魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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一陽来復

ホグワーツ特急に乗った俺は空いているコンパートメントを探したが正直見当たらなかったので、適当に一人で座っている子がいるコンパートメントに入った。

 

「ここいいかい?」

「え、うん」

 

許可をもらってから入り、コンパートメントにいた少年のほうをよく見ると、ダイアゴン横丁で採寸が一緒だった子である。茶髪で灰色の目をした将来イケメンになりそうな美少年である。座っているため正確にはわからないが俺よりも背が高いだろう。どこか俺に対しては遠慮気味であるが。

 

「こんにちは。俺はアイク。アイザック・グレンジャーです。ダイアゴン横丁で会ったよね、君も一年生?」

 

そう俺が話しかけると目を丸くして驚いた少年。何だ変なこと言ったか。名前と学年しか言ってないぞ。別に年上に見られる容姿はしてないし。威圧するような雰囲気もしていない。

 

「はじめまして、アイク。僕はセドリック・ディゴリー。君と同じ一年生だよ」

「よろしく」

「こちらこそ」

 

そうやって自己紹介を互いにした後、汽笛がなり出発目前となった。俺は窓を開けて家族の方へと手を振った。

そしてホグワーツ特急は俺たちを乗せてゆったりと出発した。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「ねぇ、セドリック。組み分けの儀式ってどんなのか知ってる?」

「ごめん、わからないんだ。父さんがホグワーツ出身なんだけど教えてくれないんだ。どうにも伝統らしくて」

「へぇ。君の家族は魔法使いなんだ。俺の家族はみんな違うんだ。マグルだっけ?そういうやつ」

「そうなんだ」

 

流れる景色を楽しみながら俺たちは談笑を楽しんだ。そうしてホグワーツについてや魔法について、逆にマグルの生活や道具について話す。

しばらく話しているとふと最初に疑問に思ったことを思い出した。

 

「そういえばさ、なんか最初よそよそしかったけどなんで?いや、答えにくかったらいいんだけどね」

「あー、いや、言いづらいんだけど、最初君が名乗るまで女の子かと思って」

 

そういわれて窓ガラスに反射して映る自分の姿を見た。栗色の長い髪をお団子にしている瞳の大きく、色白で、丸顔の華奢な小さな子供が映った。

ふむ、確かに女性的に映るかもしれない。ただでさえ性差の少ない幼少期に髪を長くしているしな。この長髪は最初はくるりんとした髪だったのだが成長するにつれて大人しくなり、それをハーマイオニーが羨ましがったり褒めてくれたりして髪型を弄ってくれるので嬉しくてそのまま伸ばしているのである。

また自分で言うのもアレなんだが、なかなか整った顔立ちではあるのでそれも更に助長しているのだろう。今の容姿と前世の容姿では雲泥の差である。

 

「こんなんでもちゃんと男だからな、よろしく」

「うん、もう分かっているよ。よろしくねアイク」

 

話していても良いやつという印象を受けた。今後の学校生活でももし他の寮になったとしても仲良くしようと思った。

 

それにしても寮分けが不安である。

俺にはハーマイオニーには言わなかったが、グリフィンドールにもレイブンクローも入れる自信はあまりない。

そもそもどこかに入れるだろうか?勇敢でもないし、頭も良くないし、人に対する好き嫌いもあるし、狡猾になれるような非情さも持ち合わせていない。

まさかどこにも入らないなんてことはないよな。一人で悶々としながらホグワーツ特急は学校へと進んで行った。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

寮の組み分けは古びれた帽子を頭に乗せて行うらしい。喋る帽子とは魔法っぽいな。心の中やその人の資質を見抜いて行うようであった。

アルファベット順にマグゴナガル副校長先生に呼ばれていき、だだっ広い大広間で一人座り、次々と帽子を被せられていく。あ、セドリックが呼ばれた。どうやら彼はハッフルパフに入るらしい。

そうして待っているととうとう俺の名前が呼ばれた。

 

「グレンジャー・アイザック!!」

 

席を立って前へと進み、真ん中にポツンとある椅子に座る。心臓がバクバクいっているのが感じられる。俺が緊張したまま固まっているとマグゴナガル副校長先生が帽子を俺に被せた。

 

「ふむふむ、なるほど。君は度胸はあるが、勇敢ではない。知恵はあるが、意欲はない。狡猾ではあるが、野心はない」

「俺、グリフィンドールかレイブンクローに入りたいんだけどそれは無理かな?」

「無理ではない。だが最適ではない。君は心が優しく、争いごとよりも調和や安寧を求めているように感じられる。そんな君には……ハッフルパフ!!!」

 

そう帽子に高らかに宣言される。

ハッフルパフ、ハッフルパフかぁ。いや別にハッフルパフが悪いわけではいんだ。だが、心のどこかでグリフィンドールかレイブンクローに自分が入れることを期待していた。

トボトボと黄色い集団が座るテーブルに座ると俺の真正面には先に呼ばれたセドリックが座っていた。

 

