魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
花言葉は「おしゃべり」「でしゃばり」「おせっかい」「推測ではやはりNO」
クリスマス休暇となってからしばらく経ったある日、今日も事件について調べているとエリスが一人でどこかにふらっと消えてしまった。エリスの独断行動は別に今に始まったことじゃないから誰も気にしていなかったけど。僕の親友たち、アイクとステフが石化してからしばらく経ってだいたいの事件の全容が少しずつ見えてきた。いや流石にこれは過言かな。わかったのはどうやってアイクとステフ、それとコリン・クリービーがどうやって石になってしまったかだけだし。それが発覚してから僕たちは開発した投影眼鏡の着用を徹底している。アイクたちも発見された時に眼鏡を掛けていたので、おそらく効果はあるはずだから。学校に残った純血の生徒たちだけで今度は学校中を歩き回り秘密の部屋の位置と継承者が誰なのか捜索することになった。
そんなクリスマス休暇の真っ最中である今日、『お喋りな巻物』にエリスからの記述があった。
『一度全員部室に集合』
書いてあった指示に従って僕たちは集まって、エリスの登場を待っているとようやくエリスは現れた。だが様子がどこか変である。まるで見えない何かを重そうに掴むようにして動いており、とても疲れているようだった。
「あ、ちゃんとみんな揃っているようね。よかったわ」
「どうしたのエリス。というかその、君は今一体何を持っているのかい?」
「目くらましの術をかけたデミガイズの毛で織った透明マントに包んであるのよ。拡大呪文を掛けて広げたものに更に防音術をかけたから聞こえないはずよ」
「えっと中に一体何が入ってるんだい?」
「元気がいいわよ。みんな気をつけてね!全員白いローブと帽子をつけなさい、それと杖を構えて!!」
真剣な顔で叫ぶエリス。その表情と緊迫した声に何事か事態が掴めていない僕たちは指示されるままローブを着て、マントを羽織り、杖をエリスの抱えていた何かに向ける。そんな僕たちの様子を見て真剣な顔をして鷹揚に頷くエリス。
「それじゃ、開けるわよ。もしかしたら知ってる人物に変身してるかも知らないわ。気を引き締めなさい」
誰が唾を飲む音が聞こえた気がする。僕も顔が引き締まるのを感じた。エリスがばさりとマント開く。すると中からハリー、ロン、ハーマイオニーが現れた。いや変身した姿かもしれない。依然として油断出来ない。皆真剣な顔つきで杖をハーマイオニーたち(仮)に向ける。急に視界が明るくなったのかハーマイオニーたち(仮)は眩しそうに目を細めた。しかし、杖を構えた僕たちが目に入ると途端に絶望したような顔をする。
「そんな?!」
「まさか、マルフォイが言っていたことが本当だったの?!」
「やばい、どうしようハリー?!」
慌てふためくハーマイオニーたち(仮?)を見ながらエリスは悪役らしい笑みを浮かべて嘲笑した。
「ふふふふ、気づいてしまったのだったら、もう遅いわ。貴方たちはステフやアイクのように石になってもらうわ」
「そんな?!」
「ひどいわ!エリス!!信じてたのに!!」
ゾッとするよな表情でハーマイオニーたち(おそらく本物)を見下すエリス。そんな様子を見てヒイッと三人のうち誰かが悲鳴を短くあげた。……なんとなく事態がわかってきた気がする。僕以外のみんなも雰囲気から事情を察したのか、このまま乗るかどうか迷っている顔をしてる。僕は内心でそっと呆れたようにため息をつく。
「さぁみんな石化呪文よ、ペトリフィ……」
「はい、エリス。そこら辺でもうやめようか」
そう言いながら僕はエリスの手から杖を引き抜いた。呪文が来ると思っていたハーマイオニーたち(本物)はぺたりと座り込んで目を瞑っている。エリスが僕にきょとんとして、それから不服そうな顔を浮かべてきた。
「あらセド、もう少しで終わるところだったのに。せっかくだまし杖まで使おうと思ったのよ」
「いやいや、本気でハーマイオニーたちも怯えてるでしょ。悪戯にも限度があるからね、エリス」
