今日寝たきりだし、純血主義の妹は学校の友達と遊ぶって言ってたから」

「アイクも前より背が伸びたからか重くなったなぁ」

「なんだか父親みたいですよ、セド」

「恋人の次は父親かぁ」

「恋人?」

「あぁ、それはさっきセドがね……」

 

談笑しながら麗らかな日差しの中を歩く。いつまでもこうやって平和だったらいいのにと思いながら。

 

 

* * * * *

 

 

目を覚ますと知らない天井だった。え、どういうこと?今の時刻や待ち合わせは?というかここはどこだ?見たこともないし、俺が行ったことのあるどんな家とも違う。天井の模様がおしゃれである。

現実を認識できず逃避していると急に視界いっぱいに灰色の瞳の好青年の顔が現れる。ぎゃー!

 

「そんな露骨に顔をしかめなくても……。エリス、ステフ、アイクが起きたよ」

「ようやくですか」

「あら無駄になっちゃったわね、用意したのに」

 

体を起こすと上品な内装の部屋が目に入り、俺の隣でソファに座りクィディッチの本を読んでいるセドリック、紅茶を飲んでいるステフ、何かの薬品を片手に部屋に戻って来たと思われるエリスが視界に入った。……エリスさんやい、まさかその薬飲ませようとしていたんでしょうか?

 

俺が起きたということでお茶菓子を追加して、全員でやたら長いテーブルの一箇所に座る。話題は夏休みの課題や劇団についてである。課題のどこが難しかった、劇団の誰々が筋がいい、どういう役が似合うかなどを話して盛り上がっていた。そして話題は更に移りFOCの話になり、久々にやってみることになった。

 

「赤コーナー、冷徹な女王、エリス・グリーングラスぅ!!」

 

浮かび上がった核を中心にさらさらとチョークの粉が集まって人型を取る。細く長身な、やたら四肢が長くほっそりとしており、武器として赤い大鎌をもっており、補助用に青いマントをつけている。白いチョークは体、赤いチョークは武器、青いチョークは防御や補助用となっている。

 

「青コーナー、ドS天然お嬢様、ステファニー・ペンテレイシアぁ!!」

「アイク多分後で二人に怒られるよ」

「………………」

 

もう一つの核が浮かびチョークの粉が集まり人型をとる。こちらはエリスのとは対照的に小柄ながらがっしりしており、赤い西洋剣、青い大楯を持っている。

 

「それでは両者、レディ……ファッイ!!」

 

アイクが腕を下ろして合図すると二つの粉人形はぶつかり合った。エリスの鎌が遠心力を伴って勢いよく横に薙ぐ。それをステフの盾が防いで反撃に剣を振るうが、エリスの人型は回って踊るように避ける。剣は掠めたもののマントに邪魔をされて胴体には届かない。赤いチョークは攻撃が当たったもののチョークの結合を妨げるようになっており、青いチョークはそれをわずかに上回る防御力が設定されている。

くるくると回るようにして鎌が勢いよく振るわれていくがそれを的確に盾で防御していく。

 

「いやぁ〜、戦況が膠着してきましたね、ディゴリーさん」

「……え、解説とか実況とかやるのこれ」

「うん、盛り上がるかなって。さて解説のディゴリーさん、どちらが有利だと思いますか?」

「あ、僕が解説なんだ。んーそうだね、攻撃特化型のグリーングラス選手と耐久型のペンテレイシア選手の戦いですね。グリーングラス選手の方は扱いが難しいタイプですが、卓越した操作でうまく使いこなしていますね」

「結構ノリノリだね、セド。……それでは一方ペンテレイシア選手についてはどう思いますか?」

「そうですね、彼女は基本に忠実な戦い方ですね。防御をきっちりとして隙を窺い、カウンターを狙う。生半可な人間では彼女の防御は破れないでしょう。事実、グリーングラス選手も攻めあぐねています」

「どうやら完全に膠着していますね」

「はい。グリーングラス選手が果敢に攻めるがペンテレイシア選手は完全に守る。ペンテレイシア選手が反撃に出るが、グリーングラス選手はそれをひらりと避ける。はたしてこのまま試合は続くのでしょうか」

「さぁ少し距離を取りグリーングラスが先ほどよりも勢いよく鎌を振るったぁ!!」

 

エリスの人型がステフのカウンターをよけて距離をとる。そこから先ほどよりも大振りに鎌を使ってステフの盾を両断せんと迫る。がしかし。

 

「おおっと!!ステフ選手盾を捨てたぞ!これはどういう狙いだ!?」

 

ぽいと盾を放って両手で剣を持つ。そこを迫っていた鎌が弧を描いてステフの人型めがけて振るう。がしかし、大振りな軌道を見切りステフの人型が避けると鎌は空を切った。今までとは異なる感触にエリスは人型を操りきれずにバランスを崩す。その胴体めがけて、両手で持った剣が先ほどよりも勢いを増してエリスの人型を真っ二つに核ごと切り裂いた。

 

「ようやく決着がつきました!!正攻法なカウンターを行なっていたペンテレイシア選手によるまさかの奇策!勝者、ステファニー・ペンテレイシアぁ!!!!」

「思い切った作戦ですね」

「さすが腹黒ドS天然お嬢様でしたよ!!」

 

手を叩く俺めがけて飛んできた本に衝突した。……痛い。

 

 

* * * * *

 

 

「アイクの解説は若干腹立ちましたが楽しかったですね」

「そうね、久々にやってストレス発散になったわ」

「なぁなぁ、セド。俺の頭腫れてない?」

「大げさだね、アイクは。大丈夫だよ」

 

帰り道俺たちはエリスに連れられて、待ち合わせにしていた公園に向かって歩く。なかなかに楽しい一日だった。夏休みも半ばを過ぎてもうすぐ新学期である。

 

 

 


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