魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
花言葉は「沈黙」「私に答えてください」「期待」「不信感」「疑惑」
明るい団長と穏やかな副団長、アイクとステフが石化したせいで劇団のムードはすっかり暗くなってしまった。だがしかし、誰が言い出したのか、犯人を突き止めようとなり、劇団は一致団結して継承者探しに乗り出した。ロックハートが主催した馬鹿げた決闘クラブにも行かずに、手始めに『ホグワーツの歴史』を複数人で借りて、二週間ほど独占して秘密の部屋について徹底的に調べ上げたり、二人を石化させた原因はなんなのかを調査することになった。
「ねぇ、この記述って役に立つ?」
「それよりもこっちのページじゃないかしら」
「この魔法が石化させたんじゃねぇの?」
「それだったらわざわざマンドレイク使わなくてもダンブルドアなら呪文が解けるわよ」
「人を石化させるなんて魔法生物は数少ないはずなんですけど」
「新しい魔法薬とか?」
「いや、古い魔法かも」
「秘密の部屋についてスリザリン組は知らないの?」
「馬鹿ね、知ってたらとっくに全部話してるわよ」
「そうだ、そうだ。団長とステフが襲われてるんだぞ。そもそも秘密の部屋なんて眉唾もんだと大半が考えていたからな」
わかったことや調べていることを黒板にみんなで書き上げていく。どんどん白くなっていく黒板を尻目に私はそっとため息をつく。まさかアイクが石化してしまうなんて、完全に予想外だわ。その上まさかステフもそうなってしまうなんて。初めて聞いたときは耳を疑ったし、足元が崩れ落ちていくような感覚がした。ため息をついた私の様子を見て同じくスリザリンの子達が心配したように声をかけてくれる。
「大丈夫、エリス?」
「ええ、問題ないわよ」
「無理しないでね、今はアイクもステフもいないんだから私たちのリーダーは貴女なんだから、貴女にまで倒れられたら本当に劇団は終わりよ」
「あらそう?なら、私まで石になったら今度はセドが指揮を取るわよ」
「もう、そういうこと言ってるわけじゃないのよ!」
「冗談よ。ほらリアムが呼んでるわよ、シアン」
そう優しくいうと困ったように笑ってから彼女はリアムの元へとかけて行った。今『継承者』探しには私たちスリザリンの生徒たちも積極的に参加している。なぜなら彼、彼女たちが劇団に所属しており、団長に恩義を感じているから、だけではない。
それは理由の大部分であるが、他にも理由がある。私たちの派閥はスリザリンという純血主義の温床でもある寮なのにほとんどが純血ではなく、半純血もしくはマグル出身でもある。 もちろん純血の子も存在するが、その子達は私の下の妹、アステリアのように純血主義の思想に染まっていない子たちである。いくら純血主義のスリザリンといっても少なからずマグル出身や半純血の子も存在している。そんな子達が純血主義の人たちからハブられないようにするため私は派閥を作ったのだ。薄々感づいている人もいるかもしれないが、派閥の頂点に聖28一族の一家、グリーングラス家の長女、つまり私が君臨してることや少ないが純血の子もいるので他の派閥も手を出せないのだ。
「やっぱり『ホグワーツの歴史』を読んでも秘密の部屋にいるのは怪獣だよ、きっと」
「なら何がその怪獣なのよ、石化させるものは確かにいるけどそんなのホグワーツに置いておかないでしょ」
「いやサラザール・スリザリンが千年前から残してるってことは超長生きなんじゃね」
「なるほど、長寿で石化させる魔法生物か」
「多分蛇とかだと思うんだけど。ほらスリザリンのマークだし」
「誰かぁー図書館から本借りてきてぇー」
「俺行くわ」
「私も」
グリフィンドールのリアムとレイブンクローのシェルビーが部室から出ていき図書館に本を借りにいった。……多分シェルビーはリアムに本を任せるのが不安だったんでしょうね。二人が出て行ってから一段落ついたからか自然と休憩する流れになっていた。紅茶を淹れて、お茶菓子を用意する。それを各テーブルへと運び、みんながそれぞれ手を伸ばす。
「「疲れたー」」
「……普段からやってる研究よりはマシ」
「少しずつ分かってきたわね」
「そうだねぇ、あとは継承者が誰なのか探さなきゃだねぇ」
「それもわかってねぇんだよなぁ」
「検討があんまりつきませんよね」
「数々の現場の第一発見者だったハリー・ポッターたちが怪しいって意見が強いけどね」
「サラザール・スリザリンと同じくパーセルマウスだし」
「でもステフとは仲良いし、アイクとハーマイオニーは兄妹よ」
「……でも確たる証拠もないのに決めつけるのは愚の骨頂」
「わからないね、手がかりが少ないし」
「むー。ステフ、お菓子の追加取っ……あっ……」
「バカッ」
誰かの失言によって部室の空気は静かなものへ変わってしまった。静かになってしまった部室でわざとらしく私は大きくため息をつく。びくっと体をした子をまず見てから団員全員に目を向ける。
