魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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アイク視点です。少し短いです。
花言葉は「逆境に耐える」「逆境で生まれる力」


カモミール

新学年も始まり、緩むことなく時間は過ぎ去っていく。そんな中で俺は授業を終えて部室へと向かう。本来ならハロウィンパーティーよりも前のこの時期は実施する第一回目の劇の準備で忙しいのだが、今回は俺たちが卒業しても大丈夫なように俺たちより年下の学年だけで指揮を取らせており今大変暇なのである。慌ただしく動き回る下級生を尻目に部屋の一角でゆったりとお茶していた。というか俺は疲れてテーブルの上に伸びていた。口から思わずため息が出る。

 

「「はぁ〜」」

 

ため息が被ったと思いちらりと見ると、フレデリカがいた。レイブンクローで同い年、爆発したような赤いくせ毛に眠たそうな青い目、睡眠不足からか目の下には隈があり、覇気のない様子である。劇団の中でフレッドとジョージと同じくらい厄介なものを作ったり、はたまた役立つ開発をしてくれる裏方の女子である。ちなみにかなりの守銭奴でもある。

 

「……団長がため息なんて珍しい」

「それはフレデリカもそうだと思うんだけど」

 

基本的に彼女はマイペースであり、フローラやキースのが動のマイペースだとするなら彼女は静のマイペースである。いつもひっそり何かを試作しては双子に使い方を教えて実験、もとい悪戯させているのである。普段からテンションが低い、というよりは浮き沈みが全く見えない彼女がここまであからさまに疲労を見せるのは初めてである。

 

「……私とフレッドとジョージは今エリスに商品開発を頼まれて忙しい」

「商品開発?」

「……そう。……眼鏡型の魔法道具でレンズに魔物を投影してゲットするもの。……ホグワーツ城限定、更に時間限定でランダムに出現して集めたり育成するゲームのようなもの」

「エリスがそんなもの作ろうとするの珍しいね」

「……うん。……たんまりと開発費はもらった。……しかも余った費用は三人で山分けしたり、別の開発費にしても良いと言われた」

「そこまでオッケー出してると逆に怖いな」

「……でもその分本当に難しい。……専用の捕獲呪文しか使えないゴム製の杖やそもそもの投影する仕組みが大変。……変幻自在呪文の応用だけど、そもそも変幻自在呪文の難易度が高い。……そして、何よりも難しいのが対魔法防御をかけること」

「魔法に対する防御を眼鏡にかけるの?」

「……装着中に眼鏡に魔法をかけられて見えなくされたり、魔法で盗まれたりするのを防ぐためと言っていた。……それ自体は難易度は高いけど大変じゃない。……でもエリスが求める対魔法防御の効果が高すぎて難航してる」

 

彼女はボソボソと話し終えるとと再度ため息をこぼす。エリスが三人に劇団関連じゃない頼みごとをすることや余った開発費を使っても良いと言うことに違和感を覚えた。テーブルにうつ伏せになってからフレデリカはこちらを見る。

 

「……それで団長のため息の原因はなに?」

「俺は新しい魔法の練習で疲れた」

「……新しい魔法?……授業で習った呪文は全てできていたと思うんだけど」

「いや授業外で練習してる魔法があって……それがかなり精神的にクるんだよ」

 

閉心術の習得で俺はかなり疲弊していた。必要の部屋で練習できるようにしていたのだが、一定間隔で開心術を使ってくる人形が腹立たしかった。ピエロのような外見で、失敗すると煽ってくるのだ。「流石にプライバシーの侵害は嫌でしょ」とエリスが俺に呪文をかけるのではなくて、人形にやらせて彼女は傍でいつも通り赤い本を読んでいるだけである。

 

「……団長が苦労するなんて余程難しい呪文」

「しんどい」

 

はぁ、と再度二人でため息を吐き出す。あぁ、幸せが逃げていくようである。最近の愚痴を二人でこぼして時間は過ぎ去っていった。

 

 

* * * * *

 

 

 

そして俺にとって楽しい授業、というよりストレス発散の授業が今年出来た。闇の魔術に対する防衛術である。元々ギルデロイ・ロックハート先生が自身の物語の再現として相手役に俺が選ばれたのだが、どうせならリアリティを追求しようと思ってチョークを増やして粉砕して粉を用いて完全に場面を再現したのである。

 

「そう、ここで私は闇を切り裂くような光で撃ち抜いたのです!!アイク!!」

「はい!」

 

ロックハート先生に声をかけられてからロックハート先生の杖先に光を集めて、対峙していた吸血鬼へと放つ。その光を浴びた今まさに先生に襲いかかろうとした吸血鬼は光が当たった部分からサラサラとまるで灰になってしまったかのように崩れ始めていく(もちろんチョークで作られており、さぁーっと空気に溶けるように粉に戻っていく)。

 

「そう!流石アイクです!!それで私はこのようにして城に居座り続けた吸血鬼を退治したのです!!」

 

ロックハート先生が生徒たちにそう大声で言うと万雷のような拍手と賞賛する声が聞こえる。「流石ー!!」「うまいなアイク!」「リアリティがすごいわ!!」など大絶賛である。なぜか俺のほうが褒められている気がしないでもない。

 

「さてみなさん、今日の宿題は私の活躍を見てどう思ったか書いてきてください。以上で今日の授業は終わりです!」

 

俺は杖をしまってセドリックとステフに合流した。流石に一つの授業中ほぼぶっ通しで魔法を使うのは疲れた。

 

「お疲れ様です、アイク。はい、どうぞ」

「お、ドーナッツだ。美味しそう」

「よくやるね、アイク」

「え?なにが?」

「いやわざわざギルデロイ先生の演劇というか、寸劇に付き合わされて嫌じゃないの?」

「いや楽しいよ、結構」

 

俺がそういうと、二人は困ったように苦笑する。

 

「エリスは、『あの男には物語のような実力はなくてただの空想にすぎない』ってバッサリ言い切ってましたよ」

「ああ、やっぱりそうなんだ。僕も薄々そうなんじゃないかって思ってたよ」

「んー、それでも楽しいよ」

「お人好しですねぇ、本当に」

 

セドリックは納得がいったように頷き、ステフは微笑む。

 

「というかあの物語が創作だとしたらかなりクオリティ高いよ。なかなか読みごたえがあったし、起承転結もしっかりしてる。今度あれのオマージュを劇にしてもいいくらいだもん」

「ベタ褒めですね」

「でも絶対やめてね」

 

なんかそういう反感の声が多そうなのでやるつもりはあんまり無いが。それにしても遊ぶ時間(闇の魔術に対する防衛術)があって本当に良かったかもしれない。何せ今は俺たちの学年を主体にして劇を計画しなかったせいで、閉心術の練習に対するストレスのはけ口を求めていたのだ。物語として完成度の高いものの劇を即興とはいえ出来て楽しい。それにハーマイオニーも大ファンであるし、夏休みの間どハマりして二人でずっと話していた。どの本が一番か、どれが一番盛り上がるかなど議論して両親が呆れるくらいには話していた。

 

「ハーマイオニーも好きなんですね、その本」

「なんというか変に似てるよね君たち兄妹」

「ハーマイオニーに似てると言われるならそれがどんなことでも俺は嬉しい!」

「シスコンですねぇ」

「シスコンだねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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