「アイク、君と同じ寮になれて嬉しいよ。これからもよろしくね」

「……うん、よろしく。セドリック」

 

差し出された手を掴み俺たちは握手をした。

その後順調に次々と名前を呼ばれて組み分けの儀式は終わり、ヒゲの立派なダンブルドア校長先生の話も終えて、生徒たちは一斉に魔法により現れた豪華な食事に飛びついた。

人間とは単純なもので(俺が単純なだけかもしれんが)美味しい料理と楽しい会話で若干憂鬱な気分は吹き飛んで行った。

 

「ほれもひょれもおいひいね、ひぇどひぃっく」

「なんとなく言ってることはわかるけど食べてから喋りなよ、アイク」

 

イギリス料理は美味しくないというイメージが覆る味である。量もあって美味しい。ばくばくと食べる俺を見て周りの生徒たちも面白がっていた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

宴も終わり、俺たち新入生は監督生に連れられてハッフルパフの寮へと向かうことになった。

 

ハッフルパフ寮の入口は、ホグワーツの厨房の入口と同じ廊下にある。玄関ホールに続く大理石の階段を一番下まで下り、左に曲がったところにあるドアを開けると、石段があった。石段を下りると明々と松明に照らされた広い石の廊下にたどり着き、厨房の入口である果物皿の絵の前を通り過ぎると、廊下の右手にある石造りのくぼみに大きな樽が山積みになっている。

 

山積みになった樽の、二列目の真ん中にある下から二つ目の樽をリズムよく監督生が叩くと樽が開いた。

 

寮の中に入ると、広い円形の暖かい部屋で、黄色と黒色の掛け布がぶらさがっていて、中央には大きなふかふかのソファがあり、その回りにたくさんのロッキングチェアがある。全体的に柔らかい印象で温かく歓迎してくれているようだった。

 

監督生の説明によると寮監の魔法薬草学担当のスプラウト先生が、多種多様な植物を持ち込んでいるので、暖かで快適な感じにますます磨きがかかっているらしい。植物の中には歌うものがあったり、踊ったりするものもある。

 

また壁の上のほうに円形の窓があり、そこから暖かい日の光が差し込んでいる。なんでも窓の外は薬草園になっており、四季の景観を楽しめるのだとか。こうやって植物に触れる機会が多いせいか、ハッフルパフ寮には薬草学に秀でる生徒がとても多いらしい。

 

この寮は厨房と繋がっている扉があり、そこから屋敷しもべ妖精が料理や軽食を持ってきてくれることがあるんだ、と嬉しそうに監督生の一人が話していた。

 

談話室の壁にはかわいい感じの木製の丸いドアから入るらしく、このドアは寝室へと続くトンネルの入り口である。寝室は二人一部屋で使うらしい。

 

新入生たちは各々の部屋を紹介され、そこから部屋の交換などみんなでやっていた。といってもたまに希望があれば部屋替えなども行うらしい。俺はその結果セドリックと同室となった。

 

「良かった。アイクと一緒になれてうれしいよ」

 

そういってまばゆい笑顔を見せてくる。人見知りだから純粋に知り合いと同じで嬉しいと思ってくれているのはわかるがストレートな言い方に照れる。

 

「……セドリック、あんまり他の女の子とかにその笑顔見せんなよ。そのうち刺されるぞ、お前」

「?うん」

 

いやわかってないだろ、そのリアクション。くっ、天然系ピュアイケメンめっ!!

同室になったもの同士、みんな喋っていると監督生が大きく手を叩き、その音は談話室に響き、一年生の視線を集めた。

 

「さぁ、新入生諸君。我々ハッフルパフはヘルガ・ハッフルパフの意思を引き継ぎ誰であろうと歓迎するよ。これから俺たちが君たちに見せるのは歓迎の意思さ!!」

 

監督生がそう言うと、杖を開くと寮のドアが勢いよく開かれた。楽しげな音楽と共に、丸い扉から次々と生徒たちが楽器を片手に現れる。

 

彼らが手にしている各々の様々な楽器から様々な音が鳴り響き、旋律を奏でる。高い音、低い音、響く音、透き通る音、長い音、短い音。それらが紡がれ一つの音楽となる。

 

その芸術的な音楽に合わせて数名の生徒による綺麗な声で歌われ、リズムに乗って植物も踊り、花を開かせる。他の生徒たちが杖を振るうと大小様々な穴熊のぬいぐるみが現れて音楽に合わせてダンスを踊る。

 

その幻想的で楽しげな様子に新入生は引き込まれ、ひたすら感動していたのだった。

俺もそんな光景に目を奪われて、ハッフルパフに入ったことを純粋に喜んでいたのであった。

 

 

 

 


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