「まったく、そんな様子でどうするの。アイクやステフが起きたら全部解決させて『貴方たちこんなのにやられたのよ』って盛大にからかってやればいいのよ。特にアイク。さぁ、二人が本を借りてきたら調査再開よ」
パンと手を叩いて叱咤した。
* * * * *
クリスマス休暇へと入り、学校に残る生徒は名前を書き込むこととなった。僕たち三人とマルフォイ、クラッブ、ゴイル。それと各寮の劇団の人達が数人。多分最近暗いホグワーツの雰囲気を一蹴するために何か劇をやるんじゃないかしらなんてハーマイオニーは言っていた。そんな中で僕たちが前々から作っていたポリジュース薬は完成して、僕たちはマルフォイを詰問する予定だった。僕たちはマルフォイが『継承者』なのではないかと睨んでいる。被害者は全員マグル出身でなにせ彼は純血主義者、その上アイクには魔法で吹っ飛ばされていたしステフはそんな彼に助長するようなことを言っていたのだ。動機として十分だろう。
ポリジュース薬は難しい魔法薬な上に手に入れる材料も貴重で手に入らないようなものが多い。だというのにハーマイオニーはやる気に満ち溢れており、ロンや僕よりも積極的にこの作戦には挑んでいた。仲の良いステフや兄であるアイクが襲われてかなり頭にきているらしい。相手の体の一部が必要ということでウスノロなクラッブとゴイルからは簡単に髪の毛を盗めたが、しかしハーマイオニーはどうするのだろうか。
「私はエリスに変身するわ。この前本を借りたときに髪の毛が挟まってたの」
「君はエリスで、僕たちはクラッブとゴイル?とっても素敵な提案だね」
「仕方ないのよ、ロン。それ以外の髪の毛は準備できなかったんだもの」
そういいながら三人で準備していく。僕が薬にゴイルの髪の毛を入れるとカーキ色へと変わり、ロンが薬にクラッブの髪の毛を入れると暗褐色に変じた。一方でハーマイオニーの方はというとエリスの髪の毛を薬に入れると僕たちのいかにも汚いといった色とは異なり、まるでエメラルドのように透き通った鮮やかな緑へと変わった。その様子を僕らは羨ましそうな視線で見つめる。
「何よ」
「……別に」
「それより別の小部屋に行こうよ、ここじゃエリスの体ならともかくクラッブやゴイルになったら収まりきらないよ」
僕の提案でそれぞれ三人別の小部屋にローブと着替えを持って入る。いち、にの、さんとみんなで同時のタイミングで薬を飲み込む。ひどい味が口の中を通り、焼けるようなよじれるような感覚が胃袋から広がり体が変身していく。奇妙な感覚とともに僕は自身よりも大柄なゴイルへと変化した。かけておいたローブや服に着替えて大きな靴を履いてドアを開けて外に出る。眼鏡を外しながら二人に呼びかけた。
「二人とも大丈夫?」
「ああ」
口から出たのはゴイルの低い声で、その声に返事をしたのもクラッブの低音だった。
「ハーマイオニーは?」
「ええ、問題ないわ」
そういって出てきたのは黒髪の美女、エリスの姿になったハーマイオニーである。
「なんだかハーマイオニーだけ得してる気がする」
「僕もそう思った」
「ちょっと貴方たち今はクラッブとゴイルの声と見た目なんだからそんなこと言わないで」
「……わかった。こんな感じ?」
「うん、そうね。それじゃ行きましょう。効果はきっかり一時間だし」
すたすたと足早に歩いていくハーマイオニーを追いかける。
「わ、ちょっと待ってよハーマイオニー。そもそもエリスはそんな風に足早に歩かないって」
「そもそもクラッブとゴイルとエリスってどういう組み合わせだよ」
「そうね……。私がマルフォイに用があるって体にしてクラッブとゴイルに案内を任せたってことにしましょうか」
くるりと振り向いてそう答えるハーマイオニー。ふわりと振り向いたときに広がった髪からいい匂いがした。先ほどよりも速度を落としたハーマイオニーの前をロンと僕が歩く。
「……絶対ハーマイオニーのやつ美女になってるからって楽しんでるぜ」
「いいから早くスリザリンの談話室へ行くわよ」
「っ痛」
僕にそっと声をかけたロンを殴って先に行くようハーマイオニーは促した。
* * * * *
事前にどうやら談話室の場所を調べておいたらしいハーマイオニーの指示に従ってスリザリンの談話室へ向かい、マルフォイに声をかけらた。
「おい、クラッブとゴイル。どこにいってたんだ」
一瞬びくりと僕たちは体を震わせる。不自然にならないように注意しながら答えた。
「いや、ちょっと」
「だ、談話室への道に迷って」
「またか、全く」
ロンが吃りながら答えたが、どうやら不自然ではなかったようだ。……談話室への道に迷うって一体どんだけ馬鹿なんだろう。呆れている僕たちの後ろから咳払いする音が聞こえる。はっと顔を僕とロンは見合わせて(お互いクラッブとゴイルの顔だから少なからず心にダメージはきた)、ハーマイオニーを呼ぶ。
「エリスがドラコに会いたいと」
「なに?」
「こんにちは、ドラコ」