少し怒ってますというような声を出すと、顔に不満ですと書いたエリスが杖を振る。すると彼女の言った通りフレッドとジョージ作のだまし杖だったようでゴム製のにわとりに早変わりした。それをぽいとハーマイオニーたちに投げると潰れてグェっと音が虚しく響く。間抜けな音とぽかんとした顔をした三人の表情が可哀想だけど確かに少し面白かった。
* * * * *
「全く信じられないわ!!」
ハーマイオニーは激怒した。そんな彼女を宥めるようにしてフローラやフレデリカたちが紅茶やお茶菓子などをポンポンと運んで来る。
「ごめんねぇ、エリスってたまにお転婆になるんだよぉ」
「なんかアイクの悪影響な気がしないでもないけどね」
「……朱に交われば赤くなる」
ハリーとロンは怒りよりも安堵のほうが強かったからか、ほっとして力が抜けてしまっていた。まぁハーマイオニー、エリスも反省してるみたいだから許してあげてほしい。
「まぁ落ち着きなよハーマイオニー。良かったじゃないか、エリスが継承者じゃなくて」
「それはそれ、これはこれよ!!本当にもう!!最悪だわ!!!」
ロンが宥めるように声をかけるが、かなり怒り狂っているようで最早怒りを表現する語彙すら出てこないようである。ごめんね、なんだかお互いに騙された身とはいえ、ここまで怒っているハーマイオニーを見てるとなんだかこちらまで申し訳なってくる。
「最近張り詰めていたから、ちょっとした冗談よ」
「いや俺らは楽しかったけどよ、ハーマイオニーブチ切れてるぞ」
いやエリスが理由もなくそんなことするわけ無いと思うし、なんとなくわかってるけどね。
「セド、説明よろしくね」
「わざわざ悪役にならなくても良かったんじゃないの?」
「一度痛い目見た方が学ぶと思ったからよ」
それじゃと言ってエリスは颯爽と部室から出て行ってしまった。本当に偽悪者だね、エリスは。
「えっと、とりあえずわかってることをお互いに共有しようか」
* * * * *
「バジリスク?!まさかそんな危険な生物をホグワーツに遺すなんてどうかしてるよ」
「アイクたちが無事なのって完全に偶然ね」
「僕が聞いた声ってバジリスクの声なんだ……」
ポツリポツリと三人が感想を述べる。と同様に自分たちよりも詳しい情報を入手していることにもショックを受けたようだ。
「ドラコ・マルフォイは継承者じゃなかったんだね。でも五十年前に秘密の部屋は開かれたと。また調べることが増えたね」
「うん、マルフォイはそう言ってたよ。それにしてもエリスはどうして僕たちにあんな悪戯したんだい?」
「あー、あれかい。あれはねエリスなりの優しさというか警告だよ」
僕がそういうと三人は揃えて首をかしげた。理解していない様子である。まぁあのエリスの行動じゃわからないのも無理がないか。
「エリスは君たちが心配だったんだよ、危ないことに首を突っ込んでいたし、ポリジュース薬なんて難易度の高くて危険なものにまで手を出して」
「それがどうして私たちを脅すことに繋がるのよ」
憤慨したようにハーマイオニーが言う。
「繋がるよ、もし君たちが本物の継承者を追い詰めたらどうなっていたと思う?」
「僕たちはマルフォイが継承者だと思ってたから」
「それでも君たちは石化の謎を解いてなかっただろう。多分仮にマルフォイが継承者だったら君たちはどうなっていたと思う?」
「バジリスクに丸呑み?」
「その前に目を見ただけで死んでたかも」
「まぁもっと慎重に周りの人間も頼って行動したほうがいいってことだよ。エリスは不器用だから上手く伝えられないけどね」
というか素直じゃないだけかな、そう呟いてセドリックは端正な顔に笑みを浮かべていた。
* * * * *
なんてセドリックは説明したかしらね。まぁそういう意図もあったけど、悪戯というのをやってみたかったというのが大半である。それにしてもこれからどうしようか、赤い本を開いてペラペラとページをめくる。幾ら何でも今バジリスクを倒すには早すぎる。しかも剣に毒を吸わせなきゃいけないし、バジリスクを倒したところで分霊箱を壊さなくては意味がないのだから。私ではダンブルドアの信頼を勝ち取っていないし、ヴォルデモートから目をつけられるのはごめんだもの。トムを倒すのはやっぱり
そう考えて私はローブに本をしまった。