驚くマルフォイを他所に、にっこりとした笑みを浮かべながらエリスの見た目をしたハーマイオニーが現れる。そんなエリスを見てからマルフォイの顔は少し赤くなって返事をする声は上ずっていた。
「や、やぁエリス。久しぶりだね。サマーホリデーの社交界以来だ」
「そうね、久しぶり。私は劇団や勉強で忙しかったものね」
「あぁ、それで僕に用件があるのかい?」
「ええ、ちょっとした噂話についてよ」
「噂話?君がそんなものに興味をもつなんて珍しい」
「あ、あらそうかしら、たまにはそんな気分のときもあるのよ」
そうごまかすように微笑むとドラコの病的に白い顔はさらに赤くなる。
「『秘密の部屋』について何か知っていることってないかしら?」
「あぁ、あるとも!!といっても少しだけだがね。なんでも父上曰く五十年前に一度『秘密の部屋』は開かれて穢れた血が一人死んだらしい」
「へぇ、五十年も前に開かれてるなんて初めて知ったわ」
「といってもそれ以外は父上よりも前の時代のことだから詳しくは知らないんだがな」
「五十年前に開いた人間って誰かしらね」
「さぁ、知らないがおそらくアズガバンにいるんじゃないのか?」
アズガバン?僕の頭に疑問符が浮かんだがロンもハーマイオニーも特にリアクションしていなかったため大人しくしていた。
「ところでエリス、単刀直入に聞くけど君が『継承者』なんじゃないのか?」
「私?」
「あぁ、純血で能力もある。ハリー・ポッターよりもよっぽど君の方がふさわしいよ」
「あら、でも私劇団に所属してるのよ。アイクやステフも襲われてるのよ」
「てっきり君が劇団に入ったのは他の寮にも自分の支配下の人間を作ろうと思ったからだと考えたんだが違うのか」
マルフォイの返事に一瞬引きつったような顔をするハーマイオニーだったがなんとか持ち直して、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「秘密よ。それにしても私、てっきりあなたが継承者だと思っていたのに違うの?」
「残念なことに僕じゃないんだ。でもあの二人が石になったって聞いたときは笑えたね。『継承者』も僕に手伝わせてくれればいいのに、そうすればあの憎きハーマイオニー・グレンジャーを石にしてやるのに」
その言葉に明らかに怒りを露わにしそうなっているハーマイオニー。だが綺麗な黒髪がすこし栗色の爆発したような髪に戻っているのに気がついて慌てて口を閉じた。
「急用を思い出したわ、またねドラコ」
「そうかい、残念だ。またね、エリス」
本当に残念そうな顔をしてマルフォイはハーマイオニーを見送った。その後すぐに僕たちも腹痛を訴えて、スリザリンな寮から駆け足で出ていった。
* * * * *
「全く、何よ!あの態度気持ち悪いったらありゃしないわ!!」
「見たかよ、あのマルフォイのデレデレした顔」
「それにしても『継承者』がマルフォイじゃなかったなんて」
元に体が戻り、急いで女子トイレで着替えて鍋を囲んでみんなで座り込む。
「どうしよう、これで振り出しに戻っちゃったよ」
「全くの無駄って訳じゃないわよ、少なくとも五十年前にも開かれてることはわかったもの」
「その時の犯人も調べた方が良さようだね」
苦労して得た情報が大したことなかったせいか、みんなどこか元気がなく揃ってため息をはく。
「にしてもデレデレだったな、マルフォイ。見たかよあの面」
「普段は嫌悪の表情しか見てない私に向けてきたときの苦痛を考えてみて」
「でも、どうしよう」
ポツリと漏らした僕の言葉に二人が反応する。
「どうしようって一体何がだい、ハリー」
「本当にエリスが継承者だったらどうしようって思って」
「ま、まさかそんなことないわよ!エリスはアイクやステフとも仲良しだもの」
「で、でもそれが本当とは限らないだろ?」
「ロンまで?!」
「マルフォイが言ったことがもし本当だったら」
「そんなことする訳ないわよ、劇団のみんながとっても仲が良いのは知ってるでしょ!!」
疑問を次々と言う僕たちに反論していくハーマイオニーだったが、少し動揺しているのか声がどんどん大きくなっていく。ハーマイオニーの声が女子トイレに響いて虚しく木霊した。誰も何も言わずに己の考えに没頭している。するとどこからともなく足音が聞こえ始める。突如聞こえた足音に僕らは立ち上がり困惑し始める。
「ど、どこから」
「とりあえず急いで鍋を隠しましょう」
「どうやって?!」
ドタバタと慌てていると足音が止まる。するとばさりと音がして僕らの目の前の空間が揺らいだ。透明マントだ!!驚いていると一人の女子生徒が現れた。
「こんにちは、『継承者』の敵たちよ」
そういいながら登場したエリスは、ハーマイオニーが変身して浮かべていた優しい笑みではなく、氷のように鋭く冷たいものであった。
思いの外早く長く書き終えました。今まではなんだったのか……。
誤字報告大変助かっています。ありがとうございます。